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【短編版】クラスの女子にお弁当を分けてもらい「旨い!旨すぎる!!」とべた褒めしていたらいつの間にか彼女が出来た話

作者: 榊原イオリ

4月中旬のある昼休み。 高校二年に進学したばかりの俺こと山田和樹(やまだ かずき)は大ピンチを向かえていた。


『ぐぎゅるるぅうう……』


俺のお腹が盛大に鳴っていた。 大ピンチとはただの空腹だった。


「はぁ……腹減ったなぁ」


いつもコンビニでおにぎりとか菓子パンを買っているのだけど、今日は財布を忘れてしまい、昼食を買う事が出来なかった。

友人にお金を借りて購買に行くことも考えたけど、仲の良い友人は部活のミーティングやら委員会の集まりだとかで、皆教室から出て行ってしまっている。


仕方が無いので俺は空腹を我慢して教室で眠る事にしたのだけど、周りから美味しそうなお弁当の匂いがしていて色々ともう辛すぎる……


(いや教室で眠るのは無理だわ)


周りの匂いを嗅ぐ度に余計に腹が減る。 そしてこのままだとまたお腹がなりそうで恥ずかしい。

俺は教室で眠る事を諦め、一旦教室から離れる事にした。 どこか時間つぶしが出来る場所は無いかな……


(あ、そうだ)


俺は良い場所を思い出した。 この学校の屋上だったら人は滅多に来ない。 あそこならきっと静かだろうし、昼寝をするのにもポカポカしてちょうど良い気がする。 俺は早速屋上に向かった。


----


ガチャン。


屋上の扉を開けて、俺はそのまま屋上に入った。 すると、そこには既に先客として女子生徒が1人いた。


「「あ……」」


こんな時間に屋上に誰かいるなんて思ってなかったので俺はビックリした。 もちろん向こうの女子生徒もビックリしていた。

女子生徒は1人で黙々とお弁当を食べていた。 周りをキョロキョロと見渡してみたけど、どうやら屋上にはこの女子生徒1人だけしかいないようだ。


「さ、佐々木さん1人だけなん?」

「……わるい?」

「い、いや悪くはないけど」


その女子生徒は、俺と同じクラスの佐々木早紀(ささき さき)だった。 バレー部に所属していて身長は165センチくらいのスポーツ万能な女子だ。 スタイルは豊満なおpp……じゃなかった、まぁなんというか戦闘力は高めの女子ということで。


性格はサバサバとした性格で、女子からの信頼が厚い子だ。 また、男子側からしてもとても話しかけやすい異性ということで、男子からの人気もそれなりに高い。


俺にとっても、佐々木さんは気軽に話せる数少ない女子友達の1人だった。


----


「……それでさぁ、最近春香に彼氏が出来ちゃってさ、これからは彼氏と2人でご飯食べたいって今日言われちゃってさ」


佐々木さんは普段、友達の桜井春香(さくらい はるか)と2人でご飯を食べていたらしい。 でもその桜井さんに彼氏が出来てしまい、邪魔するのは良くないということで、今日は1人で屋上に来てお昼ご飯を食べていた、とのことだ。


