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ひとりで背負うべきでない

……………………


 ──ひとりで背負うべきでない



 アレステアたちはシュネーヴュステ空軍基地にてパンツァーファウスト作戦の第二段階における反乱軍指導部の排除という任務のために待機していた。


「アレステア君」


「カーウィン先生! どうしてここに?」


 アレステアたちが待機しているシュネーヴュステ空軍基地の仮設兵舎を訪れたのはルナだった。いつもの白衣姿の彼女が現れ、アレステアに微笑みかける。


「君がこれから危険な任務に向かうと聞いてね。少し不安になっているんじゃないかと思ったんだ。力になれるなら力になってあげたい。私にできることはないかい?」


 ルナはそう言い、折り畳み式ベッドのアレステアの隣に座った。


「正直に言うとちょっと緊張してます。僕たちが失敗したら全面的な戦闘になって、大勢が死ぬことになるかもしれないと思うと」


「それは君が背負うべき責任ではないよ。目標を達成するように指示した人間。作戦を立案した人間。そして、君と一緒に戦う人間。それらみんなで分かち合う責任だ。ひとりだけが責められる謂れはない」


 アレステアの告白にルナが優しくそう言う。


「でも、先生。この作戦には僕が必要だって言われています。魔獣猟兵に所属する旧神戦争の英雄が介入すれば危険だからと。とても強い彼らには僕しか対抗できないと言われてしまいました……」


 アレステアがそう語る。


「後悔しないようにできることをしようって、ずっと思ってきました。そのときやれることをちゃんとやれば後悔することはないから。けど、だんだんやらなければならないことがやれることを上回ってる気がしてきてるんです」


 ゲヘナの眷属であり、不老不死の戦士であるアレステアは人々から大きな希望を託された。英雄として望みを託された。


 敵を倒して得られる戦争での勝利。戦場に向かった仲間の、家族の生還。全ての問題が解決した明るい未来。


 帝国政府はアレステアをプロパガンダのために大々的に使用した。誰もがアレステアが英雄だと知っている。そして、誰もが英雄であるアレステアがこの戦争を勝利に導いてくれると思っている。


 12歳の少年にあまりにも大きな戦争の責任が背負わされていた。


「君はそれを達成するために自分を犠牲にする。神の眷属だからという理由で。それはよくないことだよ。君に必要なのは何もかもを打ち倒す力ではない。仲間を頼り、自分の犠牲で物事を解決するのをやめることだ」


 ルナがアレステアにそう諭すように語る。


「君はいい子だ。みんなに好かれている。だから、みんな喜んで手を貸してくれるだろう。私も君の力になりたいと思っている。みんなのために頑張っている君を助けたいと思っているんだ」


「けど、それはみんなに僕がやるべきことを押し付けてしまっているのではないでしょうか。それはずるいというか、正しくないような気がします」


 ルナの言葉にアレステアがぽつぽつとそう語った。


「いいや。そんなことはない。むしろ、仲間を頼らない方が仲間に対して失礼だよ。それは仲間を信頼していないということだし、君を助けたいというみんなの思いを無視している。違うかい?」


「そう、ですね。確かに失礼です。よくないことです。ときには人を頼るべき……」


「頼るということが自分がやるべきことをしていないと思うのであれば、協力すると思えばいい。ひとりでは成せないことも仲間と協力すれば達成できる。君は自分が武勲を立てたいのではなく、ただ任務を達成したいのだろう?」


