表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/174

アドラーヴァルト城の戦い

……………………


 ──アドラーヴァルト城の戦い



 アレステアたちは魔獣猟兵が支配する暗黒地帯に降下した。


 降下艇は僅かなエンジン音を立てるだけで静かに敵地に降り立ち、アレステアたちを地上に降下させることに成功した。


「我々が先導しますので続いてください」


「はい」


 行軍になれたケルベロス擲弾兵大隊から抽出された1個擲弾兵中隊が暗い森の中を先頭に立って、目的地であるアドラーヴァルト城を目指す。


 森の中の道なき道を魔獣猟兵のパトロールに警戒しながら進む。なるべく音を立てないようにし、かつ警戒を怠らずに行軍する。全周囲警戒が行われ、アレステアもシャーロットたちを一緒に暗闇に目を見張った。


「アドラーヴァルト城が見えた」


 擲弾兵中隊を指揮する陸軍大尉が告げる。


 かつては軍事要塞としての務めを果たし、今ではただの観光地になった古城。100年以上前に作られたもので、見た目はその歴史と当時の建設技術、思想を感じさせられるものであった。


「どこから侵入しますか?」


「深部偵察部隊の報告では警備が手薄な地点があります。そこから侵入しましょう。そこまで大規模な部隊はいないという報告を受けていますが、近くに即応可能な敵戦力がいないとは限りません」


「静かに、ですね。頑張ります」


 アレステアが陸軍大尉の命令に頷き、深部偵察部隊が把握している警備の穴を目指す。闇の中を密かに進み、アドラーヴァルト城の城壁に沿って進んだ。


 要塞としての役割を終え、観光地となったアドラーヴァルト城には観光用の案内パネルや観光客のためのルート案内が設置されていた。それが今の剣呑な戦時の状況と全く合わずに浮いていた。


「ここです。まず偵察を出して把握しますのでここで待機してください」


 陸軍大尉が2名の斥候をアドラーヴァルト城の内部に続く城壁の崩れた場所から送り込み、城壁の中を探らせる。アレステアたちは静かに、じっと待つ。


「夜の闇は人間にとっては危険な場所だけど人狼や吸血鬼にとっては狩りの時間になる。戦えば不利になるのは間違いないよ。厄介だね」


「ええ。交戦は避けたいところです」


 シャーロットが愚痴り、レオナルドが頷く。


 そこで斥候が戻って来た。


「大尉殿。敵の戦力は希薄です。警戒態勢にありません。深部偵察部隊は無事にレーダーを破壊し、我々の接近に気づかせなかった模様」


「よし。行くぞ」


 斥候の報告を受けて陸軍大尉が指揮する中、アレステアたちがアドラーヴァルト城内部に侵入した。アドラーヴァルト城内部の前庭には数台の軍用トラックが停められているが、それを警備している兵士はいない。


 アレステアたちはそこを駆け抜け、ついに城内に侵入。


「ここからは深部偵察部隊も情報を持っていません。作戦目標であるアルマ・ガルシアについては探す必要があります。部隊を分け、素早く城内を捜索しましょう。アレステア卿たちは上階をお願いします」


「分かりました」


 陸軍大尉の命令でアレステアたちは城の上階へ、一部部隊は地上階へ、また別の部隊は地下へと向かった。ここまで来れば魔獣猟兵の大規模な戦力と戦うことはないだろう。部隊を分散させても問題はない。


 アレステアたちは上階を目指して階段を昇る。


「嫌な感じがします。多分、死霊術師です。でも、それ以上に変な感じが……」


「気を付けよう。奇襲が大事だよ」


「ええ」


 アレステアのゲヘナの眷属としての感覚が死霊術師とその呪いを受けた存在をアドラーヴァルト城内に感じ取る。シャーロットは前線を支えるアレステアとレオナルドを支援できるように“グレンデル”を構えている。


 アドラーヴァルト城は軍事目的でなく、安全上のために補強されており、本来城にないはずの金属の支柱などが立っている。そして、いくつもの部屋が観光客のために解放されていた。


