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最強の霊媒師

作者: 柳田健二


『私は呪われてる』


物悲しそうな顔をして、窓を見つめる少女


『私に関わる人はみんな死んじゃうんだ

友達や家族も』


テスト終わりの放課後

周りが友達を誘い楽しそうに帰宅する中

一人ぽつんと椅子に座る


『周りは気にしすぎだっていうけど

実際に目の前で何人も死んでいくところを見た

私はそれ以来、誰とも関わらなくなった』


トボトボと道を歩く


少女

「ここだ」


学校帰りの少女は

ボロボロの家の前に立つ


『この家には凄腕の霊媒師が住んでいると聞いた

そんなの信じない主義だったけど

医者も心理学者も頼りにならない

私にはもう、ここしか頼るところはない』


少女はドアノブに手をかけゆっくりと開ける


ガチャッ

ギギイ…


少女

「あ、あのー、ごめんください」


暗がりの部屋、人の気配は感じられず


少女

「なにこれ…」


ボロボロの壁や床

使われていない埃まみれの家具

散乱したゴミなど

まるで空き家のような室内


いたるところに虫やネズミが這いずり回る


「ほんとに人が住んでるところなの…?」


ガチャンッと物音がして「うわっ」と驚く少女


「な、なに…?」


不気味な空気に恐怖を感じつつ

音のした方へ進んでいく


恐る恐るドアノブを握り

ゆっくりと開く


ギギギィィ


息を荒くしながらゆっくりと前進


ふと目をやると

そこには鍋の蓋が落ちてあり

少女がそれに近づくと


ガコンッ


少女

「ひっ…!?」


ネズミが鍋の蓋から飛び出す


小さな悲鳴をあげながら後退、今度は後ろから

ドンッと物音がする


後ろをバッと振り返る少女


少女

「はぁはぁ…」


そこには誰もおらず、ホッと一息ついたその瞬間


トンッ


と後ろから肩を叩かれる


少女

「!!??」

「ドロボー」


少女は「きゃあああ」っと大きな悲鳴をあげる


カチッと部屋の明かりがつく


「急に大声出すなよ近所迷惑だろ」


少女

「はぁはぁ…誰!?」


息を切らしつつ男に問いかける少女


「俺はここの家主だ、お前こそ誰だ

人の家に勝手に上がり込んで

警察呼ぶからちょっと待ってろ」


ボロボロのコートに身を包んだ

死んだ目をした男はそう答えると

スマホを取り出し

番号を入力して耳に当てる


少女

「ここの家の人!?じゃあこの人が!?」


「もしもし、あぁはい、実はですねドロボーが」


少女が男に駆け寄る


「あ、あの!!あなたが噂の凄腕霊媒師ですか!?」


男は電話に耳を当てながら横目で少女をじっと眺める



---


「じゃあお前、俺の依頼者ってわけか」

少女

「はい…呪いを、解いて欲しいんです」


椅子に腰掛け対話する少女と男


「どうやって俺のことを知った?

