ヴァイゼンナハト自由軍
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──ヴァイゼンナハト自由軍
「作戦前にヴァイゼンナハト自由軍の指導部に会っておく。一応作戦について最終確認を行い、時間を合わせる必要がある」
「ヴァイゼンナハト自由軍の拠点は?」
「この村の傍に古い城塞がある。そこに拠点を置いている。トラックで向かうぞ」
「了解」
そしてアレステアたちはヴァイゼンナハト領の民兵ヴァイゼンナハト自由軍の拠点へと移動することになった。再び民兵が運転するトラックに乗り込み、村を出ると村の傍にある小さな山の方に向かう。
トラックが揺れながら山道を走り、やがて山の中に石造りの古い城塞が見えてきた。
「到着だ。降車、降車」
城塞の敷地に入ったトラックからアレステアたちが降りる。
「古いお城ですね。いつの時代のものでしょう?」
「恐らくはヴァイゼンナハト城と同時期の城でしょう。ここで起きた反乱の際には多くの砦が作られましたから」
アレステアが尋ねるとレオナルドがそう答えた。
「帝国軍の連中だな。こっちだ。司令官が待ってる」
やってきたアレステアたちにヴァイゼンナハト自由軍の民兵が声をかけてきた。
「行こう」
ゴードン少佐が言い、アレステアたちが民兵に続いて城塞内部に入る。
城塞はヴァイゼンナハト自由軍が拠点にするに当たって改修工事を行ったらしく、電灯が内部を照らしており、壊れかけの窓などには土嚢が積み上げられていた。
「こっちだ。入ってくれ」
そして、城塞の中にある部屋のひとつの前で、扉の横に立っている武装した民兵がアレステアたちに言い、アレステアたちは促されるままに部屋の中に入る。
「ようこそ、ヴァイゼンナハト領へ。私がヴァイゼンナハト自由軍の司令官ジュゼッペ・ボルゲーゼだ」
アレステアたちを出迎えたのは40台後半ほどの民兵だった。黒い髪を刈り上げ、狩猟帽をその上に被っている。体格は長身だが、ゴードン少佐などの高度に訓練された軍人と比べると無駄が見える。
そして、ヴァイゼンナハト自由軍の他の民兵と同じように狩猟などの野外活動で使用する動きやすい格好をしており、その上にタクティカルベストを装備。
腰のホルスターには.357口径の魔道式レボルバー拳銃だ。
「ご協力に感謝します。僕はアレステア・ブラックドッグです」
「話は聞いている。ゲヘナ様の加護を受けた戦士で英雄であると。来てくれて感謝している。おかげで士気は向上したよ」
アレステアが自己紹介するのにジュゼッペが微笑んだ。
「ヴァイゼンナハト自由軍は民兵としてはどの程度の勢力なのですか?」
「そこそこというべきだろうな。ヴァイゼンナハト領は典型的な自立心の高い地方だ。帝国中央にあれこれ口出しされるのを嫌う。そのため自治政府も民兵の育成を推奨してきていた。我々もその援助を受けている」
レオナルドが質問を発するとジュゼッペがそう説明を始めた。
「そして、このヴァイゼンナハト領は農業が盛んで、害獣というのは常に問題になっている。それを駆除するのも我々の仕事で銃の扱いになれた兵士たちが多い。重装備こそ持たないが戦える」
猟師と民兵を兼任している人間は多いとジュゼッペは語る。
「練度はどうあれ民兵たちはこのヴァイゼンナハト領を愛している。数々の困難に見舞われようと逞しく生き残ってきたこの郷土を誇りに思っている。それ故に反乱軍などいう連中が好き勝手していることに怒りを燃やしているのだ」
「なるほど。それは頼りになりそうですね」
「兵士たちはこの故郷のために全力を尽くす。まして、英雄まで来てくれたのだ。反乱軍など駆逐してくれよう」
ジュゼッペはそう言って自分たちの能力を示した。
「ボルゲーゼ司令官。作戦に協力してくれるとのことだが、作戦を改めて確認していいだろうか?」
「ああ。まず反乱軍に物資を売っている会社の協力は取り付けられている。反乱軍はまともに代金を支払わないから苛立っていたので説得は楽だったよ。その会社のトラックに潜むことで6名ほどをヴァイゼンナハト城に潜入させられる」
ゴードン少佐が当初の目的である共同作戦の確認を求めるとジュゼッペが作戦を時系列順になぞりながら確認していく。
