よく分からないけどなんか違う
念のため、もう1杯分マンドラゴラ酒を注いでもらって一気に呷って舌の上で転がす。――うん、やはり美味しい。そこらの日本酒よりも断然美味しいことには間違いないのだが、何かが引っ掛かり首を傾げてしまう。
つまみと一緒に飲むことで力を発揮するのかと柿の種を一つまみ食べる。うん、わさびの風味が利いてて美味い。鼻がツーンとする感覚を味わいながらまたマンドラゴラ酒を一口。……これでも違うか。オーロラはどうだ?
「オイシイんだけど……惜しい?」
「やはりそうですか……」
俺同様にマンドラゴラ酒をおかわりして飲みながらもコテンと首を傾げて眉をひそめるオーロラ。彼女もまた俺と同じ様な感触だったらしい。そしてそんな俺達2人の感想を聞いて女々さんはがっくりと肩を落とす。
「あの、そのお酒って確かアルコール度数40そこらだったと思うんだけど、木原さん達大丈夫なの?」
「え、思ったより高っ。いや、まったくもって問題ないけど」
「ネー?」
「えぇ……?」
そんなに困惑されてもこちらが困るよ麻鬼要。でもアルコール度数の件で驚いているのは本当だ。てっきり俺はよくてアルコール度数20そこらだと思っていたところをその倍を行くとは。この飲みやすさでその度数は酔いつぶれてしまう人続出なのではないだろうか。そんでその翌日は酷い二日酔いとかが襲ってきそう。
「恐らく木原さんが懸念されている点ですが、お酒は味を追求したとはいえ、マンドラゴラを使ったことで薬酒としての側面もあり酔いつぶれることはあれど、二日酔いで苦しむことはないんですよね。むしろそれくらい飲んで酔いつぶれた翌日は調子が良くなるほどです」
おっと、口に出す前に女々さんから驚きの情報がもたらされた。マンドラゴラを使ったのならある意味納得のいく副次効果ではあるのだろう。それにしても気持ちよく酔えた上で体調は回復するとか酒飲みにとってはある意味最高な酒ともいえるな。
ただそれ故にこの引っ掛かる感覚が惜しいと感じてしまう。しかしこの感覚は日常的にマンドラゴラを食べている俺達だからこそ言えるもので、普通の人が飲んだら満足できる味なのは間違いない。それを女々さんに伝えてはみるのだが――
「いえ、私も杜氏であり蔵人の端くれ。本来のマンドラゴラの美味しさを知っているからこそ、妥協はできないのです」
おぉ、職人魂という奴だろうか。女々さんから気力のような物が溢れている様に見える。実際に見えているわけではなくなんとなくだけど。
俺も美味い酒は飲みたいので協力するのはやぶさかでないのだが、俺に出来ることってそれこそ味見くらいしか出来なくないか?
「木原さん、お願いがあります」
「なんでしょう?」
「木原さんが作ったマンドラゴラ料理を食べさせていただけないでしょうか。可能であればマンドラゴラ茶も。もちろん費用はお支払いします」
なんでここで俺のマンドラゴラ料理を、と聞いたところヒントが見いだせるかもしれないということらしい。まぁそれが一助となるならば振舞わせてもらおう。ただし、費用については受け取らないでおく。これはあくまでも客人に振舞う料理として出すのでね、それにマンドラゴラ酒を代わりに作ってもらっている訳だし。
「あ、あのー?木原さん、私もいただいちゃっても?」
「ぴぁ?」
「1人だけ食わさないなんてことはしないから座って待ってな。あっ、ロゼはまだ駄目だぞ」
「ぴぁー……」
「あれ?どうしてロゼちゃんは駄目なんですか?」
「マンドラゴラの味って美味いですけど、刺激強すぎないですかね?まだ赤ん坊なロゼにあげるのはちょっと抵抗あるんで」
「大丈夫ですよ?」
「え?」
麻鬼要曰く、確かに肉体が伴っていないうちにマンドラゴラを過剰に摂取するのは良くない。それは旨味というよりはマンドラゴラが保有している魔力を摂取しても上手く体内に溶け込ませたり体外に放出することが出来ないから。
モンスターもその例に漏れないのだが、ジュエルグリフォンであるロゼはその魔力を自分の体に生えている宝石に貯めることが出来るので問題ないらしい。なお、魔力が溜まり切った宝石はまるで抜け毛のようにいつの間にか落ちるらしい。最後の例えよ。
「まー、それでもロゼちゃんに食べさせるなら1日にここで獲れるマンドラゴラの半分食べれば十分ですよ。……なんです?」
「いや、まさかそういうことを女々さんじゃなくてお前から教わることになるとは思わなかったなと」
「これでも私、お婆ちゃんに最も近い魔女として有名なんですけど」
いや、ファーストコンタクトが酷くてなぁ……それに魔女界隈とか知らんし。そういや翠ちゃんも麻鬼要は才色兼備・文武両道を形にしたような人って評価していたもんな。
ちらりと女々さんを見れば麻鬼要の発言を肯定するように頷いたので間違いじゃないのだろう。
「分かった、ありがとう。んじゃロゼも食べるか?」
「ぴぁー!」
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「まさかマンドラゴラを料理として食べる日が来るなんて……」
「木原さん、この漬物の調理過程を教えていただけますか?使っている材料は?」
マンドラゴラ料理を振舞った結果がこれだよ!
提供したのは漬物と炒め物、蒸かしマンドラゴラ、マンドラゴラ茶といった作り置きしていたものだったりさっと作れるものだったのだが、魔女たちの食いつきが凄かった。
麻鬼要は今まで薬の材料としてしかマンドラゴラを見ていなかったことからその味に驚き、食材としてのポテンシャルを知っていた女々さんは贅沢にもマンドラゴラをふんだんに使われている料理に目を輝かせレシピを聞いてきた。レシピ言われてもネットに上がっているレシピの材料をマンドラゴラに置き換えただけだったりするんだが……?
ちなみにロゼはというと蒸かしマンドラゴラを美味しそうにがっついていた。……あれ、ロゼの体の宝石の輝きが増した気が……?これが魔力が充填されたとかそういうやつか?
「――で、女々さん。食べて何かわかりましたか?」
「そうですね、調理風景を見せていただきましたが特におかしな点は見受けられませんでした。しかし、木原さんの育てたマンドラゴラの本来の味について再認識することが出来ました。やはりこのマンドラゴラ酒は出し切れていない……マンドラゴラ茶のように乾燥したものを煮出してみる……?」
あ、良かった。俺の調理に特に問題は無かったようだ。もしかしたら「調理に無意識に魔力を使っている!」とか変なところがあったのではないかと内心冷や冷やしていた。
さて、女々さんはマンドラゴラ茶を飲みながらも必死にメモを取っている。紙のメモじゃなくてタブレットのメモを使ってるんだな。そこは現代的なんだな、魔女。やがて書き連ねるのが一段落着いたのか、湯呑に残ったお茶を一気に呷って勢いよく机に置――そっと置いた。そりゃそうよね。そっと置いて渋面を作って絞り出すかのように話し始めた。
「木原さん、会わせていただけないでしょうか……」
「誰に?」
「マンドラゴラ――親分さんに」
親分に?あぁまぁマンドラゴラを実際に育てて女々さんに渡した親分に何かしら聞くのは道理に適っているとは思うけど、何で最初から会わなかったんだろ?
「可能な限り、自分の力で答えに辿り着きたい蔵人の意地です……っ!」
そこ魔女の意地じゃダメだったの?