俺はもう引退した身だが」


少女

「近所で噂になってました」


それを聞いて男は死んだ目を輝かせる


「ほぉ、俺も名が知れたもんだ

どんな評判なんだ」


少女

「生臭い、腐乱臭のする

自分を幽霊だと思い込んでる変人だと…」


「悪いが帰ってくれ俺はとても忙しいんだ」


評判を聞いた途端、突っぱねる男


少女

「あなたは凄腕の霊媒師だと聞きました

報酬さえ払えば依頼をこなしてくれると」


「俺は死んでからそういう商売はもう引退したんだ」


少女

「やっぱり死んでるんですか?どう見てもそうは見えませんが…」


「昔な、すんごく悪い霊と戦ってな

除霊を試みたが失敗してこのざまだ」


少女

「…どのざま?」


霊媒師

「俺は霊体になった後、すんげー特訓して

なんとか実体を得ることに成功したが

正直もう除霊とかめんどくさくなった

死んでるし、もうどうでもいっかってな」


少女

「そうなんですね(やっぱり噂通り変な人だ、こんな人が本当に凄腕の霊媒師なの?)」


少女は男に若干の不信感を抱く


霊媒師

「お前信じてないだろ」


少女

「信じる方が難しいです」


霊媒師

「ふん……5万…」


ボソッと呟く男


少女

「…はい?」


霊媒師

「5万で受けてやるよその依頼」


少女

「引退したんじゃなかったんですか?」


霊媒師

「呪いはな、そう簡単に解けるもんじゃねーんだ

だから優しい俺がお前の呪いを特別に解いてやるって話だ」


少女

「私は学生なので、5万はちょっと」


霊媒師

「じゃあ五千でいい」


少女

「なんで急にそんな積極的に?」


男の態度の変化に戸惑う少女


霊媒師

「言っただろ特別サービスだ

困ってる人は見過ごせないのが俺の性分

で、払えるか、払えないか、どっち?」


少女

「…?まぁ、それくらいなら払えますけど…」


霊媒師

「よし、決まりだ支度しろ

表に出るぞ」


「まずお前にかかった呪いの種類を調べねーとな」


そう言って男は外に出る

少女は疑いつつも男についていく


---


-市街地-


霊媒師

「お前の呪いは関係者が次々と死んでいく

家族も友達も」


少女

「はい」


霊媒師

「お前に関わったもの全てが死ぬ…

連鎖型?不幸を呼ぶ女?」


少女

「…」


霊媒師

「呪いは人の迷いや恐怖につけ込んで侵入してくるのが一般的だ、何か心当たりはないか?」


少女

「何もわかりません、気づいたら

もう、こうなってて…」


少女は浮かない顔をして

うつむきながらそう答える


霊媒師

「ふぅん、乳児から取り憑いた悪霊の仕業とかか?」


男と少女が話してる最中

後方から一台のトラックが男めがけて突っ込んでくる


少女

「!?危ないっ!!!」


霊媒師

「!」


少女の叫びも間に合わず

男は暴走したトラックに跳ね飛ばされる


ベシャアッ


少女

「っっ!!」


少女は咄嗟に口元を押さえ

動揺しながら男に駆け寄る


少女

「霊媒師さん!しっかりしてください!

