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宣戦布告

……………………


 ──宣戦布告



 帝都の宮殿前にそれが現れたのはパレードが終わり、民衆が帰宅した時刻。


 シュヴァルツラント近衛擲弾兵師団の近衛兵が帝国陸軍正式口径7.62ミリ魔道式自動小銃を持って警護している宮殿の正門にそれが現れた。


「ん? 何だ、お前は? ここは宮殿だぞ」


 近衛兵がそれに声をかける。警告だ。


「控えろ、雑兵ども。貴様らは今、戦神モルガンの戦士であるセラフィーネ・フォン・イステル・アイブリンガーの前に立っているのだ」


 それは旧神戦争最強の魔女であり、カーマーゼンの魔女のひとりセラフィーネであった。サーベルを握った少女の姿をしている化け物が近衛兵たちを前にする。


軍団(レギオン)


 セラフィーネがサーベルを構えて唱えると同時に鋼鉄の巨人が出現した。手に口径12.7ミリの大口径機関銃を構えたゴーレムの軍勢だ。


「なっ……!? それはゴーレム!?」


本部(HQ)! こちら宮殿正門! カーマーゼンの魔女が襲来した! 応援を!」


 近衛兵たちが魔道式自動小銃を構え、同時に司令部に緊急事態を知らせる。


「そこを退け。さすれば命だけは助けてやろう。どうする?」


 セラフィーネの獰猛な笑みを前に近衛兵たちが震え上がった。相手は旧神戦争最強の魔女で神すらも殺した怪物だ。


 それを前に退いたとしても恥ではない。


「よろしい。今は暴れるつもりはない。今はな」


 近衛兵たちを退かせ、セラフィーネが宮殿の中に入っていく。


「は、早く、皇帝陛下を避難させるんだ!」


「近衛騎兵師団を呼べ! 急げ!」


 宮殿内が大混乱に陥る中を、セラフィーネが悠々と歩いていく。


「おい、そこの貴様。皇帝とゲヘナの眷属はどこだ?」


「そ、それは……」


「言え。死にたくなければ」


 セラフィーネが宮殿にいた宮内省の職員にゴーレムの構える重機関銃の銃口を向け、そう問い詰める。


「ひ、賓客の応接間に……」


「そうか。行け。殺すぞ」


「ひっ……!」


 宮内省の職員は急いで逃げた。


 そして、セラフィーネはそのまま混乱が広がる宮殿を進み続ける。


「止まれ! そこを動くな!」


 だが、そのアレステアとハインリヒがいる賓客の応接間の前に近衛兵が結集し、陣地を築いて抵抗の構えを見せていた。


「雑兵がいくら集まろうと話にならんぞ。そんなちゃちな代物で私の相手ができると思っているのか? 大人しく退け。別に皇帝を殺しに来たわけではない」


「黙れ! ここから退去しろ!」


「皆殺しにされたいのか? そう望むのであればそうしてやっていいのだぞ」


 近衛兵が魔道式自動小銃を構えるのにセラフィーネのゴーレムたちが魔道式重機関銃の銃口を向ける。


「止めろ。もういい。下がっていいぞ」


「陛下!」


 そこで応接間の扉が開き、ハインリヒが“月華”を構えたアレステアに守られて外に出た。アレステアとハインリヒが険しい表情でセラフィーネを見る。


「また会ったな、アレステア。ゲヘナの戦士よ。お前の名前は覚えているぞ。お前が死ぬか、私が死ぬまでな」


「また戦いに来たのですか、セラフィーネさん?」


「いいや。今日は違う。残念なことにな。今日は告知に来ただけだ」


「告知……?」


 セラフィーネがサーベルを振るのにアレステアが訝しむ。


「魔獣猟兵上級大将として宣告しよう、エスタシア帝国皇帝ハインリヒよ」


 セラフィーネがアレステアではなく、ハインリヒに告げる。


「この時より魔獣猟兵はエスタシア帝国に宣戦布告する。エスタシア帝国及び世界協定会議加盟国全てに対して宣戦布告を実施する。このときより我々魔獣猟兵と現在の世界秩序たる世界協定は戦争状態だ」


