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「《快癒》」
愛梨は灼の回復をしていた。
「あらかじめ頼まれてたけど、蓮先輩が灼を担いで来た時はびっくりしましたよ」
「ごめん」
「ボコボコにされるとは思ってたけどよ、両腕両足を折られるとは思わなかったわ」
今日、灼は常夜に行っていた。自分が穢憑きになった時に、殺した妖怪達に謝罪に行ったのである。
殴る蹴るはもちろんの事、『今さらどの面を下げて来た』『もう二度と、家族に会えないんだ』『職場が同じだっただけで、自分は無関係だ』等、怒鳴り声を浴びせられた。
「ほら、口の中も! 明後日から長期休暇で、明日は灼の昇進祝いも兼ねた慰労会があるんだから。そのままだと、すごい滲みるよ!」
「んぁ」
灼が口を大きく開けると、愛梨は手をかざして回復した。
少し前に、やっと戦時中の特令が解除され、通常業務に戻った。それまでは二十時間労働、落ち着いてきても十時間労働に休日なしだった。
通常業務に戻った後、それぞれの隊が交代で一週間の長期休暇を取る事になった。戦時中の仕事の疲れを取る目的である。
慰労会は、休日前の仕事終わりに場所を予約して行う行事だった。自由参加ではあるが、第一討伐隊は全員が参加するようだった。隊員同士、仲が良いので、全員無事かどうかの最終確認的な意味もあるのだろう。
「あ、それと灼。花耶先輩が話あるって。もう終わったから、ちょっと中庭に行ってみな」
と、愛梨はできる限り声に表情をつけず、棒読みに近い感じで言った。ただ、惜しい事に顔には好奇心丸出しな笑みが浮かんでいたが。
「あれか」
どうやら蓮も、要件を知っているようだ。彼女は好奇心を隠す様子もないニマニマ顔を浮かべていた。
「……何か、知ってるんすか?」
「後のお楽しみに取っておきなさい」
「後のお楽しみに取っとけ」
「あ、はい」
◆◇◆
愛梨に言われた通りに中庭に行くと、花耶がベンチに座っていた。膝の上には、細長い小さな箱が乗っている。
「花耶ー」
「!」
名前を呼びながら駆け寄ると、花耶はベンチから立った。
「愛梨から用事あるって聞いたんだけど、なんだ?」
「ん。これ」
小首を傾げると、花耶は箱を差し出した。
「昇進祝い」
「んぇっ⁉ いいのか?」
「ん」
受け取ると、さっそく箱を開けてみる。
「!」
中には、炎をモチーフにしたペンダントが入っていた。
「え、マジでいいの? すげーカッコいいんだけど!」
「ん」
花耶はこくりと頷き、言った。
「手作りだから、お店で、買う物より、拙いかも、だけど……」
「いや待ってこれ手作り⁉ 嘘だろ? 普通にちょっといい雑貨屋とかで売ってそうなんだけど?」
「んん。手作り。……愛梨に、灼の、好きそうなデザイン、聞いた。戦争前に、買おうと、思った。でも、亡者でも、買えるお店に、ちょうどいいの、なくて。それで、作った」
亡者は、ほとんどの人間には見えない。よって、人間界には買い物のできる店があまりないのである。
霊視能力のある人間や、人間だと種族を偽って働いている妖怪を雇っている店であれば対応してくれるのだが、数は多くない。
ならば人外界で買えばいいのではと思うが、実は人外界では男物のアクセサリーの種類はあまりない。あるとすれば、着物の帯、扇子、巾着くらい。冬になれば襟巻きが加わる程度である。
二、三件ほどまわったのだが、灼の好みに合致する物がなかったのである。よって、作る事にした。
「うわああ、ありがとな! 慰労会にも着けてくわ!」
灼は心から嬉しそうに、笑顔を浮かべた。
「……ありがとう。気に、入ってくれて、嬉しい」
つられるように、花耶もふんわりと笑む。
「っ!」
その顔を見た瞬間、灼の心臓が高鳴った。
「どう、したの?」
「いや。なんか一瞬、動悸が?」
「!」
わたわたおろおろし出す花耶。
(熱中症……? でも、あまり、暑くない……)
特に火鬼は、熱に強い種族である。花耶ですら平気な気温で、熱中症になるだろうか。
「涼しいとこで、休も? 熱中症、かも、しれない」
「お、おう」
花耶は灼の手を引いて、日陰に連れていった。
灼の動悸は、しばらく治まらなかった。
灼 「ところでもしオレが辞める場合、これどうしてたんだ?」
花耶「目的達成の、お祝い。もしくは、雀の涙程度の、餞別」




