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第2話

 

 2040年1月1日 中華人民共和国 首都北京 中南海


 近年の海面上昇により長江デルタ地域が水没した事で上海などの主要都市を失った中国の没落は早かった。

 経済的成長は過去の物となり、残ったのは国力に似合わない程の強大な軍事力と経済発展の為に犠牲になった汚染された国土、そして約8億にも達する多過ぎる国民だった。

 そんな経済的縮小と没落を経験した中華人民共和国だったが、政治体制は他国が思うよりも強固だったらしく、未だに中国共産党による事実上の一党独裁で、沿岸地域になった北京が変わらず首都だった。

 そんな首都北京の更に中心部にある中南海ではこの中国の行く末を決める会議が行われていた。

 そんな会議だが、7人の出席者は全員が笑顔でまるでプレゼントを貰った子供みたいに嬉しそうであった。


「ハワイが東に移動した?最高だな!」

「しかも、この世界のルールに縛られてない国家だ。」

「1番に接触したいが、アメリカか日本に取られるだろうなぁ。」


 まるで自分達の領域が増えたかのような話だが、この世界のルールに縛られてないという事は何しても問題ないという事である。

 それが例え核を使った恫喝でも破壊でも。


「だが問題は相手の軍事力だ。それ次第では経済的に取り込むしかあるまい。」

「少なくとも我が国の友好国にしたいなぁ。」


 自分達の行いが原因で日本・アメリカ・オーストラリア・インドとその他の国を含めた太平洋・インド洋版NATOであるQUADが出来たのは近年の中国外交における最大の汚点である。

 最もQUADはNATOみたいな軍事同盟で無くお互いの繋がりも弱く、共同参戦事項もない緩い繋がりでしかないのだが、中国の周りを囲まれただけでも大きな脅威である。

 最も、世界中の国全てが海面上昇の影響を受けてるのでQUADも足並みが揃わずガタガタなのだが、今は関係ない。


「どうせアメリカは新しく出来た国を国連に入れようとするだろう。リミットは国連に入るまでの約1年だな。それまでは常任理事国の権限を使って延ばせるが、それが限度だな。」

「だが、我が国の国連での影響力が、」 


 そう言ったのは外交部長である。

 常任理事国の力を使えば数年は延ばせるが、そうなれば相手に対応させる時間を与えてしまい戦争は泥沼となってしまう。

 中国の影響力はここ十数年で大きく減少し、国連の常任理事国から転落するのも時間の問題と言われていた。

 そして当然ながら異を唱える者をいた。


「だが、台湾より優先させるのもおかしな話だ。」

「アメリカ大統領が明言してしまったのだからな。台湾と戦争する時は日本やアメリカ、オーストラリアとも戦争する時だ。来るべき日の為に前哨基地は必要だろう。」


 現在の中国人民解放軍の揚陸能力は控えめに言っても世界最大規模である。

 ドック型揚陸艦の【071型】を8隻と強襲揚陸艦の【075型】を8隻、そして空母型揚陸艦の【076型】も現在建造中であり、台湾侵攻を前提とした戦力は他国は勿論世界最大の海軍国家のアメリカと比較しても頭一つ抜きん出ている。

 もちろん、財政難の近年では新た艦艇の建造は厳しく、勢いのあった頃の艦艇を補修しながら使ってるのだが、それでも数は力であった。


 更にこの数ヶ月前にアメリカ大統領が「台湾はアメリカが守る!」と明言しており、後に発言を撤回してないので今回はガチなのだろうと周辺国も考えていた。

 最もその数日前に台湾がアメリカから大量の武器を購入した事は関係ない、筈である。


「近年は日本も軍拡著しいからな。正直言って幾ら軍拡しても他国も合わせて軍拡するからイタチごっこだぞ。」

「ここ十数年は経済的な指標も芳しくないからな。これ以上の軍事予算の支出割合は勘弁して欲しいね。」


 言っても中国自体の内需はかなりあるので、沿岸部の工業地帯の消失は中国経済に壊滅的な被害をもたらしているが、致命的ではない。

 最も、中国共産党内部の足の引っ張り合いにより、現在は致命的な被害になりつつあるが今はまだ大丈夫である。


「相手が文明の劣る大陸ならともかく、そうでもないんだろう?」

「えぇ、残念ながら。」


 そう言って彼等が視線を移した先には高度に発展した都市の衛星写真があった。

 文明の発展形態が地球と異なってる可能性は十分にあり得るが、可能性だけで舐めてかかるのは危険過ぎた。


「艦艇の派遣はどうなっている?」

「付近で演習中だった巡洋艦1隻、駆逐艦2隻からなら艦隊を派遣中です。ある程度の圧力にはなるかと。」


 彼の言う巡洋艦は055型で、駆逐艦は052C型である。

 どちらの艦も就役から20年近く経過している艦艇で、もちろん近代化改修は行われてるが、そのような艦艇を派遣しなければならない程、中国経済に余裕はなかった。

 ちなみに一時期空母を3隻保有・運用していた中国海軍だったが、金食い虫の空母を運用するリソースは無く、全て除籍され、精鋭の空母飛行隊も空軍に移管された後に廃止されている。


「たった3隻かね?」

「現在12隻の艦艇を出航させる準備をしています。それだけあれば日本やアメリカとも釣り合いはとれるかと。」

「成る程、だが派遣する艦艇が古過ぎないか?」


 経済崩壊後の人民解放軍海軍には2つの選択肢があった。

 余分な艦艇を除籍し、数少ないリソースを使って少数の最新鋭艦艇を保持する選択肢と、数は力の理論で、リソースを今ある艦艇の維持に使う方法だ。

 そして人民解放軍海軍は後者を選択した。

 結果として、艦艇数として世界最大の海軍を維持したが、日米などの周辺諸国が最新鋭艦艇を就役させるのを指を咥えて眺める事しか出来なかった。


「我が海軍の膨大な艦艇を更新する予算なんてありませんよ。更新も遅々として進んでませんから。」

「インド方面や東南アジア、ロシア対策で陸空軍を疎かにする訳にもいかんからなぁ」


 懐が淋しいのは別に海軍だけではなく80万人もの兵力を有する陸軍や数千機もの作戦機を有する空軍も同じである。

 その為、何処に皺寄せが来るかと言うと中国四軍の中で最も小さく政治的発言権も弱いロケット軍である。

 ロケット軍は人民解放軍の中でも核ミサイルを運用する軍種ではあるが、核という物は1発しか持っていなくても数百発持っていてもその影響力はそこまで変わらない。

 その為、一時期は500発近い核兵器と15万人もの兵力を有したロケット軍は現在では数十発の核兵器しか保有しておらず、兵力は僅か1万人程度である。

 これだけの強制軍縮をしてもなお、兵器の更新は遅々として進んでいない。

 それが2040年代の人民解放軍であった。






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