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ワルキューレ武装偵察旅団シグルドリーヴァ大隊

……………………


 ──ワルキューレ武装偵察旅団シグルドリーヴァ大隊



 ついにフサリア作戦の実行日が決定された。


 皇帝大本営から命令が密かに下され、司令官たちが動き始める。


 帝国陸軍B軍集団は攻撃発起地点に進出し、欺瞞工作の末に密かに集結した大量の火砲がその狙いを魔獣猟兵の陣地に向けて定める。


「出撃命令です」


 そして、アレステアたち葬送旅団にも出撃が命じられた。


「いよいよ帝国軍はフサリア作戦を発動します。我々は攻撃に先立って敵地後方に浸透し、予定通り敵司令部を奇襲します」


「了解です!」


 アレステアたち葬送旅団を乗せたアンスヴァルトが夜間に離陸し、再び電波輻射管制を行って探知を避け、低空飛行でザルトオードラント領に進出した。


「艦長。間もなく降下予定地点です」


「ワルキューレ武装偵察旅団の潜入部隊からの連絡は?」


「まだです」


「ふむ。無線に耳を済ませろ」


 降下地点はワルキューレ武装偵察旅団シグルドリーヴァ大隊の部隊によって確保されているはずであり、彼らからアンスヴァルトに連絡はあるはずだった。


 アンスヴァルトは無線を受信のみに制限しており、通信兵たちが指定された周波数に合わせた無線に耳を澄ませていた。


「ワルキューレ武装偵察旅団シグルドリーヴァ大隊より連絡が入りました。降下地点を確保しているとのことです」


 効果予定地点上空に到達したとき、報告が入った。


「よろしい。シーラスヴオ大佐に連絡。降下艇発艦準備」


「降下艇発艦準備」


 アンスヴァルトの降下艇にアレステアたちが乗り込み、降下地点に降下を開始。


 降下地点は森林地帯の中でやや開けた場所であり、降下艇が着陸可能な場所だった。降下艇は低いエンジン音を響かせて降下し、アレステアたちを展開させた。


「ワルキューレ武装偵察旅団の人たちは?」


「暗くて見えないね。どこだろ?」


 アレステアとシャーロットが降下地点の周囲を見渡す。


 その時、暗闇から僅かに何かが動くのが見えた。


「葬送旅団だな? 迎えに来たぞ」


 暗闇から現れたのは帝国陸軍の迷彩柄の戦闘服を身に着け、タクティカルベストと特殊作戦部隊が装備する軽装のヘルメットを被った兵士だ。手には専用のサプレッサーが装着されたカービン仕様の魔道式自動小銃を握っている。


 顔はドーランで黒く塗られ、暗闇の中で眼だけが光っていた。


「あなた方がワルキューレ武装偵察旅団の?」


「ああ。シグルドリーヴァ大隊A分遣隊所属だ。指揮官のところに案内する。一緒に来てくれ。音は立てるなよ。ここは敵地の真っただ中だ」


 アレステアが尋ねるのにワルキューレ武装偵察旅団の兵士がそう返し、先導して森の暗闇の中に入っていった。アレステアたちは全く音を立てず進む兵士を見失わないようにし、自分たちも音を立てないように進んだ。


「この先に前線基地を設置した。こちらで集めた情報がある」


 兵士はそう言って森の中を獣道ですらない道なき道を音を発せず進み、アレステアたちを導いた。


「動くな」


 そして、突然暗闇から声がする。


「撃つな。スケルガート軍曹だ。葬送旅団を連れて来た」


「よし。来い。少佐が待ってる」


「了解。続け、葬送旅団」


 アレステアには何も見えない暗闇でワルキューレ武装偵察旅団の兵士たちが会話し、アレステアたちを案内する兵士が手で付いてくるように合図した。


 アレステアたちが暗闇を進むと植物で見えないように偽装された天幕が見えて来た。


「ここだ。指揮官と会ってくれ。俺は外にいる」


「はい」


 アレステアたちがそう言われて天幕に入る。


「ようこそ、ザルトオードラント領へ。英雄さん」


 司令部の中は天幕から光を逃さないだけの小さな光が灯されており、その中にさっきの兵士と同じ装備で、同じようにドーランを顔に塗った大柄な人物がいた。光源が僅かなこととドーランのせいで分からないが、恐らく30代ごろと思われた。


「俺はワルキューレ武装偵察旅団シグルドリーヴァ大隊A分遣隊指揮官のベンジャミン・ゴードン陸軍少佐だ。今回の作戦においてそちらと合同で敵司令部を奇襲することになる。そちらの噂は聞いている」


