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【甘い物は】これはただの海鮮鍋じゃ……【入っていません】

「えー、最近漸く肌寒くなりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。ジョージです」

「オーロラです」

『アッハイ』

『久しぶりに畏まった挨拶見た気がする』

『ようやく寒くなったって言ってもどうせ来週には暑くだろどうせ』

『地球ちゃん、今の時期は日本は涼しくなる季節なんやで……?』


 コメント欄の言うとおりである。暦の上では秋の癖に残暑残りすぎなんだよ。今年の夏、あんだけ暑くてまだ暑さ残っているとか、その熱エネルギーどこかで有効活用できませんかね。

 さて、挨拶もそこそこに早速今日の料理の紹介に入る。とはいっても、机の上にガスコンロがあってその上に鍋が載ってりゃ嫌でも分かるだろう。配信前から火を点けていたことで既に鍋はグラグラと音を立て始めている。


『鍋か。寒くなった頃にピッタリだな』

『まさかまた火鍋とか言わねぇよな?』

「安心してくれ、皆の衆。今日の鍋は何の変哲もない海鮮鍋だ」

『海鮮鍋かー、えぇなぁ』

『火鍋の時は見てるだけで汗が噴き出てたわ』

「ジョージ、ハヤク食べたい!」

「ん?おぉ、そうだな……ちょっと待ってな」


 敢えて視聴者に見えないように鍋の蓋を持ち上げて中を確認する。メガネを掛けていれば曇っていたであろう程の湯気が顔面を襲うが、ちょっと熱いくらいで問題ない。よしよし、肉も魚も野菜もいい具合に火が通っているようだな。


「それでは御開帳!見るがいい視聴者たち!これが俺の鍋だああああああああああ!!」

『湯気』

『何も見えねぇ』

『めのまえが まっしろに なった!▼』

「あ、ごめん。オーロラ、カメラ拭いてあげて」

「ハーイ!」


 開封した勢いか、思った以上の湯気がカメラの方に流れてしまい、配信映像が真っ白になっていた。そうはならんやろ、なっとるけども。まぁ流石にこのままという訳にもいかないので、オーロラにカメラ用のレンズクリーナーを持たせてカメラのレンズを拭いてもらうことに。


「~♪」

『あ゛っ、オーロラちゃんが近い』

『ありがてぇありがてぇ』

『寿命が延びた』

『前々から思っていたが美肌よなぁ……』


 鼻唄交じりにレンズを拭くオーロラ。配信中のカメラを拭こうとすれば、それはもうドアップでオーロラが配信に映る訳だが、コメント欄を見れば大盛り上がりしていた。すげぇな、オーロラパワー。当の本人はコメントに気付かず、熱心に拭いてくれたけど。

 配信画面を確認し、いい具合に湯気も拭き取れただろうし、オーロラにそれくらいで大丈夫と戻ってきてもらう。そこでようやく、視聴者たちが今日の鍋を見ることが出来たわけだが――


『鱈の切り身に白子に明太子に牡蠣にあん肝?』

『お手本のような痛風鍋じゃねぇか!!』

『わ、ァ……』

『プリン体ががが』


 あれ、激辛火鍋よりも阿鼻叫喚してないかこの人たち。見た目で言えばこっちは海鮮鍋で平和な方だと思うんだけど。

 痛風鍋。プリン体を多く含む海鮮食材をふんだんに使用した鍋料理のことで、1日のプリン体摂取量の数倍のプリン体が含まれていることがある。今日作ったこの鍋もどのくらいのプリン体が含まれているかは分からないが、摂取量は余裕で越えているだろう。


『ワイが食べたら痛風待ったなしだな』

『大丈夫?かかりつけ医に怒られたりしない?』

「――お小言は言われるかもしれない。見ていないことを祈る」


 とは言ってみたが、俺のかかりつけ医である粒源先生、結構俺の配信見てくれているみたいなんだよな……。スマホは手元にあるが、サイレントモードにしているから通知が来ていることは分からないけど配信の後が少し怖いな。あの人、声を荒げて叱りつけるタイプじゃないとは思うけどネチネチ責めては来そう。


「ま、まぁいいじゃないか!こんな美味そうな鍋を前にして食べた後のことを考えるのは無粋じゃないかな!」

『人はそれを現実逃避という』

「よぉーし、鍋をよそっちゃうぞー!オーロラ、何が食べたい?」

「まずは、シラコとアンキモ!シイタケと白菜も食べたい!」

『妖精の口からあん肝って言葉が出るの新鮮だなぁw』

『オーロラちゃんだし……?』


 好きなもの思い浮かべてジャーキー出てくる妖精ですよ?今更じゃないですかね。まぁ、俺もオーロラのチョイス大分酒飲みだなと戦慄はしているんだけど。その後によそった俺の皿も鱈の切り身とウニと火器牡蠣とコカトリスのもも肉、水菜に豆腐と人の事は言えなかったりする。

 そして酒だが……プレミアムなビールだよなぁ!


『ありとあらゆるプリン体を取り込もうとしてない?』

『背徳通り越して地獄へ一直線しようとしてない?』

「うるせぇ!食おう!ってことでいただきます、乾杯!」

「カンパーイ!」


 よそった具の中でまず初めに俺が箸に獲ったのは、火器牡蠣だ。いやぁ、よそう時も感じたがすごいずっしりとしている。しかも牡蠣と言えば、火を通すと小さくなる傾向があるのだが、火器牡蠣のサイズは鍋に入れた時から一切変わらない。

 つけだれとしてポン酢や柚子胡椒、大葉わさびペーストと色々用意はしていたが、まずは何もつけずにそのまま一口で行く。オーロラは、白子を選んだようで俺同様に何もつけずにパクリ。


はふい(熱い)!!!」

「アチュイ!」

『何故2人とも少しは冷まそうとしないのか』

『予想を裏切らないコンビよ』


 Oh……オーロラも熱々を口にしてしまったようだな。だが、すぐに気を取り直して口内の火器牡蠣をしっかり咀嚼する。――"海のミルク"だ。牡蠣の二つ名である海のミルクは身が乳白色であることと、牛乳のようにバランスよく栄養を含んでいるからそう言われるのであって、決して味が牛乳だからという訳ではない。勿論、俺が食べた火器牡蠣から牛乳の味がしたわけでも無いのだが、すっごい濃厚でクリーミーなんだよ。


「これはもう――」

「「ビール!!」」


 2人して自分のビールジョッキを持ち上げ、プリン体で染まった口内にプリン体の液体を流し込む。いつも喉ごし最高のビールだが、その喉ごしが何倍にも感じられる。何を言っているのか俺にも分かっていないが――痛風の可能性を忘れるくらい素晴らしいものだということは記しておこう。

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ふたりは! プリン(体)プリンセス!!
腎臓「止まれ! 何者だ!」 ビール「飲み物です!」 腎臓「よし、通れ!」 ビール「うぇーいw」 腎臓に特大負担 腎臓「止まれ! 何者だ!」 痛風鍋「海鮮鍋です!」 腎臓「よし、通れ!」 痛風鍋「実質…
美味いよなぁ……痛風鍋……
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