第4話:犬……じゃない?
白さとまんまるな見た目から、私はその犬を『白たま』と名付けた。
「白たま~おいで~」
「ひゃん、ひゃん」
呼ぶと白たまはぴょこぴょこと走って来る。
短いしっぽをふりふり、ちゃんと私の言葉を理解しているようで白たまはとても賢い。
「おー、偉いね賢いね! この子は天才かもしれないん!」
そんなバカ親っぷりをさっそく発揮してしまっているが、ここで些細な悲報が一つ。
この子は魔法持ちではないらしい。
ただこれだけ可愛くて、賢いのなら、そんなものなくて全然オーケー。
長生きして私の孤独を癒してくれれば、そして健やかに成長してくれるならそれで良いのだ。
「私のところに来てれてありがとうね~愛してるよ~」
「ひゃん!」
なんだか白たまが抗議するように鳴いたが、気のせいだろう。
とにかくうちの使い魔はとても可愛い。
大当たりでした。
まだ授業には間に合うが、私は白たまに夢中でサボってしまったのは仕方がないことである。
〇
――主、起きてください。
――朝ですよ。
――遅刻しちゃいますよ。
次の日、聞きなれない幼声と鼻に感じるふぁさふぁさとしたくすぐったさで、私は目を覚ました。
「あれ……白たま? 起こしてくれたの、ありがとうね。 でも誰かの声が聞えたような気がしたんだけど」
そう思ったが、ここは隠し部屋だ。
他に知っている人はいないし、来たとしてそこで眠る女学生を主呼びして起こすという奇特な行動を行う人はいないだろう。
私が一人で首を傾げたり、納得したりしていると、
――主、おはようございます。
「へ? 誰?!」
夢で聞いた声と同じ声が頭に響いてきた。
――僕ですよ、白たまです。
「へ? 嘘でしょ……? 犬が喋るわけないのに。 私、まだ夢の中なのかな?」
白たまはつぶらな瞳で私を見つめてくるが、とても信じられない。
しかし私たちしか知り得ない白たまという名前を名乗っている以上、どういう原理かは分からないが白たまがしゃべっているのだろう。
――念話の魔法ですよ。 夜中に読み聞かせてくれたじゃないですか。
「あ~、そうだっけ?」
卵に色々語り掛けていた中で、魔法書を読み聞かせていたことは覚えているが、途中で寝落ちしてばかりいたので一部記憶がないのだ。
「でも鑑定で魔法はなしになってたよ?」
そう、私は昨日きっちり白たまを鑑定していたのだ。 だから魔法もスキルもないことは確かなはずだ。
――昨晩、覚えたので
「へ~! そりゃすごい! やっぱり白たまは天才犬だ~!」
色々ツッコミどころはあるが、使い魔とお話しできるなんて思わなかったので私は深くは考えず喜ぶことにした。
――あの
しかし白たまは何やら言いたいことがあるらしく、主張するように私の腕をふわふわの小さな足でふみふみした。
「ん? どうしたの?」
――僕は狼です!
「えっともしかしてそれを訂正するために、必死に一晩で魔法を覚えたの……?」
――ええ、そうですよ!
なぜか自慢げな口調の白たまに私は噴き出すのを必死にこらえるのであった。
(この子バカな天才だ……そして愛しすぎる……)
――それにこの魔法も覚えたんですよ。
「ひゃん『悲しき怪物よ人となれ、擬人化』」
それは確か隠し部屋にあった魔法書のひとつだ。
ぼふん、と煙が立ってそれが晴れると、
「主、見てください! すごいでしょ!」
そこにいたのはちょっとクールそうな目元でありながら、無邪気な笑みを見せる白髪、耳付き、しっぽ付きの少年だった。
「うそん」
私はあまりの可愛さに卒倒しそうであった。
サスペンダーのついたブラウンの短パンに、長袖シャツという服装も品が良くて、まるでどこぞのお坊ちゃまといった感じでとても良い。
「凄いでしょ!」
「……うん、すごいね!」
褒めて欲しそうなのでおそるおそる撫でると、ちぎれそうなほどぶんぶんと尻尾が振り回される。
抜け毛とかやばそう、と一瞬思ったが可愛いからもうなんでもいいやと私は自分でも分かるほど目元を緩めるのであった。
読んでいただきありがとうございます!
面白い、つまらないどちらでも構いませんので、小説ページ下部の☆より評価ポイントを付けてくださると大変嬉しいです。