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【ウ゛ゥ……ッ! グルル……ッ‼】

 蓮は穢憑きとなってしまった。幻覚を見ている時に穢憑き化したからか、どこか苦しそうにも見えた。

【よくやった】

 化穢は嗤いながら、怨霊の霊体が消滅するのを待たずに魂を取り出した。魂の緒を引き裂くようにちぎる。

【ずいぶん、キツそうだなぁ。すぐに楽にしてやるよ】

 化穢はそう言いながら、手の平から溢れんばかりの泥を出現させて、蓮に触れようとした。


「《祓穢衣》!」

【【!】】


 化穢や穢憑きにとって、忌むべき詠唱が聞こえた。


【ガァア‼】

「っ‼」

 即座に蓮が反応し、化穢へと飛び込んできた花耶に鉄パイプを突き出す。

 正確に喉を狙ってきた。花耶はギリギリで躱したが、首の横に擦り傷を作る。

【クソが!】

 化穢は、今度は風の刃を作り、放つ。おそらく前に喰べた妖怪の異能だろう。

 花耶はひらりひらりと躱す。蓮の攻撃と比べたら、狙いは甘い。

 すぐに接敵。

【ぎゃあ⁉】

 敵の腕に掴み、魂を引ったくった。

 ズゴンッ。

「ガッ⁉」

 だが、頭を鉄パイプで打たれた。あまりの衝撃に視界が揺らぎ、よろめく。意識が飛びかけ、祓穢衣が解除されてしまった。

 蓮は今度は脚を叩き、花耶を倒す。

 止めに真正面から喉を突かれそうになった時だった。


 ビュッ。

【【!】】

 火の玉が飛んできて、蓮と化穢は飛び退いた。


「花耶! 大丈夫か⁉」

「んぅ……。へい、き……」

 灼が駆け寄ると、花耶はよろよろと起き上がる。ぼたりと、膝に大粒の赤い雫が落ちた。

 どうやら、鉄パイプで殴られた衝撃で頭が割れたようだ。

 ただ、その事を気にしていられる状況ではない。


【あの、クソメスガキがぁ……‼ お前! これをやるからブチ殺せ‼】

 化穢は蓮の背中を叩いた。

 先程よりも量は少ないが、黒い泥だった。どぷ、と、黒い泥が追加される。


「! やめろ‼」

 灼は火の玉を化穢の腕目掛けて投げる。

 バシュッ。

「⁉」

 だが蓮は、鉄パイプの一撃で火の玉を叩き消した。

 単純な力勝負では灼に軍配が上がる。しかし技術や瞬発力は蓮の方が上である。もはや、物理法則を大きく無視したような魔球でない限り、当てるのは難しそうだ。

【《テンレイジン》】

 駆け出しながらの詠唱により、鉄パイプに黒い刃が形成される。侵度を三に上げられていた。


 灼は花耶の前に立ち、霊棍を斧に変えて槍の一撃は防ぐ。

 ゴッ。

 即座に裏拳。

「っ⁉」

 こめかみに命中。よろけた拍子に斧がずれ、穂先が灼の右目めがけて突き出される。

 花耶は蓮と灼の間に割り込み、穂先近くの柄を蹴って軌道を反らした。

(ひ、ひぇ……! 目、刺されるかと思った……‼)

「避けて」

「!」

 固まっていた灼は、花耶の声で正気に戻るものの、間に合わなかった。


 蹴り反らされた槍は蓮を中心に勢いそのまま半回転。

 花耶は伏せて避けたが、灼の首に柄が当たった。

「ガファッ⁉」


 叩き飛ばされた先には、化穢がいた。

 化穢は、すでに黒い泥を両手にスタンバイしていた。

(ヤバ……!)

