演血影雅《えんけつかげまさ》
結論から言うと、俺は演血影雅のお誘いに乗ることにした。
VTuberとしての彼は精々TwitterやYouTubeで切り抜きショート動画を見たことある程度だが特に悪い印象はなく……なんか面白い人という感じだった。
普段は座長という二つ名にふさわしい、黒艶のシルクハットに黒の燕尾服を羽織り、どこかダークさを感じさせながら優雅さを感じさせる出で立ちだ。実際に落ち着いて話しているときはどこか色気を感じさせる低い声音でそこから参入するファンは多い。
ここからが面白ポイント。所属事務所ExStremerの中でも古株ということから、頼りにされる場面というのも多いのだが、よく後輩含めた同僚からおもちゃにされることが多い。そのおもちゃにされた時のリアクションもまたファンに好評でそのシーンだけを切り抜かれたショートではない動画もあるほどだ。
須藤さん改め曙りゅーたんも彼をおもちゃにしたことがある内の1人のようだ。あいにくそのシーンは見たことはないが……何かの縁だし今度見ておこう。
面白ポイントはそれだけではない。趣味嗜好が基本的に一昔前のキッズ。時折雑談配信内で一般ホビー大好きおじさんになることがしばしば散見される。怪しげな見た目から放たれる熱烈なホビー談義には成人男性には大ウケらしい。
そんな演血影雅だが、それはあくまでもVTuberとしての姿。VTuberのみならずYouTuberは映像に写っているものがすべてではない。裏ではだらしがなかったり、配信内のキャラクターとは真逆なことだってありうる。そこでズバリ、ExStremer所属の須藤さんに社長としての彼の印象を聞いてみた。その答えが――
「どんな人、ですか。演血影雅そのままです」
「……そのまま?」
「そのままです」
「声のいいホビー大好きおじさん?」
「声のいいホビー大好きおじさんです」
とのことだった。素でしたか。
まぁそもそも演者に悪影響がある社長ならば某ヤマダが黙ってはいないだろうし、それならば問題はないのだろうというのが最終的な判断だ。
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対談を了承して1週間後の現在、夕方時で俺とオーロラは梶原さんが運転する車内に乗ってその会場へ移動中だ。そう、須藤さんのマネージャーである梶原さんだ。そして車の助手席には須藤さんも乗っている。
俺と演血影雅との対談はサシ(オーロラもいるけど)で相手側の本社で行われるかと思いきや、本社はそれなりに遠方であることから、俺の家の近くの街の店で須藤さんを交えての食事をしながらの対談となった。先方曰く、互いの知り合いである須藤さんが一緒にいれば気まずいことにはならないだろうからとの配慮らしい。
そこに須藤さんの意思はと聞いてみれば「座長のおごりならいいですよ」とのこと。御社の社長なんですよね?いや、俺が須藤さんの立場であっても同じように了承していたかもしれんな。
「木原さんってそういう服も持ってたんですね?」
「変装も込めてだよ。オーロラが気合い入れちゃってね……」
「ガンバッタ!」
道中、黙っているわけではなくポツポツと会話はしていたのだが、ここでついに須藤さんが俺の服装について言及してきた。そう、今回俺はオシャレをしている。いや、オシャレをさせられているといった方が正確か。
上場企業の社長と会うのであればいつも通りの恰好では失礼に当たるのではと思い至り、オーロラにコーディネートを頼んだが――見事に女性的な服装になってしまった。流石に一年間この体だから慣れて来ていることは否定しないがそれでもまだ気恥ずかしさは拭えない。
そんなこんなでようやく目的地到着。どうやら個室居酒屋のようでテレビでも取り上げられたことがあるほどの人気店らしい。すんごい雰囲気のある外観に一瞬気おくれはしたものの、美味い飯があるのならばとすぐに気を取り直し店内へ。……え?先方もう来てるの?
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「どうも初めまして。ExStremer所属の演血影雅を演じています、エンケス・シェイドグレイスと申します。一応社長も兼任していますね」
個室で待ち構えていたのは、1人の長身細身の男。エンケス・シェイドグレイスを名乗る2メートルはあろう男性は一見おとなしめだが高級感の漂うパリッとしたスーツに身を包んでいる。髪は白髪――じゃないな、こりゃ銀髪か。
む、手が差し出された。あぁ、握手ね。応じて手を握り返すが、思っていた以上に相手の手が冷たかった。冷え性というわけではなさそうだ。
握手をすることで自然と目線が顔に行く。彼は金縁の眼鏡を装着し、そのレンズの奥には深紅の瞳を覗かせている。はぁ、演血影雅に負けず劣らずのTHEイケメンな見た目をされていらっしゃいますね。
「兼任の位置逆では?失礼、木原譲二です」
「オーロラ!」
「お会いできて光栄です。ささ、お座りください」
「座長、気取りすぎじゃない?」
「あけb――須藤さん気取ってないですから!」
あ、須藤さんにツッコんだ時に牙見えた。