「はい。そして、できれば誰も犠牲にならずに済むこと。それが望みです」


「ならば、君も仲間を助け、仲間と協力するんだ。きっと上手くいく」


 アレステアが言うのにルナがアレステアの頭をそっと撫でて言った。


「ありがとうございます、カーウィン先生。元気が出ました!」


「それはよかった。君と仲間たちが無事に戻ってくることを願っているよ」


 元気よく礼を述べるアレステアにルナは微笑んだ。


 そして、ルナが去り、時間は流れ、いよいよ作戦開始時刻が訪れた。


「作戦開始だ、葬送旅団。来てくれ」


「はい!」


 作戦を共同して行うシグルドリーヴァ大隊の兵士が呼びに来て、アレステアたちは軍用四輪駆動車で帝国空軍の特殊飛行隊が待機している場所に向かう。


「来たか、葬送旅団。頼りにしているぞ、英雄さん」


「はい。頑張ります」


 帝国空軍が保有する小型輸送飛行艇が並ぶ空軍基地に一角でゴードン少佐がアレステアたちを出迎えた。


 彼の傍には完全武装のシグルドリーヴァ大隊の将兵たちがいる。


「グリンカムビの連中が待ってる。飛行艇に乗り込んでくれ」


「グリンカムビ?」


「帝国空軍第669特殊作戦飛行隊“グリンカムビ”。どんな天候だろうと真夜中だろうと、あるいは敵の高射砲が待ち構えていようと必ず目的地に運んでくれて、帰りには迎えに来てくれるタフな連中だ」


 ゴードン少佐がアレステアにそう説明し、待機している帝国空軍の小型輸送飛行艇を指さした。小型輸送飛行艇の垂直尾翼にはグリンカムビのエンブレムであるラッパを咥えたニワトリが描かれている。


「総員、作戦開始だ! 作戦機に搭乗しろ!」


「了解!」


 ゴードン少佐が叫び、シグルドリーヴァ大隊の将兵たちが一斉に小型輸送飛行艇に乗り込む。同時に小型輸送飛行艇のエンジンが始動し、特殊作戦仕様の飛行艇が立てる僅かなエンジンの駆動音が響いた。


『一番機より、全機。作戦開始だ。事前のブリーフィング通り、反乱軍のレーダーによる探知を避けるために地形追随飛行かつレギンレイブ大隊が把握した反乱軍の未警戒地域を飛行する。日ごろの訓練の成果を見せろ』


 時刻は深夜2時。ヴァイゼンナハト領周辺は真っ暗だ。


 この暗さの中をまともな暗視装置もなしで、木々を掠めるほど低空で飛行するというのだから、グリンカムビの操縦士たちの腕前が窺える。


 アレステアたちとシグルドリーヴァ大隊を乗せた飛行艇はシュネーヴュステ空軍基地を離陸し、ヴァイゼンナハト領へと向かう。


「真っ暗です……」


 飛行艇の窓からは暗闇だけが見えていた。


「小型飛行艇の夜間飛行は基本やらないんだけどね。危険だから。まして逆探を避けるためにレーダーを使ってないんじゃ、文字通り目隠しして操縦しているようなものだよ。流石は精鋭とでもいうべきか、命知らずというべきか」


「そうなんですか。操縦しているのは凄い人たちなんですね。どうやってるんでしょう? かなり低い高さで飛んでますよね?」


「計器飛行かな。事前に作戦地域の地形を把握しておいて、その地形に沿った高度を飛行するってやり方はあるよ。けど、事前に完全に記憶しておいて、全くズレずに飛ばなきゃいけないから難易度は凄いだろうね」


 事実、グリンカムビは地形を把握して、地図と高度計などの計器の数字だけを頼りに飛行している。


「陸軍は混戦が予想される夜戦の際には照明弾を使いますが、奇襲の場合は兵士たちの目だけが頼りですね。暗闇に慣れる方法はあるにはあります。人は太古から夜を過ごしてきたのですから」


「じゃあ、友軍と合流したらそれを頼らないといけませんね。僕は教会の墓所という暗い場所で仕事をしていましたが、いつもランタンを使ってました。ランタンがないと何も見えなかったりして」


 墓守にとってランタンは重要な仕事道具だ。基本的に電化されていない墓所において墓守たちはランタンの明かりによって仕事を行う。


『レギンレイブ大隊から連絡が来た。合流は予定通り実行。現地に敵勢力は存在せず。警戒線を展開して着陸地点を確保している。だが、油断はするな』


 ゴードン少佐から作戦要員に指示が出て、グリンカムビの操縦士たちが操る飛行艇が合流地点へと向かい続ける。


『間もなく降下地点! 降下に備えろ!』


 そして、ついに飛行艇はヴァイゼンナハト領に潜入しているレギンレイブ大隊との合流地点に至った。


 夜の闇の中、飛行艇が急速に高度を落とし、飛行艇の内部に緊張が満ちる。


……………………

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