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 次の日。

 仕事終わりに第一討伐隊の面々が、宴会会場に各々集まった。

 テーブルには酒や茶、ジュースに食事、菓子が並んでいる。

 酒は清酒や焼酎、濁り酒等、種類は豊富。そのまま飲んだり割る為の水も準備してある。ただ、第一討伐隊は成人済みの者がやや少なめだからか、宴会にしては本数が少ない。

 代わりにジュースは多かった。未成年や、酒が飲めない者用だろう。ジュースとはいっても、人外界の果物を絞って作られた果汁百パーセントの物か、砂糖水等で薄めた物。

 食事も豪華だった。

 雪音が挨拶を軽く済ませ、和気藹々とした賑やかな雰囲気で慰労会が始まった。


「ん~♥️」

 愛梨が料理に舌鼓を打っていると、花耶を挟んだ右側に座っている千絃が声をかけてきた。

「愛梨って、ご飯すごく美味しそうに食べるね」

「いえ、そんな事ありませんよ! 美味しい物を食べたら、誰でも笑顔になりますって」

「お行儀、いい」

「普通ですよっ」

 少し恥ずかしそうだが、誉められているので嬉しそうでもあった。


「千絃ー。花耶ー。ちょっといい?」

 近くの席にいた先輩、澪がタレを指差し声をかけてきた。

「このタレ、めちゃくちゃ美味しいから自力で再現したいんだけど、何の調味料使ってるか分かる?」

 皿には肉につけるタレが入っていた。

 少し、味見をする。

「まず、見た目は醤油ベースですね」

「砂糖と、みりん。それと、生姜と、にんにく」

「それと、しっかりアルコールを飛ばしてるけど料理酒も使ってる」

 基本的な材料は、普通の焼肉のタレと同じようだ。

「でも、それだけじゃ、ない」

「うん。配分にも気を使ってるけど、一味か二味くらい隠し味を加えてるだろうね、これ」

 その次に、隠し味について話し始めた。

 色々な候補有力が出たものの、特定には至らず。

「すみません。あまり役には立てなくて……」

「ううん。充分だよ! ありがとう」

 再現できたらレシピを教えると約束し、澪は自分の席に戻って行った。


「お二人って、料理すごい上手なんですね」

 初めて会った時に食べたクッキーで予想していたが、話し合っている様子を見て改めて思った。

「まぁ、朝と夜は自炊だし、お弁当もよく作るし。そこそこは」

「へぇー。……花耶先輩、顔をすごい振ってますけど」

 花耶は顔を横に振っていた。

「そこそこじゃ、ない。千絃の、ご飯、すごく、美味しい」

 花耶は自分の料理の腕に自信を持っている。その理由は千絃から料理を教わったからだというのが大きい。

 実際、いくつか千絃から教わった通りに作っても、微妙に味が違うものもある。おそらく、千絃の料理の腕は長年の経験に基づく実力だろう。

「そんなに美味しいなら、少し食べてみたくなってしまいますね」

「なら、来月あたりに花耶とおかずを持ち寄って食事会するんだけど、愛梨も参加する?」

「いいんですかっ!」

「うん。花耶は……訊くまでもないみたいだね」

 花耶は何も言わなかったが、愛梨が参加すると聞いてより楽しみになったのだろう。目がキラキラしていた。

「その時におかずを一品持ってきてほしいんだけど、もし大変なら和え物とか簡単な物でも大丈夫だよ」

「ありがとうございます。でも、折角なのでちゃんとした物を作ってきますね」

 こうして、食事会に愛梨が参加する事になった。


「千絃ー」

「ん?」

 名前を呼ばれて、千絃は振り返った。

 そこには、灼、御崎、与一郎の三人がいた。

 灼は昨日言っていた通り、花耶が昇進祝いにプレゼントしたペンダントを着けていた。花耶はほっこりとした気持ちになった。

「灼が、すげぇ面白い動画撮ったんだって」

「三人とも、見るか?」

「特に、千絃には見てほしいなー」

 と、三人が言う。灼にいたっては、悪戯っ子な笑みを浮かべていた。

「……。あの、もしかして――んむ」

「花耶はもちろん見るよなっ? なっ?」

 動画に心当たりがあったが、灼に口を塞がれた。

「……何か、企んでます?」

「「「いいえ。なにも」」」

 千絃は訝しげに目を細めた。灼達三人は首を振った。

「灼。あんまり酷そうなのは……」

「いや。酷いのじゃねーよ。ただのほのぼの動画」

「……それはちょっと見たい」

 ほのぼのの部分に惹かれたようだ。愛梨は灼側についた。

「……本当に、ただのほのぼの動画?」

「「「うん。そうだよ」」」

 怪しいくらいに息ぴったりの相槌だったが、千絃も動画を見せてもらう事にした。少し前まで殺伐とした雰囲気だったので、少しでも癒しが欲しかったのだ。

 ……それが、千絃のみが悲鳴を鳴げるような動画だったとは知らずに。


「これっすよ」

 三人は、動画を見せてもらった。

「わっ」

 愛梨にとっては、確かにほのぼの動画だった。

「……」

 花耶は、『あ、やっぱりか』という気持ちになった。 

「――っ⁉ お゛あ゛あああああああああああああああああああああああああああああああっ‼」

「うっわ意外と太い声」

 千絃は、真っ赤になって悲鳴を鳴げた。

 予想外の声音に、灼は驚いた。


 動画の主な内容は、花耶の頬っぺたをもちもちぷにゅぷにゅとこねくりまわす千絃。それだけならば、千絃は悲鳴をあげなかった。ただ歳の離れた兄妹がじゃれているような動画にしか見えないから。

