切り札を持っているのはお前だけじゃない
「ところで須藤さん!昨日も聞いちゃったけどアイツってやっぱり呼び出しちゃダメなの!?」
「すみません!到着する前に確認しましたけど"そ奴程度ならイケるイケる"とのことで……」
「くさやとか手に入ったら送り付けたろうかアイツ……ッとぉ!」
一縷の望みにかけて確認してみたらお呼び出しNG。100パーセント頼りにしていたわけじゃないけれど!と怒りという訳ではないが叫びたくなるこの感情をのせて迫る手甲の拳を俺はウォーハンマーで撃ち返す。「追撃」スキルの衝撃も合わせて襲ってくるが、なんのその。"本体"に比べて少々黒ずんだ合体鎧は反撃された衝撃で後退る。
まさかの2体目の合体鎧の出現。おおよそ手甲の持つ「分身」スキルによるものと思われるが、単純にもう1体増えるのはキツいな。しかし幸いと言うべきか、出現した分身は本体に比べてパワーやスピードも低い。
本体のスキルも使えるようだが、さらに「分身」することはできないし、胴部分が持っていたスキル「遠距離攻撃誘引」の効果は罅割れているからか、一切使えないようだ。
しかし、厄介なスキルはなにも「遠距離攻撃誘引」だけではない。脚甲の「罠化」も単純に2倍に増えるし、兜部分の「味方強化+視界共有」のスキルも互いを強化し合っているようで苦しいところではある。
でも胴部分が使えなくなってようやく「分身」を発動したのはそれほどまでに合体鎧が追い込まれたから――という風に捉えるとなにも悲観的な状況ではない。それは須藤さんや柊も理解しているようでその表情に悲壮感はない。だが、須藤さんの方はどうにも悩んでいるようだ。
「あの、柊さん!これから私がやろうとすること、絶対に黙っていただけますか?」
「え、なんだい突然!?」
柊が合体鎧に一撃を入れ、華麗に着地した後、須藤さんにそう切り出され、素っ頓狂な声を上げて返す。須藤さんの目は真剣そのもので言葉を続ける。聞いていたいところだけどそんなお話の最中でも合体鎧はお構いなしに襲ってくる。
「出来るだけ早く参加してな!オーロラにクリス手伝って!」
「ハーイ!」
「――!」
合体鎧と分身、双方の兜にトネリコの弓で放った鉄の矢を直撃させ、こちらに注意を惹かせる。さらにウォーハンマーを見せびらかせての倍プッシュだ!HAHAHA、合体鎧君達見ってるー?……見てるなぁ!なんか攻撃力増してませんか!?
迫る攻撃を避け、たまにウォーハンマーで撃ち返す。妖精組も攻撃が通らないまでも合体鎧の気を散らせるような魔法で錯乱させる。やっぱり一番の厄介者は胴部分だったんだなって……罠も避けなきゃいけないからギリギリなところはあるけれど、思うように戦えて相手を翻弄させるのは楽しさすら覚えてしまう。
「――にとって――要機密――でして。――ョン省にも伝え――」
「木原――るからかな?――った。ちか――した場合、――するよ」
「えっ!?――までしな――!」
戦いながらだから断片的にしか聞こえないが、話を吹っ掛けたはずの須藤さんの方が驚いているのはどうしてだ?
「木原さんありがとうございます!話はまとまりましたので一旦離れてください!妖精さんたちも!」
「はいよぉ!」
こちらに向けた須藤さんの声に返答し、言われた通り合体鎧たちの傍から離脱する。尚も奴らは襲い掛かろうとするが、不意にその足を止めてその視線を須藤さんと柊の方へ――いや須藤さん一点へと向かう。
その須藤さんはというと、何故か足元から立ち上る白い煙に包まれている。そして戦闘中であっても常にかぶり続けていた帽子を脱ぎ去る。そうすると当然、帽子によって隠されていたドラゴニアの角が露わになる。
あれ?須藤さんのあの角ってあんなに大きかったか?いや、現在進行形で伸びてる?それに角に雷のようなものが迸っている。ん?なんか裂けるような音が……あ、普段は巧妙に隠しているはずの須藤さんの尻尾も出てきた。もしかして今の音って……いや、須藤さんの名誉のために考えないようにしよう。顔も赤いし。
「行きます――!」
静かなはずなのによく通る声がこちらまで届く。合体鎧2体は優先順位を変更したのか先ほどまで執着していた俺に背を向け須藤さん向けて走り出す。分身が本体よりも前を走っているのはいざという時のための盾ということだろうか。
対する須藤さんは持っていた薙刀をその場で振り回す。振り回すといってもただ力任せに振るうのではない。くるくるとまるでバトンのように回し――次第に薙刀の刀身部分、いや全体が炎と雷を纏っていく。――え、カッコい――消えた。須藤さんの姿が掻き消えた。
と思ったら須藤さんはすでに合体鎧の後方へと移動しており、通り過ぎられた合体鎧は少しの間静止したかと思ったら、瞬く間に炎に包まれた。え、カッコいい!!主人公じゃん!
うわ、分身の方がボロボロと崩れていく!倒せたってことでいいのか?本体の方は――炎に包まれながらもまだ動いてる!?でもその動きはぎこちない。もうギリギリか?須藤さんは攻撃の反動なのかその場から動こうとはしない。しかし、あらかじめ聞いていたのか柊が間に入って合体鎧の伸ばしてきた手を弾くが、それでも奴は止まらない。
それなら俺がやるしかないか!?距離は離れている――ヤドリギ!With トネリコの弓!弱ったアイツならこの組み合わせで――はぁ!?まだダメ!?いや、俺が戦闘中に消費したからか!まずいまずい、何かないか何かないか――!
「ジョージ!ロゼのヤツ!」
「ロゼ!?あぁ!」
いきなりオーロラがロゼのことを言い出したので何かと思えばアレか!俺は急ぎズボンのポケットからあるものを取り出す。それはネイムル牧場ダンジョン出発の2日前、ジュエルグリフォンであるロゼに渡された深紅の宝石だ。
ジュエルグリフォンは摂取した魔力を自分の体に生えている宝石に貯蔵することができる。つまるところ、ロゼがマンドラゴラを食べ続けて生成されたこれは魔力の塊と言っても差し支えない。その容量のほどは分からないが間違いなく足しになるだろう。
俺はロゼの宝石を握りしめ、その手の指でヤドリギの矢の矢じりを掴む。トネリコの弓に番い――願う。足りない時に襲われる不安感は感じられない。イケる。
「"ぶち抜け"」
シンプルな願いをのせたヤドリギの矢は必要な魔力を受け取り、その願いを遂行する。柊もろとも叩き潰さんとする合体鎧の右拳を貫き――内部から胴部分を貫き、はたまた外から右脚甲を貫き、左手甲から飛び出て左脚甲を貫き――最後は兜部分を内部から貫いた。
「お」
ヤドリギ先生が手元に戻ってきた。お仕事終了ですか。
その予感が正しいことを示すかのようにヤドリギの矢が貫き終わった後、一切動かず沈黙していた合体鎧に変化が起きる。鎧の色が燃え尽きた灰のように白くなるとそれぞれの鎧の形を残したまま音を立てて崩れていく。
ふぅ、ようやく終わっ……あれ、倒れるまでは行かないけどヤバイ。足がめっちゃガクガクいってる。ちょ、オーロラ――は無理だよな。柊ヘルプ!あ、須藤さんもだもんねごめんね先そっちでいいから!




