屋上での戦い
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──屋上での戦い
アレステアとレオナルドはシグルドリーヴァ大隊から分断され、さらにシャーロット、アリーチェ、ブラムから分断され、2名だけでフライスラー上級大将を追っていた。
「屋上で間違いなんですよね!?」
「ええ! そのはずです!」
アレステアたちが反乱軍が置いていった屍食鬼部隊の防御を突破しながらフライスラー上級大将が逃げた先であろうヴァイゼンナハト城の屋上を目指している。
空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセが響かせていた砲声は止まったものの、その巨大な艦体を支えるための機関の発する振動がヴァイゼンナハト城を依然として揺らしている。窓はもちろん廊下も地震のように揺れていた。
「しかし、ここから逃げるために飛行艇を?」
「恐らくは。攻撃に気づかれたのでしょう。しかし、空中艦隊を引き連れて来た目的は分かりません。脱出のためなら速度が制限される大規模な艦隊より快速の飛行艇を送ったほうがいいのですが」
「何か別の目的がある……」
アレステアは立ち塞がる屍食鬼を撃破しながら階段を駆け上った。
「来たな……! 我々の敵が!」
「いた! フライスラー上級大将だ!」
そして、屋上に続く階段にてアレステアたちの前に立ち塞がったのはフライスラー上級大将が直々に指揮を執っている反乱軍部隊だ。
「閣下! 逃げてください! フリードリヒ・デア・グロッセでトロイエンフェルト議長がお待ちです!」
「これ以上部下を見捨てられるか! 私も戦う! 構えろ、少佐!」
「分かりました! やるぞ、兵隊ども!」
空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセが屋上に姿を見せ、降下艇を発艦させる中でフライスラー上級大将が指揮する反乱軍地上部隊は魔道式機関銃から速射砲まで設置した陣地でアレステアたちを迎え撃った。
あらゆる火力がアレステアたちに叩き込まれる。
「ここで足止めされるわけには……!」
「アレステア君! 速射砲は私に任せてください! 君は機関銃を! まだ痛みには耐えられますね!?」
「耐えられます! ですが、レオナルドさんは!」
「大丈夫です! しかし、ここで起きたことは誰にも言わないでください……!」
アレステアに向けてレオナルドがそう言うとレオナルドが反乱軍の速射砲に向けて突撃。速射砲は口径47ミリのキャニスター弾を発射する。
キャニスター弾は小弾を無数に叩き込むもので対人戦に使用される。大きな散弾銃のようなものだ。無数の鉄球がレオナルドを襲う。
「レオナルドさん!?」
それによってレオナルドの右腕がもがれ、脇腹にも砲弾を受けた。血と肉が撒き散らされ、それを見たアレステアが叫ぶ。
「大丈夫です。問題はない」
レオナルドが受けた傷が、その傷口の組織が蠢いたと思った瞬間、再生した。傷口が塞がり、もげた右腕が生え、レオナルドの体が攻撃を受ける前の状態になる。
「なんだと。まさか神聖契約教会のフランケンシュタインか。世界協定でその技術は禁止されたはずだぞ! 協定違反だ!」
「死霊術もそうでしょう、フライスラー上級大将!」
フライスラー上級大将が叫ぶのにレオナルドが叫び返した。
フランケンシュタイン。
旧神戦争時代の技術を使い人工的に作られた不死に近い超人。神聖契約教会がその技術を有していたが、非人道的であるとの理由で世界協定にて禁止されている。
「毒をもって毒を制す! それが私だ! 死霊術師を倒すために私は作られた!」
「きれいごとを!」
レオナルドは速射砲を操っている反乱軍兵士撃破し、フライスラー上級大将が展開している陣地に切り込む。
「僕もやります! 反乱を終わらせないと今は魔獣猟兵との戦争があるんですから!」
アレステアも魔道式機関銃を乱射する屍食鬼を切り倒した後に陣地に飛び込み、反乱軍との白兵戦を開始した。
