ジョージ、油断しちゃった
「よいしょ」
「ブギィ!?」
「っと!」
「ブフゥ!?」
どうも、ジョージです。彷徨うゴーストウェポンを狙撃しては回収し再び歩きを繰り返した末、ようやく食用可能なモンスターの群れに遭遇することが出来ました。
そのモンスターの名前は"ワイルドオーク"。そう、オークだ。しかしただのオークじゃねぇぞ、ワイルドなオークだ。正確に言うと俺が韮間ダンジョンでよく出会うオークが豚ベースのモンスターに対してワイルドオークは猪ベースのモンスターなのだ。
無論、豚面が猪面になっただけではなく、他にも違いはある。ワイルドオークは通常のオークに比べても膂力があり、気性が荒く、獰猛だ。敵を見つければ全力で叩き潰そうとしてくる。捕食のために可食部を少しでも残そう!とは一切考えずに襲ってくる。まさに猪突猛進だ。
まぁそれが群れを成して襲っているのだが、なかなか面白いことになっている。というのも、こいつらゴーストウェポンを装備しているのだ。ゴーストウェポンはモンスターと共生することがあるとはさっき調べて判明したがまさか早速見られるとは思わなかった。ともすれば先ほどまで彷徨っていたゴーストウェポンは相棒を見つけられなかった悲しき存在なのかもしれないな。
それはさておき、ゴーストウェポンを持ったモンスターはどうなるかというと、単純に強くなる。元々ゴーストウェポンが持っていた力をそのままプラスされる。そしてゴーストウェポンが特殊な能力を持っていた場合、モンスターは本能的にその能力の使い方を理解し十全に扱うことが出来るのだ。
つまるところ、めっちゃ強いゴーストウェポンをめっちゃ強いモンスターが持ってしまえばめっちゃめちゃ強くなってしまうのだ。なんだこの解説。
まぁ逆に言えばあんまり強くないゴーストウェポンをあんまり強くないモンスターが持ったところで能力が多少上がっただけになるんだが。今の戦っているワイルドオークたちがそれ。
「ジョージ、オタスケいるー?」
「いや全く。気楽にぬくぬくしてな」
「じゃあエンリョなくー」
ワイルドオークどもはネイムル牧場ダンジョンで生まれただけあって、雪上でも難なく掻き分け近づいて来れているのだが、だからどうしたと言わんばかりに近づき切る前に狙撃したり近づいたとしても吽形で一刀両断だ。
一つ、また一つと撃ち抜き切り伏せていると次第に真っ白だった積雪が真っ赤に染まっていく。うーん、猟奇的。立ち込める血の匂いに思わず顔をしかめてしまう。しかし、ワイルドオークはいいものだ。先の通り、ワイルドオークは猪ベースだ。当然その肉も豚肉と猪肉ほどの違いもあるし、戸中山ダンジョンに生息する突進猛猪に比べても美味いと聞く。猪肉ともなれば……牡丹鍋にスペアリブ、カレーもいいな。通常のオークと食べ比べというのも――む。
「ジョージ」
「そうだな、親玉が来たか」
警戒するようなオーロラの声音。俺も頭の中のワイルドオーク料理を一旦搔き消し、感じた気配のその先を見やる。地響きのような音に立ち上がるのは雪煙。一直線にこちらに向かってくるな。
雪煙に向かって鉄矢を放ってみれば、甲高くなる金属同士がぶつかり合う音が聞こえた。ふむ、弾かれたか。
「流石に……ちょっとオーロラ脱出してな」
「ハーイ!」
下手に動こうとすると雪に足を取られて危険と判断。念のためオーロラには服から出てもらってから硨磲の盾を構え、向かってくるものを待ち構える。そして構えてから数秒も経たないうちに硨磲の盾に衝撃が走り、俺は対抗するべく足に力を籠める。――いや、ちょっと滑るか?あかん、滑るかも。うおおおおお頑張れ、靴ぅ!流石に滑って転ぶのは格好が悪い!
なんだか硨磲の盾に走った衝撃よりも足元に気が行ってしまったが何とか受け止めることができた。硨磲の盾の被害は……おや
結構な罅の量。さてさて、突っ込んできたならず者の正体は……あぁやっぱりワイルドオークジェネラルだったか。ワイルドオークから何段階かすっ飛ばした上位種だな。
見ればこのワイルドオークジェネラルもゴーストウェポンを装備しているようだが……ふむ柄の長いハンマー、つまるところのウォーハンマーか。頭の部分も結構デカいし、そして何より今までのゴーストウェポンと比べて明らかに格が違う。黄色いオーラだったのが赤いオーラになっている。
「ブオオオオオオオオオオオオ!!」
ワイルドオークジェネラルが己を鼓舞するためか、はたまた俺を威圧するためかは知らないが大声で叫び、まるで機関車のように鼻から蒸気のような鼻息を放出する。――ちょっと面白いな。笑ったら更に怒りそうだからやめとくけど。
あっ、ワイルドオークジェネラルくんダメだよ、そんなに大振りの構えをしちゃ!確かに君の膂力とゴーストウェポンの力を掛け合わせたその一撃を当てれば大抵の人間は命を落とすかもしれないけどあまりにその溜め行動は隙を生んじゃう!
「よいしょ」
「オオ――ッ」
隙だらけだったので、吽形で首落としちゃいました。南無。
「ジョージ、まだ!」
「は?うゎっ!?」
終わったと思って気を抜いたところにオーロラの鋭い声。気づいた時には首を失ったはずのワイルドオークジェネラルの死体が溜めの構えを解き放ち、赤いオーラを纏ったままのゴーストウェポンで横薙ぎ攻撃を繰り出してきた。俺はそれを間一髪伏せることで回避。そのまま体を起こし、ワイルドオークジェネラルの両腕を切り落とした。
切り落とされたワイルドオークジェネラルの両腕は少しの間手をワキワキと動かしていたが、やがてゴーストウェポンの赤いオーラが消滅すると同時に動かなくなった。……なるほど、ワイルドオークジェネラルが死んでからはゴーストウェポンが動かしていたのか……油断していたことについては反省しなきゃな。
「モー、ダメだよジョージ」
「すまんすまん。世話をかけました」
腰に手を当てプリプリと怒るオーロラに拝み倒して謝罪し、ワイルドオークやワイルドオークジェネラルの死体をAカードに回収していく。不測の事態こそあったが、ワイルドオークの上位種を狩れたこと自体は喜ばしいことだ。これは是非とも味わってみたいな。
「ア」
「どした?また敵か?」
「ンーン、スドウが頑張ってるみたい」
「須藤さんが?」
「ソウ、アレ」
オーロラが指差す先を釣られて見ると少し遠くの方で轟轟と火柱が立ち上がっていた。
え、えぇ……?俺が言うのも本当になんだし、須藤さんが聞いたら「おまいう」案件だと思うけどそれでもツッコませてもらうわ。
――須藤さん、あなたはどこへ向かっているのか――
あれか、ヤマダの教育の賜物なのか。




