ミットヴァイゼンナハト地下水路
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──ミットヴァイゼンナハト地下水路
夜が明け太陽が地平線に姿を見せる。
そんな早朝の時間帯にアレステアたちは動き出した。
「作戦開始だ。本隊に先行してヴァイゼンナハト城に潜入する部隊が物資搬入のトラックに乗り込み、間もなくヴァイゼンナハト城に入る。ヴァイゼンナハト自由軍も間もなく動き始める」
ゴードン少佐がそう言い、シグルドリーヴァ大隊、レギンレイヴ大隊、そしてアレステアたちを見渡す。
「我々は予定通りミットヴァイゼンナハトの地下水路からヴァイゼンナハト城に侵入する。侵入地点はミットヴァイゼンナハト郊外の水道施設からだ。2名の民兵が我々を導く。彼らに続くぞ。さあ、立て!」
「了解!」
兵士たちが気合を入れて武器を握り、立ち上がる。
そして、作戦が開始された。
「乗ってください。まずは郊外の水道施設へ。こちらの攻撃は後15分後に開始するので、それまでに到着する必要があります」
「全員、乗車だ! 急げ、急げ! 1秒も無駄にするな!」
建築会社社長であり民兵のブラムが先頭のトラックの運転席に座り、兵士たちがそのトラックを先頭として車列を作るトラックに乗り込んでいく。
車列は走り出し、ヴァイゼンナハト領の中心地でヴァイゼンナハト自治政府庁舎などの政府施設と目標であるヴァイゼンナハト城があるミットヴァイゼンナハトに向かう。
「アリーチェさんのその魔道式銃って軍用じゃないですよね?」
トラックの中で向かいの座席に座っているアリーチェにアレステアがそう尋ねた。
アリーチェが持っている魔道式銃は軍用の光学照準器こそ装着されているが帝国陸軍が採用している魔道式狙撃銃ではなく、狩猟に使う民生品の魔道式猟銃だった。
「う、うん。これはただの猟銃ですけど。け、けどですね! これは.338マグナム弾を使うので帝国陸軍の口径7.62ミリの魔道式狙撃銃より射程も長く、威力もあって使いやすいんです!」
「そ、そうなんですか。詳しいんですね。やっぱり信頼されているだけはあります!」
「あ。す、すみません。うざかったですよね……。私、昔から銃と狩猟しか興味なくて、人付き合いが苦手なんです……」
アレステアは笑顔で接したが、アリーチェは顔を真っ赤にして俯いてしまった。。
「いえ。そんなことは。狩猟ではどのような動物を?」
「あ、えっと、私の場合は食肉目的で狩りをすることはなくて、主に農家からの依頼で害獣駆除をすることが多い感じなんです。クマだったり、イノシシだったり、あるいはシカだったりを駆除して」
「それは農家の方から感謝されそうですね」
「は、はい。被害が減ると喜んでもらえます。私としても狩りは楽しいですし……」
アレステアとアリーチェがそう言葉を交わす中、車列はミットヴァイゼンナハト郊外に到着。そこにある水道施設の前で停車した。
水道施設は比較的新しい建物でミットヴァイゼンナハト全体の上下水道を管理している場所だ。数名のヴァイゼンナハト自治政府職員が勤務している。
「こっちです。来てください」
ブラムがアレステアたちを水道施設に案内し、内部に入った。
「誰だ?」
「ブラムだ。事前に連絡していた例の帝国軍の反乱鎮圧部隊を連れてきた。まだ反乱軍には気づかれていないよな?」
水道施設を保守管理しているヴァイゼンナハト自治政府職員がアレステアたちを見て尋ね、ブラムがすぐにそう言って問いかけた。
「大丈夫だ。反乱軍には気づかれてない。通れるようにしてある。頼むぞ。俺たちの郷土から連中を追い出してくれ」
「任せてくれ」
ヴァイゼンナハト自治政府は反乱軍によって制圧され、自治政府の首長や議員などは反乱軍に拘束されている。