「なっ……」


 セラフィーネが宣言にハインリヒが思わず目を見開く。


「よもや卑怯とは言わせぬぞ。こうしてお前たちのやるようにちゃんと布告を行ったのだからな。正々堂々と戦おうではないか」


「何のために戦争を……」


「何のためだろうな?」


 アレステアの呻きにセラフィーネが肩をすくめる。


「では、次は戦場で会おう、アレステア。楽しみにしてるぞ?」


 セラフィーネはそう言い残すと空間魔術で空間を引き裂き、そして消えた。


「なんてことだ。。戦争だと……」


「皇帝陛下。どうしますか?」


「戦争となれば決断を下すのは私ではない。メクレンブルク宰相たちだ。すぐに皇帝大本営を設置しなければ」


 アレステアの問いにハインリヒがそう返す。


「少佐! すぐにメクレンブルク宰相に連絡しろ! それからシコルスキ元帥にも連絡だ! 魔獣猟兵が宣戦布告したと伝えよ!」


「畏まりました、陛下!」


 陣地を作っていた近衛兵の指揮官が走る。


「クソ。私の代に魔獣猟兵と争うことになろうとは……」


 ハインリヒが心の底から焦った声色で呟いた。



 ──ここで場面が変わる──。



「戻ったぞ」


 セラフィーネは魔獣猟兵の拠点に戻って来た。


 拠点とはアイゼンラント領──その領主であるソフィア・ベッテルハイムの居城であるアイゼンラント城だ。


「これで戦争だな。世界を敵に回して満足か、セラフィーネの婆?」


「実に満足だ、ソフィア。私は戦争でしか生きられぬのでな」


 戻って来たセラフィーネに冷ややかな視線を向けるのは輝く金髪の髪を背中に伸ばした16歳ほどの少女の外見をした吸血鬼。鉄血蜂起にて帝国軍を退けた真祖吸血鬼ソフィア・ベッテルハイム本人である。


 黒い生地に赤いバラの刺繍を入れたノースリーブのワンピースを纏っていた。


「カノン。そっちも終わったか?」


「アーケミア連合王国への宣戦布告は完了した。既に第2戦域軍が侵攻を開始している」


「結構。我々も動かなければな」


 ルナとアザゼルの前に現れたカノンもアイゼンラント城の広間にいた。


「ヴァレンティーナはどうした?」


「彼女は第2戦域軍の指揮下に入った。もうアーケミア連合王国にいる」


「そうか。栄光を極めたカーマーゼンの魔女ももう私とお前、そしてヴァレンティーナだけになってしまったな」


「ええ。多くの同胞たちが既に去った。私たちだけが残っている」


「寂しいものだ」


 カノンとセラフィーネが同じ魔女として言葉も少なく去った魔女たちを思う。


「では、最後に盛大に花火を上げよう。悔いを残しながらも去った仲間たちのためにも。盛大にカーマーゼンの魔女の名を知らしめよう。そして、その結果が何であれ受け入れようではないか」


「私たちに行き場はない。旧神戦争を哀れに生き残った敗残兵に行き場はない。あなたの望むようにやる」


 セラフィーネが軍用外套を翻して宣言し、カノンが頷く。


「戦争開始だ。第3戦域軍司令官と命じる。これよりエポナ作戦を発動。全軍前進せよ。全軍蹂躙せよ。全軍征服せよ。全軍勝利せよ!」


 そして、セラフィーネが指揮する魔獣猟兵第3戦域軍がアイゼンラント領の攻撃発起位置から侵攻を開始。無数の武装した人狼と吸血鬼、そして屍食鬼がエスタシア帝国に攻め入った。


