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 囚人服の男は、森の中を走っていた。

 男の名は梶原勇(かじはらいさみ)。八年前に殺人を犯し、服役していた男である。

 結果的に二人死んだとはいえ、実際に手にかけたのは一人。さらに初犯だったという事で、死刑にはならずに懲役十年となった。

 しかしこの男にも、脱獄の機会が訪れた。妖怪が攻め込んできた、戦争である。

 いくら堅牢に造られていても、さすがに鬼の、鉄の塊を片手で軽々と振り回せるような怪力では刑務所も安全ではないと判断され、避難させられた。一般人と隔離された場所だったが。

 梶原は、その隙をついて逃げ出したのである。


(どこだ……⁉ どこに、妖怪共の棲みかがあるんだ‼)

 彼の目的地は、人外界。そこへの入り口を探しているのである。

 ネットが普及している人間界には、もう自分の居場所はない。ならば、人外界で人生の再出発を謀ったのである。


(糞が‼ 何で、俺がこんな目に遭わないとならないんだ⁉)

 因果応報とはいえ、梶原の人生が狂い始めたのは、中学一年生の頃だろうか。


◆◇◆


 梶原は、当時の友人五人と共に秋里穂花(あきさとほのか)というクラスメートを虐めていた。それを、一学年上の不良だった蓮と、柔道部主将に新任したばかりの春介に見られたのだ。

 その日から、穂花は蓮とその舎弟、春介と柔道部員数人で囲われるようになっていた。虐めではなく、友人として、梶原達から守る為にだ。

 その結果、梶原をリーダー格とするグループは穂花に手出しができなくなっていた。だが、この程度では諦めなかった。

 梶原はまず教師を味方につけようと、蓮の悪事を捏造し、チクろうとした。ついでに、蓮が春介の陰口を言っていたという噂も流した。

 さすがにタッパのある春介を相手にする勇気はなかったが、仲間割れと不良達の孤立を狙ったのである。

 だが、すぐにバレた。意外な事に、蓮に対する、成績以外の教師の信頼が厚かった。その上、春介と蓮の仲が予想外によかった為、陰口についても全く信じていなかった。


 その二人に校舎裏に呼び出され、『もう二度とこんな事はするな』『それと虐めもやめて、穂花に謝れ』と、蓮からは本当に中学生かというほどドスの効いた声音で、春介からは冷たく諭された。


 だがそれでも、梶原はやめなかった。

 穂花を、『謝るけど人前では無理』と言って、放課後に校舎裏へ呼び出した。その時二人ほど、護衛として蓮の舎弟がついてきた。

 梶原と友人達は謝らず、三人の顔面めがけて砂をぶっかけた。

 そうして怯ませたところを、蓮と春介への恨みを代わりにぶつけるように殴る蹴るの暴行。


 だが、その時梶原達は知らなかった。

 その時、物影にもう一人、連絡係が潜んでいて、蓮に知らされていた事を。


 数分ほどして蓮が駆けてつけ、一人で梶原達をボコボコにした。おそらく、一分もかからなかった出来事だろう。

 その事を梶原達は教師にチクり、学校から追い出すネタにしようとした。

 しかし、虐められていた穂花が今までの虐めの証拠として、ボイスレコーダーや動画、破かれた教科書や体操服に、泥が染み込んだ上履き等を出してきた。もちろん、自分達が謝罪を装って呼び出し、逆恨みで暴行した場面の動画もあった。


 その結果、蓮はむしろ『虐められていた友人を助けようとした』として、厳重注意と大量の反省文のみで実質無罪放免。梶原達は虐めの内容が悪質すぎた為、一週間の出席停止処分になった。


 それでもまだ諦めずに報復しようと、梶原は高校生の兄に蓮を痛めつけてほしいと頼んだ。その時に、『虐めは冤罪だ』『証拠も捏造だ』とだまくらかした。

 兄はバットや刃物、バイクや鉄バット等の武器と十数人程度の仲間と共に蓮に襲撃した。

 ただ、まさかの返り討ちにされた。バイクで轢こうとしていた兄の友人に至っては、躱された時にバランスを崩してド派手に転倒。一生物の障害を負ったそうだった。

 最終的に警察沙汰になり、兄と友人達は少年刑務所送りに。地元にもいられなくなって、他県に引っ越す事になった。

 梶原自身は、けしかけはしたものの、否定した上に証拠がなかった。証拠不十分となり、少年法に基づいた処分すらもなし。

 その結果、両親と出所した兄の当たりも強くなった。


 それから数年後。梶原は大学受験を失敗。仕事も、高校卒業後に企業に就職したが、逆ハラとセクハラとモラハラをした末に解雇。

 就職活動中に、蓮と春介、虐めていた穂花が駅で楽しそうに談笑しているのを発見した。

 その様子が許せなかった梶原は、後日、金でチンピラを雇い、蓮を襲わせた。予想通り返り討ちにされたが、脚を負傷させるのには成功。

 数日後、蓮を駅のホームから突き落として、殺した。


◆◇◆


(殺せはしたけど、警察の糞野郎共が捕まえやがって。そもそも、俺の人生が狂うきっかけになったあいつらが悪ぃじゃねぇか!)

 梶原は、虐めや殺人について全く反省していないようだ。

(あいつら……特に滝峯さえいなけりゃあ、今頃大企業に就職して、美人な嫁がいただろうなぁ。優秀な子供もいて、まわりの奴らから父親の鏡だと尊敬されて。あの糞女さえいなけりゃ……‼)

 ぎりりと、固い拳が震える。

(あの糞共が、正義のヒーロー気取りで余計な事をしなけりゃ、転校する事もなかった‼ ア穂花も、どんくさい地味女のくせして盗撮盗聴して陥れやがって‼)

 蓮、春介、そしてかつて虐めていたクラスメートの顔が浮かぶ。思い浮かんだ顔を殴るように、木の幹に拳を叩きつける。


(そうだ。滝峯と咲宮はもう死んでる。けど、ア穂花はまだ生きてる。あいつを殺したら、あの世で滝峯と咲宮はどんな顔をするかなぁ)

 逆怨みの末に思いついた事に、梶原は口元をおぞましく歪めた。

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