心理・情報作戦
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──心理・情報作戦
いよいよ帝国軍が編成した統合任務部隊“スキンファクシ”が作戦可能になった。
動員された部隊が予定位置に付き、統合任務部隊“スキンファクシ”の司令官アーサー・シューマン上級大将の指揮下に入った。
「シューマン上級大将閣下。作戦実行可能です」
「ワルキューレ武装偵察旅団は?」
「レギンレイブ大隊が既にヴァイゼンナハト領にて作戦行動中。さらに葬送旅団とともにシグルドリーヴァ大隊が待機中です」
「よろしい」
作戦参謀の言葉にシューマン上級大将が頷く。
「これよりパンツァーファウスト作戦を開始する。作戦第一段階を開始せよ」
シューマン上級大将がパンツァーファウスト作戦の発動を宣言。
まず動いたのは帝国陸軍の心理戦部隊だ。彼らはヴァイゼンナハト領における各ラジオ放送を軍の電子戦装備を使って電波ジャックし、放送を始めた。
『反乱軍に告げる。エスタシア帝国の万を超える諸民族の王の中の王として帝冠を戴く皇帝ハインリヒ陛下はお前たちを指揮する指導者たちを国賊とされた。それに従い続けるならばお前たちも国賊となるであろう』
帝国軍がジャックしたラジオ放送を通じてヴァイゼンナハト領全土に皇帝ハインリヒが下した布告を広める。
『しかし、国賊たちに従わず、皇帝陛下の認められた正しい政府に忠誠を誓い、降伏するのであれば一切の罪に問わないと皇帝陛下は約束してくださっている。反乱軍の将兵に告げる。降伏せよ。家族を国賊の血縁としたくはないだろう』
ラジオ放送は反乱軍に降伏を勧告する。
既に反乱軍には大義がないことを示し、もし反乱軍に加わり続ければ反乱に加わっている将兵自身だけでなく、その家族にも被害が及ぶと脅すように訴えた。
国賊となれば軍人年金は受け取れないし、その家族は学業や仕事に就けなくなる。そのことをラジオ放送は伝え続けた。
『私はエスタシア帝国皇帝ハインリヒである。皇帝として反乱鎮圧のための近衛とここに立っている。そして、反乱軍の将兵に告げる。降伏せよ。降伏した将兵には私の名において恩赦を与えることを約束する』
そして、ヴァイゼンナハト領に直接現れたハインリヒもラジオで言葉を伝える。
『今、我々は魔獣猟兵という恐ろしい敵と戦っている。帝国に暮らすもの同士で争っているような時ではないのだ。我々は同じ旗の下に団結しなければならない』
ハインリヒが帝国陸軍の心理戦部隊、電子戦部隊の展開した基地から反乱軍の将兵に対して訴えかける。
『諸君らが帝国に暮らす諸君らの家族や友人を思うのであれば武器を捨て、投降してほしい。君たちを罰することはしない。戦うべき相手を間違えないでほしい』
ラジオ放送がヴァイゼンナハト領全域に届き、ヴァイゼンナハト領の民家にあるラジオや反乱軍の将兵が個人的に持っているラジオから、ハインリヒの声が響く。
『私は反乱鎮圧部隊の司令官アーサー・シューマン陸軍上級大将である。反乱軍に告ぐ。諸君らに勝ち目はない。投降せよ。我々は全面的な攻撃を行う準備があり、もし諸君らが戦いを選べば帝国の全て諸君らの敵となる』
さらに軍事的に反乱軍が劣勢であるということを伝え、士気を揺さぶる。
パンツァーファウスト作戦の第一段階は順調に進行し、反乱軍の将兵たちは自分たちの置かれた状況に不安を覚え始めた。
反乱軍が占領するヴァイゼンナハト領は中規模の自治省及びヴァイゼンナハト自治政府管轄の自治体で主要な産業は農業と観光業、そして小規模な工業といった具合であり、人口は90万人。
そのほとんどが農作物と家畜が遊び広大な酪農地が広がっている静かな土地だ。しかし、中心地のミッテヴァイゼンナハトにはそこそこの商業地帯と観光地、そして宮内省管轄の皇室資産ヴァイゼンナハト城がある。
そのヴァイゼンナハト領周辺に統合任務部隊“スキンファクシ”隷下の帝国軍部隊が布陣していた。今はヴァイゼンナハト領に繋がる主要幹線道路及び鉄道路線の全てが反乱軍によって制圧されている。
「大隊長殿! ヴァイゼンナハト領の方角より反乱軍と思しき部隊がこちらに接近中です! 規模は1個大隊程度! 徒歩で向かっており、武器は持っておりません!」
「投降してきたか?」
ヴァイゼンナハト領を包囲する帝国軍の陣地に反乱軍の将兵が最大で大隊、最小で小隊規模で武器を捨てて向かってきた。
「ラジオを聞いた。我々は投降する」
「正しい選択だ。こちらの指示に従い後方の収容施設に向かえ」
投降した反乱軍の将兵は後方に設置された捕虜収容所に一時的に収容される。降伏を偽装して破壊工作を起こすことがないようにだ。