霊媒師さん……っ!」


男を抱き寄せると頭や鼻から多量の出血

見るからにもう助からない状態に


少女は悲痛な声で叫ぶ


「うあぁぁ…!!やっぱり、私は呪われてるんだ…っっ!!関わった人たちはみんな、私のせいで…ひぐっ…霊媒師さん、ごめんなさいっっ

霊媒師さん…っっ」


「オイ」


泣きじゃくる少女の横で男の声がする


霊媒師

「寝かせてやれよ」


別の場所からの男の登場に「うわっ」と驚き尻餅をつく少女


少女

「え?なに?マリオ?兄弟?」


チラチラと立ってる男と抱えてる男を見比べて

戸惑う少女


すると抱きかかえていた男が

シオオオッと枯れていき、少女はまたも驚く


少女

「これって…」


霊媒師

「知らん、なんか、抜け殻みたいな感じ」


「うん、まぁでも、大体掴めたわ」


少女

「…何がですか」


霊媒師

「呪いの正体」


戸惑う少女の横を通り抜け、男は続ける


霊媒師

「伝染する呪いだな

お前に関わる者はみんな

なんらかの事故に巻き込まれ命を落とす

さっきの俺みたいに」


トラックの運転手や通行人が駆け寄る

「おい、あんたら大丈夫か!?」

「きゅ、救急車!」


霊媒師

「あぁ大丈夫っすよ」


男は周囲をなだめつつ

少女と会話を続ける


霊媒師

「いわゆる流行り呪いだ」


少女

「流行り呪い?なにそれ、初めて聞きましたけど…」


霊媒師

「とりあえず一旦家に戻るぞ

呪いの正体も掴めたしな、色々と準備しねーと」


男に言われるがまま

少女は男の家に引き返す


---


-男の家-


椅子に座り話をする二人


少女

「…本当に幽霊なんですね」


霊媒師

「だから言ってるだろ」


少女

「血出てましたけど」


霊媒師

「悪いか、幽霊が血を出しちゃ?」


少女

「いや…」


少女の反応に不満を抱きつつも

男は「まぁいい」と言って本題に入る


霊媒師

「さて、これから除霊をするわけだが

お前、除霊をするのに何を使うかわかるか?」


少女

「…お札とかロウソクとかじゃないですか?」


霊媒師

「まぁ素人はそう答えるだろうな

映画や漫画だとそういうのを使う場面はよくある

実際の除霊にも確かにお札やロウソクだけじゃなく聖水や十字架なども使う所もあるだろうが

それだけじゃ呪いを完全に消し去るには不十分だ」


少女

「じゃあ何を」


霊媒師

「俺はこれを使う」


男が取り出したのはパイプレンチ


少女

「パイプレンチ…ですか?」


男はコクっとうなずく


霊媒師

「実体を持たない幽霊には物理的攻撃は効かない代わりに除霊するのは簡単だ

対して実体を持つ幽霊にはまじないによる除霊の類は一切通じない」


「それどころか相手の呪いの方がはるかに上であることが多い

霊媒師とは言え、生身の人間じゃまず太刀打ちできないだろう」


「だが、こいつを使えばそれも簡単に対処できるわけだ」


パイプレンチを掲げながらそう語る男


「…それがですか?」


少女は若干の不安を抱えつつ

男にそう問いかける


霊媒師

「あぁ、お前は素人だから

こいつの凄さがわからねーんだろうが

実際除霊を始めたらこいつがどんだけすげーか

わかるからな、期待しとけ」


そう言って男は立ち上がり除霊の準備に取り掛かる


---


二つのロウソクに火をつけ、

離れて置き、中心にチョークで円を書いていく男


少女

「なんですか、それ」


霊媒師

「魔法陣」


男は魔法陣を書いていた


「幽霊ってさ

実体のある幽霊と実体のない幽霊じゃ

やっぱ違うんだよ

みんなさ、幽霊は除霊できるもんだって信じてるけど

でもそれってさ実体のない幽霊限定なんだよなぁ」


少女

「……」


「実体持った幽霊にはそんなの通用しない

いくら除霊しようが、いくら封印しようが

何度でも復活する、無意味なんだよ

俺も死んでわかった、実体持った奴は幽霊の中でもエリートなんだって」


魔法陣を描きながらダラダラと語る男


「今思うとあの頃は未熟だったな

俺も幽霊ならなんでも除霊できるって信じてたから

血も出ねぇって思ってた、さっきのお前みたいに」


「ほら、描けたぞ、この上乗れ」


「今からお前に取り憑いた呪いを

実体化させる、そこにいれば安全だから」


男にそう言われ、魔法陣の上に乗る少女


霊媒師

「いいか、これから何かあっても一歩も外に出るなよ

呪いってのはマジで粘着性が高けーから

少しでも外に出たらまたフリダシだ」


男はそう言って目を瞑り

静かにお経を唱え始める


「〜」


途中で少女の顔の高さに手をかざし

続けて唱える


少女は不安と緊張で冷えた汗が流れ始める

鼓動もどんどん激しくなっていく


男の表情も徐々に険しくなっていく


「〜」


お経のリズムが早くなっていく


ボッボッとロウについた炎が揺れ始め

ガタガタガタガタッとあちこちで物音や

ガラスの割れる音が響く


男は急に目を開ける


少女

「!!」


お経が止まり

周りも静かになる


しばらく沈黙したあと

少女が不安げに男に声をかける


少女

「…あの」


霊媒師

「目を閉じろ」


冷たくそう言われ

少女は何も返せず静かに目を閉じる


息遣いやギイギイときしむ床の音だけが

少女の耳に入る


少女

「…」


途中で男がどんどん離れていくのがわかり

不安と恐怖に駆られながら

必死に目を瞑り、その孤独な空間に耐える


ボッボッと再びロウソクの火が

今度は激しく揺れる


そして


ドンッ


と突然大きな音がして

少女は驚き、拍子に目を開く


「オォォォォオオォ」


そこにはギョロギョロとした目の

不気味な女が立っていた


少女は声を震わせ、息遣いが荒くなっていく


「オォォォォオオォ」


不気味な声をあげる女は魔法陣で作られた結界にべったりと張り付く


「こっちだ!」


不意に声がして女がその方向を向く


バコォッ


と女の顔面をパイプレンチでぶん殴る男


驚く少女に意を介さず

女は殴られた反動で宙を舞い、地面に勢いよく叩きつけられる


ドシャアッ


---


ゴゴゴゴゴ


あたりに埃が舞う


パイプレンチを握りしめ立ち尽くす男


女がゆっくり立ち上がるのを見て

男は目を鋭く光らせ追撃しにいく


霊媒師

「うぉぉぉ!!」


女はカッと目を見開き男を睨みつける


霊媒師

「……!!」


衝撃波のような強い突風が吹き

ドパァンッと男の体が破裂し、パイプレンチが

床に転がる


ガチャンッ


少女

「あっ…」


反動でバランスを崩し、転倒する少女


「っっ…!」


魔法陣から外に出たことに気づき

ハッとして目を開くと、体に女が跨っていた


緊張で体が強張る少女


「オォォォォオオォ」


不気味な声を上げる女に

復活した男が反撃を喰らわす


霊媒師

「おらっ!」


バキッ


女の下顎目掛けてパイプレンチでフルスイング、女はそのまま後ろへ吹き飛ぶ


ドチャッ


霊媒師

「陣の中に戻れ!」


少女にそう叫び、立ち上がる女に向かって走り出す


男は走りながら指でシュッシュッと切り、

女の動きを封じる


「除霊!完了!」


男はパイプレンチを大きく振り上げ

女の顔面に勢いよく叩き落とす


「オォォォォオオォ……っっ!!!」


女はうめき声を上げながら消滅する


シュオオォォ…


---


除霊後、少女と挨拶を交わす


霊媒師

「これでもうお前の中から霊はいなくなった

お前は自由だ」


イマイチ実感のない少女


霊媒師

「報酬は後日受け取る、何かあったらまた連絡してこい、心配ならな」


そう言われ男の家を後にする少女


---


数日後


「おはよ」


「今日さ、駅前でーー」


「あはは」


『あれから私の周りで大きな事件は起きなくなった、友達もみんな何事もなく過ごせてる』


「ねぇねぇ、一緒に帰ろ!」


少女

「うん!」


少女の顔には暗い影がなくなり

明るい表情を見せるようになった


『あの人は…あの人は本物だ』


『報酬を払えばどんな呪いも解いてくれる』


『凄腕の…いや、最強の霊媒師』 


少女は笑みをこぼし

霊媒師に心から感謝して

学校生活を楽しく満喫するのだった


おしまい





-男の家-


ズズズーっと紅茶を飲む男

5000円を眺めながら呟く


「樋口一葉…」



最強の霊媒師(完)

お礼:誤字報告下さった方ありがとうございます

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