「ここから地下水路に入れます。今は使われていないので水はありません。ただそういう事情で照明などはないし、複雑な構造をしています。必ず私の後に続き、道を逸れないでください。いいですね?」
「了解です」
ブラムが事前に警告し、アレステアたちが頷く。
そして、ブラムが先行し地下水路に続くハッチを潜り、梯子を伝って地下水路に降りた。地下水路は少し異臭がするが、動いている下水道のように糞尿の臭いがするわけではない。水が古くなった臭いだ。
「よし。行きますよ」
「え、援護しますから」
ブラムが先頭を進み、その後からアリーチェとエトーレ、そしてアレステアたちが続き、ブラムが持っている小さなライトだけで真っ暗な地下水路を進む。
地下水路を幾分か進むと遠くから爆発音が響いた。
「ヴァイゼンナハト自由軍が攻撃を開始した。予定通りだ。これでヴァイゼンナハト城の反乱軍戦力が分散するといいのだが」
その音を聞いてゴードン少佐が呟く。
「まだまだ距離はありますよ。しっかりついて来てください」
ブラムが後に続くアレステアたちにそう言って地下水路を先導した。
「この地下水路はヴァイゼンナハト城より歴史があるですよ。この地方で起きた反乱の際には反乱軍がこの地下水路を使って物資を運んだり、捕虜になった味方を助けたりしてたんです」
「そして、今回は反乱を鎮圧するために使うんですね」
「ええ。ヴァイゼンナハト市民は支配されて黙っているほど軟弱じゃないんです」
広大な帝国において地方の住民が愛するのは帝国という統一されたものではなく、自分たちの暮らす郷土であり、多くの市民が自分たちの郷土に誇りを持っている。
「そろそろです。ここから静かに進みましょう。地下水路は比較的浅い位置に存在するので上にいる反乱軍に音を聞かれる可能性があります」
「分かった。全員、静かに進め」
ゴードン少佐が指示を出し、全員が足音を立てないように地下水路の石造りの床を進んだ。シグルドリーヴァ大隊やレギンレイヴ大隊の兵士たちが履いている軍靴は他の靴と比較してもそこまで音がでるものではない。
「ここです。このマンホールからヴァイゼンナハト城の中庭に出られる。そちらの先行して潜入した部隊の攻撃は?」
「指示を出す。待ってくれ」
ゴードン少佐がそう言って無線機を抱えた通信兵を呼ぶ。
潜入部隊の指揮はレギンレイヴ大隊の指揮官ヴァルガス少佐が取っており、彼らはヴァイゼンナハト城に物資搬入のトラックに潜んで侵入していた。
地下水路から侵入する部隊の指揮を執るゴードン少佐から連絡があればヴァイゼンナハト城内で破壊活動を実施し、反乱軍の警備体制に穴をあける。
「カウフマン・ゼロ・ワンよりヴィクトール・ゼロ・ワン。こちらは位置についた。そちらが攻撃を実施するのを待っている。攻撃を実行してくれ」
『ヴィクトール・ゼロ・ワンよりカウフマン・ゼロ・ワン。了解。反乱軍に仕掛ける。派手な爆発音がするから、それが合図だ』
「了解」
ゴードン少佐の呼びかけにヴァルガス少佐から連絡があり、アレステアたちは合図の爆発音を地下水路で待った。
「少佐殿。統合任務部隊“スキンファクシ”司令部から通知です。帝国安全保障局の空中情報艦が無線を傍受し、反乱軍に大規模な動きがあることを掴みました。こちらの陽動は成功のようです」
「このまま上手くいくといいのだが」
通信兵の報告にゴードン少佐がそう言って爆発を待つ。
帝国安全保障局は無線やレーダーの情報を収集するための飛行艇を保有しており、同局の指揮下で空軍の将兵が運用するそれがヴァイゼンナハト領の付近にも進出してた。
そこで大きな爆発音が響き渡り、地下水路にも振動が伝わってきた。
「来たぞ。合図だ。行動開始!」
「行きます!」
そして、アレステアたちがヴァイゼンナハト城に乗り込んだ。
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