それから続々と反乱軍が投降してくる。
それもそうだろう。彼らは反乱を決意した上官の指示に従って行動しただけで、彼ら自身は帝国や皇帝に歯向かうつもりはなかったのだ。巻き込まれただけの彼らはあっさりと投降することを決定した。
「上手くいってるみたいだよ。戦う必要はないかもね」
「そうですね。血が流れないといいのですが」
皇帝ハインリヒの近衛部隊としてハインリヒに付いて展開した葬送旅団にも反乱軍の投降の知らせが入る。アンスヴァルトから地上に司令部を移した葬送旅団司令部でシャーロットが軽く言い、アレステアが真剣な表情を浮かべていた。
「アレステア、我が友! どうやら戦わずとも終わるかもしれないぞ!」
「皇帝陛下。本当ですか?」
そこでハインリヒが葬送旅団の司令部を随伴の宮内省職員とともに訪れた。彼は喜びと希望に満ちた表情をしている。
「ああ。もう既にかなりの部隊が投降した。心理作戦は成功だとシューマン上級大将も言っている。戦わずに終わるかもしれない」
「よかったです。今は帝国の仲間同士で争っている場合ではありませんからね」
ハインリヒが述べた通り、反乱軍に参加した部隊の多くが武装解除して鎮圧部隊の下へ行き、投降の意志を伝えていた。
「今、反乱軍の勢力下に潜入している特殊作戦部隊が情報を収集している。それでもう反乱軍の戦力が戦闘可能でなければ、このままヴァイゼンナハト領に侵攻して反乱軍の指導部を制圧するそうだ」
「そうですか。早く終わるといいですね。魔獣猟兵との戦争もまだ終わっていませんから。全て終わって平和になってほしいです」
「そうだな。戦乱の時代は苦しく、危険だ。国民も平和を望んでいる。だが、それは勝利して手に入れなければならない」
アレステアがそう言い、ハインリヒがそう返す。
「陛下。そろそろ司令部にお戻りください。シューマン上級大将閣下がお待ちです」
「全く、私は葬送旅団を率いて戦場に来たのだがな。ではな、我が友。この反乱が終わったら食事でもしながら話をしよう」
宮内省職員が言い、ハインリヒはアレステアに手を振って笑うと、そのまま葬送旅団の司令部を去った。
「いやあ。本当に何事もなく終わりそうだね。よかった、よかった」
「ですね。早く完全に終わるといいのですが」
シャーロットが上機嫌にスキットルからウィスキーを流し込み、アレステアもコクコクと小さく頷いた。
「しかし、まだ問題はあるでしょう。反乱軍は屍食鬼を使いました。魔獣猟兵と同じように。死霊術師は魔獣猟兵の側に立ったと皆が思った中、帝国軍の反乱分子が死霊術を使った。背後関係が気になります」
そこでレオナルドが冷静にそう意見する。
「死霊術が地上に蔓延しているからゲヘナ様がやってきて、僕を眷属にして神様たちの秩序を守ろうとされた。ですので、地上のあらゆる場所に死霊術師がいるのはおかしくはないのですが、確かに繋がりは……」
レオナルドの言葉を受けてアレステアがそう考え込んだとき、不意にアレステアの背後からゲヘナの化身が姿を見せた。
「ゲヘナ様!?」
「ああ。そうだ。死霊術師があちこちにいる。神々が結び、世界の秩序とした協定が破られている。この反乱も、続く魔獣猟兵との戦争も、全てが死霊術師たちの罠のように思えるものだ」
アレステアが驚いて叫ぶのにゲヘナの化身が淡々と語る。
「死霊術師が戦争や反乱を扇動していると仰るのですか? しかし、何故?」
「戦争も反乱も共通の産物がある。死者だ。戦争はもっとも死者を生む人間たちの業。そして、そこで生まれた死者が冥界に来ないのだ。今、起きているのはそういうことだ。神々の秩序への許しがたい反逆」
レオナルドが尋ね、ゲヘナが心の底から忌々し気に語った。
「私は暫く冥界にいたが死者たちが明らかに人為的に地上にとどめられている。死霊術師が暗躍している。解決せねばならん」
「分かりました。引き続き努力します。まずはこの反乱を。そして、次は魔獣猟兵との戦争を終わらせましょう」
「励め、アレステア。お前には期待している」
ゲヘナの化身はそう言って再び姿を消す。
「皆さん。統合任務部隊“スキンファクシ”司令部より命令が出ました」
入れ替わるようにシーラスヴオ大佐が司令部に現れた。
「葬送旅団の3名はワルキューレ武装偵察旅団シグルドリーヴァ大隊とともにヴァイゼンナハト領に隠密侵入し、現地のレギンレイブ大隊と合流せよとのことです」
「どうやら平和には終わらないみたいだよ」
シーラスヴオ大佐の言葉にシャーロットが肩をすくめる。
「では、行きましょう」
そして、アレステアが覚悟を決めて頷いた。
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