反乱鎮圧作戦
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──反乱鎮圧作戦
帝都上空から反乱軍が排除され、反乱軍による宮殿への攻撃も阻止した帝国軍は、いよいよ反乱軍に対する反撃に出ようとしていた。
「シコルスキ元帥閣下。葬送旅団本隊が宮殿に到着しました。現在、宮殿に展開中です。反乱軍は撤退とのこと」
「よろしい。陛下を救出し、ここにお連れするように」
「畏まりました」
シコルスキ元帥は宮殿での勝利にそう命じる。
「帝都の外から出動を要請した部隊はまだ到着しないのか?」
「第1自動車化擲弾兵師団はまだですがブリュッヒャー教導擲弾兵師団は間もなく到着します。今のところ両部隊への攻撃は確認されていません」
「ふむ。既に近衛部隊は相当出血している。動かせるのは近衛騎兵師団ぐらいだ」
参謀が報告するのにシコルスキ元帥が帝都の地図を見てそう告げた。
「近衛騎兵師団を動かすべきです。忠誠は確かなはず」
「そうだな。彼らを信じよう。近衛騎兵師団に内務省及び国家憲兵隊帝都本部の奪還を命じる。迅速に実行せよ」
「了解」
迂闊に部隊が動かせないのはどの部隊が反乱軍に加わったかはっきりしていないからだ。友軍のつもりで動かして反乱軍であった場合は打撃になる。
「シコルスキ元帥閣下。帝国国防情報総局のハルエル大将閣下より同局指揮下に入っているワルキューレ武装偵察旅団のレギンレイヴ大隊が反乱軍の司令部を確認しました。反乱軍はオストリヒト空軍基地に司令部を設置しています」
「そうか。では、第1自動化擲弾兵師団及びブリュッヒャー教導擲弾兵師団が到着し次第、オストリヒト空軍基地の奪還を実行せよ」
「了解」
帝国陸軍の精鋭特殊作戦部隊であるワルキューレ武装偵察旅団所属のレギンレイヴ大隊は帝都内を民間人の服装をして行動しており、反乱軍に察知されず偵察活動を行い、情報を報告していた。
「それで空軍は動けるのか?」
「ムートフリューゲル空軍基地の反乱は確認されていません。同空軍基地の飛行艇は作戦行動可能と思われますが、空軍司令部への確認が必要です」
「すぐに連絡してくれ。オストリヒト空軍基地が制圧されているなら、まだ反乱軍は飛行艇を展開させることができる」
反乱軍がオストリヒト空軍基地を制圧しているというのは悪いニュースだ。
「シコルスキ元帥。ラジオ局も奪還してほしい。正しい情報を国民に伝えたいのだ。皇帝陛下は健在であり、政府は転覆していないということを。そうすれば反乱軍の士気にも響くはずだ」
「畏まりました、メクレンブルク宰相。動かせる部隊を使ってラジオ局を奪還します」
「頼むぞ」
メクレンブルク宰相も事態を鎮静化させようと考えを巡らせていた。
まずは反乱軍の政府に正統性がないことを示すためにハインリヒの無事を宣言し、今の政府が存続していることを知らせる。
それによって国民が反乱軍を支援しないようにし、そして反乱軍の将兵たちの士気を削ぐのだ。
「シコルスキ元帥閣下。やはり反乱軍は屍食鬼を大規模に使用しています。空軍の第1降下狙撃兵師団も反乱軍の空中大型巡航艦内で屍食鬼と交戦。宮殿でも屍食鬼による攻撃を確認しています」
「死霊術師は魔獣猟兵についたのではないのか? 事情が分からない。内偵を進めていた国家憲兵隊から話を聞かなければ」
反乱軍の実態は国家憲兵隊が摘発予定だった軍人と官僚、そして政治家のリストにあるだけしか分かっていない。彼らがどういう思想を持っているのか、そして何を要求するつもりなのかも分からないのだ。
「シコルスキ元帥閣下。空軍司令部のボートカンプ元帥閣下よりムートフリューゲル空軍基地から支援のための空中大型巡航艦4隻と空中駆逐艦4隻を帝都上空に展開させるとのことです」
「結構だ。そうしてもらおう」
帝国空軍も反乱鎮圧に向けて動き始めた。
ムートフリューゲル空軍基地から飛行艇が離陸し、反乱軍の飛行艇が再び帝都上空に展開することを阻止する。それと同時に地上で動いている帝国軍に上空からの情報を提供することが目的だ。