「退くな! 我々こそが帝国を勝利に導くのだ! 裏切者の帝国政府に鉄槌を!」
「ネメアーの獅子作戦を忘れるな!」
アレステアとレオナルドが陣地に侵入して暴れるのに反乱軍も白兵戦を展開。銃剣はもちろんスコップやサーベルなども持ち出し、アレステアとレオナルドと戦いを繰り広げる。相手が不死でも彼らは退くことはなかった。
「貴様ら、我々が帝国を救うのを邪魔するか!」
「帝国を救いたいならどうして同じ帝国の人間と殺し合っているんですか!」
「我々が導かなければならないからだ! 現場の将兵を切り捨て、全ての責任を押し付け、捨て駒にする堕落した政府と議会から帝国を取り戻すことで! それが我々のやるべきことだ!」
「不満があるなら言葉で伝えればいいじゃないですか! 暴力で何ができるですか!」
アレステアが屍食鬼と反乱軍将兵に守られながらも魔道式自動拳銃でアレステアを銃撃するフライスラー上級大将に迫る。
「お前のような子供に何が分かる! 無数の人間が声を上げた! 死んだ兵士の遺族が! 手足を失った兵士が! 正気を奪われた兵士が! 悲鳴を上げた! だが、政府と議会はそれを無視したっ!」
「知っています! 僕だって戦場に立って大勢の人が望まぬ死を迎えるのを見ました! だから、殺し合いなんてするべきではないです! あなたのこの反乱でも大勢が犠牲になったんですよ!」
「行動しなければもっと死人は増える!」
フライスラー上級大将がアレステアの額に口径9ミリの拳銃弾を叩き込み、アレステアの頭が弾けるもアレステアはそのまま前進し、傷が回復した瞬間、フライスラー上級大将に向けて“月華”の刃を振るった。
「くっ……! これで勝ったと思うなよ、ゲヘナの眷属……! 我々は成し遂げる! 我々はまだ戦えるのだ! まだ……」
胸を深く切られ致命傷を負ったフライスラー上級大将はそう叫ぶと地面に崩れ落ちた。彼の部下たちの血にフライスラー上級大将の血が混じる。
「やりました……。とりあえず、ひとりは」
アレステアが深く息を吸って吐いた。
「やりましたね、アレステア君」
「レオナルドさん。その、神聖契約教会のフランケンシュタインというのは……」
「ここでのことは誰にも言わないでください。お願いします」
「分かりました。それでこれからはどうすれば?」
「屋上に向かいましょう」
アレステアの問いにレオナルドがそう言い、彼らはヴァイゼンナハト城の屋上に向けて階段を駆け上った。
「あれは空中戦艦……」
「フリードリヒ・デア・グロッセですね。それに他の艦艇も多数です」
ヴァイゼンナハト城上空を反乱軍が奪った飛行艇が編隊を組んで飛行しており、空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセを先頭に航行している。
「向かっている先は?」
「あちらには統合任務部隊“スキンファクシ”の部隊がいます。攻撃を仕掛ける気でしょうか? いくら帝国空軍最大の空中戦艦だとしてもそれで反撃を行うのは難しいと思うのですが」
アレステアたちが見つめる中、反乱軍のヴィーザル空中艦隊はパンツァーファウスト作戦のために展開中の帝国軍に向けて進んでいく。
「レニー! アレステア少年!」
「シャーロットお姉さん! 無事でしたか! よかったです!」
そこで屋上にシャーロットたちが合流した。シャーロット、アリーチェ、ブラム、ゴードン少佐と彼の部下の下士官が屋上に集まり、ヴィーザル空中艦隊が帝国軍の陣地に向けて進んでいくのを見る。
「不味いな。潜入していた帝国国防情報総局の工作員の情報通りか」
「情報と言うと?」
ゴードン少佐が呻くのにアレステアが尋ねた。
「反乱軍の空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセには化学兵器エージェント-37Aが積み込まれている。反乱軍はそれを使うつもりだ。このままでは大虐殺になる」
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