「陽動のためのゲリラ戦はヴァイゼンナハト領全土で実行する。反乱軍のパトロールや検問、物資集積基地、そしてヴァイゼンナハト・ダンテ・アリギエーリ空港にも攻撃を仕掛け、反乱軍の注意を逸らす」
「ヴァイゼンナハト・ダンテ・アリギエーリ空港には反乱軍の空中艦隊がいる。フリードリヒ・デア・グロッセも。警備は強固だろう。可能なのか?」
「問題ない。こっちにとっては地元だ。侵入する方法はいくらでもある。もっとも我々の装備は軽装で空中戦艦を破壊できるような装備は持っていないので、ただの攪乱作戦となるが」
「それでも攻撃が行われれば反乱軍は警備を強化しなければいけなくなる。そのことでヴァイゼンナハト城の防衛戦力は引き抜かれるだろう」
ジュゼッペの説明にゴードン少佐が頷いた。
「陽動が行われると同時にヴァイゼンナハト城には地下水路から侵入することになるが、その際の道案内のために2名の兵士をそちらに預ける。実に頼りになる兵士だ。では、紹介しよう」
ジュゼッペがそう言って部下の民兵に件の案内役を連れてくるように言葉をかけると民兵が2名の兵士を連れて来た。
「ブラム・ドールマン軍曹と私の娘であるアリーチェ・ボルゲーゼ大尉だ」
現れたのは中肉中背で薄い髪をした壮年の男性兵士。そして、若く20代後半ほどの女性的な体つきをしているが、その黒髪が伸びすぎ目を半分隠している暗い雰囲気の女性兵士。加えてその女性が連れている黒い毛並みの猟犬。
彼らをジュゼッペが紹介した。
「ブラムです。このヴァイゼンナハトで建築会社を経営しています。地下水路については自治政府から補強工事の依頼を何度も受けているので完全に理解していますよ」
ブラムと名乗った民兵はそう自己紹介する。
「……わ、私はアリーチェ。紹介にあったようにジュゼッペの娘で、その猟師とライフル射撃の選手を一応……。無職じゃないです……」
「私の娘アリーチェは射撃の名手だ。競技会では何度も優勝している。そして、猟師としても優れた才能がある」
「お父さん!」
ジュゼッペがおどおどしている娘のアリーチェを自慢するのにアリーチェがわたわたと顔を赤くして慌てる。
「その子、可愛くて賢そうな犬ですね! 名前は何ていうんですか?」
「あ、はい。え、えっと、エトーレって言います。犬種は雑種なんですけど賢い子です。山で迷った人を探したり、狩りで獲物を探したりとか……」
アレステアが尋ねるとアリーチェが連れている猟犬を紹介した。エトーレと紹介された黒い犬は大人しくしており、凛々しい顔立ちでアレステアを見つめる。
「この犬も作戦に加わるのか?」
「エトーレは軍用犬としても優れている。そもそも本来はヴァイゼンナハト自由軍の軍用犬だったからね。襲撃訓練も受けているよ。だが、あいにく探知できるのは生き物だけだ。爆発物の類は嗅ぎ分けられない」
ヴァルガス少佐がエトーレを一瞥して聞くとジュゼッペがエトーレについて詳しく紹介した。
「以前、子供を襲おうとした男をアリーチェが取り押さえさせたこともある。男は魔道式拳銃を持っていたが、アリーチェとエトーレは恐れず生きたまま確保した」
「それは頼りになりそうだ。賢い軍用犬というのはかなりの戦力になる」
ジュゼッペの話にヴァルガス少佐がエトーレに向けて笑みを向ける。
「ミットヴァイゼンナハトへの侵入と地下水路からヴァイゼンナハト城までの案内はこのふたりが行い、作戦を支援する。脱出の際にこちらの戦力との合流においても案内を行うことになる」
「脱出の際の作戦について詳細を確認しておきたい。ヴァイゼンナハト城から脱出する際には車両が必要だ。そちらで調達してもらえるのか?」
「ああ。こちらで準備する民間車両に偽装したトラックを既にミットヴァイゼンナハトに配置しており、運転手と護衛も先行して市民に匿われて侵入している。脱出の際にはミットヴァイゼンナハト各地で攻撃を行う」
「分かった。頼りにしている」
ジュゼッペが説明しゴードン少佐が確認を終えた。
「では、作戦開始まで待機していてくれ。隠れ家を準備してある。食事も準備した」
「ありがとうございます」
ジュゼッペがそう言うのにアレステアが頭を下げてお礼をした。
いよいよ反乱鎮圧のための秘密作戦が始まる。
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