【ロゼの】ちゃんと飲んでます【あれやこれや】
『今更だけど赤ちゃんに刺激物大丈夫なの?』
「美味そうに食ってるしピンピンしてるんだよな。やはりモンスターだからか?」
「ぴぇ?」
本当に今更な視聴者からの指摘に俺はロゼに視線を移すが、当人は「なーに?」とでも言いたげな鳴き声と共に首を傾げる。その嘴にはキムチ風漬け汁にしっかり漬かって辛味がエンチャントされたサーモンの切り身がするすると吸い込まれていく様子が見られた。結論、ロゼ辛い物平気。
さて、ロゼが食べている光景を見てたら俺もサーモンが食べたくなったな。サーモンのポテンシャルなら単品でも十二分に美味しいのだろうが、やはりヤツの真価はご飯の上で発揮される――!
ホカホカご飯にサーモンを乗せます。ワイバーンの漬け卵の卵黄をひとまわしかければ、漬けサーモン丼の完成だ。では早速一口。
「ハホッハフッふまっ!やばっ!」
『そりゃ美味いでしょうよ』
『ワイの分は?』
サーモンが持つ元々の味にキムチの風味が加わればどうなると思う?ご飯のお供ティア表に衝撃を与えかねない存在が爆誕する。おまけに漬けたことで少し食感がトロッとしているのもまた良き。箸が、酒が止まらねぇぜ。
あ、もしかしてご飯のお供でしか強くないと思ってませんか?ンなこたぁない。単品でも最高に美味い。ただ、単品でちょい辛いかなぁと思う人には大葉と一緒に食べることをお勧めする。そうすれば大葉の爽やか風味で辛味は抑えられることでしょう。俺が大葉好きなだけなのはそう。
『ジョージ、ロゼちゃんの服を作って贈るのはありまの!?』
「ありまの?あ、誤字ね。"ありなの"ね。どうだろ、別にペットに服着せるのはエゴとかは思わんけど、今は止めておいた方がいいんじゃない?どれくらいのペースで大きくなるか分からんし。あとロゼの気持ち次第」
『確かに』
『普通のグリフォンならまだしもジュエルグリフォンってそもそもダンジョンの外にいるの自体珍しいもんな』
ロゼはまだまだ赤ん坊とはいえ、モンスター。最大でもサイズは小型犬くらいになるが、どれくらいのペースで成長するかはよく分かっていない。そんな中で今のロゼのサイズの服を貰ったところですぐにパンパンになるどころか着れなくなる可能性だってあるからな。それは申し訳ないから今の段階ではやめてね。
『おもちゃ何で遊んでるの?』
「ボールで遊ンデルよ!」
「小さいし嘴だからボールを咥えて持ってくることは出来ないけど体当たりしながら持ってくるぞ。あとなんかキラキラしているのが好きなのか押し入れにあったちっちゃいミラーボールがお気に入り」
『猫じゃらしは?』
「あー、忘れてた。ライオン混じってるなら猫じゃらしもありか。今度外に生えてるの見つけたら持って帰るかな」
本名エノコログサね。最近は意識して探したことは無いけど、ここは田舎だ。少し歩けば見つかるだろう、どうせ。庭には――確か生えていなかったはずだ。親分がそこんところは徹底していたからな。
『ジョージがダンジョンに行っている間、ロゼちゃんどうするの?お留守番?』
「そりゃお留守番よ。大丈夫、この子結構賢いし勝手に外に出るなんてことはしないさ。長期で遠方に行かなきゃいけない時は冒険者組合に預けるかもしれないけど」
それに視聴者たちは知らないことだが、うちには親分とカルーアがいる。2体ともに顔合わせは済ませているし、俺達が留守の間のロゼのお世話は任せてある。まぁ親分と違ってカルーアは仕事を見られるのが苦手な性質なので、ロゼが散らかしてしまった場合のこっそりお片付けする役目になるのだろうが。
ちなみに冒険者組合に預けるのは勿論、戸中山ダンジョンにだ。戸中山ダンジョンなら武道さんや友風さん、尼崎さんとうちの事情をよく知ってくれている人たちがいるから安心だ。
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「ぴぁ……ぴぁ……」
「寝チャッタね」
「腹いっぱいになったんだろうよ」
『寝息可愛い』
『流石にどこぞのエルフと妖精のように胃袋無尽蔵ではなかったか』
ぴぁぴぁすぴすぴと寝息を立てて、まるで猫のように丸まって眠るロゼ。その微笑ましさに自然と口角が上がってしまうのも仕方のないことだろう。
さて、寝てしまった子は寝室に移動させてあげねばな。とはいえ、そのまま運んでしまっては折角の気持ちいい眠りを妨げてしまうかもしれない。そこでジョージ、閃いた。何かあった時のために部屋に置いてあったふわふわもこもこなタオルを取り出し、それで翼を拘束しないように気をつけながらロゼを優しくおくるみ。
「はいみのむしロゼ完成」
「オオー」
『あああああああああああああああああああ』
『がわいいいいいいいい』
『いつからここはペットチャンネルになったのだ……』
「安心しろ、ここはいつだって酒飲みチャンネルだ。それじゃベッドに寝かせてからちょっと待ってな」
あ、そうだ。これは言っておかなきゃな。
「もしかして今後ロゼ目当てで来る視聴者がいるかもしれないけど、ロゼが配信出てくるかは本人が自主的に来た時だけだからな。寝てるところを連れてきたりはしないから」
『りょ』
『まぁしゃあない』
『あ、あの、せめてTwitterに写真上げるとかしていただけないですかね……』
「写真は気が乗ったらな」
というわけで初お披露目となったロゼは寝落ちということで出番は終了。俺にベッド代わりの低反発クッションの上へドナドナされて夢の中へと落ちていったのであった――寝ながらも羽をパタパタさせて嬉しそうにぴぁぴぁ鳴いていたし、もしかしてオーロラと一緒に空を飛んでいる夢でも見ているのだろうな。
「ただいま」
「オカエリー」
『おかー』
『ロゼちゃん寝てる?』
「あぁ、奴さんぐっすりだぜ」
『へへへ、そいつぁいいや』
『子供はよく遊びよく食べよく遊ぶに限るぜぇ』
「それじゃあここから――大人の時間だああああああああああああ!!(声量控えめ)」
「イエエエエエエエエ!(声量控えめ)」
『イエエエエエエエエエエエエ』
『あれ?ずっと大人の時間なのでは?』
『わぁい色気のない大人の時間だ。視聴者、色気のない大人の時間だいすき』




