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「ここ、どこだ⁉」

 梶原も、気がついたら怨夢にいた。

 部屋を見まわすと、ドアが一つあり、反対側には近未来の警備室のモニターのような画面がある。モニターの手前には、アルファベットと数字の書かれたボタンが設置されてあった。アルファベットと数字は、それぞれのモニターに対応している。さらに、罠と書かれたボタンと幻覚と書かれたレバーがある。レバーは、奥に倒すにつれて強くなるようだ。


「!」

 ふと、春介、穂花の姿が映っているモニターを見つけた。

 その瞬間、梶原の怨みが一気に膨れ上がった。

 モニターを睨みながら、罠のボタンを押す。しかし、何も起こらない。

(こっちのボタンと組み合わせるのか?)

 そう思いながら、そのモニターに対応しているボタンと罠ボタンを同時押しした。


◆◇◆


「うぉわぁ⁉」

「⁉」

 春介は慌てて、異空鞄から霊棍を取り出しつつ穂花を引き寄せた。

 霊棍を盾に変え、傘のように上に向けていると、一瞬後にガガガッと大量の固い何かが当たる音がする。


「ギャアッ⁉」

「うわぁごめん蓮‼ そっちまで手がまわらなかった!」

 蓮は何個か当たったようだ。頭からボタボタと血が流れる。固い何かは、拳大の石だった。

「ご、ごめんなさい! 蓮先輩、大丈夫⁉」

「お、おう……。大丈夫だ」

「とりあえず、回復するよ」

「!」

 蓮はとっさに、かざされる春介の手を掴んだ。

「いや、必要ねぇ」

「いやいやいや。おれならともかく、蓮じゃあその怪我、すぐにはふさがらないだろう?」

 春介は目を見開き、言う。

「春介くん、この怪我、治せるの?」

「うん」

 穂花は春介に確認し、言った。

「また、いつ石が降ってくるか分からない。そこのショップあたりまで、避難してから、手当てしよう?」

「! 分かった」

 春介はそう言って、蓮に肩を貸す。

「蓮先輩も、お願いします。春介くんが私を優先して庇ったから蓮先輩がこんな怪我して……。罪悪感があるんです」

 穂花はしょんぼりと俯く。


(私がいなければ、春介くんは絶対に蓮先輩を守った。ここが死神迷宮なら、私は足手まといにしかならない)

 そんな穂花の様子を見て、蓮は大人しく春介に回復してもらった。

(蓮、いったい何に遠慮してるんだろう? いつもなら『おう。頼むわ』って軽く頼むのに)

 春介は蓮の頭に快癒を施しながら、疑問に思う。

(でも今問い詰めたら、確実にギスギスしそうだなぁ。せめて穂花を怨夢の外に避難させてから訊こう。不安にさせたくないし)


◆◇◆


「あっははははは‼ ざまぁみろ‼」

 警備室で、梶原の高笑いが響く。

 モニターを見ていたが、梶原が最も憎む相手に罠が命中した。

(でも、ア穂花と咲宮には当たらなかったな。何だ? あの盾)

「うわ、なんか回復みてぇなものまで使ってやがる。なれる系主人公かよ。萎えるわー」

 梶原は苛立たしげに、先程のボタンを連打する。しかし、罠の範囲外だった。

「あ? 何だよ範囲狭すぎだろ! クソが‼」

 ダンッ。ボタンの設置された台に八つ当たり。

【おいおい。そんな事やってる場合かよ】

「‼」

 急に声をかけられて、振り返る。

 一見、普通の男に見える。しかし目は白目の部分が黒く、赤い瞳をしていた。化穢だ。

「な、何だお前は⁉」

 梶原は身構える。

【そんなに警戒しなさんな。俺は、お前の手伝いに来たんだぜ?】

 そう言いながら化穢は、蓮達が映っている物とは別のモニターを指差す。そこには、死徒の姿があった。

【あれは、そこの三人を逃がした上でお前を殺そうとする死神だ。あれから守ってやるよ】

 と、化穢は提案する。

「……お前、あいつらの仲間じゃねぇのか?」

 都市伝説とは違い、黒い部分は目玉くらいしかない。しかし、死神の事を知っているという時点で、梶原にとっては警戒すべき相手だった。

【仲間じゃない。何なら、あの死神共が助けようとしているあの三人を俺が代わりに殺しに行ってもいいぜ。お前、相当あの三人を恨んでいるみてぇだしな】

「いや、あの糞共は俺が殺したい」

 梶原の目が敵意に満ち、険しくなる。

 梶原の因果応報だが、人生を狂わせた犯人と逆怨みしている対象だ。獲物を横取りされてなるものか。

【そうか。じゃあ、その手助けもしてやる】

 化穢は、こう提案した。

【見たところ、あの女があの二人の足を引っ張ってる。取っ捕まえりゃ、人質として充分だろ。見失わねぇ程度に追わせれば、ここに誘き寄せられる】

 梶原は、悪くない案だと思った。

 穂花は、蓮と春介にとって『何があっても絶対に守るべき者』である。そんな人物を人質に取られては、下手な抵抗はできない。

 だがそれは、化穢が信頼に足る人物だった場合だ。

「何が目的なんだ?」

 刺すような疑いの視線を向ける。これまでの言葉は、梶原にとって都合のいいものばかり。裏がありそうだと思った。

【礼はそんな難しい物じゃあない。死んだ奴の魂全部だ。それと、死神を殺す時にその罠でサポートしろ】

 条件も悪くはないと思った。

 魂ならば、三人や他の死神を殺す時についでに差し出せる。

 罠も、回復役を即死させる事ができればいいが、先程の春介を見たところ、少し難しそうだ。

 ならば、罠で動けなくなった所を化穢が殺した方が効率がいい。

「よし。それなら協力を受けてやる」

【契約、成立だな】

 化穢は内心、ほくそ笑みながら手を差し出す。握手をするつもりなのだろうか。

「悪ぃけど、お前と仲良くする気はねぇ。あくまでビジネス的な契約だ」

 梶原は握手を拒否した。

 化穢は何かを企んでいたのか、小さく舌打ちした。

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