 魔獣猟兵は多数の火砲を有し、さらには自動車化されている。


「こちら第39自動車化擲弾兵師団本部! 魔獣猟兵の攻撃だ! 戦線を突破される! 既に我が師団隷下部隊は分断され、撃破されている! 司令部も──うわっ──……」


 さらには魔獣猟兵は宣戦布告前にコマンド部隊を帝国領内に浸透させていた。侵攻してくる魔獣猟兵を阻止しようと機動して展開しようとする帝国軍部隊に破壊工作を仕掛けて、対応を阻止している。


 橋が爆破され、地雷が設置され、司令部が襲撃される。


 帝国軍の対応は遅れに遅れ、アイゼンラント領周囲の警備に当たっていた帝国軍は次々に撃破され、殲滅されるか、四散して敗走した。


 これに帝国空軍が帝国陸軍の救援のために動き出す。


「少将閣下。第10空中艦隊司令部より連絡です。第32空中駆逐艦隊は速やかに出動し、陸軍を支援せよとのこと」


「了解した。全艦出撃用意!」


 アイゼンラント領最寄りの航空基地に配備されていた口径15.5センチ魔道艦載砲を主砲とする空中巡航艦1隻を旗艦とし空中駆逐艦6隻からなる帝国空軍の空中艦隊が出撃。


 帝国空軍の主力艦である空中戦艦と空中空母は安全のために後方の基地に配備されていてすぐには戦場に辿り着けない。そのため魔獣猟兵の侵攻に即応できるのはこの第32空中駆逐艦隊であった。


「レーダーに感あり! 方位0-5-0より複数の飛行艇です! 大型艦6隻、中型艦6隻、小型艦12隻!」


「魔獣猟兵の空中艦隊だと……」


 帝国空軍の飛行艇はレーダー搭載が基本だ。空中駆逐艦であってもレーダーが搭載されており、周辺の空域を警戒している。


 レーダーは純粋な科学技術によるもので魔術には左右されない。


 そのレーダーの画面に友軍ではない飛行艇が探知されていた。


「閣下。この規模の艦隊と正面から戦うのは無謀です。今は敵の探知を避け、低空飛行で陸軍の支援を」


「やむを得ないな。陸軍か陸軍の部隊に派遣されている空軍の前線航空管制官と連絡を取れ。可能な限り航空支援を実施すると」


「了解」


 出撃した帝国空軍の空中艦隊はレーダーによる探知を避けるために地面すれすれを飛行し、同時に撤退中の帝国陸軍との交信を試みる。


『こちら第39自動車化擲弾兵師団隷下第391擲弾兵連隊! 航空支援を求めたい! こちらが撤退後に橋を落としてくれ!』


「了解。目標をスモークで指示せよ」


『赤のスモークを使う! 確認してくれ!』


 地上の帝国陸軍は撤退中で追撃してくる魔獣猟兵の進軍を阻止するため交通の要衝に位置する橋を落とすことを試みていた。だが、撤退の際に工兵が装備を喪失し、爆破することは不可能。


 砲兵などは真っ先に重装備を放棄したため地上の帝国陸軍にもはや火力はない。


「地上に注意しろ。赤いスモークを見つけるんだ」


 軍用飛行艇──その中でも武装した戦闘艦は空に浮かぶ装甲に覆われた艦体上部に艦載砲を搭載し、後部には爆弾倉を装備している。帝国空軍の空中巡航艦ならば500グラム爆弾を16発搭載できる。


 橋を落とすには十分だ。


「スモークを確認!」


「空中巡航艦が爆撃を行う。随伴艦はレーダーピケット艦として周囲の警戒を──」


「敵艦からレーダー照射を受けました! 気づかれています!」


「クソ! 高度を取れ! 砲戦用意!」


 軍用飛行艇にはレーダーを搭載すると同時に相手からレーダー照射を受けたことを探知する電波探知装置も搭載している。そして、今まさにレーダーが作戦行動中だった帝国空軍の艦隊に照射された。