 泥を一瞥した、次の瞬間、灼に向けて落としてくる。


「《祓穢衣》‼」

 しかし、花耶が何とか間に合った。灼に被さるように、泥を防ぐ。


「⁉」

 直後、蓮の槍が降ってきた。

 灼は花耶を抱えて転がって躱し、その勢いで起き上がる。

 ゴッという音がしたが、灼自身はどこにも痛みを感じなかったので、無視した。


(あ、危ねー! 花耶ともども串刺しになるところだった‼)

 冷たい汗が流れる。

 力や機敏性はそれぞれ灼と花耶の方が勝っている。なのに、全然勝てそうにない。

 身体能力だけでは補えないほど、蓮の戦闘技術が高かった。


【一つ、取引をしてやろうじゃねぇか。俺は優しいからな】

 化穢は嗤いながら提案した。

【祓穢のガキと、怨霊のゴミ野郎を置いていけ。そうすりゃあ、お前の魂だけは見逃してやる】

「っ‼」

 そう言われて灼は、化穢を睨み、花耶を抱える腕に力を込める。

【おいおい。よく考えりゃあ悪くねぇ取引だろ? お前、祓穢より弱ぇだろ。動きを見てれば分かる。動きが頭カチ割られている状態のそいつ以下じゃねぇか。その上、祓穢は素の状態でもこいつより弱ぇ。このまんまじゃあ全滅だぜ?】

 正直、化穢の言っている事は最もだった。

 これまでの戦闘は、ほとんど蓮が二人の相手をしていた。数的にはこちらが有利でも、勝てそうにないのだ。

【それに、さっきはかなり無茶な動きで躱してたよなぁ? 少なくとも、祓穢の傷に負担をかけるくらいには】

「‼」

 咄嗟に花耶を見る。出血量が多くなっている気がした。避ける時に転がったせいで、傷口をどこかにぶつけ、開いてしまったのだろうか。


 その隙を、蓮は見逃さなかった。


「はし、て」

「!」

 消え入りそうな花耶の声に、灼は駆け出す。

 ビュッという、空気を裂く音が後ろから聞こえた。

(は、早く! 皆、早く来てくれよ‼)

 心の中で懇願する。

「ろうか……」

「え?」

「おと、した……」

 一瞬、花耶が何を言っているのか分からなかった。

(落とした? ……いや、音、した!)

 しかし、瞬時に言いたい事を察する。

 廊下にはエレベーターがある。地下二階へは、エレベーターでしか来れない。

 灼の懇願は、通じたようだ。


「っ!」

 警備室の出口に方向を変える。

「ふせ、て」

 花耶の言う通りに体勢を低くすると、頭上で鋭い音がする。

「かそ――」

「うぐぁ⁉」

 次に蹴りが来る。当たらないように速度を上げるように指示を出そうとしたが、わずかに間に合わず。

 脚に当たり、転ぶ。

 ただ、駆けていた勢いもあって、出口の前に転げた。


【逃がすか!】

 化穢は出口に黒い泥を飛ばし、積み上げる。


 しかし、花耶はまだ祓穢衣を解除していない。意識が朦朧としながらも、維持していた。

 立ち上がる時間すら惜しい。


 灼は、急ぎ這いずるように廊下に出た。

 泥が付着し、穢憑き化しかけるが、抱えている花耶の祓穢衣によって正気を保つ。


「《韋駄天走》!」

「《帯電》!」

 千絃と愛梨の声だ。

 さらに、重量感のある足音がどんどん近づいてくる。


 やっと、仲間が来た。


 立ち上がり、駆け出す灼の目に、安堵の涙が滲んだ。


 その背後に、槍の穂先が迫っていた。


「おわっ⁉」

 しかし間一髪。

 春介が灼の肩を掴んで後ろに押しやる。

 ガァン。

 槍と盾がかち合う。


【くそ!】

「!」

 化穢は数で戦力が逆転したのを悟り、せめて手駒を増やそうと、春介に泥を飛ばす。

「《水鏡》!」

 千絃が詠唱すると、泥のすぐ前に鏡のように周囲を反射させる障壁が三枚出現した。ある理由から、滅多に使わない妖術である。

 泥は一枚、二枚と割り、三枚目も突破。

「《水鏡》‼」

 ヤバいと思った時には、もう一度詠唱していた。今度は二枚出現したが、一枚目で跳ね返された。


(危なかった……! でも、このままだと春介に狙いが集中しすぎるな)

 春介は蓮の相手で手一杯。花耶は負傷により戦闘不能。愛梨は花耶の治療に専念させたい。灼は穢憑き化の危険がある。廊下を炎の海にさせるわけにはいかない。

「《帯電》」

 千絃は自分の脚力を強化し、駆け出す。

「化穢は僕がやる! 春介は蓮をお願い!」

「りょーかい!」

「灼は万が一、蓮が抜けてきた時の足止め!」

「分かった!」

 今にも飛び出しそうにしていた灼にも、愛梨達を守るように指示を飛ばす。今の灼の実力では、蓮には絶対に勝てない。


(本当は、僕はあまり前に出ない方がいいけど、ここは仕方ない! 水鏡を重ねがけすれば……!)

