【人の胃の中に】上がり込みやがって!【漬け漬けと】
「はぁい、皆の衆。ジョージの酒飲みチャンネルのお時間だ」
「ハジまったよー!」
『待ってた』
『こっちは既に始めてんぞ!』
『今日は……壺ふたつと炊飯器?』
『ジョージ知らないの?壺って食べられないんだよ?』
「知っとるわい」
だーれがツボをもぺろりと食べられる悪食ハイエルフだってんだよ。流石に無機物を食べようとはしないわ。たまにテレビで見る無機物を象ったチョコレートのようなものなら食べたかもしれないけど。
そんな感じで始まった今日の酒飲み配信。配信画面に入っているのは視聴者のコメントの通り壺2つと炊飯器1つ。炊飯器でご飯を食べるのだろうなというのは何となく分かるだろうが、視聴者視点からして壺は謎だよな。あー、でもちらほら「梅干し」ってコメントがあるな。梅は好きだけど壺から出すとこからは始めねぇよ。
ま、説明するよりも見せる方が早いよな。という訳で壺開封!おぉっ、壺からキムチっぽい匂いが解き放たれて俺達の鼻孔をくすぐる。だがここで手を止めるわけにはいかない。ロングタイプの使い捨てビニール手袋を装着!壺の中の深淵に両手を突っ込み手探る!――とは言え、お探しのものは壺の内容量の半分を占めているから分かりやすいんだけどね。お、あった。ぃよいしょっと。
2つの壺から取り出したそれをそれぞれの大皿にのせていく。いやぁ、結構な大きさの皿の筈なんだけど、それを置いただけで半分以上埋まっちゃったな。
『なんやなんや』
『うおでっか』
『俺はジョージ位のサイズが好きだよ』
『え?卵なのそれ?』
『ずりゅって出てきたな』
「これね、キムチ風味の漬け卵。他のものも出してくからなー」
簡単に皿にのっけたものの正体を話してからそこで手を止めることなく再び壺の中に手を突っ込み、卵の他に漬けておいた食材たちを取り出しては卵の周りに円を描くように盛り付けていく。これは海老、これは蟹、これはイカ、これはサーモン、これはキュウリ、これは白菜、これはカブ(と銘打ったマンドラゴラ)。
「ぴぁー」
『ん?』
『なに今の気の抜けた音?』
「ん?何か聞こえた?」
「ナンダロねー」
『あれ?ジョージ達聞こえてない?』
『パソコンの音?』
HAHAHA、視聴者たちったら幻聴が聞こえてるみたいだね。まったくもう、ちゃんと寝ないとダメだよ?よしよし、盛り付け終わったな。それじゃあ炊き立てホカホカのご飯をよそって、今日のファーストドリンクであるビールを注いで――準備完了だ。
『ジョージさん、その卵もしかしてワイバーンの?』
「おっ、正解。やっぱ分かる人は分かるか」
「ジョージ、ハヤく食べよー?」
「悪い悪い。んじゃ切るなー?」
『えぇ……事も無げに』
視聴者たちも言いたいことはあるだろうが一旦スルーさせていただく。画面外に用意していた出刃包丁を持って、その刃を横倒しになっているゆで卵に通していく。感覚的には鶏のゆで卵の白身よりは硬い……というよりは弾力があるな。
『ギコギコはしません』
「いやしてるが」
『スーッと切れます』
「それは切れる」
流石に包丁の刃渡りはゆで卵よりも長くは無いので本当にスイカのように縦に包丁を入れて外側を線を描くように切っていく。やがて切り終えると、切ったところを起点にパカッとゆで卵が開くわけで。するとどうなると思う?割れた先から少し赤みが増した黄身がドロッと流れ出てくるんだよね。
『なんだろうこの既視感。あれだ、あのケーキ』
『フォンダンショコラ?』
『そ れ だ』
『ワイバーンの卵でもしっかり黄身も漬かってるんだな』
「これを……こうじゃ!」
当然ただ黄身が流れ出ていくのを見続けるわけもなく、俺はレンゲを使い黄身を掬い上げるとそれぞれのホカホカと湯気立つ白米の上にかける。そして黄身がかかった箇所を箸で持ち上げる。――黄身なのに確かな重量を感じるな。
すでに頭がこの漬け卵かけごはん食わずとも美味い事を理解しているのだが、俺の体は止まらない。いや、美味いと分かって食わない馬鹿はいないだろう。いたとしてもそいつは満腹なだけだ。では、いただきます。
「……ふぅ」
『落ち着いていらっしゃる』
『悟りでも開いた?』
「開いちゃいないけど、とんでもないもの作ったね俺は。約4日かけただけある」
「ジョージご飯オカワリ!」
「オーロラさん?俺が感想言ってる間に次行こうとしないで?――じゃあ俺もおかわりするか」
『あれ?ジョージのお茶碗にあったご飯は?』
『ご飯の霊圧が消えた……!?』
『ご飯の霊圧って何だよ』
『そりゃおめぇ、ご飯の霊圧だよ』
いや、普通に食べただけなんだが?この漬け卵の卵黄がね、潤滑油のようにご飯を俺の口へと流し込んでしまうんだよ。一歩間違えれば気管に入って咽ること間違いなしだけども。
2杯目をよそったところで、今度は単体で卵黄を食べてみる。ねっとりとした舌触りに濃厚な卵黄の味。やはり漬けたのがよかったのだろう、キムチの風味とピリ辛さが感じられるのもいい。えぇ?これがこんなにあってもいいんですか?
しかもだ。黄身はなにもドロドロのものだけではない。レンゲで割った中をホジホジしてやれば――熱で固まった状態の黄身も出てきた!これも文句なしに美味い!
「ジョージ、待ったカイあったね!」
「あぁ俺達は今、幸せを手にしている!」
『カンドウテキダナー』
『まぁあんだけデカけりゃ漬ける時間も必要だろうし待ち望むのも仕方ないわな』
「ぴぁー」
『また聞こえた』
『鳥?』
『ジョージの住んでるところ田舎だから野鳥の声とかじゃないの?』
『いやでも今までジョージの配信でそんな音入ったことないと思うんだけど』
『あれ?何かジョージの後ろの戸、徐々に開いてない?』
『マジじゃん』
『え?誰かいるの?』
「ぴぁー」
『またへんな音!』
『何?心霊配信?』
俺は腰に感じる重さに思わず苦笑いを浮かべる。その重さの正体は「ぴぁぴぁ」と鳴きながらよじよじと俺の背を登っているようで徐々に重みが腰から背中へ肩へ、そして頭へと辿り着いてしまった。そうなれば必然的にカメラにその姿が映ってしまう訳で。
「……はぁ、やっぱり来ちゃったか」
「キチャッタネー」
「ぴぁー!」
まるで登頂成功と言いたげに遠吠えチックに鳴くのは鷲の頭に獅子の体を持ち、体の色んな箇所に赤く輝く宝石を露出させたジュエルグリフォンの幼体である。意図せずお披露目という形となってしまい、Twitterのトレンドに載ってしまったのは言うまでのないことかも知れない。




