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第3軍救出作戦

……………………


 ──第3軍救出作戦



 葬送旅団の乗艦である特務空中巡航戦艦アンスヴァルトは第3軍司令部に要請された孤立した部隊の救援に当たっている。


「艦長。地上部隊の無線連絡を拾いました。救出目標の第491自動車化擲弾兵連隊です。こちらから返信しますか?」


「第37空中駆逐艦隊から敵空中艦隊の接近などについて連絡はないか?」


「ありません。現在、この空域を飛行中なのは我々だけです」


「よろしい。無線封鎖解除。地上部隊に救援のために降下することを通知せよ。シーラスヴオ大佐にも伝えておくように」


「了解」


 アンスヴァルト艦長テクトマイヤー大佐がアンスヴァルトの無線封鎖を解除し、第3軍司令部が救出を要請した第491自動車化擲弾兵連隊司令部と交信する。


『こちら第491自動車化擲弾兵連隊司令部。救援を要請している。繰り返す。こちら第491自動車化擲弾兵連隊司令部。我々は孤立し、大勢の負傷者を抱えている。救援を養成する。近くに救援可能な部隊がいれば手を貸してくれ』


「こちら葬送旅団所属艦アンスヴァルト。第3軍司令部より要請があり、そちらの救援に向かっている。そちらの座標について指示せよ。降下して支援する」


『助かった、アンスヴァルト。君たちは救いの女神だ。座標を指示する。降下艇が降下可能な位置を連絡するのでそこで合流しよう』


「了解した」


 第491自動車化擲弾兵連隊司令部からの交信でアンスヴァルトが合流地点に進出し、降下艇の発艦準備を開始した。


「出撃です。準備はよろしいですか?」


「はい!」


 シーラスヴオ大佐が確認し、アレステアたちが出撃する。


 アレステアたちはケルベロス擲弾兵大隊の将兵とともに降下艇に乗り込み、救援物資である武器弾薬と医療品とともに降下。


「こっちだ! そちらが葬送旅団か!?」


「そうです! 助けにきました!」


「そうか! 助かった! こっちに来てくれ。司令部に案内するよ」


 アレステアが降下艇のエンジン音に負けないように叫ぶのに、泥だらけの戦闘服を着ている帝国陸軍中尉が笑顔を浮かべて返す。


 アレステアたちは降下艇で降下させた軍用トラックに物資を詰め込み、第491自動車化擲弾兵連隊司令部を目指した。


「少佐殿。救援の葬送旅団が到着しました!」


「葬送旅団のアレステア・ブラックドッグです。こちらは司令官のシーラスヴオ大佐さんです。では、大佐さんと話し合われてください」


 擲弾兵連隊の指揮官は本来大佐なのだが、何故か少佐が指揮をしていた。部下同様に泥まみれで返り血が黒くなって染みついた戦闘服を着た女性将校が、何日も眠っていないような疲弊した目でアレステアを見る。


「少佐。救援に来たが、状況は?」


「壊滅的です、大佐殿」


 シーラスヴオ大佐が司令部の天幕に入って尋ねるのに少佐が唸るように言った。


「屍食鬼の大軍勢が押し寄せて来たときは、まだ師団砲兵の支援もあったし、弾薬と燃料に余裕もあったのですが、その後が最悪でした。撤退命令を受けて撤退中に魔獣猟兵のコマンドに襲撃され、司令部壊滅。弾薬と燃料も」


「魔獣猟兵のコマンドか。どのような相手だった?」


「高度に訓練されています。恐らくは我が軍のワルキューレ武装偵察旅団と同等かそれ以上。完璧な待ち伏せでしたよ。路肩爆弾、地雷、狙撃手、遊撃部隊。こちらは手も足も出ませんでした」