「アレステア・ブラックドッグです。よろしくお願いします」


 ワルキューレ武装偵察旅団から派遣された部隊の指揮官ゴードン少佐が自己紹介し、アレステアも自己紹介した。


「まず作戦前にこちらが把握している情報を共有しておきたい」


 ゴードン少佐はそう言って地図を見るように指さす。


「敵司令部の警備は1個歩兵中隊と1個高射砲中隊、そこまで大きくはない。ただ、陣地が構築されている。機関銃陣地があちこちに設置されており、警戒している」


「突破は難しそうですか?」


「奇襲が前提となるが不可能ではない。こっちは散々後方で破壊活動をやったせいで警戒されているだけだ。フサリア作戦の補助を命じられてから活動は控えていたが、それまで魔獣猟兵のトラックを襲ったりしてたからな」


 アレステアが尋ねるのにゴードン少佐が肩をすくめた。


「それから敵の司令官はフェリシア・アルビヌス。非常に面倒な相手になる。何せあの全ての人狼の始祖たる“竜狩りの獣”の血を直接引いている第二世代の人狼だ。旧神戦争の英傑のひとり」


「“竜狩りの獣”の直系……」


 既に“竜狩りの獣”の恐ろしさについては知らされている。


「もちろん旧神戦争の時代から人類の知識と技術は大きく向上し、旧神戦争で猛威を振るった存在であろうと屠れるようになった。それでもこれは脅威だと断言する。真正面から戦えば警備の部隊以上の脅威だ」


「では、どのような方法で倒すのですか?」


「いくら旧神戦争の英傑だろうと鉛玉を叩き込めば死ぬはずだ。不意を打って殺害する。失敗した場合は通信設備を破壊し、司令部機能を喪失させることで任務達成とする」


 アレステアの問いにゴードン少佐がそう説明した。


「作戦目標は敵司令官の暗殺ではない。敵の司令部機能をマヒさせることだ。フェリシア・アルビヌスの殺害は無理には行わないし、優先目標とはしない。司令部機能は通信機器を破壊し、車両などを破壊することで達成される」


「司令部が司令部として機能するには司令官が前線の情報を把握し、命令を出すことが必要。だから通信機器を破壊して情報の伝達を阻害し、車両も破壊して司令部の状況を報告させなければよしってわけだね」


 ゴードン少佐の説明でシャーロットが納得する。


「情報の共有が済んだところで具体的な作戦だが、まず我々が敵の警備部隊を奇襲して注意を引くと同時に厄介な機関銃陣地を潰す。地図にあるこの南方の丘から襲撃できることが確認されている」


 ゴードン少佐が作戦を地図を使いながら説明。


「この地点から敵司令部に対する狙撃も実施できるし、そしてこちらが装備している軽迫撃砲でも狙える。敵は急いで丘を奪還しようとするはずだ。間違いなく、敵の注意はこちら側に向けられるだろう」


「でも、それで攻撃されたら……」


「もちろん攻撃に備えはする。地雷を敷設するし、防衛のための火点も設置する。丘の上の警備は手薄だし、敵はこちらの状況を把握するのも難しい。そう簡単には奪還されない。安心していい」


 アレステアの懸念にゴードン少佐が答えた。


「我々は敵を引き付けている間にそちらには司令部に突入してもらう。こちらから2名の作戦要員を派遣する。この2名が通信設備と車両に対する破壊工作を実施するので、そちらは暴れまわってくれればいい」


「ふむ。了解です。ですが、具体的にこちらが達成すべきことはないのですか?」


「特にない。強いて言うならば暴れることそのものが目的になる。こちらの戦力だけではフェリシア・アルビヌスという脅威に対応できるが不安だったのでそちらを呼んだ。そちらの英雄は死なないのだろう?」


 ゴードン少佐はそう言ってアレステアを見た。


「はい。僕なら大丈夫です。任せてください」


「頼りにしている。では、そちらはこの北の小規模な林に隠れ、こちらが攻撃を始めるのを待ち、その後攻撃を開始してくれ。場所まではこちらの作戦要員が案内する」


 ゴードン少佐の言葉にアレステアが意気込み、ゴードン少佐は地図を指さしてアレステアたちが潜伏する場所を指示した。


「目標達成後はこの地点まで撤退し、合流。そちらの飛行艇の降下艇が着陸可能なので降下艇で飛行艇に逃げ込む。敵の追撃はこちらで防ぐので、そちらは逃げることだけ考えてくれ」


 作戦後のことも考えてある。脱出するための場所は偵察済みだ。


「気を付けなければならない点を上げておく。まず敵の持っている銃火器の威力は俺たちが使う物より威力と射程が高い。連中は自分たちの高度な身体能力に合わせて火器を調整したようだ」