 問題は、その体勢である。

 千絃の横に座っていたのは、滝峯蓮。千絃は、蓮の肩にもたれかかっていた。時々、ふわふわのさらさらな灰褐色の髪を擦り付けるように身動ぎをしている。


「い、いいいいいつ⁉ いつ撮ったの⁉ そして何で花耶は止めてくれなかったの⁉」

 この動画を撮った時、本当に千絃はドン疲れていたようだ。ほとんど意識なく、蓮の肩にもたれかかっていた。

「いや? 花耶は止めてたぞ。撮影だけ」

 灼が言うのとほぼ同時に、動画から『あの。千づむゅ、びっきゅり、すにゅと、思う』という花耶の台詞が発された。それも蓮と灼の言葉で軽く流されてしまったが。

「花耶ごめん! それとこれ蓮もグル⁉ 僕が勝手にやらかしたんじゃなくて⁉」

 千絃は少し離れた所にいる蓮の方を見た。

 こちらを見ながら、笑って親指を立てていた。

「~~っ!」

 んーとうーの中間みたいな声を発して、物申すために席を立とうとする。


『だってこういう、完全に隙だらけの千絃って、くっそ可愛くね?』


 残像が見えるほどの勢いで千絃は振り返り、動画を見た。

 動画の中の蓮は、愛おしそうに千絃に視線を落としていた。

「……! ……!」

 千絃は何かを言いたそうにしているが、言葉が浮かばないらしい。ただ口をぱくぱくと動かしていた。

「んで? 蓮に『可愛い』って言われた感想はどうすか? 可愛い千絃?」

「う、うるさいっ!」


◆◇◆


「やー。やっぱ、完全にテンパる千絃見ながらの酒と飯はうめぇわ」

「蓮。ゲスな笑みになってるぞ」

 蓮の隣に座っている第一討伐隊の先輩、旭も、蓮と同様に愉悦な笑顔を浮かべていた。


「ところでさぁ。酒の勢いに任せて訊くんだけど」

「何ですか?」

 蓮は耳を傾けながら清酒をあおる。酒の勢いで訊く程度の事だと思っていた。

「お前、春介と何かあった? なんか戦後あたりから避けてるだろ?」

「んぶっ⁉ ぐっ」

 蓮は清酒を吹き出しそうになったが、気合いで飲み込んだ。少しだけ鼻の方に逆流して痛い。おまけに変なところに入った。

「ゲホッゲホッゲホッ」

「あー! 悪ぃ悪ぃ! ちょっとタイミングずらせばよかったな!」

 旭は蓮の背中をさする。


「……別に。何もありゃしませんよ」

 と、蓮は視線を反らして答える。

「「!」」

 蓮が視線を反らした先。春介と偶然にも目が合ってしまった。

 春介は席を立ち、こちらに向かってくる。

「さーせん。ちょっと飲みすぎたんで、風に当たってきます」

「春介はいいのか?」

「あいつと話す気分じゃねぇんで」

 蓮はどこか申し訳なさそうな、気まずそうな表情を浮かべて、宴会会場から出ていった。


「すみません、旭さん。蓮は、どこに行ったか分かりますか?」

 春介がやって来て、旭に聞いた。

「ちょっと風に当たってくるってよ。それと、お前と話す気分じゃないって言ってたから、行かねぇ方がいいんじゃないか?」

