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「千絃先輩! いました! 春介さん!」

 一階の出口付近で、愛梨は春介達を見つけた。少し離れた所で探していた千絃に声をかけて、駆け寄る。

「愛梨! それに千絃も!」

 仲間が来た事に安堵する。

「春介くん。あの人達は?」

「おれの仲間。あいつらが来たなら、もう大丈夫だよ」

 愛梨が駆け寄る間に紹介し、安心させる。

「お二人とも! 大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」

「大丈夫だよ。この子も無傷さ」

 そう聞いて、愛梨は半分ほど安堵した。

 ただ、落ち着いてもいられない。


「春介! 蓮が拐われた!」

 駆け寄ってきた千絃が開口一番に言った瞬間、春介と穂花の顔が強ばった。

「どっちの方向⁉」

 春介が訊くと、千絃は地図を取り出し、視界共有で見た場所を指差した。

「ここにエレベーターが出現してる。ここから地下2階に連れてかれたらしい」

「!」

 千絃の説明を聞いて、穂花はある事に気がつく。

「分かった! すぐに行く。二人は穂花を頼む!」

「ま、待って春介くん!」

 穂花は思わず、春介の手首を掴んだ。

「何であなた達、蓮先輩が連れて行かれた場所、分かるんですか?」

 穂花は千絃と愛梨に疑いの目を向けていた。

 穂花にとって蓮は、ヒーローであると同時に大切な友人だ。さらにここはよく春介と出掛けた駅ビル。千絃が示した場所にエレベーターがない事も、地下一階までしかない事も分かっている。

 もしかしたら、春介の仲間に化けているかもしれない、これは罠かもしれないと思った。

「穂花。大丈夫だよ」

 だが、春介が疑う必要はないと言った。

「失礼しました。僕は視界共有という、魔法が使えるんです。今、他の仲間が蓮を拐った敵を追っています。その内の一人の見ている光景を、魔法を通して見たんです」

 と、千絃がやや早口で説明した。


 戦前だったら、そんな説明など信じられるはずがなかった。しかし、今年の冬まで昔話に出てくるような妖怪と戦争をしていたのだ。

「す、すみません! 疑ってしまって!」

 穂花は慌てて春介の手首を離した。自分のせいでタイムロスしてしまったと、青ざめる。

「大丈夫だよ。それじゃ、行ってくる!」

 春介は、階段の方へ駆けていった。


「愛梨も、雷地帯をこの人が抜けたら春介を追ってくれる? 僕はこの人を怨夢の外まで避難させてから行くから」

「分かりました!」

「とにかく、罠と敵には気を付けてね」

「はい!」

 そうして、三人はひとまず地下通路に急いで向かった。


◆◇◆


 三人が地下通路までついた時、千絃の通信鏡が鳴った。

「はい」

『綾人だ。お前ら、今は地下通路あたりか?』

「はい。ちょうど、雷の前です」

『分かった。三階前の踊場で、春介に会った。その生者はそうびが外に送るから、2人が雷を通過できたらお前らも春介の方に合流しろ』

「ですが、他の生者もいるかもしれませんよ」

『残りの階は俺が調べる。お前らは、蓮と化穢、それと怨霊もいたらそっちを頼む。特に化穢は、蓮に勝てるほど強ぇ可能性がある。蓮も穢憑きにされてる可能性も高ぇ。回復補助と術攻撃ができる奴もいた方が確実に化穢を殺れるだろ』

「分かりました」

 千絃は返事をし、通信鏡がきれると同時に愛梨に言った。

「愛梨。もうすぐそうび先輩がこっちに来る。穂花さんは、そうび先輩に任せて、ここ通過できたら僕達も五階に行くよ」

「分かりました」

 愛梨は頷いた。蓮が穢憑きになっている可能性も考えたのだろう。その表情には、緊張が現れていた。


「あ、あの」

 穂花が不安そうに、二人に声をかける。

「先程は、本当に疑ってしまって、すみません」

 今度は頭を下げて、再び謝罪した。

「いいえ。僕も、疑われても仕方ない話し方をしてしまいましたし」

「蓮先輩や春介さんが心配だから疑ったんですよね?」

「はい……。特にあの二人には、人生を救われたので」

 穂花の言葉を聞いて、愛梨は彼女が過去に、ひどい目に遭っていた事を察した。虐められっ子の勘というものだろうか。

 愛梨も、第一討伐隊の皆には本当に良くしてもらっている。花耶達五人に助けられた。特に春介が最初、愛梨の虐めに気がついてくれたのだ。

 たかが虐め程度と思う者もいるかもしれないが、虐めの被害者からすると本当に人生を救われたようなものなのだ。


(でも、こんな人や春介さんと蓮先輩が怨夢に取り込まれたって事は、少なくとも怨霊は三人を怨んでいる人って事だよね)

 愛梨には、どうしてもこの三人が怨夢に取り込まれるほどの強い怨みを持たれるような人物には見えなかった。

 怨霊の目的はおそらく復讐なのだろうが、なぜ復讐をしようと思うに至った原因が皆目検討がつかなかった。

(……もしかして、逆恨みとか?)

 一方で千絃は、一つだけ原因が思いついた。レアケースではあるが、千絃自身も蓮達が人から怨みを買うような人物には思えないのである。よって、自らの死徒としての経験から推察するしかなかった。


「あ! いたいた!」

 怨霊の目的について考えていると、そうびがやって来た。

 それを見た千絃が、雷が落ちている通路を駆け抜ける。その様子に穂花は驚愕していたが、『千絃は妖怪だ』と説明されて納得したようだ。

 レバーを下げ、穂花とそうびが安全圏まで移動できたのを確認して、千絃は再び駅ビルに戻って行った。

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