ロゼの体のアレ
マンドラゴラを酒として一番美味しくいただくための分類はビールという衝撃的真実を知った後、俺とロゼ、麻鬼要は庭から家の中へと戻っていた。オーロラ、親分、女々さんはというと庭でマンドラゴラで作るビールについての講義中だ。オーロラは翻訳係。
俺がその場に同席せずに家中に戻っているのは、製造に関して結構専門的な話になるみたいだからだ。漬け込み酒以外作れない俺からしたら聞いたところで活用する未来はないからな。麻鬼要も別に酒造自体は興味はないとのこと。
とりあえず、試作のマンドラゴラ酒や柿の種とかのつまみはまだ残っていることだし、リビングで飲んでおくか。あぁハイハイ、麻鬼要はマンドラゴラ茶ね。お前ここぞとばかりに飲もうとしてない?別に有り余ってるからいいけども。
「ぴぁっぴぁっ!」
「あー、はいはいロゼはミルクね」
あ、そうだ。マンドラゴラ酒には明太子のベビーチーズも合いそうだったな。それもつまむかな。――うん、思った通り、明太子のピリ辛具合とマンドラゴラ酒のすっきりさっぱりした風味がよく合う。やっぱり惜しさがチラつくが、ちゃんと美味い。
「木原さん、念のため聞いておきますけどこのマンドラゴラ茶売るつもりはないですよね?」
「ないけど?」
商売って難しいし、そのマンドラゴラを育てることができているのは俺じゃなくて親分のおかげだからな。商売のために親分を過剰に働かせることは避けたい。冒険者組合や女々さんに売っているのも親分が自由に育てて余剰しているものを流しているだけに過ぎないからな。
「それを聞いて安心しました。木原家産のマンドラゴラが市場に流れたらいろいろ混乱しそうですし」
言葉の通り安堵の表情を浮かべた麻鬼要は、湯気立つマンドラゴラ茶を啜って「ほぅ」と恍惚とした表情でため息をつく。
「本音は?」
「本音なんてそんな。競争率が上がってしまうなんて思ってないですよ」
「思ってんじゃねぇか」
HAHAHA、麻鬼要は冗談がうまいなぁ。……冗談だよね?いや、あの目は……これ以上突っ込むのはやめておこう。俺は今まで通り消費しきれない分を冒険者組合に卸してそれでも余ったやつを問題ない人に売ればいい――ということにしよう。
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飲みを再開してから30分ほど経過したが、庭の連中はまだ戻ってくる様子は見せないな。
そうだ、さっきの話で気になるところがあったな。あちらがまだかかるようであれば聞いてみるか。
「ところで、ロゼの落とす魔力の宿った宝石?ってのは何に使えるんだ?」
「そうですね、そういった宝石は通称魔宝石とかマジックジュエルとか言われたりします。簡単に言うなら魔法に関することに使えますね。次世代の燃料として目をつけてるとかなんとか」
「……それじゃあロゼの存在公開したのまずかったりするか?」
「いえ、物珍しさは仕方ないですがジュエルグリフォンを飼っている人が全くいないという訳ではないんです。確かおばあちゃんの知り合いにもいたはずです。それに魔宝石自体は他のモンスターからも採れるしダンジョンでも見つかるんですよ。だいぶレアですけど」
なんでも魔石はダンジョンでモンスターが持っていたり、宝箱から出てきたりすることもあるらしい。さらに洞窟型だったり鉱山型のダンジョンでも採取をすればたまに見つかるような代物とのこと。
へぇ、鉱山型とか全く興味がなかったから行こうともしなかったが、そんなもの出るもんだな。……食べられたりは?あ、魔宝石を好物とするモンスターはいるけど人が食べるもんじゃないと、了解。
「ちなみにドロップするモンスターって?」
「有名どころだとゴーレムとかカーバンクル、一部ドラゴンにも生えてたりしますね。あ、ミミックが蓄えてる場合もありますね」
あ、結構いるんだな。なら特別ロゼが狙われるってことはなさそうでよかった。いくらうちには優秀な警報機がいるとはいえ、厄介なことはないほうが一番いいからね。なんて誰かに言った日には「お前が一番の厄ネタだろ」と返ってくるのは必然だよな。否定もできない。
「ま、ロゼちゃんのは――ちょっとごめんねー?」
「ぴぁー?」
麻鬼要は毛をめくってロゼの胴体に生えている真っ赤な宝石を確認すると確信したように頷いてこちらに向き直る。
「やっぱりロゼちゃんの魔宝石は品質がいい方なので、売るのであれば買い手がすぐ見つかると思いますよ。あっ、配信だとそこまで鮮明に見えないと思うので安心してください」
まぁそこはロゼの生え変わり?のペースにもよるからな。そもそも売らない可能性だってあるからな。もし困ったら相談させてもらおう。
おっと、そんなことを話していたら庭からオーロラと女々さんが戻ってきたようだ。……あれ?オーロラ心なしか疲れてない?逆に女々さんは少し若返ってない?いや、比喩とかじゃなく。
「お酒への情熱スゴい……ジョージ、お酒チョーダイ」
「お、おうお疲れ様。ほら、つまみもあるから食いな?」
「木原さん、この度は本当にありがとうございました!親分さんのお話、大変参考になりました!早速製作に取り掛かりたいと思いますので、今日のところはこれで失礼します!あ、この余ったマンドラゴラ酒はよろしかったらどうぞもらってください」
「あっそれでは遠慮なく」
「いえいえ、それではこれにて失礼します!ほら要、帰りますよ!急いで!」
「えっちょっおばあちゃんまだお茶が残って――あーっ!」
こうして魔女2人は玄関で見送るよりも早くあわただしく帰っていった。やっぱり魔女は行動力がお化けなのだろうか。俺とオーロラはマンドラゴラ酒を口にしながらしみじみそんなことを考えていた。
ちなみに後日、女々さんから1本の瓶ビールが届いた。銘柄は"ワルプルギス・ブリュー"……うん、これは一旦保管しといて、配信外のここぞという時に飲むようにしよう。




