葬送旅団本格化
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──葬送旅団本格化
ハインリヒが陸軍司令官のシコルスキ元帥と空軍司令官のボートカンプ元帥に要請した葬送旅団への部隊派遣が行われることになった。
「いやあ。本当の軍人さんが来るわけだよね。まさに軍隊って感じ」
「私たちは最初から帝国軍の正規部隊ですよ、シャーロット」
「でも、3人しか兵隊がいないなんちゃって旅団だったじゃん」
レオナルドとシャーロットが葬送旅団司令部で言葉を交わす。
今日は陸軍から部隊が、空軍から飛行艇が葬送旅団に加わるのだ。
「仲間が増えるのは嬉しいですよね。この司令部も3人じゃ持て余してましたし」
「だね。それから補給がないのが問題だよ。陸軍ならお酒が支給されるんでしょ?」
「……お仕事してるときに飲んじゃダメですよ?」
シャーロットは軍の支給品である酒に期待していた。
そこで葬送旅団司令部の扉が叩かれる。
「アレステア卿、シャーロット卿、レオナルド卿。皇帝陛下が外でお待ちです」
「はい!」
近衛騎兵師団はまだ帝都の守りのために前線に派遣されておらず、アレステアたちを呼びに来たのも近衛騎兵師団の下士官だった。
アレステアたちは皇帝ハインリヒが待つという閲兵場に向かう。
「おお。来たか、我が友。見よ、近衛から大隊が派遣されてきたぞ!」
「わあ!」
閲兵場にはノルトラント近衛擲弾兵師団の黒い軍服を纏った軍人たちが隊列を組んでいた。1個大隊──600名の兵士たちだ。
「さて、紹介しよう。ノルトラント近衛擲弾兵師団第1近衛擲弾兵連隊第1大隊と葬送旅団の実質的な司令官になるオラヴィ・シーラスヴオ大佐だ」
「シーラスヴィオ陸軍大佐です。皇帝陛下のご紹介にありました通り、部隊を指揮させていただきます。よろしくお願いします」
ハインリヒに紹介された陸軍将校オラヴィ・シーラスヴオ大佐は30代後半ごろの男性で長身かつ端正な顔立ちのまさに近衛に選ばれる将校だった。
「よろしくお願いします、シーラスヴオ大佐さん」
「カーマーゼンの魔女セラフィーネを退けたというアレステア卿ですね。英雄とともに戦えることを光栄に思います」
アレステアが頭を下げるのにシーラスヴオ大佐は敬礼を送った。
「シーラスヴオ大佐。レオナルド・サルマルティーニ卿もノルトラント近衛擲弾兵師団の曹長だったそうだ」
「10年前に任期を終えて退役しました。ノルトラント近衛擲弾兵師団は今もブラウドルフの古い城を駐屯地にしていますか? 私がいたときには冷暖房がなくて苦労しました」
ハインリヒの言葉を受けてレオナルドがシーラスヴオ大佐に尋ねる。
「流石に今は冷暖房が設置されたよ。未だに建物は古いがね」
「そうですか。近衛と言えど予算がないのは変わりませんね。しかし、ノルトラント近衛擲弾兵師団の部隊が来てくれるとは心強いですな」
レオナルドは今は軍を退役し、正規の階級もないためシーラスヴオ大佐に敬礼はしない。敬礼をするのは現役の軍人だけだ。
「えっと。擲弾兵って具体的にはどういうものなんでしょうか?」
「擲弾兵とは元はその名の通り擲弾を投擲する精鋭歩兵を指すものです。昔の擲弾は今の手榴弾などと違い危険な兵器で、また使用するのにも訓練が必要だったため他の歩兵と比べて精鋭だったのです」
アレステアが疑問に思って尋ねるとシーラスヴオ大佐が説明する。
「今は帝国においては歩兵はほぼ全て擲弾兵と呼ばれます。自動車化されたものは自動車化擲弾兵と。例外は山岳部隊である山岳狙撃兵ぐらいです」
「なるほど。あの、シーラスヴオ大佐さんの大隊はどのような兵器を?」
「我々も自動車化された実質上の自動車化擲弾兵です。兵器は一般的な歩兵大隊の有する魔道式銃と迫撃砲を中心にしており、軍用トラックを装備しています」
