あなたは選ばれました!
「ごめん、メッセージ見るの忘れてた」
『せやんな?』
手抜き酒飲み配信の翌日の朝、そういえばと武道さんからのメッセージを確認した後、俺は朝食中にも関わらず電話をかけていた。電話の奥から聞こえた武道さんの声からは怒りのようなものは感じられず、むしろ呆れが混じっているようであった。そして見ていなかったことも気づかれているようだった。
「で、マジなの?俺に来てんの?」
『大マジやけど』
念のためメッセージの内容について改めて武道さんに確認を取ってみたが、やはり間違いないらしい――俺が北海道で発生した新規ダンジョンの探索に選ばれたことは。
選考については今まで縁がなかったからよく知らないのだが、未知の領域に踏み入れるための人員を選ぶだけあって厳正な審査が行われてるとかじゃなかったか?その白羽の矢に俺が。「はぇー」だなんてとぼけた声をあげていると呆れを含んだようなため息がスマホのスピーカーから聞こえた。
『譲二さんはそんな感じやけどな、俺はその話は来ると思っとったで?』
「その心は?」
『なんやねん、そのノリは。東荒ダンジョンに三淵ダンジョンの問題解決に貢献、最近は四つ腕熊も討伐してくれたしな。特に問題らしい問題行動もないし、うちからの依頼にも真面目に取り組んでもろとるしな』
おおう、そういう風に言われると少々気恥ずかしさを覚えてしまうな。ただ、今までの行動を評価してもらえているという点においては嬉しくも思える。
『あとは適性やな。北海道のダンジョンってな、比較的気温が低いダンジョンが多めなんや』
「そうらしいね」
『その新規ダンジョンもそのきらいがある可能性が高くてな。そこで、譲二さんの持ってるベルトや』
「赤大蛇の帯皮か」
確かに赤大蛇の帯皮は装着者に温度耐性を付与させる便利なアイテムだ。これさえ付けていれば、真夏の炎天下でも極寒の吹雪の中でも平気という地味ではあるが様々な環境に赴くことのある冒険者からしたら喉から手がでるほど欲しい逸品だ。
今更だけど俺、これと無限に金が入って盗難対策もバッチリな蛇革財布とぶっ壊れのヤドリギの矢、ほぼ同時に獲得しているんだよな……どうなってたんだ、あの時の俺の運。
『それさえありゃ、譲二さんは大抵の環境でも生き延びれるやろうしな。オーロラちゃんは……自分で何とかできるやろ?』
「出来る?」
「デキル!チョット疲れるけど」
オーロラは魔法で自分の周りの温度を調整することが出来る。ただし、攻撃魔法と並行で発動させる場合は攻撃魔法はいくらか威力が下がってしまう上に普段よりも疲労が溜まりやすいらしい。とはいえ、オーロラの普段の魔法の威力からして多少下がった程度で戦力外になることは絶対にないのだが。
『あとは新規ダンジョンへの調査には戦闘力だけじゃなく探索の力が求められとるしな。それを取っても普段の探索からして譲二さんはうってつけって訳や』
「なるほど」
まぁ自分で言うのもなんだが、初見のダンジョンだとしてもそうそう後れを取らないくらいには生存能力はあると思っている。
「移動は?」
『参加してくれるならまたブラックさん派遣してくれるんやて』
「それはありがたいな」
ブラックさんとは三淵ダンジョンの移動の時にもお世話になった日本でも有数の転移スキル持ちの某逃げるバラエティ番組の狩人みたいな人だ。そうか、転移スキルで運んでくれるのであれば楽ではあるな。
『あとはそうやな、お上が用意したホテルに泊まってもらうことにはなるけど、外出禁止ということにはならんみたいやで?』
「ほう?」
『つまるところ、ホテルから出て北海道のメシ食いに行っても問題ないっちゅうこっちゃ。海鮮料理やジンギスカン、味噌バターコーンラーメン……』
「ほほうほう」
『石狩鍋も有名やな。シンプルにじゃがバターもええんちゃうか?』
「い き ま す」
はい、食べ物に釣られました。オーロラ?聞くまでもなく、すでにその口からよだれが垂れそうな勢いだ。君、ご飯中だからね?ご飯中に別のご飯を思い浮かべてよだれなんて中々だよ?え、俺はもう垂れてる?こりゃまた失礼。
『おっしゃ決定やな!ほな、明後日うちに7時集合な!遅れずに頼むで!』
「え、早くない?」
『そら他の冒険者に公開するにも危険と判断し厳重に閉鎖するにも判断は早い方がええやろ』
ごもっともである。しかし明後日か……しょうがない、それまでに準備しておくか。主にダンジョン内で食べるジャーキーの作成とか。じゃあここで話は終わりかなと思っていたらさらに武道さんからこんな話が。
『あぁあとそうや!多分今回は周り知らん人なんてことにはならんかも知れんで』
「ん?どゆこと?」
『確定やないから言えんわ。ほなな、これから尼崎さんに報告せなアカンから!』
ふむ、切られてしまったか。周り知らない人にはならない……か。アレか?三淵ダンジョンで遭遇した……名前……えっと……あぁ柊?が率いるパーティが今回もいるのかな。まぁ知らない人ばかりよりかは幾分かましか?
「ぴぁー」
「ん、どうしたロゼ。おかわりか――って」
「ぴぁ」
まるで猫のように軽く跳躍して床から机へと着地したロゼは自分の嘴に咥えていたあるものをコロンと俺の目の前に落とした。まるで「あげる」とでも言いたげに。
それをつまんで持ち上げて、ロゼとそれを交互に見比べる。……なるほど。体の宝石が剥がれたのね。