 千絃は回避力が低く、かといって春介ほど頑丈でもない。攻撃方法も妖術による遠距離専門だ。

 本来なら前に出てはいけないのだが、今回は狙いを分散させる為には致し方ない。


【まずはお前から駒にしてやる!】

 化穢が泥を飛ばす。

 空中で飛び散るように破裂。千絃に降りかかる。

「《水鏡》!」

 だが千絃は、先程の障壁を四枚出現させた。二枚は砕け散るが、三枚目で泥を防ぎ、化穢へ跳ね返した。

 しかし、その三枚目にも皹が入る。

 水鏡は、霊力を用いる攻撃を反射させる障壁を作り出す妖術だ。

 その強度は、普通ならば一枚で五、六回ほど妖術を防ぐ事ができる。さすがに、地面を抉るほどの威力を耐える障壁を作るのは難しいが。

 千絃が生前、仕えていた祓い屋から教わった水属性の妖術なのだ。しかし千絃には防御系の妖術に対する素養がまるでなく、使えるだけで得意ではない。

(それと、あの化穢……)

 先程の一撃だけで、相手の強みを大まかに予測する。

(風属性の妖力を持ってるな。泥の散らばり具合から、威力は弱い。ただ手加減してる可能性もあるから、まだ油断はできない。それに、技量はかなり高い)

