ヴィーザル空中艦隊
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──ヴィーザル空中艦隊
反乱軍の空中艦隊は自らをヴィーザル空中艦隊と呼称。
艦隊司令はレナ・レヴァンドフスカ帝国空軍少将。艦隊旗艦は帝国空軍最大の飛行艇である空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセ。
編成は空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセと同型艦4隻、空中大型巡航艦4隻、空中駆逐艦6隻となっている。
そして、その旗艦である空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセにはトロイエンフェルトが魔獣猟兵に対する使用を主張した強力な化学兵器であるエージェント-37Aが積み込まれていた。
「レヴァンドフスカ少将閣下。地上部隊との連絡が途絶しました。恐らくは」
「フライスラー上級大将閣下……。我が同志よ。何故死に急いだ。我々には成すべきことがあると言うのに!」
部下の報告に艦隊司令官のレヴァンドフスカ少将が呻く。
「艦長。警戒を徹底して行え。敵は間違いなく我々を阻止しようとするはずだ」
「了解です、少将閣下」
空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセはヴィーザル空中艦隊を引き連れて急速に帝国軍部隊に向けて進んでいる。パンツァーファウスト作戦の実行部隊がいる場所に、さらにその皇帝ハインリヒもいる司令部に向けて。
「レヴァンドフスカ少将! いけそうなのか?」
「トロイエンフェルト議長。やれと命じられれば命を省みず最善を尽くすのが軍人です。やり遂げて見せましょう」
「頼むぞ。フライスラー上級大将は残念なことになった。我々はこの攻撃を成功させなければならない。大勢の犠牲になった同志たちのためにも」
トロイエンフェルトはレヴァンドフスカ少将にこの空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセに搭載したエージェント-37Aを帝国軍に対し使用することを命じていた。
それによってハインリヒを抹殺するのだ。
「敵の抵抗はあると思うか?」
「もちろんあるでしょう。敵は我々の暗殺を試みた形跡があります。どうもどこからか情報が漏れています。そう考えれば我々が帝国陸軍生物化学戦研究所からエージェント-37Aを持ち出したことも」
「そうか。だが、それが分かったところで敵に打つ手はない。こちらには帝国空軍最強の空中戦艦があり、もっとも強力な化学兵器があるのだ!」
レヴァンドフスカ少将は反乱軍内に帝国軍の内通者がいることを察知していた。自分たちの情報が敵に把握されていると。
だから、ヴァイゼンナハト自由軍が蜂起したのに裏があると悟り、トロイエンフェルトとフライスラー上級大将がいるヴァイゼンナハト城にすぐさまヴィーザル空中艦隊を派遣したのだ。
そして、ヴィーザル空中艦隊はそこでトロイエンフェルトの命令を受け、帝国軍に対するエージェント-37Aを使用することを命じられた。
「少将閣下! 帝国軍の空中艦隊が進出してきました! 捜索レーダーが敵飛行艇を探知! その規模は大型艦6隻、中型艦4隻、小型艦4隻です!」
「よろしい。撃破して目的地点まで進出せよ!」
帝国軍の陣地に向かうヴィーザル空中艦隊に帝国空軍のパンツァーファウスト作戦参加空中艦隊が迎撃に現れ、ついに空中戦が開始された。
──ここで場面が変わる──。
「化学兵器を使用する、ですか!? ど、どうすれば……」
「友軍の空中艦隊が反乱軍を食い止めてくれるのを祈るしかない」
一方反乱軍指導部が逃走したヴァイゼンナハト城ではアレステアたちが飛び去ったヴィーザル空中艦隊を見て呆然としていた。
フライスラー上級大将の暗殺には成功するも、トロイエンフェルトとレヴァンドフスカ少将の暗殺には失敗。さらに反乱軍が化学兵器エージェント-37Aでの攻撃を目論むのを阻止することもできない。
もはやアレステアたちにできることはないかのように思われた。
『こちら帝国空軍特務空中巡航戦艦アンスヴァルト。葬送旅団、応答せよ』
「アンスヴァルトだ!」
ヴィーザル空中艦隊が去ったヴァイゼンナハト城上空に低空飛行してきたアンスヴァルトが姿を見せた。その巨体が急上昇してヴァイゼンナハト城の上空に飛行し、そのままホバリングする。
「アンスヴァルト。こちらシグルドリーヴァ大隊指揮官ベンジャミン・ゴードン。葬送旅団部隊と行動している。そちらの目的は?」