「あぁ、そういえばさっき桜井さん、松坂と一緒にご飯食べてたな。 って、え!? あの2人付き合ってるの!?」

「そうそう。 って、え? 山田知らなかったの?」

「し、知らないわ! えぇ……なんかショックだなぁ……」

「まぁ春香は可愛いしねぇ。 ってなに? 山田も春香狙ってたの?」

「いや、そうじゃないけど。 なんか皆青春してるんだなぁって思うと、羨ましくなるじゃん」

「まぁそりゃあ青春もしたくなるけどさ、相手がいないんじゃあね」


そんな感じで佐々木さんと他愛無い話をしながら時間を潰していたのだけど、ふと、佐々木さんの食べているお弁当をつい見てしまった。 その結果……


『ぐぎゅるるぅうう……』


「な、なに今の音!?」

「……えへ」


あまりにも恥ずかしかったので、俺は笑ってごまかした。


「……あ、あのさ、すっごい今更だけどさ、山田、昼ごはん食べてないの?」

「……実は……」


俺は佐々木さんに今日の経緯を説明した。


…………

……


「はぁ、何やってんのよ」

「あ、あはは」

「そういえば確かに山田っていつもコンビニのおにぎりとか菓子パンばかり食べてたね。 両親共働きとか?」

「ん? あぁそうそう。 だから昼飯代を貰っていつもパンとか食べてるんだ」

「ふぅん」

「佐々木さんのは? これって親が作ってくれたの?」

「いや、アタシの家も両親共働きだから。 これはアタシが作ってるの」

「へぇ……って、え!? ま、マジで!?」


どうやら今食べてる佐々木さんのお弁当は自分で作ってきた物らしい。


「す、すごいな……! 俺には絶対に無理だ……」

「まぁアタシは家から学校が近いから朝時間あるしね。 それに料理も好きだから」

「へぇ、いや料理好きってのも凄いね。 じゃあそのお弁当は全部佐々木さんの手作りなんだ」

「まぁねぇ」


佐々木さんは何ともなさげな顔をしてお弁当を食べ続けていた。 俺はそんな佐々木さんのお弁当をじっと見つめた。 それはとてもとても美味しそうなお弁当だった……ゴクリ……


