庵鬼林は魔女である
「さぁどうぞぉ、お掛けなさい。魔女以外の客人なんて何時ぶりだろうからねぇ、腕によりをかけたよぉ」
「これはどうも、いただきます」
「ワーイ!」
ストームオウルというバカでかフクロウの羽毛にズッポリとハマってしまった魔女、庵鬼林。冗談ではなく本当に抜け出せなくなっていたようで、箒に乗った要により救助された。
そして通されたのは、日本でもあまり見ないような西洋風の豪邸の一室。テーブルの上にはおそらく収納魔法から取り出したのだろう、いつの間にか並べられたクッキーと紅茶が振る舞われた。驚いたことにオーロラでも問題ないサイズのティーカップも出してロゼ用にミルクも出してくれた。
しかし紅茶か……。我が家は基本玄米茶とかマンドラゴラ茶をよく飲むから実はあんまり馴染みがなかったりする。やはり馴染みのないティーカップの取手を持って中の紅茶を口にする。……あ、結構さっぱりとした風味だな。嫌いじゃない味わいだ。
紅茶で喉を潤した後はクッキーをひとつまみ。おぉ、さっぱりとした紅茶によく合うバターの濃厚さがあるクッキーだ。サクサクとした食感も良き。オーロラやロゼも気に入ったようで一つ、また一つと食べ進めていく。
……いや招待された身としてはだめだなこれ!ハッとクッキーを食べる手を止め顔をあげると、鬼林さんがとても愉快そうにニンマリと笑っていた。
「いやぁ、気に入ってくれて何よりだよぉ。食べることが好きなのがありありと伝わってくるねぇ」
「ははは……お恥ずかしい」
「いいんだよぉ、さっきも言ったが魔女以外が来るのは久々でねぇ。――おっと、来たようだ」
話を途中で途切れさせた鬼林さんはとある方向に視線を向けた。俺もそれに釣られて視線を移動させて見ると、そこにはこの部屋に入る前に通った扉があった。
「来た」と言っていたから誰か他の人でも来るのかと思っていたが、その時不思議なことが起こった。何の変哲もない立派な木製の扉のちょうど真ん中側に突如として光の線が走るとその線は四角形を描いた。そしてその四角形がまるで扉のようにパカッと開き、その奥から何かが部屋へと入ってきた。
「ぴょー!」
そんな甲高い鳴き声をあげながら入ってきたのは人間ではない。鷲の頭に獅子の体を持ち、体の色んな箇所に輝く宝石を露出させたモンスター、ジュエルグリフォンだ。そう、現在進行系でクッキーに夢中のロゼと同族だ。違う点をあげるとするならば、その体に露出された宝石はロゼの赤いものと異なり青い宝石で、ロゼよりも少し大きいくらいか。
青いジュエルグリフォンは翼をはためかせ、空を足で蹴り駆けるように移動し、鬼林さんの座る椅子の肘掛けへと着地。頭上から伸びてきた鬼林さんの撫でる手を嬉しそうに受け入れ……そこでやっと同族であるロゼの存在に気づいた。
「ぴょ!?」
「ぴぁ?……ぴぁ!」
そんな青いジュエルグリフォンの驚きの声でようやく同族の存在に気づいたロゼは「おんなじだ!」と言いたげな鳴き声を上げた。
「この子の名前はサピロスって言うんだよぉ。今いる中では一番若い子なんだよぉ。ロゼちゃん仲良くしてやってくれるかぃ?」
「ぴぁー」
「ぴょー」
肘掛けから飛び立ったサピロスという名のジュエルグリフォンはロゼの下へと降り立つと挨拶をしているかのように互いの顔をすり合わせ合う。どうやらファーストコンタクトは成功のようだな。最初は大人し気な鳴き声だったが、次第に元気さを帯びていく。
「ふふふ、良かったねぇサピロス。初めての外からのお友達だぁ。ロゼちゃん、一緒に遊んであげてくれるかぃ?」
「ぴぁ!」
「ぴょ!」
どちらかというと遊んでもらうのはロゼの方では……?と思わないことはないが、こちらとしてもロゼに同族の友達が出来るのは願ってもないことだ。ロゼは鬼林さんのお願いに同意する鳴き声を上げるとサピロスとともに遊ぶべく部屋の片隅へと向かった。
「ワタシも!」
「私もー」
おっとオーロラも一緒について行ってくれるか。ロゼは賢いからまぁ変なものは触らないと思うが、やはりそれでも不安はあるからな。オーロラが見てくれるのはありがたい。……で、便乗して遊びに向かう要はそれでいいんか。君のお婆さんなんとも言えない表情してるぞ。
「――さてぇ、木原譲二さん。一応そこの女々ちゃんから話は聞いているけど改めてあなたから要件を聞かせてもらえるかぃ?」
「……鬼林。毎度言ってるけど私を"ちゃん"付けで呼ぶのはもうやめてくれないかしら?それも人の前で」
「いいじゃないのぉ、女々ちゃんはいつだって女々ちゃんだよぉ」
あー、この2人やっぱり付き合い長いんだな。会話の節々に気軽さを感じさせられる。女々さんは置いといて話すように目で催促されている。んじゃまぁユグドラシルのことは伏せて、かくかくしかじかまるまるうまうまろぜろぜぴぁぴぁと。
「――という訳です」
「ふぅん、なるほどねぇ……そうだねぇ、私の所感になるんだけどねぇ」
そこで鬼林さんは一拍置いて自身の分の紅茶で喉を潤し――カッと目を見開いた。
「ロゼちゃんを飼い始めてそれなりに日にちも経ってるからもう分かってると思うけど、ジュエルグリフォンって悲しいほど弱いんだよねぇ。サピロス含めて、うちのジュエルグリフォンみんなに言えるんだけどねぇ。それでいて好奇心は旺盛だから、決められた範囲でもあっちこっち行っちゃうんだよねぇ。まあそこが可愛らしいんだけどねぇ。ほんとよくダンジョンの中で生きていられるよねって話でさぁ。サイズが小さくても、鷲の頭と獅子の体躯そのままのスペックさえあれば、弱小モンスターの汚名も返上できるはずなんだけどねぇ。可愛さだけでダンジョンで生きていけたら素晴らしいことなんだけどねぇ。あとはジュエルグリフォン最大の特徴である魔宝石だよねぇ。これは魔力を要するアイテムの燃料にもなるし、握りしめればその人の魔力としても使えちゃう代物でさぁ。人間視点でもモンスター視点でも結構有用なんだよねぇ。でもね、これってジュエルグリフォン自身の戦闘力には直結しないんだよねぇ。ジュエルグリフォン以外のうちの子も分かってるのか、ジュエルグリフォンが外で遊ぼうとすると誰かしらが一緒について行くんだよねぇ。でもジュエルグリフォンたちは守られてる自覚がないからねぇ、遊んでもらっていると思ってあっちこっちへとフフフ……振り回されてる子達を見るのもまた楽しいものなんだよねぇ。いやぁうちの子達みぃんな愛おしいんだよねぇ。他にも――」
いや、なんだこのテキスト量。いきなり長文醸し出されちゃったよ?既視感があると思ったらあれだ、翠ちゃんについて語るときの要だわ。
しかし結論を言うのであれば……やはりロゼを自由にさせた状態でダンジョンは難しいのかもしれない……のか?
「でもねぇ、私はまだジュエルグリフォンには可能性があると思ってるんだよねぇ」