「そ、そうですか……」

 春介はしょんぼりと、寂しそうに項垂れた。

「ちょっと座ってけ。少し、訊きたい事あるんでな」

「はい……」

 春介は座った。


「で、お前ら戦時中に何があったんだ? 蓮、お前の事避けてんじゃねぇか」

「……何かがあったのは確かだと思うんですけど、全然思い当たる事がなくて……」

 がっくりと肩を落とす様は、飼い主に叱られた大型犬を彷彿とされた。

(蓮が話さないなら、春介あたりに訊けばいいかと思ったんだけど。こいつは知らなかったか)

 と、旭は思った。

「じゃあ、お前が覚えている範囲で。いつ頃までは蓮、いつも通りだった?」

「えーと……」

 春介は戦時中の事を振り返る。

 春介が『あれ?』と思ったのは、蓮が蘇生した直後だ。蓮が怨霊に殺され、蘇生した直後、春介が蓮に謝った。蓮は、春介を庇って殺されたからだ。

 その時、蓮は『気にすんな』とは言っていたが、どこか気まずそうな感じだった。

 怨夢内では、基本的に蓮とは別行動だった。怨霊と遭遇した時に合流したのだが、その時は普通だった。

「……怨夢内では別行動だったんですけど、合流した時はいつも通りでした」

「じゃあ、できる限り細かく、合流した時の事を話してみ?」

 春介は、怨霊を保護するまでの間の事をできるだけ事細かく話した。

 怨霊に、だるまさんの一日という遊びに誘われた事と、そのルール。

 その時に、『だるまさんが殺した』というお題を出された事。


 全滅を防ぐ為に、『自分を殺してほしい』と蓮に頼んだ――。

「それだわ」

「えっ?」

 言葉を遮るように食いぎみで、旭が言った。

「いやいや完全に、『自分を殺せ』って蓮に頼んだ事が原因だよ」

「え、でもその時ってこうするしか……」

 春介は困惑しながら言い訳する。あの時、その手段を取らなければ、全滅していた。

「確かに、制限時間つきで全滅を防ぎ、かつ犠牲が出ない可能性の高い作戦はそれしか思い付かなかったかもしれない。でも、お前が蓮の立場だったらどう思う?」

「!」

 春介が蓮の立場だったら。蓮に、『あたしを殺せ』と頼まれたら。

(絶対に、嫌だ)

 確かに春介と蓮は、訓練や喧嘩でどちらかが気絶するほどの力加減で、殴る蹴る投げ飛ばす締め上げる首を狙う関節を極める等をするほど、お互いに遠慮しない仲だ。

 しかしそれは、気絶前提での話。しかも勝負事で、お互い様だ。手加減なんてしたら、相手を弱者として見下しているのと同じである。

 春介と蓮は、お互い相棒のように大事に思っている。そんな相手を、自分の手で殺したくなんかない。

「春介はさ、『状況が状況だから仕方ない。蓮になら、まぁいっか』程度に済ませるぐらい、蓮を信頼してるんだろ?」

「……はい」

 殺すのは嫌だが、状況によっては相手に殺されてもしょうがないとは思っている。春介自身も、ほとんど考えなしに蓮に頼んだ。その場にはもう一人、攻撃のできる人物がいたのにだ。