「……はぁ、ったく、しょうがないなぁ」

「……え?」


佐々木さんはため息をつきながら、佐々木さんは食べていたお弁当を俺に渡そうとしてきた。


「ほら、まだ半分くらい残ってるから。 割り箸も余ってるし、ほら食べちゃいな」

「え!? ま、まじっすか!? で、でも悪いというか申し訳ないというかなんというか」

「なにが悪いよ。 そんなヨダレ垂らしてこっち見てきてるクセに。 これでアタシが何もしなかったら、こっちが悪い気になっちゃうじゃん。 ほら」

「あ……」


佐々木さんに指摘されて気が付いた。 俺はヨダレを垂らしながら佐々木さんのお弁当を見ていたらしい。


「い、いやでも、ほら! こ、これ、か、間接キs」

「別にアタシは気にしないよ。 部活後に部員で飲み物の回し飲みとかしょっちゅうやってるし。 あ、まぁ、山田君が気にするってんならしょうがないけど」


そう言いながら佐々木さんはニヤニヤと笑っていた。


「き、気にしてないし!」

「あ、そう? それなら早く食べちゃいなよ、ほら」

「あ、ありがとうございます」

「ん」


俺は少し恥ずかしがりながらも、佐々木さんのお弁当と割り箸を受け取った。


「じゃ、じゃあ……頂きます!」

「ん、どーぞ」


俺は手を合わせてから、お弁当に入っていた豚の生姜焼きを一口食べた。


「旨っ!?」

「そう? それなら良かった」


佐々木さんは少しだけ微笑みながら、そう一言だけ呟いた。

それにしてもこれ旨いんだけど……!! あまりにも旨すぎて、俺の食べるスピードは止まらなくなった。


「旨い! これも旨い! 旨すぎる!」

「ちょ、ちょっと……そんなに連呼しないでも……」

「いやだってめっちゃ旨いんだもん」

「い、いや、そうだとしても、そう何度も連呼しないでほしいんだけど……」


佐々木さんは恥ずかしそうに自分の横髪を指先で弄くっていた。 俺はその後も食べるスピードは一切落ちず、すぐに弁当を食べ終えてしまった。


「ごちそうさまでした!」

「はやっ!?」


佐々木さんは驚愕した顔になった。 俺は手を合わせて感謝を伝えた。


「いや本当に美味しかった! 本当にありがとう! こんな美味しいご飯を作れるなんて佐々木さんは凄いね!」

「す、凄いってそんな事は……」

「いや本当に美味しかった! 特に卵焼き! ちょうど良い甘さ加減で凄い美味しかった! これも全部佐々木さんが作ったんだよね? 本当に凄いよ!」

「い、いや、流石にほめ過ぎだから。 こんなの誰だって出来るよ」

「そんなことは無いよ! いやぁ……また食べたいなぁ……」

「え?」

「え? ……あっ!」


“また食べたいなぁ” なんて図々しい事を俺は言ってしまっていたらしい。 こんな事言うつもりは無かったのだけど、気が付いたらポロっと口から出てしまっていた。


「い、いや、な、なんていうかその! あまりにも美味しくてつい本音が出ちゃったというか、なんというか、その」

「ふ、ふぅん……そっか。 じゃ、じゃあさ……良かったら、明日のお弁当作ってあげようか?」

「え!? ま、マジで……?」

「べ、別にアタシはいつもお弁当作ってるし、1人分作るのも2人分を作るのも対して変わらないしね。 それに……」

「それに?」

「あんなに美味しそうに食べて貰えるんだったら、作ってあげてもいいかなって思っただけ。 あ、で、でも、明日だけだからね!」


佐々木さんは笑いながらそう言ってくれた。


「じゃあお願いしてもいいかな? また佐々木さんの弁当食べたい!」

「うん、わかった。 じゃあ明日もまた屋上集合ってことで」

「うん了解!」


ちょうどお昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったので、今日はそこで佐々木さんとは別れた。


----


次の日のお昼休み。


「お待たせ」

「ん」


俺は今日も屋上に向かった。 そこには佐々木さんが既にいた。 他には誰もいない。

佐々木さんが座っている隣に俺も座ると、佐々木さんは俺に黒いお弁当箱を渡してきた。


「ほら、これ」

「あ、ありがとう! ほ、本当に作ってきてくれるなんて……」

「なんで嘘つかないといけないのよ」

「あはは、ごめんって。 でも本当にありがとう! 大変じゃなかった?」

「大丈夫だよ。 ついでにもう1人分作るだけだし簡単だから気にしないで。 はい、お茶も置いとくよ」

「あ、何から何まで本当にありがとう!」

「ん」


俺は佐々木さんからお弁当とポットに入ったお茶を受け取り、早速そのお弁当の蓋を開けた。


「うわぁ!!」


俺は目を輝かした。

お弁当のオカズはミートボールに卵焼き、煮物にプチトマトが入ったサラダと、非常にカラフルに彩られたお弁当だった。 一目見ただけでもとても美味しそうに思えた。


「そ、そんなに驚く程のお弁当じゃないでしょ」

「いやいや、そんな事ないって! 見た目だけでもめっちゃ美味しそうだよ! 早速頂きます!」

「ん、頂きます」


俺と佐々木さんは両手を合わせてから、お弁当を食べ始めた。


「旨っ! 旨いっ! これも、これも旨い!」

「ちょ、ちょっと! もう少し落ち着きなさいよ」

「ご、ごめん! でも本当に旨いよ!」

「そ、そう……」


始めは旨い旨い! と感想を言いながら食べていたのだけど、次第に俺は黙ってひたすらとお弁当を食べ進めていき……気が付いたらすぐにお弁当を食べ終えてしまった。


「あ……」


食べ終わってしまった事にショックを受けてしょんぼりとしてしまった。 そしてそんな俺の顔を見て佐々木さんは笑っていた。 普通に恥ずかしい。


「ご、ごちそうさまでした!」

「ん、お粗末様でした」


俺はまた両手に手を合わせた。 そうすると、佐々木さんはポットからお茶を注いで俺に渡してくれた。 それのお礼も言ってからお茶を受け取って一息ついた。


「ふふ、山田は美味しそうに食べるね」

「え、なにそれめっちゃ恥ずかしいんだけど……」

「いいじゃん。 作ってる方からしたら、美味しそうに食べてくれるのは嬉しいよ。 それで、どうだった? お弁当の味は」


佐々木さんがお弁当の感想を聞いてきたので、俺は噓偽りの無い素直な感想を伝えた。


「そりゃもちろん、めっちゃ旨かった!! 本当に凄い美味しかったよ!! 本当にありがとう佐々木さん!」

「はは、もうちょい語彙力増やせないの? でもそっか、そう言ってくれるのは嬉しいよ」


俺が素直な感想と感謝を伝えると、佐々木さんは嬉しそうにしながら髪を指先で弄っていた。 それと少し俯いてたからしっかりとは見えなかったけど、ちょっと顔が赤かった気がする。 あれ、そういえば佐々木さんのお弁当、全然ご飯食べてないけど……もしかして体調悪いのかな?


