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蛍原は、笹森城主の命により人間界から人外界に戻された。清道との戦闘で深手を負い、日常生活にも影響が出る程の後遺症が残ったからである。
休戦を知ったのは、人外界に戻ってからしばらくの日数が過ぎた後。書類仕事をしてる時だった。
『異能を使えないどころか盲目で、十六年も生きているはずがないでしょう』
清道の言葉が、生きる気力を奪う呪いのように頭に響く。
蛍原自身も、その可能性の方が高いと思っていた。
現実的に考えて、戸籍すらない、障害を持った見ず知らずの幼子を引き取る人間などいるだろうか。仮にいたとして、育てていく内に成長速度の遅さから人間でない事が分かるだろう。妖怪の子供を育てる人間など、いるのだろうか。
「…………」
(わしは、地獄に堕ちるであろうな)
ふと、自害が脳裏によぎる。
罪を犯し、役立たずとなってしまった天涯孤独の老人に、生きる意味はあるのか。
『誰かの手助けがあれば、十六年ぐらい目が見えなくても生きていける‼』
その度に、そんな言葉が清道の呪いの言葉をかき消す。
「……っ!」
忌々しいとすら思った。人間なんかの言葉で、打ち砕かれた希望が修復されるなど。
だが、人間の慈悲にすがらなければ、孫の生存は絶望的。
(わしは、如何なる罰を受けよう。孫に会えずに死んでもかまわぬ。それだけの事をした。だが孫の命だけは、どうか……!)
神に祈るように、蛍原は強く目を閉じた。
◆◇◆
それから、数ヶ月が過ぎた時の事。
蛍原は笹森城主に謁見の間へ来るように言われた。
「失礼仕ります。蛍原真幸、只今参上致しました」
「入れ」
「は」
許可が下りて、襖を開く。
謁見の間の奥には、笹森城主と側近の鬼。それはいつもの光景だった。
「!」
だが、普通ならばいるはずのない人物が五人もいた。
その内三人は人間。二人は祓い屋ではないのか、怯えながらも幼子を守るように気を張っている。
残りの人間ともう一人、山姥がいた。二人も気を張っていたが、怯えというよりも、蛍原が人間二人に何もしないかという不安によるものだった。人間の方は祓い屋だが、妖怪自体には悪印象を抱いていないようだ。山姥も人間には全く悪印象を持っていない。それどころか、人間狩りを邪魔した集団の一人のようだ。
そして、もう一人。その幼子は、蛍原もよく知っている者だった。
「……じぃじ? 今、じぃじの声したっ!」
嬉しそうな声をあげ、一般の人間の腕から抜け出そうとする。その少女は、両目とも茶色い瞳の義眼をしていた。
しかし、蛍原が間違えるはずもない。
「じぃじー」
よたよたと、先程の声を頼りにこちらへ来る少女は、蛍原柚。蛍原真幸の、孫だった。
蛍原真幸は、張りつめていた糸が切れたように、大粒の涙を流した。
孫は、生きていた。
人間の手助けにより、元気に育っていた。




