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帝都上空の戦い

……………………


 ──帝都上空の戦い



「まだ出撃できないのですか?」


 アレステアが焦った様子で告げるのは特務空中巡航戦艦アンスヴァルトの艦橋だ。


 艦長のテクトマイヤー大佐とケルベロス擲弾兵大隊司令官であるシーラスヴオ大佐が揃って艦橋で今の状況を話し合っていた。


「空軍司令部からまだ待機せよと言われています。反乱軍の飛行艇が帝都上空に存在するとして。現在空軍が反乱軍の奪った飛行艇を奪還しようとしているのですが」


「帝都市街地は敵味方不明の部隊で溢れている。陸路で宮殿に向かおうとすればかなりの時間がかかってしまう」


 テクトマイヤー大佐とシーラスヴオ大佐がそう言い合う。


「でも、宮殿が襲われてて、皇帝陛下が!」


「分かっています。我々だってすぐに出動したいのは同じです。ですが、無理な行動で部下を死なせたくない。皇帝陛下ひとりを助けるために私たちの部下を大勢犠牲にしてもいいとでも?」


「それは……」


 シーラスヴオ大佐に言われてアレステアが言葉を濁す。


 アレステアは帝国のためにという大義の下で戦い、そして犠牲となった兵士たちをこれまで戦場で大勢見て来た。彼らにも彼らの人生があって大切な家族や友人がいることも知っている。それ故にシーラスヴオ大佐の言葉に沈黙するしかなかった。


「落ち着いて行動しましょう。勝利するためには冷静でなければ」


「はい。分かりました」


 テクトマイヤー大佐もアレステアを諭し、アレステアも頷く。


「艦長。空軍司令部から空中駆逐艦4隻を帝都上空に派遣したとのこと。第1降下狙撃兵師団ももうすぐ帝都空域に到達します」


「帝都上空で艦隊決戦はできん。流れ弾が市街地に落ちれば民間人に被害が出る。敵味方どちらの飛行艇が墜落しても同じだ。敵は帝都を人質にしているも同然」


 飛行艇はその重量が海軍の軍艦に匹敵する。そんなものが市街地に墜落すれば搭載している弾薬の誘爆もあり、大量の死者が出るだろう。


「あの、小型飛行艇で宮殿に向かうというのはどうでしょうか? それなら敵の飛行艇と戦わなくても辿り着けるんじゃないですか?」


「降下艇を使うと? しかし、それで輸送できるのは少数の部隊です。宮殿はもっと大規模な支援を求めています」


「いえ。僕だけでいいんです。僕が辿り着けば任務を果たしてみせます!」


 シーラスヴオ大佐が指摘するのにアレステアがそう一生懸命に主張した。


「確かにアレステア卿がひとりでも辿り着ければ戦局は変わるかもしれませんが」


「アレステア卿。あなたひとりで宮殿に行くことはできない。降下艇を操縦する人間が必要になります。あなたは降下艇を操縦できないでしょう」


 シーラスヴオ大佐が唸り、テクトマイヤー大佐が告げる。


「そうですよね……」


「無謀な任務です。敵の空中大型巡航艦が陣取っているのに装甲も武装もまともにない降下艇で宮殿に向かえとは私の部下に命じることはできない」


 アレステアがう項垂れ、テクトマイヤー大佐が続ける。


「ですので、私が操縦しましょう。降下艇でアレステア卿を宮殿に移送します」


「テクトマイヤー大佐さん!?」


 飛行艇の艦長であるテクトマイヤー大佐自らの発言にアレステアが驚愕する。


「安心してください。私は空軍に入ってからずっと現場で勤務してきました。そのせいで出世は遅れましたが、腕は確かだと自負しております。小型飛行艇の飛行時間もかなりのものですよ」