「佐々木さん、ご飯全然減ってないけど大丈夫? 体調悪いとか? 顔もちょっと赤いし」

「!? い、いや違う違う! 赤くなんかなってないし、体調も悪くないよ!」

「え、でも、じゃあ何でお弁当食べてないの?」

「う……」


佐々木さんが戸惑ってるようだ。 いつもキッパリと言う性格の佐々木さんにしては珍しい光景だ。 少しすると佐々木さんは小さく喋りだした。


「……べてたから……」

「え?」

「うぅ……」


聞き取れなくて俺が聞き直すと、佐々木さんは観念したのか声を上げた。


「……だから! 山田が美味しそうに食べてたから、それを見てたのよ!」

「え? じゃ、じゃあ佐々木さんがご飯食べてなかったのって、俺をずっと見てたから……?」

「そ、そうよ! それが何か悪いの?」

「い、いえ滅相もございません」


いつの間にかいつも通りの佐々木さんに戻っていた。 そしてパクパクと自分のお弁当を食べ始めた。


「でも……いいよね」

「うん? なにが?」

「食べる前に両手を合わして“いただきます”っていうのと、食べた後に“ごちそうさま”っていうの」

「え? そ、そうかな?」

「ちゃんと感謝して食べるのは良い事だよ。 アタシも結婚するなら、ちゃんとそう言ってくれる旦那さんのためにご飯を作ってあげたいなぁ」

「だ、だんなさん!?」

「……え? あ!? ち、違うから! 山田! 違うから!」


佐々木さんにお弁当を作ってもらったというシチュエーションで、そのワードは流石に破壊力が高すぎて、俺は顔が真っ赤になった。 もちろん佐々木さんも真っ赤だった。


「ち、ちがうから変に意識するんじゃねぇ!」

「わ、わかった! わかったって佐々木さん!」


その後はお互いに一切何も言わず、佐々木さんは黙々とお弁当を食べ続けた。


…………

……


「ごちそうさまでした」


佐々木さんもお弁当を食べ終えて、両手を合わせてごちそうさまでしたのポーズを取っていた。


「お弁当箱は洗って返すよ」

「いいよ、それくらい。 美味しいって言って貰えてアタシも嬉しかったし」

「そ、そう? いやでも本当に凄いね! すっごく美味しかったし彩りも良くて最高だったよ! そういえば佐々木さんは料理はどれくらいから始めたの?」

「うーん……高校になってからかな? だからまだまだ日は浅いよ」

「そうなんだ。 でもこんなに美味しいんだから、きっと佐々木さんは将来良い奥さんになるね」

「なっ!? お、奥さん!?」

「あ……」


佐々木さんはまた真っ赤な顔になってしまった。 先ほど結婚話をしたせいで、ついつい俺も口が滑ってしまった。


「ご、ごめん。 いやごめんって謝るような事は言ってないんだけど……えぇっと……つまり! 佐々木さんのお弁当は美味しくて最高だった! って言いたかったんだ!」

「わ、わかった、わかったから! もうあまり連呼しないで」


佐々木さんは深呼吸をして落ち着きを取り戻した。 なので俺は改めてもう一度、佐々木さんにお礼を言った。


「本当に今日はありがとう。 佐々木さんのお弁当、すっごく美味しかったよ!」

「そ、そっか……じゃ、じゃあさ、明日もまた作ってあげようか?」

「え!? いいの!?」


俺は前のめりで佐々木さんに詰め寄った。 佐々木さんはビックリしてのけ反ってしまった。


「うわビックリするじゃん! そんな顔近づけないでよね!」

「あ、ご、ごめん。 また佐々木さんのお弁当が食べられると思ったらついつい興奮しちゃってさ」

「こ、興奮ってアンタ……ふ、ふーん、そんなにアタシのお弁当が欲しいんだ」


顔を赤らめつつも、ニヤニヤと笑いながら佐々木さんは自分の髪を手先で弄っていた。 今気が付いたけど、どうやら自分の髪を指で弄るのが佐々木さんのクセらしい。


「そりゃあもちろん当たり前じゃん! 佐々木さんのお弁当がまた食べられるなんて最高でしょ!」

「う……アンタ、す、少しは照れたりしなさいよ! はぁ、まぁいいわ。 そんなに嬉しそうに食べてくれるなら、アタシだって作ってあげたくなるよ、ふふふ。 じゃあ仕方ないから明日も作ってあげるよ」

