レギンレイブ大隊
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──レギンレイブ大隊
パンツァーファウスト作戦に参加しているアレステアたちはワルキューレ武装偵察旅団のシグルドリーヴァ大隊とともにヴァイゼンナハト領に降り立った。
ここで同旅団のレギンレイヴ大隊と合流して、反乱軍の指導部を排除するために。
『降下完了だ。幸運を祈る!』
アレステアたちを夜間飛行で送り届けた帝国空軍第669特殊作戦飛行隊“グリンカムビ”の指揮官がそう言ってアレステアたちを降下させると小型輸送飛行艇を静かに離陸させ、真っ暗な夜空に去った。
「ここに友軍が?」
「そのはずです。レギンレイブ大隊は精鋭ですからこちらを見つけられるでしょう」
アレステアが真っ暗な森の中で僅かに開けた空間に降り立って周囲を見渡し、レオナルドがそう言う。
「来たぞ。レギンレイブ大隊だ」
そこでゴードン少佐がそう言って暗闇の中を専用のサプレッサーを装着したカービン仕様の魔道式自動小銃を握って進んだ。
すると暗闇の名からライトの光が見え、それがゆっくりと左右に振られた。それからやはり顔をドーランで黒と緑に塗った兵士たちが姿を見せる。
「シグルドリーヴァ大隊ですね。大隊長の命令で迎えにきました。ここは安全ですが、急いで移動した方がいいですよ。反乱軍は変則的に巡回ルートを変えていますから」
「分かった。そっちの司令部と合流したい。案内してくれ」
「こちらへ。車両があります」
レギンレイブ大隊の兵士がゴードン少佐を含めた部隊を暗い森の中を進みながら案内する。森の中は暗くて見通しがつかないうえ、同じような光景が続いているが、レギンレイブ大隊の兵士は全く道に迷うことなく進んだ。
「准尉殿。全員合流しました。また車両周辺に敵は存在せず。民兵が守っています」
「分かった。このまま車両に向かうぞ」
森の中で降下地点を確保していたレギンレイブ大隊の兵士たちが合流した。全員で8名だ。指揮している帝国陸軍准尉が車両までの道なき道を先導する。
「森が開けた」
アレステアが呟いた通り、森が途切れ、田舎によくある2車線の細い道路が見えて来た。そして、その道路に4台の農作物を運ぶ民生品のトラックが止まっている。装甲もなければ武装もない。
だが、数名の武装した人間がいる。レギンレイブ大隊の兵士たちと違って、その服装は一般市民とあまり変わらず、猟師のような森などの野外で動きやすい格好でタクティカルベストを付けている。
だが、持っている武器は旧式ながら軍用魔道式自動小銃だ。
「あれが味方の民兵か?」
「そうです。ヴァイゼンナハト自由軍。我々の作戦に協力しています」
ゴードン少佐が尋ねるのにレギンレイブ大隊の兵士が答え、またライトをトラックの方に向けて振った。
するとヴァイゼンナハト自由軍と民兵と呼ばれた人間がライトを振り返してくる。
「オーケー。行きましょう」
レギンレイブ大隊の兵士がそう言い、トラックに向けて進む。
トラックの周囲にはヴァイゼンナハト自由軍の民兵たちがおり、周辺を監視していた。暗闇の中でも分かるが男性もいれば女性もいる。そして、法律で定められた民兵の義務である腕章を付けていた。
腕章にはヴァイゼンナハト領のシンボルである月と駆ける馬のエンブレム。ヴァイゼンナハト領はかつてより優秀な軍馬と競走馬を生み出してきて、帝国による併合前は勇敢な騎兵がいることで知られていた。
「グラツィアーニ軍曹。援軍のシグルドリーヴァ大隊を連れきた。拠点に向かいたい。頼めるな?」
「ああ。乗ってくれ、准尉殿。いつでも出せるぞ」
レギンレイブ大隊の兵士が民兵に尋ねると民兵がトラックを指さす。
「全員乗車! 急げ!」
ゴードン少佐が命じ、アレステアたちもトラックに乗り込んだ。トラックは中型の大きさで幌で中が見えないようになっており、1台当たり10名程度の人間が乗り込めた。
「出すぞ」
民兵が告げ、トラックの車列が走り出す。
ヴァイゼンナハト領は田舎に分類される場所だ。インフラ整備はあまり行われておらず、整っているのは主要産業である農業関係のインフラぐらい。
アレステアたちを乗せたトラックが走る道路も舗装が十分でなく、陥没などでガタガタとトラックを揺らしていた。
「反乱軍が展開している検問の位置は分かっているんだよな?」
「ああ。あなたの拠点に向かうまでの道路は全て無線機を持った仲間が見張ってる。だが、油断はするな」