「可能な限り近接して空中魚雷を叩き込む。煙幕を展開しつつ、敵艦に突撃せよ」


「了解」


「相手は空中戦艦だ。いつの間にあれだけの艦隊を……」


 艦隊司令官の空軍少将は接近してくる魔獣猟兵の空中戦艦を先頭に単縦陣で接近する空中艦隊を見て唸った。


 敵の空中戦艦は巨大で巨砲を備えている。敵の空中戦艦の口径38センチか口径41センチレベルの3連装艦載砲が剣呑に鎌首をもたげつつあった。


「敵艦、発砲!」


「ジグザク航行を行いつつ、煙幕展開!」


 敵空中戦艦の主砲が瞬き、砲声が響く。


 砲弾は艦隊の旗艦である空中巡航艦を目指して飛翔し、弧を描いて接近する。


 そして、爆発。


「近接信管を使っているのか。こちらと同じか……」


 ドップラー効果を利用し、敵艦に直接命中せずとも近い位置で砲弾が炸裂する近接信管。帝国軍では近年取り入れられたそれを魔獣猟兵も使用している。


 空中戦艦の主砲レベルの砲弾は直撃せずとも周囲で炸裂するだけで衝撃波と鉄片を撒き散らし、軽い装甲しかない空中巡航艦や空中駆逐艦に打撃を与えた。


「友軍空中駆逐艦が落ちます!」


「このままでは何もできずに皆殺しにされてしまうぞ」


 既に艦隊は被害を出し始めている。


 それでも艦隊は速力を上げて突撃を続け、砲弾の雨の中を突き進む。


 友軍の空中駆逐艦がまたしても砲撃の影響で艦体が引き裂かれ、弾薬が誘爆して墜落する。軍用飛行隊の中は爆弾や砲弾などが詰め込まれており、爆発物の塊だ。


「距離1000!」


「もっと迫れ。そうでないと当たらんぞ」


 必死に煙幕で攪乱し、相手に未来位置を把握されないためにジグザグ航行を行い、帝国空軍の艦隊は魔獣猟兵の空中艦隊に向けて進む。


 魔獣猟兵の空中戦艦と随伴艦は主砲以外に高射砲にも使用可能な口径127ミリの両用砲で砲撃を始めた。主砲より速射性の高いその両用砲に砲撃されると装甲がないも同然の空中駆逐艦は一撃だ。


「距離600!」


「空雷戦用意! 空中魚雷を斉射しろ!」


 空中巡航艦と空中駆逐艦は小口径の艦砲と薄い装甲という脆弱な存在だが空中魚雷を搭載している。


 空中魚雷は高速で空中戦を行う小型戦闘飛行艇を無人にし、爆薬を詰めたものだ。無人のため誘導能力はない。


 高威力かつ高速で飛翔するロケット弾に似ている。


「空中魚雷斉射!」


 一斉に帝国空軍の艦隊から空中魚雷が放たれ、魔獣猟兵の空中艦隊に扇状に広がった空中魚雷が高速で飛翔する。


 しかし、海戦で使用する魚雷と違って大型かつ空中を飛翔する空中魚雷は両用砲で劇撃出来てしまう。その上、帝国空軍の空中艦隊は接近するまでに飛行艇を失っている。


「空中魚雷、迎撃されました! 全弾命中せず!」


「おのれ……!」


 艦隊司令官の空軍司令官が呻く中、魔獣猟兵の空中艦隊が一斉に砲撃。


 帝国空軍の空中艦隊は砲火に包まれ、全艦が墜落した。


 この日の大敗北により帝国は国土の4分の1を魔獣猟兵に奪われた。


 一連の奇襲攻撃によって帝国はおろか世界協定会議に列する国々全てが攻撃を受け、中小国に至っては完全に国土が陥落。魔獣猟兵の支配下に置かれた。


 そして、魔獣戦争が始まったのだ。


……………………

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