「ありがとう! 本当に佐々木さんは優しいな!」

「そ、その代わり! お弁当の材料費はちゃんと貰うからね!」

「あぁ、うん、わかった! それはもちろんだよ!」


そこから俺と佐々木さんとの交流の日々が始まった。


----


佐々木さんにお弁当を作ってもらう日々が始まってから一ヶ月が経過した。 毎日佐々木さんの作るお弁当を喜んで食べていたら、いつの間にか毎日作ってもらえるようになっていた。


「はいこれ今日の分」

「うん、今日もありがとう!」


今日のお弁当もとても美味しそうで、弁当箱の蓋を開けた瞬間にとてもワクワクした。


「うわぁ! 今日も凄い美味しそうだね!」

「そ、そう? いつもと変わらないけど」

「そんな事無いでしょ! 本当にいつもありがとう! それじゃあ……いただきます!」

「ん、いただきます」


今日のお弁当も最高に旨い! こんな美味しいお弁当と毎日食べさせて貰えるなんて、俺はなんて幸せ者なんだろう。 そんな事を思いながらバクバクと今日のお弁当を食べていた。


「……今更だけどさ、別にいいの?」

「うん? なにが?」

「ほ、ほら、毎日一緒に食べてるからさ、アタシたち噂されてるじゃん」

「あ、あぁ……」

「アタシは別に彼氏なんていないし、す、す、すす好きな人もいないからいいんだけどさっ!」


この一ヶ月間、毎日佐々木さんと一緒に昼ごはんを食べていたおかげで、俺達は付き合ってる、という噂がクラスに流れてしまっていた。


「で、でもさ、あ、アタシは別にいいんだけどさ! で、でも、山田がアタシの所に来る度に、早紀の旦那が来たって友達が茶化すからさ。 だ、だから、もし山田に彼女とか好きな人がいたらアレだよなぁって思ったりしてさ……」

「そりゃあ俺も大丈夫。 ってか俺なんて彼女なんか一度も出来た事ないし……」

「そ、そっか。 それなら良かった……」

「ん? 良かったって?」

「え!? いやごめん! 独り言だから!」


佐々木さんは顔を真っ赤にして、そのまま黙ってご飯を食べ始めた。 俺も一緒に黙々とご飯を食べていった。


…………

……


「ごちそうさまでした!」

「お粗末様でした」


今日も非常に美味しいお弁当でした。 俺は両手を合わせてから、いつものように佐々木さんに感謝を伝えた。

その後は食後のお茶を飲みながら、昼休みが終わるまで軽く雑談をする事にした。


「へぇ、明日はバレー部の練習試合があるんだ」

「うん、明日は朝から部活だから、久々に明日のお昼ご飯はコンビニ飯で買わないとなぁ」

「ふぅん、朝から部活じゃ大変だ……あっ」


俺は佐々木さんのその話を聞いて、とある事を思いついた。 この一ヶ月間のお礼もかねて、俺は佐々木さんにしてあげたい事が1つあった。


「そのバレー部の練習試合って俺も見に行ってもいいの?」

「え? そ、そりゃ学校の体育館でやるし、バスケ部とか他の部活動もやってるから、見学に来るのは大丈夫だけど?」

「そっかそっか! じゃあさ、明日の佐々木さんの弁当は俺が作るからさ! 明日も一緒に食べよう!」

「え゛っ゛!?」


佐々木さんはあまりにもビックリしたようで、今まで聞いた事もないような声を出していた。


----


土曜日の朝。 今日は佐々木さんの練習試合の日。


俺は早起きをして早速お弁当の準備に取り掛かる。 といってもそんな凝った料理なんて俺には出来ないけど。

それでもいつも美味しいお弁当を作ってもらっているお礼として、今日は俺が佐々木さんのためにお弁当を作る事にした。


「やっぱり運動部だし肉が多い方が良いよなぁ」


そう思って俺は、ミートボールにウインナー、冷凍のから揚げを解凍して、お弁当箱にぎゅうぎゅうに詰め込んでいった。 あとはご飯を入れてっと。


「よし、完成! ……したけど、う、うーん?」


オカズは全部味見したけどどれも美味しかった。 美味しかったのだけど……


「なんか……全体的に茶色いなぁ……」


オカズが全部茶色いせいで、見栄えがお世辞にも良いとは言えなかった。 俺が1人で食べる分には別にいいけど、これを佐々木さんに食べてもらうのは流石に勇気がいるというか何というか……


