天を割る子
「これが天帝の子か!」
天帝を守護する宿命を持つ皇帝戦士ファラゴは応えた。
「琉衣さまと凛さまにございます」
天帝の摂政として権勢を振るっていた邪光は見下ろしながら言った。
「殺せ!」
ファラゴは琉衣を抱いて浜辺に立っていた。
やがて潮が満ちて赤子をさらっていくだろう。
そのとき琉衣が笑った。
ファラゴの目からは大粒の涙が溢れ出した。
「俺は畜生道に堕ちることはできぬ!」
夫婦のもとに天帝憲兵隊がやってきた。
「天帝の子を隠しているな?」
「し、知りません!この子はミリアです」
「問答無用!」
「お待ち下さい、私達の・・・!」
「調べはついている、貴様たちはファラゴに頼まれたのだ」
憲兵隊はミリアと名付けられた琉衣を連れ去っていった。
ファラゴは邪光に呼ばれた。
「琉衣を隠していたな?」
「私にはなんのことかさっぱり」
そう答えるファラゴの目には強い決意の光があった。
「フン!生温い貴様らしいわ!天帝の子が二人おれば天はふたつに割れる。それがわからんのか!だがよい。貴様に免じて命だけは助けてやる。」
「ありがたき幸せ」
ファラゴは平伏した。
最強の皇帝戦士が襲いかかれば邪光とてひとたまりもない。
ファラゴ軍団が謀反となれば帝国軍も甚大な被害を受けるだろう。
チッと舌打ちして邪光は言った。
「だが助けるのは命だけだぞ。琉衣は国を滅ぼす呪われた子なのだ」
最果てのムランゴバルド地方、その最も貧しいドレンの村では不思議な噂があった。
井戸の下に天帝の子凛の双子の姉が閉じ込められているというのだ。
あるとき村出身で町で一山当てた金持ちが、村の近代化のためにと井戸を埋め立てようとした。
すると帝都から憲兵隊が直々にやってきて進みかけていた工事を止めたうえで、厳しく村長に訓令を発し周辺では許可無く一切の工事まかりならんとしたことで、この噂は余計に広まった。
「凛さまが18歳だから」
「双子の姉ならおなじく18歳だわな」
「娘盛りでねえか」
「もし噂が本当ならよ、こっそり助け出してヨメにしてしまったら」
「そりゃおめえ、恐れ多い天帝様のご親戚様よ。子供は天帝の資格だってあるぞ」
「うひょぉ!おいらでも天帝様のお父上になれるってかよ!」
「ああ、もし今の天帝に万が一があればな。なんなら摂政として国を好き放題にも」
「バカッ!そんなこと考える輩がいるから帝都憲兵隊が・・・」
「おっと、おっかねえ、口は災いの合わせ出汁だな」
「ところでよ、村長と司教様がはなしてるのを聞いちまったんだけど」
そういったあとで若者は辺りを見渡して小声でいった。
「凛さまも行方不明らしいぞ」
「なんだって?」
「じゃ今いる凛さまは!?」
「影武者だって噂だ。」
「いいか、噂だからな」