 少佐が悔しそうに語る。


「そして、機動力です。魔獣猟兵のコマンドに屍食鬼はいません。全て人狼と吸血鬼です。連中の機動速度は自動車化されていないにもかかわらず恐ろしく速いのです」


「どうりでいきなり後方に魔獣猟兵のコマンドが現れたというわけだ。開戦前から潜伏していたというだけでは説明できない点も多い」


「それから恐ろしく静かです。全く音がしません。それでこれを鹵獲しました」


 少佐が指示すると部下が火薬式銃を司令部のテーブルにおいた。


「見たことがない銃だな。インテグラルサプレッサーを付けているが……」


「調べたところ9ミリ弾を使う短機関銃です。出所を調べてください。魔獣猟兵について何かしら分かるかもしれません」


「分かった。情報部に渡しておく」


 少佐からシーラスヴオ大佐が魔獣猟兵の短機関銃を受け取る。


「大佐殿。我々は孤立して以降、まともに情報が入ってきません。後方の状況は?」


「屍食鬼による人海戦術はほぼ粉砕されたが、今も魔獣猟兵のコマンドによる被害は出ている。油断するな、少佐」


「了解。弾薬さえいただければ自らで道を開きます」


 シーラスヴオ大佐と第491自動車化擲弾兵連隊指揮官の少佐が話し合っていた時、アレステアたちは負傷者の収容を始めていた。


「民間人を保護している。すまないが一緒に後送してもらえないか?」


「了解!」


 第491自動車化擲弾兵連隊は撤退中に逃げ遅れた民間人を保護しており、20名ばかりの男女が保護されていた。


 葬送旅団は民間人を降下艇に乗せてアンスヴァルトに送る。


「負傷者の方々ですね。これから後送します。飛行艇には軍医さんもいますし、包帯も薬もあるから安心してください!」


「ああ。助かった。もうこっちは医療品はない。衛生兵としてできることは止血ぐらいだ。重傷者から運んでくれ」


「はい!」


 アレステアたちは衛生兵のトリアージで重傷であり、すぐに処置が必要な負傷者から降下艇でルナが待機しているアンスヴァルトへ送る。


「な、なあ! おい! あんた!」


「なんでしょう?」


 アレステアがケルベロス擲弾兵大隊の兵士と一緒に担架を負傷者を運んでいた時、右手を失っている若い兵士がアレステアに声をかけて来た。その隣には両足を右腕を失った兵士が横になっている。


「こいつを連れて行ってくれないか? 俺の幼馴染で親友なんだ。子供のころからの付き合いで、こいつと一緒に陸軍に入ったぐらいで。こいつのひとつ下の妹を嫁さんに貰ったぐらいの付き合いなんだ」


 兵士が必死にアレステアに訴える。


「こいつ重傷でずっと痛い、痛いって苦しんでて見てられないんだ。早く運んでやって鎮痛剤を与えてやってくれよ。頼む!」


「え。でも、その人は……」


 アレステアが兵士の訴えを聞いて横たわっている問題の負傷者を見るが。


「どうした?」


「あの、この人を運んでほしいと言われているのですが、ちょっと……」


 第491自動車化擲弾兵連隊の衛生兵が足を止めているアレステアを不審に思ってやってきた。そしてアレステアが指さす負傷者の様子を見る。首に手を当てて脈を測り、瞼を手で当てて目にライトを当てた。


 そして、首を横に振った。


「こいつはもう死んでる」


「嘘だ! さっきまで話してたんだぞ!? きっと間違いだ! 脈を測り直してくれ! おい、頼む! お願いだ!」


「間違いない。死んでる。死んだ人間は運ばない。生きてる人間が優先だ」


 衛生兵はそう言ってアレステアに無視するようにジェスチャーした。


「なんてことだ。妻に、こいつの妹になんて言えばいいんだ……」


 兵士は茫然自失の様子で俯いた。


「あの、いいですか? この方が残した言葉があります。『部隊が路肩爆弾で吹き飛ばされたとき、置いていかないでくれてありがとう。妹と元気に過ごしてほしい』と言っておられます」