「いいんですか?」


「ええ。軍人として義務を果たすだけです」


 アレステアが戸惑うがテクトマイヤー大佐は笑みを浮かべて返した。


「では、お願いします!」


「行きましょう。副長、私がいない間、空軍司令部から命令が出たらそれに従って動け、指揮を委譲する」


 アレステアが頭を下げ、テクトマイヤー大佐が指揮を副長に委譲すると降下艇へと向かった。アンスヴァルト艦内を進み、降下艇を格納している格納庫を目指す。


「アレステア少年! どこに行くの?」


「宮殿です! 皇帝陛下を助けに行きます!」


「君ひとりで行くつもりなの? あたしたちに相談もなく?」


 廊下を歩いているとシャーロットとレオナルドがアレステアを見つけて駆け寄ってきた。シャーロットはアレステアに不満そうな表情を向けている。


「危ないですから。一緒にとは言えません」


「もう。君はさ。人を巻き込むぐらいのことはしていいんだよ? あたしたちも一緒に行く。降下艇で行くつもりなんでしょ?」


「でも……」


「いいから、いいから。お姉さんにもいい格好させて。ね?」


 アレステアが戸惑うのにシャーロットがにっと笑った。


「アレステア君。こういうときに置いていくのは私たちは役に立たないと言っているようなものですよ。ちゃんと仲間を頼ってください」


「すみません。では、一緒に来てください。危険な任務ですが」


「ええ。もちろんです。行きましょう」


 レオナルドとシャーロットも加わり、アレステアたちは降下艇に向かう。そして、降下艇の一隻に乗り込んだ。テクトマイヤー大佐は操縦席に、アレステアとシャーロットは艇内の兵員室に、レオナルドはドアガンナーの位置に就く。


「滑走路から離陸します。敵の迎撃を避けるためにかなり荒い飛行になりますが耐えてください。絶対に生きて届けましょう」


「お願いします」


 テクトマイヤー大佐は降下艇をアンスヴァルトから降ろし、ムートフリューゲル空軍基地の滑走路に入ると加速して離陸した。


 そして、帝都の空に飛びあがる。


 その様子をルナは地上のアンスヴァルトが収まっているバンカーから見上げていた。


「彼は行ったのか。自分を犠牲にすることを厭わず……」


 ルナが宮殿に向かう降下艇を見て呟く。


「ルナ」


「アザゼル」


 そこに黒いスーツを纏った長身の女性アザゼルが姿を見せた。


「トロイエンフェルトが行動を起こした。計画通りだ。奴が帝国の権力を握れば、帝国軍はもちろん世界協定側は全面的に化学兵器を使用する」


「そして、人狼も吸血鬼も死ぬ。カーマーゼンの魔女や“竜狩りの獣”のような規格外を除けば魔獣猟兵は大勢の死者を出すだろう。屍食鬼以外は死に、魔獣猟兵はより屍食鬼に依存し、死者だけが増える」


 アザゼルの言葉にルナがそう語る。


「本当に有効なんだな?」


「エージェント-37Aを開発したのは他でもない私だよ。有効だよ。恐ろしくなるほどね。あらゆるものを殺すものだ。人狼でも吸血鬼でもドラゴンでも、そして人間でも死ぬ。等しく、何の違いもなく」


 ルナはそう答えた。


「大勢が死ぬことになるな」


「しかし、死者たちの魂は冥界へと向かわない。死霊術が彼らを地上にとどめる」


「忌々しい神々の協定は徐々に破綻する。そうなれば」


 ルナの言葉にアザゼルが拳を握った。


「そうなれば私たちは目的を果たせる。それが何も生まないものだとしても。アザゼル。魔獣猟兵側はきっと私たちに不信感を抱く。どうして帝国軍が屍食鬼を使っているのかと。帝国軍に死霊術師がいるのはどういうことかと」


「ああ。私が説得しておく。カバーストーリーは出来ている。帝国軍は私たち偽神学会から死霊術を得たのではなく、逮捕した死霊術師から技術を得ていたのだと。サイラス・ウェイトリーも工作に当たる」


「彼は私たちのやることをどこまで理解しているのだろう?」


「奴も失った側だ。ああ見えてな。私たちの気持ちは分かるだろう」


「そうか。彼も失ったんだね」


 アザゼルの言葉にルナが小さくうなずく。


「私たちは理不尽に奪われてきた。だから──」


 ルナが目をつぶる。


「今度は私たちが奪う」



 ──ここで場面が変わる──。



 テクトマイヤー大佐が操縦し、アレステアたちが乗る降下艇は宮殿を目指し、帝都上空を飛行している。


「帝都防空司令部へ。こちら葬送旅団所属作戦機を操縦中のオイゲン・テクトマイヤー空軍大佐だ。アントン・ゼロ・ワンとして登録している。現在、宮殿で戦闘中のノルトラント近衛擲弾兵師団の支援のために向かっている」


