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「蓮。起きてる? 大丈夫?」
花耶はいつもよりやや大きめの声をかけながら、蓮の部屋のドアをノックした。
朝、朝礼の時間が近づいても春介と蓮が集会室に来なかった。
寝坊かと思い、千絃と花耶はそれぞれ、春介と蓮の部屋に来た。
………………。
だが、返事はなかった。それどころか、物音や気配すらない。
「?」
ドアノブに手をかけると、鍵はかかっていない。しかしさすがに、部屋の主の許可無しでは部屋に入れない。
「!」
どうしようか悩んでいる時、どこからか黒トンボが飛んできて、花耶の肩に止まった。
「任務?」
まだ朝礼すらしていない。よほど緊急な任務なのだろうか。
◆◇◆
鏡の通路に着くと、すでに灼と愛梨、御崎達の班、雪音がいた。
花耶よりも少し遅れて、千絃が駆けてきた。いつも通り、息切れしていた。
「おはようございます。朝早くに申し訳ありません。任務内容を説明いたします。千絃さんは、説明を聞きながら息を整えてください」
「は、ぃ……」
かなり声が小さかったが、千絃は大きく頷いて返事をした。
「雪音さん。蓮と春介がまだ来てないっすよ!」
灼が手を挙げて訊くと、雪音は一瞬、心配そうな表情を浮かべて答えた。
「蓮さんと春介さんは、怨夢内にいる可能性があります」
『『⁉』』
驚愕する全員に、その根拠を話す。
「そちらに設置されている監視カメラに、お二人の姿が見受けられました。夢遊病のような足取りでした。さらに、彼らは怨夢の入り口が発生した地域、神川県西秦市蛙石に移動できる肆の鏡を通過しておりました」
雪音の話に、全員が春介と蓮の心配をした。たまたま肆の鏡を使って出掛け、まだ帰ってきていない事も考えられるが、監視カメラから見た様子や最近の二人の関係等から、可能性は低いだろう。
「今回、神奈川県西秦市の、短沢山にて怨夢の入り口が発生いたしました。周辺を調査したところ、怨夢に取り込まれたと思しき生者は発見できませんでしたので、もしかしたらかなり距離のある生者、もしくは生前の世界にいる亡者が被害に遭った可能性があります。先程も話した通り、蓮さんと春介さんが怨夢に取り込まれた事も考えられます」
生前の世界にいる亡者――屍霊か、死後の世界に逝けなかった亡者の可能性がある。蓮と春介の事もあり、全員に緊張が走った。
「あなた達の任務は二つ。被害者の救出と、怨霊の確保。ただし、もし内部で化穢や穢憑きを見つけた際は、奴らの討伐もお願いいたします」
簡潔に使命を告げ、付け加える。
「また、今回の怨夢は蛙石駅に非常用酷似しております。ですので、地図をご用意いたしました」
そう言いながら雪音は、手に持っていた地図を千絃と御崎に渡す。一人一枚あるようだ。千絃と御崎は、地図を各々の班員に渡した。
地図の一部、いくつかの通路をふさぐように赤いマーカーで印とラインが引いてあった。
「地図上に描かれている線は、シャッターで行く手を塞がれていた場所、印は罠が設置されている場所です。充分、気をつけてください」
雪音はいつものごとく最後に言い聞かせる。
「最後に、殉職だけはしないでください。以上」
『『はい!』』
威勢よく返事をし、全員が肆の鏡をくぐった。
◆◇◆
現場に着き、御崎が諜報隊と短い言葉を交わしている間に補助妖術をかけた。
「あの、御崎先輩」
「ん? 何だ?」
頃合いを見て、千絃が御崎に声をかけた。
「今回、灼は怨夢探索任務が初めてなので、僕達四人一組で行動しようと思ってるんです。大丈夫でしょうか?」
「あー。さすがに一人で初任務の奴の面倒見るのはキツいよなぁ。罠も結構あるみたいだし。よし。安全第一で行け。代わりに、俺らが二手に別れて探索するから」
「ありがとうございます」
「あ! でも赤線のところは灼にぶち破って欲しいから、解散はそこにしてもいいか?」
「大丈夫です」
地図上の赤線は、シャッターで行く手が塞がっている所だ。手っ取り早く、鬼である灼の怪力を利用しようと考えての事である。もし、灼でも無理だったなら別の方法を探さなくてはならない。