 アレステアたちは慎重にひと部屋ずつ確認していく。


「近いです。凄く嫌な感じがします。苦しめられている死者の声が」


「となると屍食鬼がいそうですね」


 アレステアの感覚はさらに死者の気配を感じていた。


 アレステアが先頭に立ち、彼の感覚に従って城内を進み続ける。


「この部屋です。間違いありません」


「オーケー。爆薬をセットして扉を吹き飛ばすよ。城を管理していた文化庁には申し訳ないけど」


 アレステアが断言し、シャーロットが素早く扉に軍用爆薬をセットした。


「3カウント」


 3秒のカウントが行われ、爆薬を点火。


 扉が吹き飛び、道が開けた。


「突入!」


 アレステアが先陣を切って部屋に飛び込む。


 銃声が鳴り響き、アレステアの体が銃弾を受けた。


「隠密はお終いだね! 戦闘開始だ!」


「ええ! 目標を確認! アルマ・ガルシアです!」


 シャーロットが構える“グレンデル”の銃口の先にアルマ・ガルシアがいた。


 そして、複数の武装した屍食鬼たち。それから──。


「あれは……。屍食鬼じゃない!?」


 アレステアの前に現れたのは魔道式自動小銃で武装した屍食鬼だけでなく、巨大なボディアーマーを装備し、そして口径12.7ミリの重機関銃を装備した大柄なアンデッド。明らかに屍食鬼ではない。


「恐らくデュラハンですよ、アレステア君。高位の死霊術師が使役すると言われている呪われた死者です。屍食鬼より強力な力を持ち、そして回復能力を有すると神聖契約教会では伝わっていました」


「デュラハン……。倒せるでしょうか……?」


「やらなければなりません」


 アレステアが不安に思うのにレオナルドがクレイモアを構えた。


「帝国の連中だな。私を殺せば魔獣猟兵が打撃を受けるとでも思ったのか? 馬鹿な連中だ。ずっと変わってない。昔から帝国軍は愚かだった」


 作戦目標であるアルマはアレステアたちに軽蔑の視線を向ける。


「あなたも帝国の軍人だったのでしょう? どうして帝国を裏切るようなことを……」


「私が裏切った? ふざけないで。裏切ったのは帝国の方でしょう」


「え……。いったい何があったんですか?」


 アルマが吐き捨てるように言うとアレステアが困惑した。


「ネメアーの獅子作戦に参加した多くの将兵を帝国は裏切った。私は裏切られ、忘れられた兵士。これは全て復讐よ。然るべき報いを帝国に受けさせるための」


「ネメアーの獅子作戦……?」


「パブロ。奴らを始末して。皆殺しにしてやって!」


 アレステアの疑問を無視してアルマが命じる。


 デュラハンが雄たけびを上げ、屍食鬼たちが一斉に射撃を開始。


「くっ……! シャーロットお姉さん! 支援をお願いします! レオナルドさんは屍食鬼の相手を! 僕はデュラハンを倒します!」


「了解だよ、アレステア少年!」


 デュラハンが重機関銃を腰だめに構えて乱射するのにアレステアが突撃。


「やります!」


 “月華”の刃を振るってアレステアがデュラハンに切りかかる。だが、デュラハンはその巨体からは想像できない速度でそれを回避。空を切ったアレステアに蹴りを入れてアレステアが弾き飛ばされ地面を転がる。


「まだ、やれます!」


 蹴り飛ばされた衝撃で肋骨が折れて肺に突き刺さるも、苦痛に耐え、身体を回復させ、アレステアは再びデュラハンに挑む。


「これは復讐。帝国が私たちにした仕打ちを私たちは決して忘れないわ。忌まわしき帝国に鉄槌を。奴らの二枚舌が語る平和を叩き壊し、全ての人間に私たちが味わった地獄を経験させてやる」


 アルマは忌々し気にそう言い、自らも魔道式自動小銃を構えアレステアを銃撃。


「地獄ってなんの話なんですか!? ちゃんと説明してください!」


「そうやって知らないことが罪なのよ。帝国は私たちを見捨て、忘れ去った。そのことを私たちは決して許さない。忘れれば罪がなかったかのように振る舞う傲慢な連中を許してやるものか」


 アレステアの問いのは答えず、アルマは憎悪を叩きつける。


「戦友たちよ! 今こそ恨みを晴らせ! 我々が受けた屈辱と苦痛を帝国の連中に味わわせてやれ!」


 アルマの言葉に屍食鬼とデュラハンが雄たけびを上げ、アレステアたちを猛攻撃する。魔道式自動小銃と魔道式重機関銃がけたたましい銃声を響かせて銃弾を雨のように浴びせてきた。


「あなたたちの恨みは分かりません。ですが、この死者たちは関係ないはずです。だから、止めさせてもらいます!」


 アレステアはデュラハンの撃破を目指し、魔道式重機関銃から放たれる大口径ライフル弾を弾きながらデュラハンに肉薄し、“月華”の刃を振るう。


 漆黒の刃がデュラハンが装備している口径7.62ミリのライフル弾すら弾くボディアーマーを切り裂き、その先にあるデュラハンの肉体に斬撃を与えた。


 だが。デュラハンがダメージを負った様子はなく、魔道式重機関銃を振り回し、銃床でアレステアの頭部を殴りつけて頭蓋骨を砕き、さらに蹴り飛ばす。


 アレステアが地面に激しく叩きつけられて転がり、一度意識を手放すもすぐに復活して起き上がり、“月華”を構えた。


「まだやれます。必ずやり遂げます」


「……ああ。ゲヘナの眷属という奴だったのね。英雄として持ち上げられてさぞ気持ちがいいでしょう。多くの人がお前を讃え、皇帝や宰相が勲章や賛美の演説を施す。英雄というのを楽しんでいる?」


