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見解の一致

……………………


 ──見解の一致



 魔獣猟兵の拠点に位置するアイゼンラント城では城主たるソフィアが広間に集まったメンバーを呆れたような目で見ていた。


「で、呼んだときは集まらず、呼びもしないのに集まった理由は?」


 ソフィアがそう尋ねる。


 広間には“竜狩りの獣”たるエリヤとカーマーゼンの魔女セラフィーネとカノン、そして真祖竜ネルファがおり、偽神学会のメンバーたるアザゼルがいた。


「帝国で反乱が起きた。私が掴んだ情報では反乱軍には死霊術師がおり、屍食鬼を戦闘に使用している。あなたたちと同じように、アザゼル」


 カノンが冷たい視線をアザゼルに向けて言い放つ。


「我々は関与していないが、我々のメンバーは既に帝国当局に数名拘束されている。帝国軍はそこから死霊術の技術を得たと考えられる。それだけだ」


 アザゼルはカノンの言葉にそう返した。


「別に俺たちは君たちが裏切ったと思ってるわけじゃないよ、アザゼル。ただ、これも君たちの分断工作か何かだったのなら連携して動くから知らせてほしかったし、今の状況も教えてほしいだけ」


 エリヤが諭すようにアザゼルにそう言う。


「言っておくがこの世界に存在する全ての死霊術師が我荒れ偽神学会のメンバーだというわけではない。我々以外の死霊術師はいるし、死霊術を記した書物も外部にいくつも存在している」


「だが、近代における実用的な死霊術を開発したのは偽神学会だ。そうだろう?」


 アザゼルの言葉にそう指摘するのはネルファだ。彼はドラゴン特有の不愉快さを現すものとして黒い煙を吐いた。


「そうだね、ネルファ。近代化された死霊術を生み出したのは他ならぬカーウィン先生だ。術者が完全に統制でき、それでいてある程度の自律行動が可能な屍食鬼。その上、その感覚器が捉えた情報も共有できる」


「いわゆるローカストプレイグ式死霊術だな。屍食鬼を軍隊として組織し、戦闘に投入するという発想が近現代のものであるというのは、それまでの死霊術はお粗末でそれを行うだけの能力がなかったからだ」


 エリヤが頷き、ネルファが続ける。


「その技術はそこまで広がっていないはずだぞ。本当に偽神学会は今回の反乱に無関係なのか? 帝国軍が技術を奪取したのみだというのか?」


「そうだ、ネルファ。我々は与えていないし、反乱を起こした帝国軍の勢力は偽神学会のメンバーでもない。お前たちが一斉蜂起するまでの時間稼ぎとしていろいろと事件を起こし、その過程で当局に拘束された死霊術師から漏れたのだろう」


 ネルファが黒煙を漏らしながら尋ねるとアザゼルがそう返した。


「どうだろうな? 技術とは教えられ使えるだけでは十分ではない。そこから教えることができてようやく取得したと言える。つまり、帝国軍が死霊術を得たのはその技術をきちんと理解した人間が伝えたということだ」


 そこで黙っていたセラフィーネが語る。


「本当にお前たちは無関係なのか? 偽神学会について我々が知っていることは少ない。その目的も分からない。お前たちは私たちに手を貸しているが、本当に我々の勝利を望んでいるのか?」


 セラフィーネの赤い爬虫類の瞳がアザゼルを見つめた。


「なるほど。帝国軍の目的はこれか。我々を仲違いさせるわけだ。まんまと罠に陥ったものだな」


 そして、アザゼルが呆れたように肩をすくめる。


「だからさ。裏切ったとかそういうことじゃないって。今回の反乱は帝国軍にとって不利に作用している。ある意味ではこっちは助かった。けど、それは意図的なものなのか、そうじゃないのかを確認したいだけ。ね?」


「意図したものではない。これで十分か?」


 エリヤは他を黙らせて言うのにアザゼルが短く返した。


「分かった。じゃあ、これ以上追及はしない。この話はこれで綺麗にお終い。それでいいね、みんな?」


「ああ」


 エリヤが確認し、セラフィーネたちが頷く。


「用は済んだな。帰らせてもらう。こっちも忙しいのでな」


 アザゼルは椅子から立ち上がるとアイゼンラント城から空間操作で去った。


「……どう思う?」


「どうでもいい。連中が裏切るなら裏切ればいい。好きにしろ。こっちは敵として倒すだけだ。それ以上何がある?」


 エリヤが改めて魔獣猟兵の幹部たちに尋ねると、まずセラフィーネがそう返す。


「偽神学会の思惑はどうあれど結果としては帝国は分裂し、私たちとの戦争の最中でありながら身内と殺し合っている。これは絶好の攻撃の機会だと言える。セラフィーネ、攻撃予定はないの?」


