倒すよりも大変なこと
やってきました韮間ダンジョン。今しがたホブゴブリンの首を吽形で切り落としたところです。
「オーロラ、宝箱あるか?」
「ナイねー!」
今回の目的は、前回の配信で視聴者から提案された食材――もといモンスターである"ミミック"だ。ミミックとは簡単に言うと宝箱に擬態して目が眩んで近づいてきた獲物を捕食するという冒険者から嫌われているモンスターだ。
まぁ、宝箱というのは冒険者にとっては夢みたいなものだ。嬉々として開けようとしたらそれがモンスターの擬態だったら……うん、殺意が沸くのも仕方ないよね。しかし、このミミックの擬態なのだが始めて間もない冒険者であれば騙されやすいのだが、慣れてきた冒険者からしたら結構わかりやすいのだ。
何故かというと生物としての気配を宝箱から感じるからだ。それに個体差はあるが宝箱の擬態が甘い点がいくつかあったりするんだよな。宝箱の癖して開口部がなかったりとか妙にトゲトゲしてたり。開口部はともかくトゲトゲはミミック君個性出しちゃったのかな?
それで見分けられるようになったとはいえ、遠目で見たら宝箱っぽいのは間違いないので近づいて偽物と気づいて落胆――ということになれば嫌われるのは仕方のないことだろう。
さて、そんなミミックだが面白い点がある。それはベーシックダンジョン、海ダンジョンといったダンジョンの種類によって中身の生物が異なるのだ。そして中身が違えば当然、味や食感、調理方法も少しずつ変わってくる。
そのため今回は行ける範囲のダンジョンに行って各地のミミックを味わおうという訳だ!ちなみに最初に韮間ダンジョンにいるのは、ベーシックダンジョンが一番宝箱が出てくる確率が高いといわれているからだ。
問題点があるとするならば、ミミックの出現率の低さだろう。そもそもの宝箱がレアケースなのだからそれに応じてミミックもそれなりにレアな存在となっている。今日も韮間ダンジョンに朝から潜って数時間た経っているのだが、成果なしの状況だ。
「しょうがない、追加階層の方に行ってみるか」
「オー!」
冒険者の中では困難な階層、エリアであればあるほど宝箱は出やすい――というジンクスがある。たかがジンクス、されどジンクス。気休めかもしれないが、韮間ダンジョンでもより困難な追加階層へ向かってみることにした。
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「ん、んー……!!」
「アー、コッチ……」
徘徊していたマグイャナサウルスwith子分を殲滅したら宝箱、出ました。しかし、俺たちが浮かべるのは落胆のもの。それもそのはず、出現したのは正真正銘のミミックではない宝箱だ。
本来は喜ぶべきなのだろうが、今回に限って言えばハズレとまではいかないが、「違う、そうじゃない」となってしまうのも仕方のないこと……だよな?
「ま、宝箱自体はいいものだから開けるか……ポーションか。まぁ、持っておくか」
「ヒツヨウ?」
「万が一があるからなぁ。いきなり月の貴族みたいなモンスターと相対す可能性もあるし」
確かにここ最近大怪我を負った記憶はないが、ダンジョンは常に危険が付きまとう。普段潜っている戸中山ダンジョンでもアカオオダイジョウや四つ腕熊みたいな異常事態が発生することもあるからな。それを考えるとポーションもあながちハズレではない。
それにあたったポーションは……うん、調べた限り結構価値のあるもののようだ。ほんの少しの体の欠損、小指ほどのものであれば修復が可能みたいだ。よし、確保確保。自分に使わずとも知り合いに使う可能性だってあるからな。
さ、引き続きのダンジョン探索と行きますかね。まだまだマグイャナサウルスはいるはずだから、見敵必殺しながらミミックを探していこうか。できれば今日中に見つけたいところだけどな。
マグイャナとイャナの死体を片付け終え、次の区画へと向かう。
うーん、一目見れば本当にわかりやすいんだけどな。こればっかりは運なんだよなぁ、いくらぴょんちゃんをゲットして運が上がったとしても、運のステータスなんて目に見えて分かるわけじゃないもんなぁ。ほら、あんなところに宝箱みたいな形をしたつるつるの茶色い物体が――
「あれじゃん」
「アレだね」
まさかの次の区画にPONと置いてあるとは思わないでしょ。モンスターの気配は……うん、あの宝箱もどきから感じるな。ただ、宝箱っぽいのはシルエットだけで装飾もなんもない茶色ののっぺらぼうみたいな感じだ。何?デザイナーの納品間に合わなかったの?
「とりあえず――やるか」
中身の味はそうは変わらないだろうし、次見つけるとなったらさらに時間を要する可能性を考慮すると、選り好みしている場合ではないので、ミミックに近づく。
ミミックは近づき、宝箱を開けようと屈んだ獲物対して不意を打って嚙みつき攻撃を仕掛けてくる。それが叶うのは本当に精巧に化けたものか、気配に疎い冒険者のみだ。しかし、やはりそれを生業にしているだけあって咬合力は驚異的なものだ。
さて、今しがた屈んだ獲物に対して攻撃を仕掛けると言ったばかりだが、それまで頑として動かないという訳ではない。こうして軽く足で小突いてやるだけで――ほら、開いた。
「キシャアァァア!」
小突かれて怒ったのだろう、ミミックは鳴き声を上げると俺の身長を悠々と超えるほど高く飛び上がった。そして頭から喰らうつもりなのだろう、大きく蓋を広げ俺の頭上から落ちてくる。が、されるがままな訳ない。
「はい」
「キ、キシャ?」
落ちてくるなら受け止めてあげればいい。俺は落下してくるミミックの蓋を右手で、左手で箱本体部分をキャッチ。もちろん、噛みつけないようにほどほどに力を込めて蓋は閉じないようにしている。
これでミミックは無力化された――わけではない。ミミックにはまだ攻撃手段が残されている。それは舌による伸縮自在で鞭のようにしなやかな舌での攻撃だ。箱部分を抑えていても舌で手痛い一撃をもらうケースもままある。
それに対しての俺の回答はこうだ。
「オーロラ、お願い」
「リョーカイ!」
舌の攻撃が来る前に、オーロラの氷魔法で宝箱の中を凍らせてもらう。何とか逃れようと舌を動かそうとするミミックだが、やがてその動きもゆっくりとしたものとなり――動かなくなった。うん、宝箱の力も完全に消え失せたな。
「よーしっ!今日の探索はこれにて終わり!オーロラ、帰るぞ!」
「ツカレター!」
いやはや、ミミックと戦うことそのものより見つけるまでが大変だったな……これを……戸中山ダンジョンと相模浜ダンジョンの分もやらなければいけないのか。面倒くさい……でも味わってみたい……そんなジレンマに苛まれながら俺たちは帰路へと着いた。
今日の晩御飯どうすっかなぁ……え?ポークステーキ?……あり。
ベーシックダンジョンミミックは宝箱部分もミミックの肉体です




