ヴァイゼンナハト領への作戦
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──ヴァイゼンナハト領への作戦
帝都での作戦に失敗した反乱軍がヴァイゼンナハト領に集結したことは、自治省及び帝国国防情報総局、帝国安全保障局によって確認された。
メクレンブルク内閣において軍務大臣であったトロイエンフェルトはヴァイゼンナハト領にて帝国の臨時政府である国家非常事態委員会の発足を宣言し、自ら議長に就任した。彼は自分たちこそが正統な政府だと主張している。
メクレンブルク宰相はこの反乱を鎮圧することを宣言。トロイエンフェルトの抜けた穴をトロイエンフェルトの企てには無関係であることがはっきりしている副大臣を大臣に任命して埋めた。
その上で皇帝大本営を開いた。
皇帝大本営が開かれるのは戦闘で被害を受けた宮殿ではなく、首相官邸の地下司令部となった。伝統には従わないことになるが、仕方がない。
そして、皇帝大本営にはアレステアもハインリヒの求めで出席した。
「問題はどうこの反乱を鎮圧するか、だ」
開会の宣言の後、メクレンブルク宰相がそう切り出した。
「反乱軍はラインハイトゼーン公殿下を拉致し、ヴァイゼンナハト領にあるヴァイゼンナハト城に監禁しているとみられる。では、詳しい報告を帝国国防情報総局のハルエル大将に頼もう」
メクレンブルク宰相が指名したのは帝国国防情報総局局長のタミル・ハルエル帝国陸軍大将だ。
ハルエル大将は老齢の男性将官で老眼鏡をかけ、白髪交じりの髪を軍人らしく纏めている。老いていても軍人としての体つきは失っておらず、知性的な目をしていた。
「帝国国防情報総局より報告させていただきます。帝国国防情報総局は国家憲兵隊公安部より帝国軍内で不穏分子が活動しているとの情報を得た段階から、国家憲兵隊と連携し、内偵を進めておりました」
ハルエル大将が説明を始める。
「国家憲兵隊は帝国軍内に非民主主義的な極右思想を有する集団がいることを知り、我々帝国国防情報総局とその動きを探りました。今回の事件に当たって反乱を起こしたのはこのグループで間違いありません」
今の帝国は何においても民主主義と法のプロセスを重視する。軍においても全ての将兵に民主主義と法を尊重することが求められる。
「我々は国家憲兵隊公安部とともにグループへの潜入捜査を実施。今も反乱軍の中にこちらの情報要員が潜入しています」
「反乱軍の状況が分かっていたのか? では、どうしてこの事態が起きたのだ?」
「はい。反乱の決定は組織上部の人間の下したもので、反乱が実行されるまで下には通知されませんでした。このことから分かったのですが、反乱軍には少なくとも少将以上の将官が複数存在します」
「なんたることだ」
帝国軍の頭脳であり、指導者である将官たちが帝国を裏切ったということに皇帝大本営の列席者たちが呻く。
「指導者としてはっきりしたのはトロイエンフェルト軍務大臣とロタール・フライスラ―陸軍上級大将です。彼らは明確に反乱軍を指揮しています」
ハルエル大将が反乱軍の首魁の名を告げた。
「フライスラ―上級大将はヴァイゼンナハト領に駐屯地がある部隊の指揮をしていた経験があります。反乱軍がヴァイゼンナハト領に逃げ込んだ理由はそれによるものでしょう。彼の部下だった人間は今もヴァイゼンナハト領にいます」
そこでシコルスキ元帥がそう発言する。
「帝国国防情報総局としても同じ考えです。そして、憂慮すべきはトロイエンフェルト軍務大臣が反乱を起こした際に帝国陸軍生物化学戦研究所を一時押えたということです。未確認ですが一部のサンプルが奪取されたとの情報があります」
「まさか」
ハルエル大将の発言にメクレンブルク宰相が目を見開く。
「繰り返しますが、まだ未確認です。しかし、トロイエンフェルト軍務大臣が魔獣猟兵に対し化学兵器を使用することを強固に主張していたことを踏まえますと、最悪の可能性を考えるべきでしょう」
トロイエンフェルト軍務大臣が使用を主張したエージェント-37Aという神経ガス。それは帝国陸軍生物化学戦研究所に保存されていた。