『本艦には統合任務部隊“スキンファクシ”司令部より葬送旅団とともに空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセを強襲するように命じられている』
ゴードン少佐が無線機で尋ねるのにアンスヴァルトはそう返してきた。
「フリードリヒ・デア・グロッセを強襲? 本気か?」
「ゴードン少佐さん。いずれにしてもここにいては何もできません。アンスヴァルトに乗り込みましょう」
「そうだな。アンスヴァルト、了解した。迎えを寄越してくれ」
アレステアの意見にゴードン少佐がアンスヴァルトへ連絡。
ヴァイゼンナハト城の上空でホバリングしているアンスヴァルトから降下艇が発艦し、ヴァイゼンナハト城の屋上に着陸した。
「あ! このエンブレムはグリンカムビですよ!」
そう、アンスヴァルトから降下した降下艇の垂直尾翼に描かれていたのは帝国空軍第669特殊作戦飛行隊“グリンカムビ”のエンブレムだ。
「乗ってくれ。司令部は滅茶苦茶な命令を出してるぞ」
「了解です!」
グリンカムビ所属の操縦士が促すのにアレステアたちが降下艇に乗り込む。
降下艇は上昇してアンスヴァルトに着艦。アレステアたちは降下艇を降り、まずは葬送旅団の司令部へと向かった。
「ご無事で何よりです、皆さん」
司令部ではシーラスヴオ大佐がアレステアたちを迎える。それから所属不明の帝国空軍の軍服に中佐の階級章を付けた女性がいた。
「シーラスヴオ大佐さん。フリードリヒ・デア・グロッセを強襲するということだそうですが、どういう任務なのでしょうか?」
「それについてはここにいるテス・ヴァン・ルーン中佐がまず説明します」
アレステアの問いにシーラスヴオ大佐が隣にいた情勢将校を紹介。
「ルーン空軍中佐です。所属は帝国国防情報総局。今回は統合任務部隊“スキンファクシ”に同局が提案した作戦を皆さんに説明させていただきます」
ルーン中佐がそう言い作戦の説明を始めた。
「まず帝国国防情報総局は反乱軍内に工作員を潜入させています。その目的は反乱軍の行動を把握することでした。その過程で反乱軍は帝国陸軍生物化学戦研究所からエージェント-37Aを奪ったことを確認したのです」
反乱軍は帝国陸軍生物化学戦研究所でエージェント-37Aを入手した。
「その後の追跡作戦で盗まれたエージェント-37Aが空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセに積み込まれたのを把握。そして、反乱軍が我々に対してそれを使用しようとしていることを突き止めました」
既に知らされていたが反乱軍は化学兵器で帝国軍を攻撃しようとしている。
「我々の工作員は現在反乱軍のヴィーザル空中艦隊旗艦空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセに潜入しています。同艦のどこにエージェント-37Aが保管されているかも、その工作員が把握しています」
そして、ルーン中佐がアレステアたちを見渡す。
「その上で統合任務部隊“スキンファクシ”に対し我々帝国国防情報総局はエージェント-37Aの無力化のために空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセへの強襲作戦を提案しました。それが今回の任務となります」
「具体的な段取りを教えていただけますか?」
「まず我が方の空中艦隊がヴィーザル空中艦隊と交戦。足止めします。その間にこちらの工作員が空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセのレーダーにサボタージュを実施し、索敵を困難にします」
アレステアの求めにルーン中佐が作戦を説明する。
「レーダーが機能していない間に可能な限りヴィーザル空中艦隊に近づいたアンスヴァルトからグリンカムビの降下艇で空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセに突入し、同艦に侵入。工作員とともにエージェント-37Aを地上に落とします」
「地上に落として大丈夫なのか?」
「ええ。エージェント-37Aは漏洩防止のための強固な金属の容器に入れられています。落下程度では中身は漏れません」
「ならいいが」
ルーン中佐の説明にゴードン少佐が頷く。
「まもなく友軍空中艦隊がヴィーザル空中艦隊と交戦を開始します。作戦準備を」
「了解です!」
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