 魔獣猟兵は火薬式銃を使っており、使用する銃弾を強装弾にしている。


「そして、魔獣猟兵の中でも人狼は軍用犬以上の嗅覚がある。姿を隠していても風上にいれば察知される。隠密行動前提の奇襲作戦の上でこれは脅威だ。これに対応するには迅速に動くしかない」


 人狼たちはその腕力はもちろん感覚器も優れていた。


「静かに、そして迅速に行動する。何事も早いに越したことはない。長引けば少数で敵地の真っただ中にいる俺たちが不利なのは説明するまでもないだろう。では、行動開始だ。魔獣猟兵のケツを蹴り上げたらとんずらだ」


「了解です」


 そして、作戦が始まった。


「こっちだ。案内する。静かに進んでくれ。敵の注意が先にこっちに向いては困る」


 ワルキューレ武装偵察旅団のゴードン少佐の部下がアレステアたちを目的地まで案内する。流石は帝国軍の精鋭部隊なだけであり、全く無駄な動きがなく、音もなく歩くだけでも疲弊する道を平然と進んだ。


 アレステアたちも何とか続き、攻撃開始地点の林まで進出した。


「少佐たちが攻撃を仕掛けるまで待機だ。気づかれないようにしろ」


「はい」


 闇夜の林は僅かに虫の声がし、本当に真っ暗だ。アレステアは隣にいるはずのシャーロットの顔すらまともに見えなかった。


 魔獣猟兵のアルビヌス軍集団司令部のある位置からは光が見える。司令部付近には空に方向を向けた高射砲と複数の軍用トラックと天幕、そして大型通信機の長いアンテナが見えていた。


 そこに砲声が響く。


 軽迫撃砲の砲声だ。その砲声から数秒後に司令部で爆発が生じるのが見えた。口径60ミリの軽迫撃砲の爆発は大きなものではないが、この暗闇ではその爆発で生じる炎がはっきりと見え、周囲を照らした。


「始まった……!」


「まだだ。まだ待機だ。敵が丘に向かっていない」


 アレステアが“月華”を握り締めるのにゴードン少佐の部下が言う。


 さらに軽迫撃砲は照明弾で司令部を照らし、砲撃を続けるとともに狙撃を開始した。帝国陸軍の狙撃兵が使用する口径7.62ミリ魔道狙撃銃が火を噴き、機関銃陣地などで配置に就いている魔獣猟兵の兵士の頭を貫く。


 それから魔獣猟兵の兵士たちが丘の方に向けて攻撃を始めるのが確認された。


「よし。今だ。仕掛けるぞ。ここからは派手に、そして迅速にやる」


「はい!」


 ゴードン少佐の部下が立ち上がり、アレステアたちを先導して司令部に向けて突撃を開始した。脅威となる機関銃陣地は沈黙しており、鉄条網だけが行く手を妨害している。


「爆薬セット!」


「セット完了。爆破!」


 2名のゴードン少佐の部下が戦闘工兵用爆薬で鉄条網を爆破して突破口を作った。


「行け、行け! 突っ込め!」


「了解です!」


 ゴードン少佐の部下たちが射撃を開始して魔獣猟兵を牽制する中、アレステアたちが司令部のある魔獣猟兵の陣地に突入した。


 敵のほとんどはゴードン少佐たちが攻撃を行っている丘に向かっており、残っているのは少数の部隊だけだ。それも奇襲されたことで指揮系統が混乱している様子が見えた。


「クソ! 人間──」


「やりますっ!」


 火薬式自動小銃をアレステアに向けようとした人狼をアレステアが“月華”で一気に切り倒す。人狼はナイロン製のボディーアーマーも身に着けていたが、“月華”の刃はそれを引き裂き、人狼を撃破した。


「司令部を守れ! 急げ!」


「配置に就け!」


 警備の部隊が必死に応戦を試みるが、いくら銃弾を食らっても死なないアレステアが先行して大暴れし、後方からはケルベロス擲弾兵大隊から抽出された部隊が射撃を加え、魔獣猟兵の動きを止めていた。


「通信機だ。爆破するぞ」


「オーケー。テルミット、セット!」


「やれ!」


 ゴードン少佐の部下は迅速かつ隠密で動き、アルビヌス軍集団司令部の大型通信機に、この手の機材を効果的に破壊するテルミット焼夷弾を設置し、爆破した。テルミット反応によって高熱が生じ、金属が溶かされ、通信機が機能不全に陥る。


「通信機破壊。後は車両をできる限りふっ飛ばすぞ」


「了解」


 アレステアたち葬送旅団とワルキューレ武装偵察旅団によるアルビヌス軍集団司令部襲撃作戦は順調に進んでいる。


 今はまだ。


……………………

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