【味の】ポリポリ/しっとり【宝石箱や】
「…………」
「…………」
『助かる』
『たまにはこういう時間もありがたい』
ポリポリと咀嚼音、ゴクゴクと嚥下音をマイクが拾いあげ、視聴者にお届けされる。一見海ミミック鍋を食べていた時同様に放送事故に見えるだろうが、視聴者たちは大満足のようだ。
山ミミックの炒り種を食べていたのだが、咀嚼音が子気味いいとのこと。なのでしばらくしゃべらずに黙々と食べてほしいとの要望があり、一種のファンサ?としてそれを実施しているわけだが――なんだこれ。
『ジョージもちっといいマイク買わないか?』
『なんならバイノーラルマイク導入しようず』
「なにそれ?――あぁ、これのこと。百歩譲って新しいマイク買ったとてこれはないわ」
無言咀嚼の時間は終わりとばかりに流れてきたコメントに返す。バイノーラルマイクについては知識がなかったから調べてみたところ、まぁ要するにASMRに向いたマイクのようだ。中には人の耳を模したマイクまであるそうだが……この配信に使う必要性を全く感じられない。
……オーロラ、もうそんな律儀に無言貫かなくていいよ?うん、もう終わり。
「ジョージ、これシオとオリーブオイル以外の調味料も入れたの?」
「最初に言っただろ?入れてないよ」
炒り種の調理方法は至って簡単。山ミミックから取り出した種を流水で軽く洗って、オリーブオイルを入れて温めたフライパンに投入。軽く塩を振ってさっと炒めた一品で、当然ミミック料理の中で一番シンプルかつ簡単だった。
しかし、オーロラはどこかその調理に懐疑的なようだ。
『どゆこと?』
「この種、微かに胡椒に近いピリッとした風味があるんだよな。多分それで胡椒も使ったんじゃないかって思ったんだろ?」
「ソウ!」
『なるほどなぁ、だから種埋め込まれた奴って炎症みたいな症状もあったのか。』
炒り種も鍋と違うベクトルで食べる手が止まらなくなってしまうな。この味付けは特にレモン味の酎ハイによく合う。1粒2粒食べた後にストゼロを飲み込んでしまえばそれだけで優勝してしまえる。……あれ?俺の中の優勝ってクラス対抗戦レベル?
さて、炒り種はまだ残っているが、一旦は堪能したし全部食べ切る前に最後の料理――テリーヌに手を付けておかなければね。
実はこのテリーヌ、今日の料理の中で一番不安な料理だったりする。というのもテリーヌ、今まで作ったどの料理の中でも未経験なものだからだ。それを言ったら塩釜焼きもやったことはないが、あれはまだ美味しいというのが何となく分かっていた。だけどテリーヌはなぁ……おしゃれすぎて今回思いつかなければ料理することはなかっただろうと自信を持って言えるからな。
皿の上には切り分けられたテリーヌ。こうやって切り分けてしまえば元々がミミックだなんて分からないほどきれいな見た目をしているな。とりま、見た目は合格点として問題点は味だ。層の一部分であるコンソメスープの味見こそしたが、全体の味見は行っていない。やるのが正解なんだろうけどね、やっぱりこう初見の反応は配信でやってこそかなって……配信脳になりつつあるな。いや、手遅れか。
「まぁ食べるか。いただきます」
「イタダキマス!」
『召し上がれ』
『誰おま』
ナイフとフォークで切り分け、口の中に入れて咀嚼する。ふむふむ、まず冷やし固めた料理だからひんやりとなめらなか口当たりをしてらっしゃるな。
一番外側――テリーヌをまとめる役割をしている宝箱部分なのだが、最初に比べて縮んで薄くなっているのにも関わらず存在感がある。ベーシックミミックと比べて「肉!!」って感じではなく……なんだろう、難しいな。大豆?ジャガイモ?
で次に味わわれに来たのは触手部分をカットしてコンソメスープ+ゼラチンで固めた層だ。……溶けた、溶けましたね。口内の体温によってかトロっとしたと思えば、コンソメの風味が口の中に広がる。そして触手部分。歯ごたえがいい。ザクッとした食感はなんとも楽しい。
そしてペースト状にして卵白で固めたゾーンだが……なるほど。この俺の陳腐な語彙力でどういう風に表現するべきだろうか……美味い。それは前提として……がぁっ!いい言葉が思いつかない!めちゃくちゃ上品な味で後味がすっきりしている!これ、ミミックってことを言わなければコース料理に並べられても違和感はないだろうよ!
「――って感じ」
『分かるような分からんような食レポどうもありがとうございます』
『まぁオーロラちゃんも食レポはしてないし』
「オイシー!ホラ、ロゼもお食べ!」
「ぴぁー!」
『え、ロゼちゃんいつの間に』
「あぁロゼね。実は配信時点で起きてたんだよな。ちょくちょくキッチンで鉢合わせてねだる様に見てたんだけど、とうとう来たか。まぁ食いねぇ」
「ぴぁっ!」
うん、食べるがいいさ。ミミック料理はいっぱいあるからね。すぐになくなりはしない……けど待ってロゼ、炒り種は俺ももうちょっと味わいたいから残しておいて。多分それが一番消費スピード早いんだからもちっとセーブしてもろて。――あと、君のそばに落ちてる封筒見たことある奴なんだけど、まさか外に出てハントしてきてないよね?
『ところでジョージ』
『どうしても気になることが』
「ん?」
既視感のある封筒が絶妙にカメラに写っていないことを確認した後、刹那の一撃で封筒を叩いて机の下にスライド移動させる。よし、これで万が一にもバレないなと内心汗を拭っていたら視聴者たちからこんなコメントが。
『テリーヌって前菜料理なのになんで一番最後に食べたの?』
「え?」
――知りませんでした。