ゴードン少佐が尋ねると民兵がそう返した。
「田舎の匂いがしますね。畑の匂いと家畜の匂い、そして草木の匂い」
「アレステア少年は田舎の出身?」
「はい。畑とお年寄りが多い田舎で育ちました。帝都に来た時は目が回りましたよ」
シャーロットの問いにアレステアが小さく笑って答える。
その田舎であるヴァイゼンナハト領をトラックの車列は進み、広大な農地が広がる土地を通り抜け、小さな村に到着した。
「止まれ」
村の入り口には偽装した小さな陣地があり、ヴァイゼンナハト自由軍の民兵が潜んでいた。陣地から出て来た民兵が先頭のトラックの運転席に向かう。
「帝国軍の応援だ。レギンレイヴ大隊の連中に知らせてくれ」
「分かった。連中は拠点にいる。反乱軍の連中はまだ気づいてない」
トラックの民兵がそう言い、陣地にいた民兵が頷いて通るように指示する。
トラックは農地の中にある小さな村の狭い道路を走り、やがて農作物や農業機械、その燃料などを保存する比較的大きな倉庫の前で止まった。
「ここだ。降りろ。あんたらの仲間が待ってるぞ」
「降車だ!」
ゴードン少佐が兵士たちに命じ、シグルドリーヴァ大隊とレギンレイヴ大隊、そしてアレステアたちがトラックを降りて、倉庫の中に入る。
「よう、ベンジー。待ってたぜ」
「ああ。応援に来てやったぞ、フェル」
倉庫の中にはシグルドリーヴァ大隊の兵士たちと同じ装備をしたレギンレイヴ大隊の兵士たちがおり、そしてそのレギンレイヴ大隊の指揮官であるフェルナンド・ヴァルガス帝国陸軍少佐がいた。
ヴァルガス少佐は30台ほどの男性で褐色の肌をしており、長身かつ鍛えられた肉体をしている。黒い眉は太く、口ひげを僅かに蓄えていた。
ゴードン少佐とヴァルガス少佐は顔を合わせると小さく笑う。
「状況は?」
「ヴァイゼンナハト自治政府は反乱軍に制圧された。反乱軍はヴァイゼンナハト領全域に戒厳令を布告している。そこら中に反乱がうようよしている状況だ。そして、既に知っての通り、反乱軍は屍食鬼を使ってやがる」
ゴードン少佐が説明を求め、ヴァルガス少佐が答える。
「まあ、そういうことでそこの小さな英雄さんとその仲間たちに来てもらったわけだが。よろしく頼むぞ、アレステア卿」
「はい! 任せてください」
ヴァルガス少佐が告げるのにアレステアが元気よく頷いた。
「目標がいるヴァイゼンナハト城の周辺はどうなってるんだ?」
「反乱軍の大部隊が警備してる。武装した屍食鬼の数も半端じゃない。まともに正面から突っ込めば蜂の巣だ」
「作戦は?」
「ヴァイゼンナハト自由軍の手を借りる。反乱軍でも食料や水、医薬品が必要になる。特に部隊の規模が大きければな。そして、連中は現地住民からそれを購入しており、納品も現地住民が行っている」
「なるほど。物資の搬送に乗じて侵入するのか」
軍隊は基本的に自己完結能力を有するが、それでも孤立した状態での能力は限られる。だからこそ、兵站を行う後方連絡線が重要視されるのだ。
そして、今まさに反乱軍はヴァイゼンナハト領で孤立していた。
「もっとも物資の搬入に紛れ込む形の侵入では少数の部隊しか送り込めない。他のルートで侵入する必要がある。その点においてもヴァイゼンナハト自由軍が助けになってくれるそうだ」
「どのような方法になる?」
「ヴァイゼンナハト城が位置する中心街ミッテヴァイゼンナハトには古い地下水路がある。ヴァイゼンナハト城にも通じている。それを利用する方法を取る。地下水路の案内をヴァイゼンナハト自由軍の民兵が行う」
「先に物資の搬入で潜入した部隊に出口を確保してもらうわけか?」
「そうなる。またヴァイゼンナハト自由軍は陽動のためのゲリラ戦を実施することになっている。ヴァイゼンナハト領の各地で展開している反乱軍を相手に攻撃を仕掛ける」
「武装は十分なのか?」
「帝国国防情報総局の準軍事作戦要員がたっぷりプレゼントしてる」
「オーケー。問題なしだな」
ヴァルガス少佐の説明にゴードン少佐が納得した。
「僕たちはどちらに参加すれば?」
「アレステア卿たちは地下水路の方に加わってもらう。先に潜入する部隊は特殊作戦について高度に訓練された人間でなければ困るのだ」
「分かりました。いつ始めますか?」
「4時間後に開始だ」
アレステアの問いにヴァルガス少佐がそう言った。
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