思った通りにいかないのがダンジョン
とある日の朝方。武道さんからレギオン・ハルニクスの進捗を共有するための連絡があった。色々と調査が進んでいるようなのだが、少し問題が発生したそうだ。
「なるほど?スキルが変わると」
『せやねん』
レギオン・ハルニクスの死体を俺達が装備できるサイズに打ち直している職人によると、加工することで、スキルがねじ曲がり別物になりそうなのだとか。
まぁ元々モンスターの素材で装備を製造する場合、同様にスキルが変化することはままある話だ。例えば風魔法を操れるドラゴンの爪を剣の素材にしたら風魔法そのものが使えるのではなく、剣を振ると風の斬撃を飛ばせるようになったり――という感じで。
俺が所持している元ゴーストウェポンのウォーハンマーのようにそのまま使うのであればスキルも変わらずそのままという場合もある。その点で言えばウォーハンマーは大当たりだったな。
もし加工して空気など、そこに存在するものを能動的に殴れる"空打"スキルが自動発動に変わったら思うように使えなくなるところだったわ。
まぁそんなウォーハンマーと近しい存在であるはずのレギオン・ハルニクスだが、やはり加工することでそのスキルの変化はほぼ間違いなく発生しそうなのだとか。んで今は「スキル変わるけど大丈夫?」的な確認の電話でもあるそうだ。
『一応加工せぇへんかったら強力なスキルはそのまんまやけど』
「"くつマ◯オ"みたいな状態になったとてまともに戦えるとは思えないんだが?」
『せやろな』
あれはあの配管工が特別なだけであって少なくとも俺には無理だ。ドラゴニアの須藤さんでも無理そうだ。それこそ巨人の人じゃなければな。
という訳でスキルが変化することに関しては了承ということで進めてもらうことになった。まぁ全く別物スキルになるというわけでも無いしね。
『ほな。また進展あったら電話するわー。ちなみに今日はうち来るん?』
「いや、今日は別のダンジョンに行く予定なんだよ」
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「ジョージ、凍らせたよー!」
「お、サンキュー」
屈んで作業をしているとオーロラから声がかかった。そちらの方を向いてみるとオーロラの氷魔法によって絶妙に凍らされ、球状となったスライムが転がっていた。
丁度手元のスライムの解体も完了したので新たに凍らせてくれた分にも取り掛かる。
はい、今回潜っているダンジョンとはベーシックダンジョンの雲雀浦ダンジョンだ。ヤマダの棲んでいる東荒ダンジョンのような距離的な関係で行けないダンジョンを除いたら俺達が行った中で一番話題に上がらないダンジョン。
その理由が狩っているモンスター……スライムなわけなんだけれど。そう、このダンジョンはスライムしか出てこないのだ。スライムに用がなければ来る理由が全く無いダンジョン。だから話題に上がらないのも無理はない。
さて、そんなダンジョンに来たということはもちろん、今回の目的はスライムだ。滅茶苦茶食べたい!ってほどでもないのだが、スライム乾麺とか在庫が切れそうだったのでちょうどいいから行くかなーくらいの心境。一応この前やった配信とはまた別のスライム料理を考えてはいるが。
しかしただそこらにいる平凡なスライムを狩るというのもいいが、少しばかり足を伸ばしてみようとも今回の探索では思っている。具体的に言えばこのダンジョンのボスと戦ってみようかな、と。
調べたところによると雲雀浦ダンジョンのボスはキングスライム。今まで斃してきたボスに比べればぶっちゃけ一番の雑魚とも言っても遜色ないモンスターだが油断は禁物だ。単純に大きいスライムではなく、知能もあるし魔法も使える。だからといって近接が弱いわけでもない。
道中のスライムたちで油断しまくった奴らは大体キングスライムにボコボコにされたことだろう。――と俺が調べたサイトにはそんなことが書いてあった。
ちなみに俺はエルフになる前はほとんど戸中山ダンジョンばかりだったからキングスライムは初挑戦だ。
「でもキングスライムってオイシイの?」
「核は美味いらしいぞ。ゼリー部分は味としては普通のスライムとほとんど一緒」
「あ、ソウナンダ」
そうなのである。しかもゼリーの確保方法も普通のスライムと一緒で全体を凍らせる必要がある。一般スライムよりも遥かに大きいそれを凍らせるくらいなら普通に斃したほうが早いということで、あまり採られてはいない。そのため実はキングスライムのゼリー部分は希少ということになっている。繰り返して言うが、ゼリーの味はスライムとほとんど一緒。特別な薬の材料になるわけでもない。
「アレ?前行ったトキの通路ギュウギュウ詰めのスライムは?」
「あれはビッグスライムだな。キングスライムはあれよりもデカいぞ。それに詰まるような場所では現れないし」
さて、そんな風にオーロラと話しながらも道中出くわしたスライムを捌いているとすっかりボス部屋の前まで到着した。いや本当に苦戦する場面とか無かったぞ。戸中山ダンジョンの方が断然難しい。罠もあったとしてスライムが2、3匹降ってくる程度のものだったし。
おっと、イカンイカン。気を取り直さなければな。ではではボス部屋の扉に手をかけて――あ、でもその前にちらっとキングスライムの姿をひと目見て……ん?
ちょっと一旦扉を閉じよう。あれ?
「ジョージ?」
「ちょっと待ってな?」
えーっとスマホの事典アプリ事典アプリ……キングスライムキングスライム……えーっと……もう一回扉の奥見るか……うん。アレ、キングスライムじゃねぇわ!




