第6話:弟子入り希望?
最近は仕事も慣れてきた上に、可愛いパートナーもできて、順風満帆。
物語は終わっているし、そもそもメインキャストではない私にイベント=トラブルが発生することもなく平穏な日々だった。
しかしある日、このゲームの攻略対象の一人が私に声を掛けてきた。
「失礼。 あなたがルリアーナ・エルエスで間違いないだろうか?」
赤髪の美男子、彼はゲームのメインキャストの一人である近衛騎士団団長を父に持つレド・フェニックスだ。
このゲームには一人一人を攻略するノーマルエンドと全ての攻略対象と結ばれる逆ハーレムエンドが存在する。
攻略対象はそれぞれ指輪やカフスなどを着用している。
そのアクセサリーにはそれぞれ透明の宝石があしらわれており、ヒロインと結ばれると髪色と同じ美しい色に変化するという設定がある。
「……いえ、人違いですよ」
彼、レドの耳に着けているピアスの宝石は透明のままである。
つまり彼はヒロインと結ばれず、失恋したということだ。
主人公と関わりが切れており、物語が終わっているとはいえメインキャストと関わるのは面倒な気がしたので出来ればこのままやり過ごしたかった。
「それは失礼した。 白く愛らしい少年を連れているからすぐ分かると聞いていたのだけれど……人違いだったようだ」
「いえ、その噂の白たまはこの子です……っあ」
思わず言ってしまって口をつぐむが、時すでに遅し。
「やっぱりそうだと思ったよ。 白髪は珍しいからね」
「分かってたんですね……少し意地が悪いのではありませんか?」
「ごめんごめん、想像してたよりも可愛らしくてついね。 ははは」
レドは先ほどまでの紳士的な笑みを、無邪気な笑みに変えた。
「リリアーナとは全く違うんだね、君は」
「ええ、まあ我ながら似ていないとは思います」
なんせ我が姉リリアーナは王道の悪役令嬢的な意地悪で、冷徹な性格であった。
大して今の私は比較的能天気と言うか、大らかだろう。
リリアーナを良く知るレドが私に冷たいイメージを膨らませていたことは仕方のないことだ。
「ルリアーナと呼んでいいかな?」
「ええ、構いませんけど」
「ルリアーナにお願いがあるんだ。 俺を君の弟子にしてくれないかな?」
「ちょっとちょーっと待ってください?! あまりに唐突かつ意味不明で理解に苦しんでいるので!」
この赤髪男は一体何を言っているのだろうか。
確かゲーム上でのキャラクターは剣術に優れ、魔法は嫌い。
性格は裏表が激しく意外と人見知りで、外面は優しく紳士的。 しかしある程度好感度が高くなると、本来の無邪気な笑みを見せて相手を嫌味なく振り回す。
(私、初対面ですけど?! なんでこんな好感度高いの?!)
そもそもゲームの好感度システムがこの現実で作用しているのかもよく分からないが、そこは疑っても今はしょうがない。
目の前のレドの笑みはゲーム云々抜きにしても、心からのものに私には見えた。
そもそもメインキャラであり当然強力な戦闘力を誇る彼が私に何を学ぶと言うのか。
「君の洗濯屋利用してね。 とっても感動したんだ。 今まで魔法は好きじゃなかったけど、こんな使い方もできるならぜひ学んでみたいって思うくらいにね!」
この騎士様は無邪気な笑みで何を語っているのか。 無駄にハンサムな顔なのが言動と非常にミスマッチである。
「そうですか。 せっかくお声をかけていただいたのに申し訳ありませんが、弟子を取る気はありません」
まだ私は学生の身であるし、人に教えるなんていかにも大変そうだ。
「ルリアーナの気持ちは分かった。 《《今日》》のところは諦めるよ」
やけに素直にレドが引き下がって私は安堵しつつ、彼の言葉に違和感を感じて首男傾げた。
「今日って……まさかまた来るなんてことないよね?」
私は半ばそうなると思いつつも、これで諦めてくれることを願ってそう呟くのであった。