「いろいろ答えてくださってありがとうございます。けど、説明していただいたのに僕にはよく想像できなくて……。部隊の指揮はお任せします。現役の軍人さんに任せるのが一番ですよね」
「はい。謹んで引き受けさせていただきます、アレステア卿」
アレステアの言葉にシーラスヴオ大佐が頷く。
「大佐、大佐。後方支援部隊はどうするのさ? 3人なら兵站なんて手間はいらないけど大隊となるとそれ相応の後方支援部隊がないといろいろ厄介だよ? 戦場でもお腹は空くし、弾だってなくなる」
「大丈夫だ。この大隊だけでなく1個中隊の後方支援部隊が配置される。また我々は基本的に飛行艇を基地に作戦を展開することになっている。元空軍降下狙撃兵の君になら理解できるだろう、シャーロット卿?」
「まあね。いざってときは敵中で孤立して大変な目に遭うってことも」
シャーロットは元帝国空軍降下狙撃兵として、飛行艇で機動し、素早く展開する空中機動部隊の経験があった。
「それでは必要なのは軍人たちの兵舎ですよね。司令部と僕たちの部屋はありますけど、この近衛騎兵師団駐屯地には居候しているようなものですか」
「それならば準備ができているとスカルスキ中将から聞いている。安心しろ、我が友」
「なら、大丈夫ですね。もう必要なものはないですか?」
「あるぞ。部隊の名前だ!」
「部隊の名前、ですか?」
ハインリヒの言葉にアレステアは首を傾げる。
「うむ。既にノルトラント近衛擲弾兵師団から移動したので新しい名前が必要になる。そして、シーラスヴオ大佐が言ったように部隊の名前には意味がある。将兵たちがそこに所属していることに誇りを求めるような名前を」
「難しいですね……。僕は擲弾兵についてもさっき知ったばかりで歴史には詳しくないですから。陛下にお願いできますか?」
「いいのか? 名前を付けるのは名誉なことだぞ?」
「ええ。陛下がいい名前を考えてくださると嬉しいです」
アレステアはそうハインリヒに頼んだ。
「では、そうだな。ケルベロス。ゲヘナ様に仕える冥界の番犬の名だ。ゲヘナ様のために戦い、冥界の門を守るという点ではまさに相応しいとは思わないか?」
「いいですね! それにしましょう!」
ハインリヒの提案にアレステアがうんうんと頷いた。
「では、これよりこの大隊はケルベロス擲弾兵大隊だ。いいか、シーラスヴオ大佐?」
「了解しました、陛下。将兵も誇りに思うでしょう」
シーラスヴオ大佐も納得した。
「シーラスヴオ大佐。お前はこのままこの駐屯地で準備をしてくれ。司令部にはまだ何もないので必要なものがあれば調達するように。頼んだぞ」
「はい、陛下」
シーラスヴオ大佐のケルベロス擲弾兵大隊は近衛騎兵師団駐屯地で抽出された状況から作戦行動可能になるように準備を始める。装備の配置や弾薬の貯蔵、そして司令部機能を稼働させるのだ。
「我が友。次は空軍だ。飛行艇が準備されているぞ!」
「楽しみです、陛下。どんな飛行艇なんでしょう?」
「楽しみにしておけ。これからムートフリューゲル空軍基地に行って対面だ」
「はい!」
アレステアたちはハインリヒに連れられて帝都最大の空軍基地であるムートフリューゲル空軍基地へと向かう。
ムートフリューゲル空軍基地は帝国空軍の主力飛行艇が多数集っている。そして、戦時下ということもあって厳戒な警戒態勢になっていた。
空軍基地は軍用犬を備えた警備兵によって守られ、帝国空軍が保有する装甲化された軍用四輪駆動車も口径12.7ミリの魔道式重機関銃をマウントして警備に当たっている。
アレステアたちは警備兵の許可を得てゲートを潜り、ムートフリューゲル空軍基地内に入った。そして移動のために利用した高級乗用車を駐車場に停め、飛行艇が停泊しているハンガーを目指した。
このムートフリューゲル空軍基地のハンガーは爆撃に備えた構造の耐爆性があるものになっている。巨大な飛行艇を収められるだけのハンガーが広がる様子は巨人の国に迷い込んだような気分になる。
「凄い光景ですね……」