「楽しむなんて……」


「私たちはお前と同じように血を流して戦った。多くの戦友たちが帝国のためにと死んでいった。だが、帝国は私たちを存在しないことにした。勲章も賛美の声もなく、徹底的に抹殺した!」


 戸惑うアレステアにアルマが叫ぶ。


「戦友たちの声が聞こえるわ。彼らは帝国に報いを受けさせることを望んでいる。死してなお彼らは帝国を許していない」


「そんな声は聞こえません! 彼らは苦しんでいます! 死霊術によって!」


「黙れ。お前に私とともに血を流し、地獄を戦った戦友たちの何が分かる! 知ったような口をきくなっ!」


 アルマが激怒し、デュラハンがさらに攻撃的になる。


 アレステアに突進して、“月華”で弾けないように至近距離で一斉に大口径ライフル弾を叩き込んだ。アレステアの胸を口径12.7ミリのライフル弾が連続して貫き、ミンチに等しい状態になった。


「アレステア君!」


「レニー! 油断しないで! 屍食鬼が狙ってるよ!」


 レオナルドがアレステアの方を向くがシャーロットが“グレンデル”で屍食鬼を狙撃しながら警告する。


「僕は大丈夫です。まだ戦えます。必ず勝ちます!」


 アレステアは屈しなかった。カノンとの戦いで地獄を味わった彼は強くなっていた。以前よりずっと強くなっていた。


 だから、彼は簡単には諦めない。


「諦めない限り、何事かを成すことはできる。決して諦めない!」


「私も諦めない。帝国に報いを。私たちの怨嗟の声を聞くがいいわ」


 アレステアを攻撃するデュラハンが加速し、アレステアに猛攻撃を仕掛けてきた。


 銃撃。格闘。人間より遥かに向上した身体能力を有するデュラハンによってアレステアが攻撃され、体中が傷つく。


「やれるはずです!」


 それでもアレステアは学習していき、デュラハンの動きを読み始めた。デュラハンの攻撃を回避することに成功し、すかさずカウンターとして“月華”を振るい、デュラハンの魔道式重機関銃を握った右腕を斬り落とす。


「パブロ! 貴様っ……! 殺してやる。絶対に!」


 アルマが激怒し、彼女自身も銃剣を魔道式自動小銃に装着して突入してきた。


「もうやめましょう! 不満があるならば暴力ではなく、言葉で示すべきです! あなたが帝国をどうして恨んでいるかは分かりませんが、話せばきっと理解してもらえます! だから、もうやめにしましょう!」


「ほざけ! お前のようなガキに何が分かる!」


 アルマが訓練された軍人の動きでアレステアに格闘戦を仕掛ける。銃剣を突き立て、銃床で殴りつけ、足も使って防御を崩し、叩き伏せる。


 さらにデュラハンが追撃し、アレステアに容赦なく打撃を与えた。


「私たちは声を上げることすら許されなかった! 帝国のために戦った兵士たちが自ら死を選ぶほどに追い詰められても帝国は彼らを見捨てた! 私たちが忠誠を果たしたにもかかわらず祖国は私たちを裏切ったのよ!」


「あなたが苦しんだのは分かりました! ですがあなたたちのやっていることで、無関係の人たちが同じように苦しんでいるとは思わないんですか!?」


「無関係の人間などいない! 全員が私たちを裏切り、忘れ去った! 帝国の罪は国民の罪だ!」


「そんなの滅茶苦茶です! 八つ当たりじゃないですか!」


 アレステアは戦闘の中で成長していった。


 アルマが駆使する軍用格闘術の動きを把握し、デュラハンとの連携攻撃を見極める。次第に、次第に、アレステアはアルマとデュラハンの早さを超え始め、そして動きを読み切ると反撃に転じた。


「行きます!」


 アレステアの振るった“月華”の刃がアルマの魔道式自動小銃を叩き切り、すぐさま続けて叩き込まれた斬撃でデュラハンの胸に深い傷を負わせ、ボディアーマーを完全に破壊した。


「よくも……! パブロ、もう少し頑張って。私たちのために」


 アルマは腰のホルスターから魔道式自動拳銃を抜き、アレステアに向けて構える。


……………………

面白いと思っていただけたらブクマ・評価・励ましの感想などお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載連載中です! 「人生リトライな悪役魔術師による黒魔術のススメ」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