 穢れの中に自身の妖力を混ぜ込んだのだろう。それで飛距離を伸ばし、空中で爆ぜさせる事で、一定の範囲内に撒き散らせる。


【はははは! カッコつけてイキリ出て来たはいいが、とんだ雑魚じゃねぇか!】

 千絃の水鏡の脆さを見て、化穢はせせら笑う。


【それに、お前の仲間も腹に槍をぶっ刺されてるぜ? あれだと時間の問題だろうなぁ?】

 どうやら、春介は劣勢に立たされているようだ。

【お前の立ち位置的に、穢憑きと俺で挟み撃ちだ。どっちにするか選びな? 穢憑きにぶっ殺されるか俺の手駒になるか】

 化穢はそう言いながら、手の平に穢れの塊を出現させた。

【ほらほらほらほらぁ‼】

 右や左、上や低い軌道で泥の雨を降らせる。

「《水鏡》」

 それを千絃は、何十枚もの水鏡で防ぐ。

 泥を一滴たりとも後ろに通すわけにはいかない。

【おいおいどこにバリア張ってるんだ? 全部叩き割ってやる!】

 二枚の障壁は、泥が当たらない位置に張られていた。

 だいたい、千絃と化穢のちょうど中間地点の壁際だった。

「《痺雷針》」

 泥の間を縫うように、細く小さな雷の針が撃たれた。

【ッ⁉】

 雷の針は壁際の水鏡で反射される。そして、それぞれ時間差で水鏡の映る先――化穢に命中した。

【はっ! そんな蚊みてぇな攻撃で――】

 泥が、やんだ。

「《痺雷針》!」

 今までの挑発分を込めたような、雷の杭を撃った。

【‼】

 あれはヤバい。

 本能的に危険を察知した化穢は、雷の杭を相殺しようと風の刃を飛ばす。


 ズバンッ。


 だが、雷の杭は風を割り、化穢を穿った。


 先程の小さな雷の針は、攻撃の手を緩める為に撃った麻酔のようなもの。確実に本命の雷撃を当てる布石だ。

 あまり威力を上げすぎると水鏡を割ってしまうので、威力を下げた上で複数撃った。水鏡で跳ね返った後、雀の涙程度だが痺雷針の威力も上がったはずである。


【ガハッ……⁉】

 化穢は黒い泥を吐く。しかしそれは、床に落ちる前に霧散した。


 千絃は再び痺雷針の準備をする。

 放置していても死ぬだろうが、まだ奴の意識はある。最期の力を振り絞って何かしかける前に仕留める。


◆◇◆


「!」

 春介は盾を構えつつも、衝撃を流せるように身構えた。

 槍に腕を絡ませるような構え。

 槍を回転させる、ドリルのような突きだ。


 ガァンッ。


 貫通力があるため、真正面では受けきれない。衝撃を流す。

 流しつつ踏み込み、身を翻して勢いをつけ、蓮のこめかみ目掛けて肘鉄を叩き込む。

 同時に蓮も春介の脇腹にカウンター。


「ゴフッ」

【ッ⁉】

 二人の攻撃は命中。

 だが蓮の方が当たり所が悪かったのかそもそも体幹の違いか、春介が先に体勢を立て直した。

 まずは槍を取り上げようと掴みかかる。

 蓮は回し蹴りをかますが、盾で防がれる。

「がっ⁉」

 即座に跳び蹴り。みぞおちががら空きだった。


 思わずよろめく春介。

(あ、ヤバい)

 蓮が、春介の視界をふさぐように、顔面を掴んできた。

 蓮の戦い方の癖だ。

 止めを刺す時、ほぼ必ず目元を塞いでくる。

 急に視界が利かなくなる事の混乱で、対応を遅らせるのだ。


 咄嗟に盾を構えるが、僅かに間に合わず。

 ガジッという音と共に、盾と槍が擦れて火花が散った。


 ドズッ。


 腹部の異物感の直後、熱を伴う激痛。

「ゴフッ」

 喉の奥から血の味が広がる。


「痛いなぁ゛……!」

 ひゅ゛ー、ひゅ゛ーと、湿った呼吸音を漏らしながら、春介は柄を掴み、盾で蓮を押し返し、槍を抜こうとする。

 しかし蓮は、体重をかけて踏み込み、槍を押し込んでいた。


「は、春介さん……!」

「あ、愛梨! 花耶はまだか⁉」

「あと少し! 傷口が深すぎて‼」


 灼と愛梨のやり取りが聞こえてくる。

(愛梨でも中々治しきれない傷って……。花耶、今回もものすごく無茶な戦い方したのかなぁ)

 しかし、戦闘開始してから時間はたっている。

(あと少し。あと、少しだけ耐えれば……!)

「《快癒》……!」

 詠唱を絞り出す。体力を回復しておく。しかし、槍が刺さっているせいで傷口は塞がらない。


「……っ! うああああああああああああああ‼」

「【!】」

 居てもたってもいられなくなったのか、灼が斧を構えて駆けてきた。

 蓮の腕を斬るつもりか、振り下ろす。

 だが蓮は、パッと槍から手を離した。


「⁉」

 空中で斧をピタリと止める。

(あ、危なっ! 春介に追い討ちかけるとこだった……!)

 もし槍に当たっていたら、振動が伝わり、傷口を広げていたかもしれない。


 蓮は、その隙を見逃さず。

「ゴッ⁉」

 灼を蹴り飛ばす。

 その衝撃で、斧を手放してしまった。

 蓮が斧の柄を掴んだ。持ち上げる事はできないが、引きずる事はできそうだ。

「⁉」

 仰向けの灼を踏みつけて押さえ、首に刃をあてがう。

 だが、春介が蓮の手首を掴んで止めた。同時に、灼に指示を出す。


「足を掴んで寝返り」

「!」

 言われた通りに灼は、蓮の足を掴んで寝返りを打つ。

 蓮の足は巻き込まれ、大きくバランスを崩した。

 大きな音を響かせて倒れ込む。春介は、自身に刺さっている槍に注意しながら押さえ込んだ。


「ちょっ、花耶先輩⁉」

 愛梨の慌てた声の直後、春介の視界の隅に、細い足が見えた。

「《祓穢衣》」

 花耶は蓮の頭部に触れ、詠唱。

 黒い靄で一瞬視界が利かなくなるが、蓮の抵抗はなくなったのが感じ取れた。

十七章に続きます。

また、プロットの見直しと修正の為、来週は投稿をお休みします。

十七章1話は8月20日に投稿したいと思っております。



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