消息不明の船
◇
二つの夜空が彼方で重なっている。閉じた瞳の景色の様に空の水平線から藍色の光が淡く漏れ出ていた。
静まり返った空は黒く冷たい空気が満ち、水に身体が溺れていく様だった。背中に担いだ反重力装置が暗闇の真っ只中にユニアを浮かせている。どこまでも広く深い夜空の中だった。
さっと遠くの空が白く照らし出され、そしてすぐに砲撃音が渡ってきた。光跡を描く照明弾が無数に打ち上げられ、暗闇に潜んでいた飛行戦艦が次々とあばかれる。異様な戦艦の群れは闇夜に影を落としながら進行している。
夜空は無数の砲撃の燐光が行き交い、燃えゆく戦艦に群がる爆撃機が死神の様な機体の影を空に浮かび上がらせていた。
◇
無線機から静かに音楽が流れていた。
カーテンが揺れる窓から光が差し込み、ユニアは目を覚ました。
かすかに聞こえる音楽がぼんやりとした意識に心地良かった。夢を見ていた。寝返りをうつと、窓からのんびりとした雲が一つと真っ青な空が絵画のよう鮮やかに見えた気がした。
床を伝ってゴウンゴウンと、この市街船を浮かす重力エンジンが鼓動するのも聞こえてくる。いつもの朝だった。
ベッドの上で朝の空気に慣れる。バルコニーから入るそよ風が、ほこりを舞わせてきらめかせていた。
下着姿のユニアはベッドから降りた。立ち上がりあくびをしながら伸びをする。足元の服や本を軽く飛び越える様に歩く。
部屋の壁は鈍く錆びた真鍮板が切り貼りされ、壁伝いにパイプが何本も行き交っていた。元は格納庫だった。パイプに掛けられたタオルを一枚取ると、部屋の端の丸窓の扉を押し開けた。