「近衛騎兵師団が内務省及び国家憲兵隊帝都本部を奪還しました」
「随分と早かったな。敵の抵抗はなかったのか?」
「近衛騎兵師団によれば反乱軍は撤退しつつあるとのことです」
「撤退?」
参謀の報告にシコルスキ元帥が目を細めた。
「反乱軍の状況が知りたい。レギンレイヴ大隊は情報を得ていないか?」
「確認します」
シコルスキ元帥が反乱軍の動きを把握しようとし始めたとき、シコルスキ元帥が陸軍司令部を設置したシュヴァルツラント近衛擲弾兵師団駐屯地に相次いで友軍の飛行艇が着陸してきた。
「メクレンブルク宰相閣下、シコルスキ元帥閣下。皇帝陛下がいらっしゃいました」
ハインリヒが到着したのだ。
「皇帝陛下。ご無事で何よりです」
「ああ。ノルトラント近衛擲弾兵師団の将兵に深く感謝する。彼らは身を挺して私たちを守ってくれた。そして、葬送旅団にも助けられた」
シコルスキ元帥が出迎えるのにハインリヒがそう返す。
ハインリヒとともにアレステアも地下のバンカーに入り、シコルスキ元帥がアレステアに視線を向ける。そして、シコルスキ元帥が敬礼を送った。
「アレステア卿。皇帝陛下とノルトラント近衛擲弾兵師団の将兵を救っていただいたことを陸軍を代表して感謝します」
「できることをやりました。でも、全ての人は……」
「彼らも軍人です。覚悟はしていたでしょう」
アレステアが悔やむのにシコルスキ元帥が諭すようにそう言った。
「シコルスキ元帥。反乱鎮圧を急いでほしい。私が聞いている限りだが、叔父上──ラインハイトゼーン公の安否が確認できていないと聞いている」
「はい。皇族の方々の警護に当たっている近衛部隊の中でラインハイトゼーン公殿下を警護している部隊からの連絡が途絶えています。安否不明です」
「そうか。不味いことになりそうだな。まずはどうするのだ?」
「帝都における反乱軍を完全に鎮圧します。それが第一です」
ハインリヒが尋ねるのにシコルスキ元帥がそう返す。
「皇帝陛下。ラジオ局を奪還でき次第、皇帝陛下のお言葉を国民に伝えたいと思います。反乱軍の目論んだ陛下の暗殺が失敗し、陛下が反乱軍を賊軍とすることで、連中の大義を失わせ、士気を喪失させるのです」
「分かった。私にできることは何だろうとやろう」
メクレンブルク宰相はそう提案し、ハインリヒは受け入れた。
「シコルスキ元帥閣下。やはり賊軍は一斉に撤退しています。空軍はオストリヒト空軍基地に第1降下狙撃兵師団を投入する準備があるとのこと」
「陸軍としても支援したいが、第1自動車化擲弾兵師団とブリュッヒャー教導擲弾兵師団はまだか?」
「ブリュッヒャー教導擲弾兵師団本部より連絡。先遣の1個自動車化擲弾兵連隊は帝都に入りました。作戦行動可能とのこと」
「オストリヒト空軍基地に派遣しろ。急げ」
「了解」
シコルスキ元帥が帝都の外から要請していた帝国陸軍の部隊が帝都に入った。
ブリュッヒャー教導擲弾兵師団は陸戦の研究及び他の部隊への訓練を実施する精鋭部隊だ。演習においては対抗部隊を担当することもあり、3個自動車化擲弾兵連隊と1個砲兵連隊を基幹に編成されている。
その性質上、徴集兵で編成された新規師団の訓練を担当していたため、前線には派遣されておらず、帝都に呼び出せる位置にいた。
『こちら第1教導自動車化擲弾兵連隊本部。帝都に入った。師団司令部の指示通りオストリヒト空軍基地に向かっている。敵の抵抗は受けていない』
『師団司令部より第1教導自動車化擲弾兵連隊へ。すぐに向かえ。空軍が第1降下狙撃兵師団を降下させる予定だ。空軍を支援せよ』
『了解』
軍用トラックで移動するブリュッヒャー教導擲弾兵師団隷下の自動車化擲弾兵連隊がオストリヒト空軍基地に向かう。
帝国軍は反乱鎮圧に向けて確実に動いていた。
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