「この基地の整備には批判もあったが、こうなったという結果を考えれば間違いではなかったな。ここもいつ爆撃されるのか分からない」
アレステアが呆然としながらムートフリューゲル空軍基地の内部を見渡し、ハインリヒは空軍将校の案内で目的のハンガーに入った。
「敬礼!」
掛け声が響き、ハンガー内にいた帝国空軍の戦闘服姿の将兵が敬礼をする。
「ようこそ、皇帝陛下、葬送旅団の皆さん!」
「出迎えご苦労、オイゲン・テクトマイヤー大佐」
帝国空軍の藍色の制服に大佐の階級章を付けた人物がハインリヒたちに声をかける。
テクトマイヤー大佐と呼ばれた人物は40代前半ごろで、口ひげを蓄え、温和な顔立ちをした人物だった。アレステアは自分が通っていた初等学校の国語の教師が似たような顔立ちをしていたことを思い出した。
「アレステア。紹介しよう。オイゲン・テクトマイヤー大佐だ。葬送旅団が保有することになる飛行艇の艦長となる」
「はい。私がこの特務空中巡航戦艦アンスヴァルトの艦長を務めさせていただきます。それから私の指揮下の空軍の乗員たちが支えます」
ハンガーにはやや旧式の空中巡航戦艦が存在感を放っている。
アレステアたちがクローネベルグ・マックス・クリンガー国際空港で見たいかなる飛行艇よりも巨大な艦体。艦体上部には3連装の主砲が前方に2基装着されている。そして、無数の高射砲と高射機関砲。
「失礼かもしれませんが、乗員の方々は年配の方が多いですな?」
レオナルドがそう尋ねる。
乗員のほとんどは40代以上の人間ばかりだった。中には間違いなく老人と言っていいい年齢の下士官もいる。若い人間は僅かだ。
「ええ。何分、この飛行艇は旧式ですからね。機関が新しい飛行艇と比べて複雑で、ご機嫌がいつ悪くなるか分からないんですよ。まさに兵士としての経験と勘がものを言う世界なのです。ですので、動員された予備役を」
「なるほど。確かに技術は進歩するごとに便利になり、そして整備性も上がるものですからね。どんな兵士も求めるのはいつでも動き、そして壊れてもすぐ修理できるもの」
「そうですね。性能の多様さがあればいいですが、それで複雑になってしまい、整備性が複雑になると言うのは現場としては嬉しいことではありません」
レオナルドとテクトマイヤー大佐が兵士として経験した知識から語る。
「じゃあ、よろしくお願いします、テクトマイヤー大佐さん。それから乗員の皆さんもこれから頼りにさせていただきます!」
アレステアがそう言って頭を下げた。
「こちらこそ。お役に立てれば光栄です、アレステア卿。飛行艇の中をご案内しましょう。どうぞこちらへ」
テクトマイヤー大佐に案内されてアレステアたちはタラップを昇り、飛行艇アンスヴァルトに乗り込んだ。
アンスヴァルトの内部は旧式だったがちゃんと装甲によって守られており、帝国空軍航空予備艦隊でモスボール保存されたからちゃんと整備され直していた。特別古いという印象は受けない。
「まず本艦の主砲ですが56口径28センチ3連装砲2基です。現在の空軍の主力艦として見ると些か威力不足であることは否めません」
「今はもっと大きい大砲が積んであるんですか?」
「ええ。今の空軍の主力を成す空中巡航戦艦マッケンゼン級ならば38センチ砲です。というのもこの飛行艇は空中巡航戦艦の初期の飛行艇なのです。かつて存在した空中装甲巡航艦よりも攻守に優れた飛行艇をという設計思想の産物ですね」
昔、空軍には空中装甲巡航艦という空中巡航艦の装甲を強化した飛行艇があった。だが、速力はあれど火力に劣るそれは実戦で有益ではないどっちつかずの半端なものと判断され、火砲と装甲を強化した空中巡航戦艦が生まれた。
「それでは艦内へ」
テクトマイヤー大佐に導かれてアレステアたちはアンスヴァルトの艦内に入る。
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