「佐々木さんのお弁当はいつも美味しそうなのになぁ」


佐々木さんのお弁当を思い出してから自分のお弁当を見てみると、なんというか不細工なお弁当だなと思って恥ずかしくなった。 でも他に入れるオカズも用意してないし、今日はもうこれで行くしかない。


「……はは、佐々木さんに笑われちゃいそうだな」


ちょっと自傷気味にそう呟いてお弁当箱を鞄の中に入れた。


「でも、佐々木さんの弁当って何であんなに……」


俺はこの一ヶ月間、佐々木さんに貰ったお弁当を次々に思い出していった。 味が良いだけでなく、見た目もカラフルに彩られていてとても素敵なお弁当だった。 だから俺は毎日、佐々木さんのお弁当を開けるその瞬間をいつも楽しみにしてたんだ。


……ん? いつも楽しみに……?


「……あっ!」


そしてその時、俺は佐々木さんのお弁当のとある事に気が付いた。 そしてそれに気が付いた瞬間、俺の顔はどんどんと赤くなっていった。


----


その日の夕方。

俺は佐々木さんの部活が終わるまでバレー部の応援と見学をしていた。 今はちょうどバレー部の部活が終わったので、俺は佐々木さんの着替えが終わるのを待っている所だった。


今日のお昼に佐々木さんと一緒に食べたお弁当だけど、佐々木さんは俺の作ったお弁当をバカにする事は決して無く、「お弁当美味しかったよ、ありがとう」 と素直に感謝してくれた。 その時、俺はとても嬉しい気持ちになった。そして今度は、もっと良いお弁当を作ってあげて、次も喜んでもらいたいな……という気持ちにもなった。


「待たせてごめん。 先に帰ってくれても良かったのに」

「全然大丈夫。 じゃあ帰ろうか」


俺は佐々木さんと一緒に学校から出た。 お互いに電車で通学しているので、駅までは佐々木さんと同じ道だ。


「改めて試合お疲れ様。 惜しかったね、次は勝てるように祈ってるよ」

「ありがと。 悔しいけど、課題も見つかったし良かったよ」

「そっか、うん、それなら良かった!」

「山田もさ、今日は色々とありがとうね」

「いやいや、俺も楽しかったから全然お礼なんていいんだよ! ……あのさ、次の試合も応援しに行っていい? また弁当持っていくからさ」

「えっ!?」


帰り途中、俺がまた応援と弁当を作りたいと言うと、佐々木さんは焦ったような声を出した。


「え、もしかして駄目とか?」

「い、いや、な、なんというかその……部活後はめっちゃ汗かいちゃってるし髪もボサボサになってるから、あんまりこんな姿を男子には見られたくないというかその……」

「でも俺はそんな佐々木さんが好きだよ」

「え゛っ゛!?」


俺は唐突に佐々木さんに告白してしまった。 佐々木さんは顔を真っ赤にしてこちらを振り返ってきた。


「って、だ、大丈夫? 顔が真っ赤になってるけど」

「だ、だだ大丈夫なわけないだろ! ってか唐突すぎるだろ!! そ、その……こ、こ、ここ告白するんならもっとムードを考えたりしないのか!?」

「ごめん。 俺もちゃんと頃合いを見てから告白しようとは思ったんだけどさ」

「だ、だけど?」

「今日、改めて佐々木さんの事が好きだって再認識しちゃったからさ、なんかもう我慢できなくてしちゃった、ごめん。 てへ」

「そ、そんな可愛く謝られても全然可愛くない!」


ジトっとした目で俺を睨みつける佐々木さん。 でもその顔はまだ真っ赤だ。


「ふ、ふん。 そ、それで? アタシの何処に惚れる要素があったんだ? 自分でいうのもあれだけど、アタシそんなに女子らしい性格してないし、男受けもそんな良くないだろ。 それなのに何でアタシなの?」