「またもうひとつ留意すべき点は反乱軍の側が屍食鬼を使用したということです。これまでの事件で帝国の政府職員にも死霊術師がいることは分かっていましたが、軍においてもそれが確認されたこととなります」
反乱軍は大規模な屍食鬼の軍事利用を行った。これまでテロリストなどが屍食鬼を使い、さらには魔獣猟兵の側でも使われたが、今回は反乱軍が使用した。
「死霊術師について我々は何らかの組織が存在すると思われ、そしてその組織は魔獣猟兵の側に立ったと判断してきました。ですが、どうやら状況は異なるようです」
死霊術師は世界協定の側にも、魔獣猟兵の側にも存在するという事実。
「現在、帝国国防情報総局はワルキューレ武装偵察旅団隷下シグルドリーヴァ大隊及びレギンレイブ大隊を引き続き反乱軍への対応に回しています。レギンレイブ大隊はヴァイゼンナハト領に潜入済みです」
「ご苦労だった、ハルエル大将。情報収集を続けてくれ」
ハルエル大将にメクレンブルク宰相がそう言って終える。
「帝国軍としてはこの反乱にどう対応するべきか示してほしい。まずは陸軍から頼む、シコルスキ元帥」
「はい。陸軍としては今も魔獣猟兵と戦争状態にあるという事実を忘れていただきたくないと思います。我々は未曽有の脅威と正面戦争中なのです」
メクレンブルク宰相の求めにシコルスキ元帥が応じ、話し始める。
「その上で反乱を速やかに鎮圧する必要があります。対応策はいくつかありますが大きな軸としてはふたつです。武力を用いた戦闘による制圧。もうひとつは精神的な揺さぶりを与え投降を促すものです」
シコルスキ元帥がそう陸軍としての対応策を話す。
「武力による制圧の場合、陸軍としては反乱軍を構成する戦闘部隊を攻撃するのではなく、反乱軍の指導部を殺害または拘束することを提案します。反乱軍の全てが帝国に明確に反逆したわけではありませんので」
「上層部に命じられてやむを得ず反乱軍に加わった将兵か」
「ええ。それに帝国は戦時であり、将兵は貴重です。なるべくならば反乱軍であろうと消耗することは避けたいと思います」
帝国は魔獣猟兵と戦争状態にあり、その中で身内同士で争っているのだ。
「また戦闘を行う場合にも精神的な揺さぶりは行うべきです。既に反乱軍は初期の目標であっただろう現在の帝国政府を転覆されることに失敗し、帝都を放棄しました。もうこの反乱に大義はないと思う将兵も多いでしょう」
反乱軍がどうして執拗に宮殿を攻撃してハインリヒを殺害しようとしたかと言えば、メクレンブルク政権という政府に大義を与えているのがハインリヒだからだ。
帝国において皇帝は象徴であり、権威だ。そして、権力とは権威に裏付けられることで機能するものである。
「作戦において可能な限りの部隊を動員しますが、これは反乱軍に勝ち目がないと示すためであり、実際に動かす部隊は少数にとどまるでしょう。陸軍として以上です」
シコルスキ元帥はそう言って説明を終えた。
「シコルスキ元帥。反乱軍に対する精神的な揺さぶりが必要なのだな?」
「その通りです、陛下。反乱軍も今のまま反乱を続けられるとは思っていないでしょう。兵站の面でも破綻するのは見えています。揺さぶりをかけ、士気を削げば、離反する部隊も出てくるはずです」
ハインリヒが尋ね、シコルスキ元帥がそう答える。
「では、私自らが近衛部隊を率いてヴァイゼンナハト領に向かおう」
「陛下! それは……」
ハインリヒがそう言いだすのに枢密院議長が慌て、メクレンブルク宰相も険しい表情を浮かべてハインリヒの方を見る。
「陛下。現在、ノルトラント近衛擲弾兵師団及びシュヴァルツラント近衛擲弾兵師団はどちらも帝都での戦闘と皇族の護衛任務で大きく損耗しており、作戦は不可能です。近衛騎兵師団は帝都での治安任務中です」
「分かっている。近衛部隊はその3師団以外にいるだろう?」
「葬送旅団ですか?」
ハインリヒがにやりと笑うのにシコルスキ元帥がそう尋ねる。
「そうだ。反乱軍に帝国の正統な皇帝が立つ側を示し、かつ死霊術というものが神々の協定に反することをゲヘナ様の眷属であるアレステアとともに私が戦場に立つことで示そうではないか」
皇帝大本営の列席者たちにハインリヒがそう宣言した。
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