まだだ、まだ潜れんよ
「戸中山ダンジョンのやつくらいはあるな……」
「スゴイねー」
ブラックさんに言われて向かった先にあったのは、所謂豆腐建築といえる真っ白で直方体のシンプルな建造物があった。ダンジョン発生という異常事態が無ければ、こんな北海道の雄大な大地に無粋とも言えるものが建つとクレームが来そうだな……
しかしおかしいな、ネイムル牧場にダンジョンが発生したのは1週間も経っていないはずなんだが、建つものなのか?日本の建築技術がすごいのか?
屈強な2人の警備員が立ちはだかる出入り口でAカードを見せることで俺の身分を証明。何事もなくすんなりと建物の中に入ると――思ったよりも落ち着いてるな。てっきりいろんな人間が小走りであっちこっち行き来しているものかと思っていたが予想に反して静かだな。
えーっと、俺はどこに行けばいいんだ?と建物内をきょろきょろとしていると「冒険者の方はこちらへ」という看板が天井から吊り下げられているのを発見。そちらに向かってみると役場窓口みたいなスペースがあった。あ、職員の女性と目が合った。にっこりと穏やかな笑みを浮かべて手で窓口の椅子に座るようすすめられた。はい、座ります。
「本日はお越しいただきありがとうございます。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「木原譲二です」
「ありがとうございます。認証のためAカードをお預かりしてもよろしいでしょうか?」
断る理由もないので素直に差し出す。女性職員は手慣れた様子で俺のAカードを機械に通すとパソコンを操作する。そしてややあってAカードを俺に返してくれる。問題はなかったようだ。これで「あれ?あなた依頼していないですよ?」とかになったら気まずくなるところだった。
「念のための確認ですが、従魔の妖精は傍にいますか?確認したところ認識阻害アイテムを装備しているとのことですが」
「いますよ。――オーロラ、大丈夫だぞ」
「ハーイ」
オーロラのことも確認しなければいけないのか……ってかそうか。オーロラのような立場のモンスターのことは従魔って言うんだったな。そんな意識今までなかったわ。
さて、今オーロラは認識阻害アイテムを起動して俺以外の人間には見えない状態になっているため、それを解除するように伝えると素直に応じて、認識阻害を解除し女性職員の目の前で存在感をアピールするように挙手した。
「ご協力ありがとうございます。確認できましたので認識阻害をもう一度起動いただいても問題ありません」
「どーする?」
「コノままでイイよ!」
この職員さん、すげぇな。不意のオーロラ登場は結構驚かれることが多いんだが営業スマイルのまま表情一つ変えない。現にオーロラ登場時、丁度女性職員の後ろを通り過ぎた別の職員がギョッとしていたからな。
「それでは今回のネイムル牧場ダンジョンの調査依頼について改めて説明させていただきます」
女性職員は引き出しから数枚の用紙を取り出し、俺の方へ差し出して説明を始めてくれた。とりあえず聞いた話を要約すると以下の通りとなる。
・ダンジョンへの入り口は、24時間開放されており、入場時間は冒険者の自由にして問題はない
・入場する際には通常のダンジョンの入場と同様に手続きを行う必要がある
・調査は今日から一週間を目途に計画されているが、途中で切り上げ依頼を終了させてもいいものとする
・ダンジョンから持ち帰ったものについてすでに他ダンジョンで確認されたものについては、卸したり自己消費しても問題ないが、特異なものが確認された場合一度ダンジョン省で預かる
・ダンジョン探索時にはダンジョン省から支給するドローンカメラを常時起動させ、映像記録を残さなければいけない
※探索映像取扱いに関する同意および守秘誓約書を発行する
「"探索映像取扱いに関する同意および守秘誓約書"?」
ドローンカメラについても気になるがその後の聞きなれない書類の存在について思わず聞き返してしまった。しかし、女性職員はすぐに答えてくれた。
"探索映像取扱いに関する同意および守秘誓約書"とは――要するに「ドローンで撮った個人情報が含まれる映像は国家機密だから絶対よそに流しません」ということを示す文書だ。で、その書類が目の前にあるのだが……なんかただの紙のはずなのに異様な気配を感じるのは何だろうか。
「撮影ドローンについては、事前にダンジョンアタック配信者の"鞍馬神楽"さんご協力の下調整されたものとなります。耐久性および機動性、撮影についても現時点で問題は確認されておりません」
鞍馬神楽……あぁ、あの天狗――ってところで思い出した。そういえばたまたま見た鞍馬神楽のダンジョン配信で確かあいつは、AI搭載のドローンカメラを運用テストを兼ねて貸し出されているとかあったな。
「なお、調査中のダンジョン内配信は許可することはできませんが、調査終了後にダンジョンが一般に公開が可能ということが正式に決まった場合、映像をお渡しすることが可能です。なお、その場合他の冒険者の方の映り込みに応じて編集および切り抜いたものをお渡しすることになっています」
ほう、結構しっかりしてんだな。それならば仮に俺が他者のカメラに映りこんだとしても徒にネットに上がることはないってことか。常時カメラということで一瞬身構えてしまったがそれなら問題ないだろうな。
一通りの説明を説明を受けた後は、様々な書類にサインをしていくことに。そんでその中には"探索映像取扱いに関する同意および守秘誓約書"もあるわけだが……なんだこの、なんだ。でもどこかで感じたことが……え?どうしたのオーロラそんな耳引っ張って。
「ジョージ、これメメに似てる。ダイジョウブなヤツ」
「女々さんに?」
囁く声に合わせて俺も声を潜めて確認の意味を込めて聞き返し、オーロラは頷く。魔女である麻鬼女々さんに似てる力か……オーロラがそう感じながらも何も言わないことから悪いものではないのだろうが……いつか知るときが来るのかな。
最後の書類に"木原譲二"と記入し終わり、女性職員に渡す。不備がないか確認が――終わったようだな。
「ありがとうございます。早速ダンジョンに潜られますか?であれば更衣室にご案内いたしますが」
「あ、じゃあお願いします」
どうやら本当にすぐにでもダンジョンに入ることが出来るらしい。それならば善は急げということで椅子から立ち上がり更衣室へ――あれ?
「あ」
「わ」
「おや」
出入り口から知った顔のドラゴニアが。それに女性職員が案内しようとしていた通路の先からなんか久しぶりの黒髪ポニテがいた。




