雪上の皇帝様
ゴーストウェポンの鎧を纏った皇帝級と思しきグラキエル・ペンギオスの攻撃は突進攻撃から始まった。あんなトゲトゲの鎧で雪上をどう滑っているのか疑問に思ったが、よく見てみればグラキエル・ペンギオスの体が雪上から僅かに浮いていることが分かった。――青いネコ型ロボットかよ。
ただそのスピードは凄まじいもので、一瞬にして距離を詰められた。流石に硨磲の盾を出している暇はないと判断し横方向に飛び込むことで突進を回避。何とか体勢を取り直して起き上がり、鉄の矢を番えたトネリコの弓を構え、ペンギオスに狙いを定める。
ペンギオスはペンギオスで、回避されても止まることなくむしろ旋回して再度突撃してきた。
今度は近づく前に脳天に矢を食らわせてやればそこで終わり――じゃないか。あの鎧のゴーストウェポンが昨日のワイルドオークジェネラルと同じ能力を有しているなら死体になってもまだ動く可能性は十二分にある。
まぁそれでも斃さないことには話が始まらないので矢を射出。矢は真っすぐペンギオスの頭に――あれ?急に軌道が変な方向に?いや、あんな無理やりな軌道はヤドリギの矢でしか見たことない。第一今撃ったのは普通の鉄の矢でトネリコの弓にはそんな機能はなかったはず。
「マジか」
「アララ」
軌道が変わった矢の行きつく先に、そんな声が出てしまった。鉄の矢はペンギオスを避けるような軌道を取ったかと思うと急に方向を変換して鎧ゴーストウェポンに命中した。そんで鎧ゴーストウェポンには一切の傷なし。
次の突撃も回避することが出来たが、何だあの矢の軌道?考えられるとするならば、あの鎧ゴーストウェポンが矢を吸い寄せた?遠距離攻撃のターゲットを自身に変更するスキルでも持っているっぽいのか?そんで鎧ゴーストウェポン自身も相応に防御力があると。
正解だとしたらなんとも厄介なスキルだ。ヤドリギの矢で無理やり解決することは可能だが、逆に言えばヤドリギの矢以外の遠距離攻撃が無効になってしまうということになる。そしてそれは俺だけじゃなくオーロラにも言える話だ。いや、オーロラの方が深刻かもしれない。オーロラの魔法は氷の弾とか炎の弾とか遠距離の魔法を特に得意として――待てよ?
「オーロラ、あいつを炎で包めたり出来る?」
「ン?コウ?」
「ギュギュバァッ!?」
言ったとおりにやってもらってみるとペンギオスの下から炎が噴き出し、一瞬だけだがヤツを燃やすことが出来た。なるほど、ペンギオス全体に当てるような攻撃であれば吸い寄せることはできないのか。
ただ、ペンギオスがその場にとどまっているならまだしも、高速で滑っている最中では炎を浴びせ続けられず、あまりダメージを与えることはできないようだ。
「ギュワーッ!」
しかも怒らせてしまったようで、今度は自身の頭部に氷の兜を纏わせ始めた。あんなこともできんのか、あのペンギン。おーおー、鎧ゴーストウェポンに負けず劣らずのトゲトゲ具合は敵を串刺しに出来てしまいそうだ。
しかしこちらとしてもやるべきことは分かった。遠距離が無理なら中距離あるいは近距離だよね。ヤドリギはねー、一番早くて確実なんだろうが攻略方法が分かったペンギオスに使って無駄に消費しちゃうと後で怖い可能性があるからね。
さて、三度目の正直かさらに速度を上げて突っ込んでくるペンギオス。
「オーロラ、もっかいお願い!」
「ハーイ!」
折角俺のためにかぶってくれた兜だけど、脱いでもろて。再度ペンギオスの全体を覆うほどの火柱を魔法で出してもらえば、たとえ一瞬でも炎を浴びれ完全に溶けるまではいかなくても幾分かは脆くはなるだろう。
準備は整った。Aカードへトネリコの弓を戻して代わりに取り出したるはウォーハンマー。これでぶん殴ろうって腹だが――ちょっと試したいことが……いや、今それをやるのは流石に迂闊が過ぎるか。正面切って殴るのにそれで失敗したら怪我しちゃう。
好奇心をなんとか抑えて機を待つ――今だ!
「おらよぉ!」
渾身の力を込めてウォーハンマーを縦に振るう。遠心力を加えたあまりの勢いに柄の部分が少々しなるが、素振りの時に何回か同じようになっていたから問題はない。
そして振り下ろされたウォーハンマーの頭部分が振り下ろされた先、まずは氷の兜。まるで冬場の水たまりに張った氷を子供の足で踏み割る様に簡単に砕けた。それだけでは勢いが落ち込むことは一切なく、そのままペンギオスの頭部に叩き込まれる。
「――ッ!!」
頭を叩き潰されたペンギオスは声にならない悲鳴を上げ、浮いていたはずの体が急にその浮力を失い地面に叩き落された。ただ、突進の勢いだけは止まらず、雪を抉りながら俺のところまで――は来なかった。ギリギリ眼前で静止してくれた。
ふぅ、終わっ――てないよな。
「寝てな?」
ペンギオスが纏っていた鎧ゴーストウェポンがガタガタと小刻みに震えたかと思ったら頭が潰れ絶命したはずのペンギオスが体を起こ――す前に鎧ゴーストウェポンをウォーハンマーで思いっきり殴りつける。動かしているのがこいつならこいつ叩けば何とかなるやろ。
その予想は正解したようで、起き上がろうとしていたペンギオスが再び力を失い雪上に倒れた。
これで終わり……でいいのかな。流石に鎧ゴーストウェポンにもとどめを刺したのであれば動き出すことは……いや、消えたはずの鎧ゴーストウェポンのオーラが再び噴き上がり、その色が赤から紫へと変色した。
「まだなにかあんのか?」
嫌な予感を感じ、Aカードからヤドリギの矢とトネリコの弓を取り出し構える。確か情報では紫のオーラに変わったら逃亡するとかなんとか……は?
鎧ゴーストウェポンが浮いた。正確に言うならば着込んでいたはずのペンギオスの体は雪の上のままだ。いつの間にか装備が解除され鎧ゴーストウェポンのみが浮いているのだ。そして奴は俺たちに背を向けるようにどこかに逃げるように移動を始めた。
無論、逃がすつもりはない。あまり撮影ドローンに映らせたくはないが――
「"あいつの活動を終わらせ"――!?」
「ジョージ!?」
ヤドリギの矢に願いを言い切る前に、本能で感じ取った。ダメだ。この願いを叶えようとしたら気を失ってしまうほどの力を消耗してしまうことだろう。出来なくはないけどやらない方がいいってことか、ヤドリギ先生……?
そうしている間にも鎧ゴーストウェポンはかなりの速度で、はるか上空へと昇っていた。……ヤドリギ先生が無理でも鉄の矢なら――いや、そもそもヤドリギ先生以外の矢は無理か。
「本当になんだアレ……?」
「ナゾだねー」
こうしてグラキエル・ペンギオスの討伐には成功した俺達だが、その胸中には何とも言えない気持ち悪さが残っていた。
あ、ペンギオスのいい調理方法調べておかないとな。あれ、一旦「ペンギン 肉」で調べようとしたらサジェストに「まずい」って出たんだが?だ、大丈夫?