実際はそんな事はない。 佐々木さんはサバサバした性格だから、自分は男子からは敬遠されてると思っているようだけど、異性なのにとても話しやすいということで、男子人気はかなり高い。

あとおっぱ……げふんげふん。 魅惑的なボディをしているから男子人気は高い。 これを言ったら佐々木さんに殺されるから絶対に言わないけど。


「佐々木さんに惚れる要素は沢山あるよ。 元々話しやすい友達だったしね。 あとは優しいし、今日の部活中の姿はカッコよかったし、もう惚れる要素しかないよね」

「う、うぅ……は、恥ずかしいからもうやめて……」

「でも一番の惚れる要素は、お弁当だよ」

「お、お弁当?」


俺はそう言うと、佐々木さんはちょっと拗ねた感じになった。


「な、なにそれ? 色々言った割に、結局は一ヶ月もアタシに餌付けされたから惚れたって事?」


佐々木さんは髪を弄りながら、少しイジけた口調になっていた。 それでも顔は赤いままだったけど。


「あぁ、いや違う違う。 いや、違わないか? 餌付けされたっていうのは合ってるし」

「おい」

「嘘嘘、冗談だって。 ……あのさ、俺が今日作った弁当、どうだった?」

「え? どうって、普通に美味しかったけど?」


佐々木さんは美味しいと言ってくれた。 それはそれで素直に嬉しい。 けど……


「あはは、流石に茶色すぎたよね」

「っ、そ、それは……まぁ、ちょっとは思ったけど」


俺が初めての作った弁当は、見事なまでに茶色いオカズで構成されていた。


「今日、初めてお弁当を作ってみたんだけどさ」

「うん」

「バレー部で運動した後はお腹が空くだろうし、肉が良いよねって思ってさ、片っ端から肉を弁当箱に詰めていったんだけどさ。 あはは、そしたらほぼ茶色になっちゃってさ」


俺は自分の作ったお弁当を思い出した後、今度は佐々木さんがくれたお弁当を頭に浮かべた。


「でさ、その時、佐々木さんのお弁当を思い出したんだ」

「アタシの?」

「そう。 佐々木さんのお弁当はさ、いつも凄い美味しかった。 美味しかったんだけど、それだけじゃなかったんだよね。 彩りが凄い良いって事に気が付いたんだ。 こう……開けた瞬間にワクワクさせるようなお弁当なんだよね」

「あ……」


佐々木さんが作ってくれたお弁当はいつもカラフルに彩りされたお弁当だった。


「卵焼き、トマトのサラダ、ナスの揚げびたし、人参の煮物……どれも美味しかったなぁ」

「そ、そう? そう言って貰えると嬉しいけど」


俺は今まで佐々木さんが作ってくれたお弁当を懐かしみながら思い出していった。 そして一番最初に佐々木さんに言われた事も思い出した。


「佐々木さんは最初、“ついでにもう1人分作るだけだし簡単だから気にしないで”って言ったよね」

「う、うん」

「でもそれは違うって事に今日気が付いたんだ。 だって今まで佐々木さんが作ってくれたお弁当はどれも簡単なんかじゃなかったはずだよ」

「……」

「佐々木さんのお弁当は味もそうだし、彩りも凄い良かった。 俺はそんな佐々木さんのお弁当の蓋を開けるのを毎日凄い楽しみにしてたんだ。 そしてそれはきっと……佐々木さんが俺を喜ばせようとして、毎日一生懸命考えてお弁当を作ってくれたからなんだよね」


俺が佐々木さんにそう言うと、恥ずかしそうに俯いてしまった。


「……だ、だって……山田すっごく美味しそうな顔をして食べてくれたから。 だからアタシもなんだか嬉しくなって、もっと山田の喜んでる顔が見たいなって思ってさ……」

「佐々木さん……」


やっぱり思った通りだった。 佐々木さんのお弁当は、優しさで溢れた物だったんだ。


「うん、本当にありがとう。 今日、初めて自分で弁当作りをしてみて、佐々木さんのその優しさに気が付いちゃったらさ、もう佐々木さんへの好きって気持ちが抑えられなくて気が付いたら告白しちゃった」