「蓮もたぶん、同じくらい春介を信頼してる。さっき、立場が逆だったらって考えた時に春介が思った事と、蓮も同じ事思ったんじゃねぇか?」

 頼んだ時の蓮の様子を振り返る。

 顔が青ざめて、辛そうな表情をしていた。


 自分が絶対にやりたくない事を、嫌がる相棒に押しつけたのだ。


「せめて、自分を殺せって頼んだ事を謝った方がいいな。蓮もちょっと寂しそうにしてたし、きっと許してくれるって」

「分かりました」

 戻って来たら、すぐに謝ろう。春介は決心した。


◆◇◆


「蓮!」

 月明かりが照らす中庭で、蓮は声をかけられた。

 視線を向けると、千絃が慌てた様子で来た。

「灼が見せてきた動画だけど、あれは……! ごめん!」

 真っ赤な顔で弁明しようとしていた千絃だが、頭を下げて謝ってきた。

「いつの動画か分からないけど、たぶんあの時本当に疲れていて意識ほぼなくて! あんな風にもたれ掛かったのは、完全に無意識だったというか理性働かなかかったというか! あ、でも下心とかは全然ないから! でも、あんなちちちち痴漢やらかして……!」

「言い訳ぐっだぐだだな」

 蓮はツッコミを入れつつ、少し悪戯心が芽生えた。

「でも……。そうか。下心、なかったのか……」

「……へ?」

 どことなくもの悲しげな表情を浮かべて呟く蓮に、千絃は戸惑う。

(いや、え? まさか……)

 顔に熱が集まる。口に力を込めていないと、にやけてしまいそうだった。

「冗談だぜ。本気にしたか?」

「⁉」

 どうやら、からかわれていたようだ。

「そんな睨むなって! ま、別にお前なら本気にしてても、特に迷惑じゃねぇけどな」

 蓮は笑いながら千絃の髪をわしゃわしゃ撫でる。

(……本気なのか冗談なのか、全然分からない)

 千絃は悔しそうに睨みながら、蓮の真意を探ろうとした。だが、全く分からなかった。


「……あのさ」

「ん?」

「蓮、まだ春介に怒ってる? だるまさんの一日で、春介が頼んだ事で」

 千絃が訊くと、蓮は気まずそうに視線をそらした。

 千絃他、第一討伐隊の全員が、蓮の態度に違和感を持っていた。明らかに、春介を避けているように見えたのだ。

 戦時中からそうだったように千絃は思っていたが、仕事が落ち着くにつれて目立ってきた。

「……別に。怒ってねぇよ」

 蓮は目も合わさずに答えた。

「…………」

 だが、そんな答えでは納得できなかったのだろう。千絃の、深紅の瞳が刺さるように見つめてくる。


「なぁ」

「ん?」

「もしもなんだけどよ」

 今度は蓮が訊いた。

「もしお前に、結婚を前提に付き合ってる恋人がいて、恋人と同じぐらい大事な親友がいたとするよな」

「……うん」

 真剣に聞きつつも、恋人の配役に蓮を置いて、少し千絃は顔を赤らめた。ちなみに、親友は花耶だ。

「その親友がヘマやらかして死にそうになった時、お前が親友を助けようとする。でも結局助けきれなくて、二人まとめて死んだ。恋人とも、もう二度と会えない。お前はそんな時、親友を憎むか?」

 千絃なりに、そんな状況を実際に起こりそうな事で考えてみる。

 花耶が何らかの理由で、崩壊する怨夢から逃げ切れそうもなくなった。千絃は、花耶を助ける為に怨夢の中に戻る。結果、二人とも怨夢の崩壊に巻き込まれて、消滅。蓮どころか、もう誰にも会えない。

 消滅する直前、花耶を恨むかどうか。


「絶対に、恨まないよ」

 千絃は、断言した。

「だってさ、死ぬって事はそれだけ危険な状況に、自ら飛び込んでまで親友を助けたかったって事でしょ? 危険を省みず、助けようとしたのは僕の意思だよ」

 続けて言った。

「自分の命の責任を、親友に押しつけられるわけない。たぶん、そんな事よりも親友を助けられなかった事を後悔すると思う」

 その答えを訊いて、蓮は「そうか」とだけ答えた。


 先程の蓮の質問は、自分が安堵する為にしたはずだった。予想した通り、望み通りの答えが返ってきた。

 しかし、蓮の罪悪感と空しさが募るばかりだった。

十五章に続きます。

また、プロットの見直しと修正の為、来週は投稿をお休みします。

十五章1話は5月14日に投稿したいと思っております。



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