俺は置いてお前だけでも逃げろ!
「なんだよアイツホントにもう!」
「――!」
背中に手痛い一撃を浴びて一瞬意識を失いかけたが、死にたくない一心で意識を取り戻した俺は再度逃走を図り、これに成功する。もし逃げ遅れたりしたら丸呑みにされていたことだろう。そんなの創作物の中だから需要があるのであって、リアルの人間が丸呑みなんてされたらたまったもんじゃないよ。
……うん、必死になってアドレナリンがドバドバ出ているおかげか、背中が全く痛くない。けど落ち着いたらすぐにでもポーションで治療しておかなければね。
それにしても、熱を操る大蛇か。図体に似合わない素早い動きも厄介なのに欲張りすぎないか?どんな突然変異したんだっての!
「――!」
「うおっあぶねぇ!」
オーロラからの警告。彼女の指示通り思いっきり跳躍し木の枝に止まると、丁度俺のいた位置にアカオオダイショウが素通りする。これは俺一人だけだったら確実に喰われていたからオーロラ様様だわ。そしてそのがら空きの背中にトラバサミをくれてやる!
「シャアアアア!!」
おおっと、トラバサミが鋭い音を立てて鉄の口を閉じる。刃のようなその口は、アカオオダイショウの鱗を貫き肉まで達したようで赤い血飛沫が飛んだ。なんだ?頭より胴体の方が柔らかいのか?誰かが倒すときにいいヒントになりそうだが――そのヒントを届けるまで俺は生きてられるかな!?
トラバサミによる痛みに身をくねらせ悶えるアカオオダイショウを尻目に、俺とオーロラは再び頂上目指して足と羽を進める。さらばだ、トラバサミ2号!また会える日を楽しみにしてるぞ……!
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「着いた……まずは第一ミッション達成」
「――」
無事山頂――本来アオオオダイショウがいるはずのエリアに辿り着くことが出来た。チラリと後方を見るが、アカオオダイショウの姿は見えない。が、俺達が走ってきた方向から這ってくるような音か聞こえ、それがどんどん大きくなってくるのがよく分かる。近いうちにやってくるなぁこれは!
さて、スマホを確認すると時刻は5時。日も沈みかけ、空が夕焼けに染まっている。……ピット器官があり夜目が効くアカオオダイショウに夜戦は不利なんだけど、冒険者の救援はまだですかね?
来ないのであれば俺達でアカオオダイショウをどうにかしなきゃいけないことになるんですか?うーん、オーロラの魔法はともかく、俺自身が戦力になれていない。残すトラバサミも途中でもう1つ使ってあと1つ。武器になりそうなショートソードもあの大蛇相手には効果が少なそう。
いよいよもって絶体絶命か?俺としては配信を楽しみにしてくれている視聴者の為にもこの先生き残りたいところではあるが、打開策が見つからない。最悪の場合は――
「オーロラ、いざとなったらお前だけでも――痛い!」
「――!!」
オーロラさん?そこはビンタとかじゃないんですか?頬にドロップキックは痛いんですけど?あ、はい。ふざけるなと。私と貴方の仲はそんなものかと。私だけ生き残っても意味がない、と。……オーロラぁ!え?美味しい物食べたりとか酒が飲めなくなる?一緒に配信できなくなるのも嫌?お、おぉ……ありがとう?
なんてお涙頂戴したところで事態が好転するわけではない。ん?遠目でよく見えないが、ボスエリアの片隅に何か変なものない?それに気づいた所で、少しずつ大きくなっていた音が一気に膨れ上がった。まずい、来た!
「シュルルルルァ――!」
うっわ、アカオオダイショウさん大分苛立っておられる。そりゃちょこまか逃げられてそれでいてしっかりと痛いトラバサミを喰らわされたんだ。怒らないわけがない。こりゃ冒険者2人追ってた時とは違って遊ばずに仕留めに来るわ。
俺も覚悟を決めてここで奴を迎え……やっぱり気になるな、あの異物!俺は全力で駆け、さっき見つけた異物に近づく。そして近づいたことでその異物の正体が判明した。
「宝箱!?」
「――!?」
そう、そこにあったのは紛れもなく宝箱。以前俺がトラバサミセットを見つけた時と幾分か豪華な気がするが……何でここに?ボスであるアカオオダイショウの宝箱は奴を討伐して初めて出てくるはず。ならこれは?自然発生したものか?――って考えてる場合じゃない!もしかしたらこの状況を逆転する何かが入っているはずだ!うおおおおおおおおおおお、開けゴマああああああああああ!
宝箱の中から光が漏れる。それはまるで祝福のように、俺とオーロラを照らす。やがて光が収まり、中のアイテムが露わになる。そこにあったのは――
「え?矢1本?え?待って、弓は?」
はやく配信回書きたいナァ……




