友人と知り合い
その2人を視認した瞬間、俺は依頼を受けた時の武道さんの言葉を思い出した。「多分今回は周り知らん人なんてことにはならんかも知れんで」だったか。なるほど、そういうことか。
いや、三淵ダンジョンにいた柊がいるのはなんとなく予想はついていたけれども、まさか須藤さんまでいるとは思わなんだ。須藤さんも目を丸くして驚いているようだが……まぁ挨拶はしておこうか。すいません、職員さんちょっと待ってもらうことは……あ、大丈夫ですか。ありがとうございます。
「どうも、須藤さん。んで柊さんはお久しぶり」
「スドウ!」
「お、おはようございます木原さん、オーロラさんも……!知ってる人がいてよかった……!」
声をかけられたことで安心したのか、若干上ずんだ声を上げながら須藤さんが近づいてきた。漫画的表現があるとするなら冷や汗がぴゅぴゅっと飛んでいそうだな。
で、それと対照的に柊が落ち着いた様子でこちらに来たが――なんかその顔は少し不満気だ。何故。
「なんかそこの彼女と声のトーン若干違くないかな?」
「だってほら、須藤さんは友人ですけど柊さんは知人とか顔見知りレベルだし……?」
「薄情だね。一緒にダンジョンに潜った仲じゃないか」
「あの時、そちらが勝手についてきたようなものでは……?」
俺の記憶が正しければそうだったように思えるのだが……あ、こいつ笑ってやがる。からかっていたな?
えーっと……須藤さんがすげぇ困った様子でこちらを見てくるのはアレか。唯一知り合いに出会ったと思ったらその知り合いが知らん人と話してて疎外感を覚えちゃったとかそういうのか。実に分かる。そしてすまなんだ。
「えー、須藤さん。こちら柊さん。以前ちょっとした合同依頼でいっしょになった冒険者。パーティ名は……なんだっけ?」
「え?"薫風"って顔合わせの時に話しただろう?」
「忘れてた。で、こちら須藤さん。あー、えー、個人で活動している冒険者で友人。こんなだけどすごい強いから」
「この場に来ているんだからそりゃ実力は相応なんだろうけど、妙に言いよどんだね?」
「「アハハ……」」
柊の指摘に思わず同じように愛想笑いを浮かべてしまう俺と須藤さん。だってほら、俺は公式でハイエルフだって名乗れているけれど須藤さんはドラゴニアということは隠しているからね。となるとどう紹介するものかと悩んでしまうのも無理のないことだろう。
「深くは聞かないけれど……もしソロでキツイようなら一時的にでもパーティに誘おうと思っていたけどそれなら不要かな?」
「あ、はい。お気遣いいただきありがとうございます。私のやり方だとソロの方が気兼ねなく活動できるので……」
お、結構ハッキリ言った。ぱっと見控えめな印象を受ける須藤さんだが、言う時は言うんだよね。ヤマダ相手だとどうかは知らないけど。
ところで柊がいるということはパーティの他のメンバー――妖精を相棒にしたえっとええっと……そう!ミズキ!で、相棒はクリスだったか――がいるはずなんだがこの場にいるのは柊のみ。まさか1人なのか?
「いやいや、みんなは別行動しているだけだよ。ただ、木原くんが依頼に参加する可能性があるかもと話したら、実質オーロラちゃんも参加することになるだろう?そしたらクリスがソワソワしていたからね、また挨拶に来ると思うからその時はよろしく」
「エー」
オーロラさん、最後まで言葉に出さなかったのは偉いけれどその表情はほとんど「面倒くさい」って言っているようなものだからね?挨拶には応じてあげな?
「ま、お互いに頑張ろうじゃないか。すまなかったね、木原くん足を止めてしまって。どこへ行くつもりだったんだい?」
「おぉ、更衣室に」
何気なしに目的地を言ったら須藤さんも柊もピシリと石化したかのように固まった。あれ、俺なんか言ってしまいましたか?
「大丈夫なのかな?」
「何が?」
「え、いやほら、ここの更衣室って個室とかじゃなくて大部屋にロッカーあるタイプだよ?」
「……職員さぁん!こちらの都合で本当に誠に申し訳ないんだけどちょっと別室用意していただくことは可能でしょうかぁ!!」
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柊の言わんとしていることを察した俺は全力で案内しようとしてくれていた女性職員に頼み込んだ。女性職員も俺が気づいていないことに気づいていなかったようで慌てて別室を取るためどこかに許可を取りに行ってくれた。
あっぶねぇ……柊様様だわ。危うく精神男のままの馬鹿が更衣室に飛び込んでしまうところだった。無人の可能性もあったが誰か一人でもいた日には俺が申し訳なさで死んでいた。
さて、柊は軽い別れの挨拶と共にパーティメンバーのところに行ったが須藤さんはまだこの場にいる。受付窓口はあっちですけど。あ、まだちょっと心細いと。なら女性職員が戻るまでになるけどもう少し話しますか。
「こういう場に須藤さんが参加するとは思わなかったけどどうした?」
「そうですね……あの方に言われたのが4割。北海道のものが食べたいのが3割、新しいダンジョンで珍味を食べてみたいのが3割ってところですかね」
低い。思った以上にヤマダ要素が低い。いや、北海道のグルメ目当てで参加した俺が言えたことではないので何も言えないのだが。
しかしヤマダに行くように言われたというのは気になるな。たまーに須藤さんをドラゴンと戦わせたりするヤマダがねぇ。一応気を付けるようにはしておこうか。まぁ何はともあれ――
「美味しいもの、見つかるといいなぁ」
「ダネェ」
「そうですねぇ」
その後俺たちは女性職員が別室を取り付けたことを伝えに戻ってくるまで延々と北海道グルメについて話していた。いいよねぇ、じゃがバターに塩辛乗っけるの。え?鮭フレークとか乗せるのもありなの?ほーん!