「そ、そっか……うん……そっか……」


そしてそこから少しの静寂が訪れた後、佐々木さんが喋り出した。


「……アタシ、土日は部活が多いから……そ、その、デートらしい事とかあんまり出来ないよ。 そ、そそ、それと! え、エロイ事も駄目だかんね! そ、そういうのは学生の間はしちゃ駄目なんだから! ……そ、それでも良いの?」


佐々木さんは顔を真っ赤にしながらこちらを見してきた。 緊張しているようで、いつも以上に横髪を手で弄っている。


「俺は今まで通り佐々木さんと一緒にいられれば、それで十分だよ。 一緒にお弁当食べながら、一緒に笑いあえればそれで良いんだ。 だから……俺は佐々木さんが好きだよ。 付き合って欲しい」

「う、うん……そ、その、アタシで良ければ……お願いします」


こうして俺は佐々木さんと付き合う事になった。 佐々木さんの顔を見たら、ぷしゅーっと頭から湯気が出てるように見えた。


「だ、大丈夫?」

「だ、だだだ、だ大丈夫に決まってるじゃん!」


頭を横にぶんぶんと振ってきた。 何だか可愛らしく見えてしまった。


「じゃあ、これからも宜しくね、佐々木さん」

「う、うん。 よろしく。 あ、あと! さ、さっきの話だけど……」

「うん? さっきって?」


佐々木さんは恥ずかしそうにしながら言ってきた。


「……部活」

「え?」

「……来週の土曜も部活あるから。 だ、だからその……また山田のお弁当が食べたい」

「っ! うん、もちろん作るよ! また応援しに行く! じゃあ佐々木さんの好きな物教えて!」


そういうと佐々木さんは顔を赤らめたまま、ぷっと笑いだした。


「好きな物って。 まだまだ料理初心者のクセに調子乗ってるなぁ、ははは」

「これから上手くなるから大丈夫さ」

「ふぅん、言うねぇ。 じゃあさ、せっかくだし山田が作ってみたい物とか無いの?」


俺は少しだけ考えてみる。 そうするとこの一ヶ月間で一番食べてきたとあるオカズを思い出した。


「うぅん……あ、あれかな。 佐々木さんがいつも弁当に入れてるあの甘い卵焼き。 あれ、俺も作ってみたいな」

「卵焼きかぁ。 あれ作るの結構コツがいるんだぞ、山田に作れるのかなぁ?」


そう言うと佐々木さんはニヤニヤと笑っていた。


「大丈夫、沢山練習するからさ。 それに……」

「それに?」

「好きな人に喜んで食べて貰いたいっていう思いがあるとさ、なんだかそれだけで頑張れるんだよ。 ね、佐々木さん?」

「うぐ……よ、よくもまあそんな恥ずかしい事を言えるな山田は。 でも……」


佐々木さんはまた恥ずかしそうな顔をしながらも笑顔でこう応えてくれた。


「……でもまぁ、うん、楽しみにしてるよ」

「あぁ、うん、まかせて!」


そう言って俺と佐々木さんは笑いあいながら、その日は学校から帰宅した。



そして次の週の土曜日。

その日の弁当箱もまたほぼ茶色い物ばかりになってしまったけど……でもそのお弁当の中には、少しだけ焦げた黄色い卵焼きがちょこんと入っていた。

(終)

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[良い点] ラブい。 青少年の甘酸っぱい関係からしか取れない栄養素が満載。 失われた何かが体に充填されるようだ。
[良い点] 好きな人の胃袋つかんだら勝ちのような事は昔から言いますが今回は弁当がポイントでしたが佐々木さんの作る弁当色合いも考え1個余分に作る事を何日も好きでもない男子には普通出来ないでしょうし山田も…
[一言] とりあえず…弁当代は返済しておきましょうか。1食500円で。 付き合い始めて、お金を支払ったらドン引きされそうですけどねw
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