『帝都防空司令部よりアントン・ゼロ・ワン。レーダーがそちらの飛行艇を確認している。支援は必要か?』


「アントン・ゼロ・ワンより帝都防空司令部。反乱軍の飛行艇についての位置情報を求める。こちらは逆探防止のためレーダーを使用できない」


 テクトマイヤー大佐が帝都上空をレーダーで監視する帝都防空司令部に、反乱軍に奪われた飛行艇の位置情報を求めた。


 降下艇は逆探による探知を避けるためにレーダーを制限していることに加え、アンスヴァルトのような大型の飛行艇とは違い、降下艇という小型飛行艇のレーダーの性能は探知範囲などが限定される。


 さらに降下艇はテクトマイヤー大佐のみが操縦のために搭乗しており、レーダーを扱う士官がいない。そのためはレーダーは使用できないのだ。


『帝都防空司令部よりアントン・ゼロ・ワン。反乱軍の空中大型巡航艦はそちらから0-2-0の方向。高度1200メートル』


「了解。引き続き敵の位置を教えてくれ」


 テクトマイヤー大佐は降下艇を帝都の建物の屋上ギリギリを飛行する匍匐飛行で飛ばしており、反乱軍の空中大型巡航艦に気づかれないように進んでいた。


『帝都防空司令部よりアントン・ゼロ・ワンへ。そちらへ友軍の空中駆逐艦4隻と輸送飛行艇4隻が向かっている。方位2-4-0から空域に進行しており、高度は1400メートル』


 そして、空軍司令部が派遣した空中駆逐艦4隻と第1降下狙撃兵師団を搭乗させた輸送飛行艇が帝都上空に進出。空中駆逐艦は輸送飛行艇を護衛しつつ、反乱軍の空中大型巡航艦に向けて飛行していた。


『こちら第11空中駆逐戦隊旗艦ティーグル。現在反乱軍の飛行艇に向けて飛行中』


 帝都上空に入った空中駆逐艦は反乱軍に奪われた飛行艇に向けて進んでいる。反乱軍の空中大型巡航艦は宮殿を全ての火砲の射程に収められる市街地上空で飛行していた。


「友軍が突入した。しかし、空中戦はできないはずだ。どうするのだろうか」


 テクトマイヤー大佐は帝都防空司令部から通知される反乱軍と友軍の飛行艇の位置を確認しながら、そう呟く。


 空中駆逐艦4隻は反乱軍の空中大型巡航艦に接近し続ける。


 そこで反乱軍の空中大型巡航艦が動き始め、空中駆逐艦を迎撃する隊列を取り、主砲である口径20.3ミリ3連装砲3基を空中駆逐艦に向けた。


「艦長! 反乱軍の空中大型巡航艦より射撃管制レーダーの照射を受けています!」


「クソ。連中、帝都上空で空中戦をやるつもりか」


 4隻の空中駆逐艦の旗艦であるティーグルでは反乱軍の空中大型巡航艦から射撃管制レーダーを照射されていた。


 帝国軍の電子戦能力は高く、空軍の飛行艇、陸軍の高射砲、海軍の軍艦などはレーダー管制射撃が基本だ。


「敵艦発砲!」


「回避運動!」


 ついに空中戦が始まった。


 先手を打った反乱軍の空中大型巡航艦2隻が主砲を発砲。それに対して空中駆逐艦は回避のために急速に針路を変え、砲撃を回避する。


「全艦、チャフを展開せよ。敵のレーダーを妨害するのだ」


「了解」


 帝国空軍の空中駆逐艦4隻は一斉にチャフを放出。アルミ箔の断片が放出され、それがレーダーの反応に捉えられることでレーダーが正常な目標を探知できなくなる。


「続いて煙幕展開!」


 帝国空軍の空中駆逐艦はチャフを撒きながら煙幕を展開し、目視による捕捉も防ごうとし始めた。空中駆逐艦が放った煙幕によって空に雲がかかったような光景が浮かぶ。


「第1降下狙撃兵師団、間もなく到着です」


「了解。それまで敵をこちらに引き付けておくぞ」


 帝国空軍の空中駆逐艦は攻撃はできないが、可能な限り敵の空中大型巡航艦の攻撃を引き付け、帝都上空でチャフと煙幕を撒き続ける。


 そして、そのような空中戦が繰り広げられている中、アレステアたちを乗せた降下艇は確実に宮殿に近づきつつあった。


……………………

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