マンドラゴラ酒の試飲会
ロゼが目を離した隙に狩ってきた小鳥が煙に紛れた後に出現した差出人が魔女、麻鬼女々さんからの封筒。内容としては我が家でマンドラゴラで作ったお酒の試飲に協力、そして知恵を貸してほしいというものだった。日程はやはりこちらが決めてOKと。
試飲については問題ない。むしろ、やらせてくれるんだと今からワクワクしないでもないが、気になるのが"知恵を貸してほしい"の部分だ。知恵を貸すも何も、俺酒造なんて露ほども知らないんだがなぁ?やっても梅酒とかアカオオダイショウ酒とかの漬け込み酒くらいだ。まぁどんな些細なことでもいいとも書いてあるから気張らなくてもよさそうではあるか。
えーっと、返事は女々さんが初めて来た時の封筒同様にこの封筒にメモ入れてポストに入れて置けばいいのね?ま、今回は早くマンドラゴラの酒を飲んでみたいし、やらなきゃいけない依頼とかも無いから――2日後とかでもいいか。
さて、そうと決まれば明日はダンジョンに行って何か良さげなおつまみになりそうなモンスターでも狩りますかね。あとはカルーアにお客が来るからいつもより念入りに掃除してもらうよう頼んでおこう。――いや、いつも十分綺麗だったわ。ごめん、カルーア。
「ところでロゼ」
「ぴぁ?」
「あんまり一人――一匹?でどっかに行かないようにな?」
「ぴぁ」
とりあえずロゼに対してはまだ赤ちゃんと言ってもいいくらいなんだからこんなもんでいいだろう。少しずつやっちゃいけないことを覚えてもらえば。大丈夫大丈夫、ロゼ賢いからすぐに覚える。どれくらい賢いかって言うと、教えたら人間用のトイレでちゃんと用足せたほどだ。冗談のつもりで教えたらビックリした。
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「本日はよろしくお願いいたします」
「いらっしゃいませ、どうぞ上がってください」
「ラッシャイ!」
女々さんからの封筒が届き送り返してから2日後の昼、魔女――手土産を持って再来!え?あ、やだ魔女の一撃またもらっちゃっていいんですか?協力の御礼だからってそんな別に気にしなくてもいいのに!いや、丁度切らしてた頃だったんですよほんと!
「で、何故麻鬼要も」
「えっダメですか!?」
「不快でしたら外で待たせますが」
「お婆ちゃん!?」
外で待たせる必要はないですけど、純粋に疑問だったんで。確か女々さんの仕事のお手伝いは前回の訪問した月の末日までって話だったからなんでついてきたんだろうかと思ったんだが。
早い話が俺がマンドラゴラ酒の試飲をするときに女々さんも同様に飲むことになっている。麻鬼要は飲んだ後の女々さんを連れて帰る役目を担っているそうだ。
「私としては試飲程度で酔っぱらいはしませんが、だからといって飲んだ後に箒に乗っていいわけではありませんからね」
「あ、箒でも飲んだら乗るななんですね」
「えぇ、万が一がありますから。それで木原さん、可能であれば試飲会の後にまたマンドラゴラを購入させていただくことは可能でしょうか?」
「えぇ、いいですけど」
「ぃやったー!」
うゎビックリした。突然、麻鬼要が歓喜で拳を天に掲げ始めた。なんだなんだと思ったら今回のお手伝いの駄賃としてうちで収穫したマンドラゴラを買ってあげるということになっていたらしい。勿論俺が断る可能性は十分になるから確約は出来なかったわけだが、それが実現して今のこの喜びようらしい。
マンドラゴラを栽培している(していない)俺が言うのもなんだが、結構な高額なはずなマンドラゴラをお駄賃として買ってあげる辺り、女々さんも孫に甘いところあるんだな。
さて、挨拶もそこそこに早速試飲会を始めるために2人をリビングに通す。そしてリビングで待ち構えていたのはロゼ。どこ行ってたのと言わんばかりに「ぴぁー」と俺の胸元に飛び込んでくる。これに関してもちゃんと教えて今ではふんわりと優しく飛び込むようになった。
「配信で拝見させていただきましたが、まさしくジュエルグリフォンですね。流石というかなんと言いますか」
「か、可愛い……!撫でてもいいですか……!」
「いいけど」
俺の許可を得て麻鬼要は緊張からか手を震わせながら、撫でるためにロゼの頭に手を伸ば――あ、避けた。また避けた。でもその場から逃げようとはしない。あぁ、これはロゼ遊んでいるな?
ちなみに女々さんに魔女としてジュエルグリフォンはどのような認識なのか聞いてみたら、やはり希少なモンスターではあるらしい。しかし、全くいないという訳でもなく、過去今の俺のようにジュエルグリフォンを飼っていた者はいたらしい。ただし、その人たちは偶然ダンジョンで発見したジュエルグリフォンを持ち帰ったそうだが。
さて、ロゼは麻鬼要に任せて――いや、この場合は麻鬼要をロゼに任せることになるのか?――こちらはこちらで試飲会を始めることにしようか。とりあえずのおつまみとして柿の種。あとはコップを用意……あ、試飲用の小さいプラカップあるんですね。おぉ、オーロラ用のも。ありがとうございます。そしてその後に女々さんが取り出した一升瓶。
「それがマンドラゴラ酒ですか」
「えぇ、まだ商品ではありませんので一旦はそのままマンドラゴラ酒と呼びましょう」
女々さんが一升瓶の蓋を開けてその中身を3つのプラカップに注いでいく。ふむ、一升瓶の茶色でよく分からなかったが、マンドラゴラ酒はほんのりと緑色なんだな。匂いは――ん?女々さんに視線を移すが、彼女は黙ってうなずく。まずは飲んでみて欲しいということか。
「「「いただきます」」」
くいっとプラカップの中身を一気に呷る。舌の上で転がし味を確かめ嚥下する。
ふむ、ふむ。美味い。美味いが――これは……その、なんだ。
「女々さん、これは――」
「どうぞ、木原さん。忌憚なき意見をお願いします」
「それじゃ失礼して。……美味しいし、マンドラゴラの存在は確かに感じました。けど、こんなもん?って感じです。上手くは言えないんですけど、薄い?いや違うか。生かしきれてない?」
色々と言葉を探してみるが、俺の語彙力ではこれが限界だ。少なくとも俺はこの酒を飲んだ時にマンドラゴラを食べた時や魔女の一撃を飲んだ時のような感動を覚えることは出来なかった。いや、ほぼ日常的にマンドラゴラを食べてることは関係ないと思うよ多分。多分!!!!