「ない。先の反転攻勢で第3戦域軍は無傷であったわけではない。火砲や弾薬、車両を喪失した。その補給を行うことが必要だし、それに敵が万全でないというのは面白くない。もうズルは一度したしな」


 カノンが尋ねるのにセラフィーネは苦笑いを浮かべて答える。


「偽神学会の目的は不明だ。我々に手を貸しているようにも見える。だが、もし連中の狙いが我々の勝利などではないとしたら?」


「君は何が目的だと思うんだい、ネルファ?」


 ここでネルファが慎重に発言し始めた。


「我々を殺し合わせること。偽神学会は我々が開戦するに当たってかなりの協力をしている。連中に所属する傭兵による軍事教練や装備の提供。世界協定側へのテロによる攪乱。そして、屍食鬼の提供」


 ネルファがひとつずつ要素を上げ、自分たちか開戦に至るまで偽神学会がどれほど支援を行ったかを示した。


「連中は本当に我々が戦争をするのを支援したのだろうか? 我々こそが連中の戦争に利用されたのではないか?」


「それはない。私は明確に戦争を望んだ。偽神学会の死霊術師どもの意見を聞いたつもりなどないぞ」


「お前に限ってはそうだろう、セラフィーネ。お前は以前から戦争を望んでいた。だが、魔獣猟兵全体の意見が開戦に傾いたのは、偽神学会による支援が決まってからではないのか? 多くものが勝利を確信したのはそのときだろう?」


 セラフィーネが断言するが、ネルファはそう説く。


「確かにね。飛行艇の運用方法にしても現代的な火砲を使った戦闘も、全ては偽神学会の支援があったからだ。それで魔獣猟兵の大勢が勝てると思った。しかし、偽神学会が仮に俺たちと世界協定を争わせたとして、何が目的だ?」


「死体が増えれば死霊術師はご機嫌ではないのか? その程度のものだろう」


 エリヤがネルファの意見を受けて尋ねるがソフィアがそうからかった。


「彼らの指導者であるルナ・カーウィン。彼女には死霊術師としての別の名前がある。“屍山血河の女賢者”ヘラヴィーサ。古い魔女のひとりとして知られていた。死霊術に関して言えば開祖に近い存在」


「生まれたのは旧神戦争の後だと聞いてるけど。死霊術そのものが他の魔術と比較すれば若い魔術だってこともあるし」


「ええ。死霊術が生まれたのは旧神戦争の終結に当たって神々が協定を結び、ゲヘナが全ての生命に死の秩序を与えることが決まってから。それまでは死霊術はそもそも必要がなかった」


「神は生命を不老不死にできたからね。死体を生き返らせる必要はない」


 カノンが説明するのにエリヤが相槌を打つ。


「ルナ・カーウィンにもヘラヴィーサにも謎が多い。分かっていることはあまりない。ただ死霊術を記した書物にはほぼ確実にその名が出る。そんな人間。彼女が何を考えているのかは不明」


「その名前、どこかで聞いたような気がするが。いや、しかし、その名を聞いたのは旧神戦争時代だったか……」


 カノンの説明にセラフィーネがそう呟く。


「とうとうボケたか、セラフィーネの婆。昨日の夕食は覚えているか?」


「ふん。年長者は敬え、ガキ」


 ソフィアが意地悪気に笑って言うのにセラフィーネがソフィアを睨む。


「ともあれ油断はすべきではないな。偽神学会はいつまでも味方だと思わない方が良さそうだ。どうにも信頼できない」


「怯えるな、ネルファ。連中は我々の近くにいる。言うではないか、友は近くに、敵はより近くにと」


 ネルファが唸り、セラフィーネが犬歯を覗かせて笑った。


「皆様」


 そこでソフィアのメイドであるスズが姿を見せる。


「ご夕食の準備ができました。よろしければ食堂へどうぞ」


「おお。それはいいね。俺は食べて帰るよ。スズちゃんの料理は美味しいから」


 スズの案内にエリヤが早速椅子から腰を上げる。


「私の分もあるだろうか?」


「もちろんです、ネルファ様。牛を一頭丸ごと使い、樽でワインに漬けて風味を付け、香草とともにオーブンで焼いたものがございます」


「それはよいものだ。わざわざ用意してもらったのだから断るわけにはいかんな」


 スズが告げるのにネルファが白い煙を少し吐く。ドラゴンが機嫌がいい印だ。


「腹が減ってはなんとらだ。食っていくか」


 そして、魔獣猟兵の幹部たちは食堂に向かった。


……………………

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