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「くそ! ここも外れかよ」

 蓮達三人は駅ビルの一階にあるドアを開けようとしていた。怨夢脱出の為である。

 春介と蓮の二人が同時に体当たりをしてもびくともしない。

「あと出口になりそうな所は……。改札横だけかぁ」

 思い当たる出口は、残り三ヶ所ほどあった。しかしどれも駅側にあり、地下通路を通らなければならない。地下通路は電気が雨のように降っているので、どうやっても通れそうにない。

「……この駅ビルって、ゴムスーツとかあったか?」

「いや、見た事はないなぁ。ただ、地下に飲食店があった。油も電気通さないから、それを被ればもしかしたら……」

 と、春介と蓮が話している時、穂花が反対した。

「でも、いくらゴムや油が絶縁体でも高圧の電気じゃあ無理だよ。空気も絶縁体だし、それで放電してるって事はゴムと油も危ない可能性がある」

 さらに、油について付け足した。

「それに、雷で例えるけど温度は油の発火温度を軽く越えてる。感電死を防げても大火傷を負う危険もあるよ」

「そ、そっかぁ。じゃあ油も駄目かぁ」

 しょんぼりと、春介は項垂れた。

 八方塞がりかと思った、その時だった。


「ぉゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」


「「!」」

「……え、何? 今の悲鳴……」

 少し怖くなったのだろうか。穂花は、周囲を警戒しながら春介に身を寄せた。

 春介は安心させようと、ぽふと穂花の頭を撫でた。だが、それでも感覚を研ぎ澄ませる。悲鳴と言う事は、誰かが襲われている可能性もあるのだ。

「ちょっと、反響してる感じだったな」

「だとすると、地下通路で誰かが襲われているのかも」

 と、蓮と春介は位置を予測。

「あたしが行ってくるわ。春介は、穂花を頼む」

「分かった」

 危険な場所に穂花を連れて行く訳にはいかない。しかし、一人にさせるのも危険。春介と蓮は、二手に別れる事にした。


◆◇◆


「……」

「蓮が心配かい?」

 不安そうにしている穂花に、春介は気遣うように訊いた。

「うん……」

 穂花は頷いた。

「私がいるから、別れて行動しなくちゃいけないのは分かってるんだけど……。その、申し訳なくて」

 穂花は生者。護衛の優先度は一番高い。

 甲高い悲鳴が響くような危険かもしれない場所に連れて行く事もできないし、化穢や穢憑きが徘徊している可能性のある、それも罠が設置されている場所に一人で置いていく訳にもいかない。よって、蓮と春介が別行動になるのは必然だった。

「おれも、罠とかは心配だけど、戦闘なら大丈夫さ。あいつ、血みどろ女帝って呼ばれるくらい強いし、敵には一切情け容赦しないから」

 ぽふと、穂花の頭を軽く撫でながら安心させようとする春介。

「それに、蓮って普段は頭悪いくせして、喧嘩とかだと結構頭の回転早くなるんだよ」

 続けて、春介と蓮が中一の時のやり取りも話す。

「あまりにもテストの点が悪すぎて、『喧嘩しながら授業受けたらテストの点、よくなるかな?』って言ってたくらいだから。『学級崩壊もいいとこだから、やめな~』って返しておいたけど」

「ふふっ」

(お、笑ったぁ)

 少し、不安が和らいだようだ。久しぶりに見る控えめな笑顔に、春介は顔が緩む。


「!」

 だが次の瞬間、春介は気がついた。

 穂花の左手薬指に、婚約指輪がはまっている事に。

「……穂花。その指輪って」

「‼‼」

 指摘すると、穂花は反射的に指輪を隠した。

「ご、ごめんなさい……っ。これは……!」

 視線が泳ぎ、口があわあわしている。どう言えばいいのか、迷っているようだ。

「……そっかぁ。安心したよ」

「!」

 穂花は目を瞠り、見つめた。

 春介は、どこか悲しそうな笑顔で、言った。

「心配してたんだぁ。おれと蓮が死んで、君は大丈夫かなって。蓮なんて『何で穂花置いてこっちに来やがった‼‼』って怒鳴ってた」

 実際は拳が飛んできた。その時に、『あたしなんかを助けようとして死んでんじゃねぇ‼』と言われ、春介もガチギレして体落としを返し、そのまま喧嘩に発展。たまたま現世見廻で通りかかった御崎が止めに入ったものの、蹴りと拳であばらをバッキリやってしまった事は、あえて秘密にした。

「でも、ちゃんと支えてくれる人がいたんだね。ちゃんと、幸せになろうとしてる。本当に、よかったよ」

 最後に春介は、祝福の言葉を口にした。

「結婚、おめでとう」

 ズキリ。

 心臓が、痛んだ気がした。


「……二人が死んじゃった後、私は、ずっと部屋に引きこもっていたんだ。その時、人に迷惑をかけない死に方を調べてた」

 穂花は、目に涙を溜めて話す。

「でも、蓮先輩の友達や、春介くんの後輩と友達が、思い止まるようにしてくれた」

 彼らは、人やメンバーを変えて、毎日のように会いに来てくれた。時には本やハンカチ等をわざと忘れて、『後日取りに行くから』と、何かしらの約束を取りつけて、自殺を遅らせるようにしていた。

 少しずつ、二人が死んで辛かった気持ちを親や彼らに話す事ができるようになり、やがて外にも出られるようになった。


 それからかなりの時間が過ぎ、少し遠出する事に挑戦した日の事。蓮の不良仲間の一人に告白された。

「『咲宮先輩の事、まだ好きでもかまわない。あんたを支えたいから、結婚を前提に付き合ってほしい』って……。半年悩んで、数年くらい付き合って、受け入れたんだ……」

 まるで懺悔をするように、穂花は話す。まだ、心のどこかに春介の事があるのだろう。

「もしかして、告白してきたのって白藤君だったりする?」

「うん。……ごめんなさい」

「謝らないでよ。おめでたい事なんだからさ。それにしても、あの人なら安心だ。きっと、君の事を幸せにしてくれる」

 春介はそう言い、穂花に頼んだ。

「おれと蓮は、もう死人なんだよ。だから、これからは君の幸せや旦那さん、ご両親や友人を優先して生きてほしい。……おれの事は、忘れちゃってさ」

 本当は、忘れてほしくない。

 しかし穂花の幸せに、自分との思い出が邪魔してしまうのなら、忘れられてしまっても仕方ないと、春介は考えていた。

「絶対に忘れない」

 だが穂花は、最後だけ拒否した。

「生きてる人達の事を最優先にする。でも、春介くんや蓮先輩の事は絶対に忘れない」

 穂花にとって、二人は人生を救ってくれたヒーローだ。

 忘れられるはずが、なかった。

十六章に続きます。

また、プロットの見直しと修正の為、来週は投稿をお休みします。

十六章1話は7月2日に投稿したいと思っております。



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