「死者の声が聞こえるのか、あんた……?」


「墓守でしたから」


 兵士が尋ねるのにアレステアが微笑んで返す。


「そうか。そうだったのか。兄弟、あんたの妹は大事にするよ。そして、あんたのことは忘れない。必ず死体も故郷の墓に埋めてやるからな。今は辛抱してくれ」


 兵士は涙を浮かべながら息絶えた友人に告げた。


「あんた、ありがとう。おかげでこいつの最後の言葉を聞けた。恩に着るよ」


「助けになれたならなによりです。頑張ってください」


 兵士はアレステアに礼を言い、アレステアはそう言って次の負傷者を運ぶ。


 ひとり、ひとりと負傷者をアンスヴァルトに輸送し、アンスヴァルト艦内ではルナたち軍医と衛生兵が緊急の治療を要する負傷者に手当てを行う。


「負傷者の輸送完了です、大佐殿」


「よろしい。これでそちらの負担は減るな、少佐?」


 ケルベロス擲弾兵大隊の将校がシーラスヴオ大佐に報告し、シーラスヴオ大佐は第491自動車化擲弾兵連隊の指揮官である少佐に尋ねる。


「ええ。これで一先ずはどうにかなりそうです。車両と燃料を全損した状態で負傷者を運ぶのはかなりの負担でしたから」


 身動きができない負傷者を抱えたまま敵地を突破するのは想像以上の負担になる。


「では、我々はこれで──」


 そこで爆発音が響いた。


「何が起きた! 状況を報告せよ!」


「確認中です!」


 さらに爆発音。


「報告! 警戒線の防衛に当たっていた部隊が砲撃を受けています! 魔獣猟兵のコマンドと思しき敵部隊を見つけたとの報告も入っています!」


「クソ。このタイミングでか。警戒線の部隊は厳重に警戒! 後方の部隊もコマンドの襲撃に備えろ! 敵はあり得ないと思った地点から攻撃してくるぞ! 自分たちが想定する経路ではなく、無茶だと思う経路を見張れ!」


 特殊作戦部隊であるコマンドのような部隊は少数かつ軽装のため奇襲を重視する。後方に浸透する際にも慎重を期す。


 そのため一般的な兵士が想定する経路は絶対に使わない。森の中でも獣道すら避ける。ここを通るはずないと兵士が思い込む場所を敢えて危険と労力を背負って進み、不意を突くのである。


 そのことを幾度に渡る魔獣猟兵のコマンドによる攻撃を受けた第491自動車化擲弾兵連隊の将兵は把握していた。今度は攻撃を阻止してこれ以上戦友を殺せないと決意し、警戒に当たる。


 そして、また爆発音が響いた。


「軽迫撃砲を使っていますね。軽歩兵にとっては貴重な火力でしょうから、相手もそれ相応の決断があって攻撃してきたと言うことでしょうな」


「どうしますか、レオナルドさん?」


「コマンドが脅威となるのはこちらの防備の薄い場所を攻撃される場合です。真正面から戦闘すれば少数で軽装備の彼らは敗北します。彼らに対抗するにはこちらが有利な数と火力を発揮することです」


 アレステアたちも第491自動車化擲弾兵連隊援護のために配置に就いて、魔獣猟兵のコマンドを迎撃する準備をしていた。


 対ゲリラコマンド戦で相手のコマンドに対してこちらの特殊作戦部隊を送り込むというのはあまり得策ではない。一般的に取られる手段は一般部隊の数と火力を活かして、敵コマンドを包囲し、殲滅するという戦術だ。


「空軍の降下狙撃兵も似たようなものだよー。空中機動って高い機動力で敵の脆弱な後方を攻撃して占領する。重装備の通常部隊を正面からは決して戦わないってね」


「なるほど。でも、今の状況だとどうなるでしょう? 僕たちの側は圧倒的に数が多いというわけでもないですし……」


「だね。けど、こっちには航空支援があるよ」


「あ!」


 そう、アレステアたちの側にはアンスヴァルトが待機しているのだ。


 そこで葬送旅団の軍用四輪駆動車がアレステアたちがいる場所に走ってきた。乗っているのはシーラスヴオ大佐で、アレステアたちに副官を連れて合流する。


「アレステア卿。第491自動車化擲弾兵連隊司令部と合同作戦を行います。彼らが魔獣猟兵のコマンドを退けるまで彼らを支援することになりました。ケルベロス擲弾兵大隊は直接戦闘支援を行います」


「僕たちは何をすればいいですか、シーラスヴオ大佐さん?」


「アレステア卿たちは第491自動車化擲弾兵連隊司令部の防衛をお願いします。コマンドに突破された場合、狙われるのは弾薬や燃料か、あるいは司令部です」


「了解です!」


 アレステアたちはシーラスヴオ大佐の指示で第491自動車化擲弾兵連隊司令部に向かった。同連隊の司令部である天幕周辺では塹壕を掘って機関銃などを据えた兵士たちが警戒している。


「おい! そこは通るな! 地雷が埋めてある!」


「あ、はい! 分かりました!」


 地雷も埋設されており、完全な陣地が構築されていた。


 アレステアたちは安全なルートを案内されて司令部に入った。司令部の中では連隊を指揮する少佐も副官も魔道式自動小銃で武装しており、臨戦態勢だ。


……………………

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